マイラは数年前の死産以来、その子の憑代として降霊会を営む霊能者として暮らしていた。
定職を持たない夫のビリーは妻を深く愛しながら、彼女の不安定な状態と話に合わせる事が徐々に辛くなって来ていた。
霊能者としての評判が伸び悩んだマイラは、夫に自己の評判を高める為の狂言誘拐を強く勧め、気弱なビリーはそれを断り切れなかった…。
本コーナーのレビューを拝見し、観賞。
人々が降霊術に興味を持つ発端は身近な故人ともう一度話したい、と言う強い気持ちからが多いそうですが、本作は精神的なバランスが境界線上の人物がその心情を拗らせ、彼女を愛する夫が引き摺られ犯罪に走る様子を、犯人夫妻にも観客が感情移入出来る湿ったサスペンスタッチで撮っています。
監督・脚本のフォーブスは(「インターナショナル・ベルベット」「キングラット」)は我が国では余り有名では御座いませんが、英国では脚本家、監督、製作者、俳優をこなす多才な映画人として非常に評価が高い人物です。
アッテンボローと作ったビーバーフィルムでは本作以外でも天才子役時代のヘイリー・ミルズ主演の「汚れなき瞳(Whistle Down The Wind)」「The Angry Silence」と言った質の高い作品を製作しています。
アッテンボローや作曲家のジョン・バリーとの関係も長く継続し、更にアッテンボローの義弟で、後にはアッテンボロー監督作の常連となるジェラルド・シム(英国NO.1のシット・コムとも言われる「the Manor Born」で有名。)も、刑事ヴィートル役で出演。
英国の知人・血縁を大事にする映画製作の一部を垣間見る事が出来ます。
本作は優秀な常連スタッフと英国独特の文化や因習、古い家屋を大道具に用い、低予算ながら多大なワンダーを観る物に与える渋い佳作です。
主演のキム・スタンレーは先行レビュアー諸氏によると「女性版マーロン・ブランド」との異名を持つそうですが、確かに実姉ジョスリン・ブランド(「復讐は俺に任せろ」)より存在感的には似ていると感じました。
地味ながら達者な傍役陣に加え、主演のスタンレーと、アッテンボローの繊細な演技が本作を支えています。
誰よりも子供を失った親の気持ちが解る筈の二人が他者の子の誘拐に至る一見矛盾した行為を見事な説得力を持って演じています。
ホラーが苦手な方も先入観無しにご覧になるとお気に召すと思います。
お薦めです。
P.S.'99年に、日本の黒澤清監督が、同じ原作を舞台を日本に変えて映画化しています(「降霊」)。
独自の解釈も加えていますので興味が御有りの方は是非。