◆ キャロル・スローン(vo)
◆ ドン・エイブニー(p)
【Rec.May 18th 1984/ at SATIN DOLL】
♪キャロル47歳というその円熟期に、六本木のジャズクラブ『サテンドール』にて吹き込まれた、ピアノのみのバッキングによるシンプルなバラッド集である―弾き手のエイブニーはカーメンの伴奏者としても知られる名手。プログラムはスタンダードと典型的な小唄の類いを取り混ぜた魅力的なもので、初の録音となる楽曲群をチョイス。彼女得意のエリントンやロジャース=ハートのナンバーはあえて外したのだという。
♪キャロルのライヴ盤といえば、まず思い浮かぶのが20歳代半ばに発表した2作目の『ライヴ・ アット・30th・ストリート』('62/Col.)で、早くもその時点で細部にまで見事にコントロールを利かせたフレッシュな快唱を披露してくれていたが、更に20余年の歳月を経たキャロルの唄声は、陳腐な物言いかも知れないが“熟成を重ねた美酒”さながら円やかかつ深みのある味わいに…本当に上手い歌手でなければ単調に流れてしまいがちな、ピアノのみのバラッド集という難しいフォーマット―それも録り直しの効かないライヴ・レコーディングで、これだけのクオリティを保ち得るその力量はやはり並大抵ではない。
♪いかにもジャズ歌手らしい自由度のあるフェイクと、詞の内容を聴き手に伝えることを第一義とするキャバレー・シンガー的な行き方との両立ぶりは、キャロルのアイドルの1人、先に名前の出たカーメンにも匹敵する高いレヴェルに達しているし、適度な渋みを加えたその持ち前のスモーキー・ヴォイスも、まさに成熟の極みといった印象である―アカペラでシットリと唄った#12での小粋な風情ったら!!