旧ソ時代の架空共和国独裁政権下を舞台にヴァルラム市長一家三代の物語を縦糸とし、
抑圧される・抵抗する市民を横糸に編み、被告・墓荒らしの回想を中心に筋が展開する。
被告は幼時、市長の独裁により、父を収容所、母を勾引で亡くした。
ゆえにヴァルラムに憎悪を抱き、墓を荒らすのである。
市長はいまわのきわ、ゲーテと逆に、明るすぎる、暗くしろと叫んだ。
個人が独裁を招いたのではなく、彼とて国家に利用された犠牲者なのだろう。
ソビエトのしたたかな独裁志向が市長に否応なく恐怖政治を敷からしめたのだ。
ツケは子孫にまわり、息子は精神的価値観が揺らいでしまう。無神論者でありながら
メンタリティに破綻をきたしているので神にすがり懺悔する(幻想で)。
神父の正体がいかにも体制のねちっこさを象徴している。
孫は事実を直視して現実的な罪悪感にとらわれ、悲劇の結末を迎える。
祖父と父の罪を一手にひきうけ、三代のオトシマエをつけた形、もっといえば、
独裁政治の爪痕がすべて集中し、彼を踏みにじっている。