タイトルからしてすごいですね。中身は中編のコレクションです。どれもすごい作品です。この中では、最後の「忌中」が異色でしょうか。他の作品はそれなりに著者の経歴や故郷を題材に取った二番煎じを彷彿させる色彩が残っているのですが、この「忌中」だけは別です。
選ばれた場所は、千葉県とはいえどちらかというと埼玉県に地理的に近接している地味な場所です。話もこの地域を中心として、その近くの埼玉県の都市そして東京の池袋を結んだトライアングルの中で展開されます。作品の主人公も著者とは似ても似つかぬ流山の運河に住む元信用金庫勤務の老人が設定されており、彼の人生の幕引きのやるせなさと破天荒さが淡々と描かれていきます。忘れ去られた昔の歌手そしてヘルシーランドといった小道具の選択を含めて何とも言えない雰囲気がそこには漂います。陳腐な言い方になりますが、主人公には救いや逃げ道はありません。淡々とした筆致はちょっとpatricial highsmithの「Tales of Natural and Unnatural Catastrophes」を彷彿させるところがあります。

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忌中 (文春文庫 く 19-3) 文庫 – 2006/10/6
車谷 長吉
(著)
死んでも死に切れない。女に狂い借金まみれの挙句自殺した男、強姦され殺された女友達……。人の死が孕む不条理を抉る壮絶な6篇
- 本の長さ229ページ
- 言語日本語
- 出版社文藝春秋
- 発売日2006/10/6
- ISBN-104167654032
- ISBN-13978-4167654030
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登録情報
- 出版社 : 文藝春秋 (2006/10/6)
- 発売日 : 2006/10/6
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 229ページ
- ISBN-10 : 4167654032
- ISBN-13 : 978-4167654030
- Amazon 売れ筋ランキング: - 207,674位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 2,858位文春文庫
- - 3,041位中学教科書・参考書 (本)
- - 5,152位日本文学
- カスタマーレビュー:
著者について
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1945(昭和20)年、兵庫県飾磨生れ。
広告代理店に勤務のかたわら、執筆した短篇の文芸誌掲載が機となり、以後20年余にわたって私小説を書き継ぐ。うち6篇を収めた『鹽壺の匙』(1992年刊)により芸術選奨文部大臣新人賞、三島由紀夫賞を受賞。他の作品に『漂流物』(1996年刊、平林たい子文学賞)、『赤目四十八瀧心中未遂』(1998年刊、直木賞)、「武蔵丸」(2000年発表、川端康成文学賞)など。
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2019年11月22日に日本でレビュー済み
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「忌中」は平成15年に読んで印象に残っていた作品。病気の妻を殺して、心中し損なった男の破滅行を描いて粛然とさせるものがある。「三笠山」も一家心中する家族の話だが、悲惨な話を淡々と語る筆致が印象的である。
2011年7月19日に日本でレビュー済み
本書はハードカバーが5年以上に渡って積本状態だった。改めて読むと「やっぱり巧いな〜」という素朴な感想が先に立つ。無論、著者の壮絶さはエンジン全開であるが、改めて思ったのは著者の文章は非常に洗練されている、という事だ。ネタばれになってしまう、そこが作品のキモなので内容には出来る限り立ち入らないが、子供を殺した後にセックスをしてしまう場面や、縞蛇など描かれるポイントは異様な生々しさを持つ。10年近く前に処女作品集『鹽壺の匙』を読んだ時はその凄味に圧倒された記憶だけが残っているのだが、前述のような生臭い場面をフィクション(私小説であっても)として、読者に読ませる為には、本当に嘔吐させてしまうような書き方では決して成立しない。車谷氏のような題材を選ぶからこそ、その手法は洗練されている事が必須になってくるし、無論それは著者が意識した手法だし、自覚的に習得した技法だ。
Web上の情報によると2004年に著者はその作品内容が書かれた当事者から提訴され、私小説を止めたらしい。
その後の小説がどうなっているのか?積本がまだ山ほどあるので、それらをかたずけてから改めて読んでみたい。
Web上の情報によると2004年に著者はその作品内容が書かれた当事者から提訴され、私小説を止めたらしい。
その後の小説がどうなっているのか?積本がまだ山ほどあるので、それらをかたずけてから改めて読んでみたい。
2011年4月1日に日本でレビュー済み
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『忌中』では、六十代半ばの男が呆けた妻を殺して箪笥の引き出しに隠し、確実に自殺するためにサラ金から1000万近く借りまくってその金で若い女と遊び、白骨化した妻のいる家の中で首を吊る前に玄関に「忌中」と自らの手で貼るとはすごい展開だ。『三笠山』は、一家心中の話だが、父親が子供を殺すのを見て母親がもうひとりの子供を殺す場面があまりにも不自然だ。この作家の小説に出てくる女性の一部(主人公と性交する女性)は、この作家にとって都合よく作られたセックス人形のような模造品である。この作家は口で自慢するほどには、女性経験が多くないのではないかと思わせる。子供を殺して一家心中する父親は高卒である。この作家がいちばん言いたかったのは、会社をつぶしギャンブルに走り一家心中する父親が高卒であるということではないかと疑われるほど、収録作品の全部で登場人物の学歴を馬鹿丁寧に書いている。まずそこに違和感を覚えた。いまどき「癩病」と言ってしまうところもすごい。すべてはっきりさせたいというこの作家なりのこだわりがあるようだが、この作家は相手が極少数で反撃される心配がない場合にのみ、物事をはっきり書く。この作家は、「小説とは生き恥を晒すこと」と自らの小説論で力をこめて言っているが、好きな女性に立ち小便を見られたことなど大したことではない。この作家が晒しているのは自分の恥ではなく他人の恥ばかりである。「アホになれ」というが、アホにもなっていない。自分に不利なことはほとんど言っていない。徹底的に生き恥を晒している西村賢太と比べるとよくわかる。「不倫を三回したこと」を講演の最後に述べることなどは、女にもてることを自慢しているようにしか聞こえない。男にとっては名誉なことだ。深沢七郎のタブーの破壊にあこがれている、基本的には官僚的思考の優等生の書いた文学。といろいろ言ったが、面白かったので一気に読んだ。
2013年8月16日に日本でレビュー済み
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車谷長吉の作品群を図書館で借りて一気読み。その後、数ヶ月ぶりに文庫を手に入れて再読することにした。何度読んでもおもしろいのは、人間の性のものすごさがさまざまな形で描かれているからである。例えば「三笠山」は、互いに好意を寄せていた男女が紆余曲折を経て一緒になった夫婦の物語だが、私にとっては、脳髄をすさまじく刺激され、痛いところを繰り返し嬲られるような蟻地獄のような作品である。
車谷が、事あって小説の筆を折ったことが惜しい。これからも彼の作品を愛読していくことだろう。
車谷が、事あって小説の筆を折ったことが惜しい。これからも彼の作品を愛読していくことだろう。
2007年1月30日に日本でレビュー済み
表紙のインパクトに圧倒されますが、中身もダイナミックでインパクトがあります。
「死」がキーワードとなって振り回されていく人間模様に読み応えがあって最後まで読破しました。
ドラマチックで人間愛と人間臭さが滲んでおもいんですが、心温まるような「愛情」が重なって見えるようで面白かったです。
「死」がキーワードとなって振り回されていく人間模様に読み応えがあって最後まで読破しました。
ドラマチックで人間愛と人間臭さが滲んでおもいんですが、心温まるような「愛情」が重なって見えるようで面白かったです。