著者は、ノンフィクションライターであり6人の学者からの聞き書きであるが、実に良くこなれていて良く解る。
この分野で日本人は、欧米流の人間中心主義、二元論とは異なる物我一如・心身一如的方法論を打ち立て、その成果により新しい人間観を提示してきた。
それは、例えば意識とは、実体ではなく情報とコミュニケーションが行われている際に見られる現象である。意識とは、実体ではなく実は、何も決めてはいないただの、結果に過ぎない等々である。
古典的研究は、「実体としての意識」モデルであったが、その実験は巧くいかなかった。
何故かは、1.思考の対象は、感覚なしには現れない。感覚がなければただ、無。2.何も考えていない意識そのものを意識することは出来ない。3.夢は、意識しても眠りは意識出来ない。を考えれば解る。
なので、現在のモデルは、「世界を感じるセンサー」、「それを解釈する機能」、「解釈に基づいてアクションを起こす体」の三つの機能であり、これが実現すれば世界と自律的にコミュニケーションする機械が出来るというのである。
人間の認識が自覚的に意識しているのは一部でしかなく、多くは無意識領域で働いている。美しい・醜いといった感性や情緒等の芸術分野は特にそうなっている。また、未知の事態に対応する能力も直観(感性)であり環境の中で学習する。
西洋近代科学による記号論理では、現実の現象のごく一部しか記述出来ない。ニュートン力学の運動方程式を使えるのも一部で、それ以外は予測不能である。
「受動意識仮説」では、意識は主体ではなく結果として出力される「受動的物語」である。意識の原型は、触覚を通しての世界とのコミュニケーションであった。
触覚を、摩擦・凸凹・冷温感・熱伝導率で表し言語記号ではないパターンで記述することにより、大脳皮質(=並行分散処理)が担当している質感を捉えるのである。だが、このプロセスの多くは意識出来ない。
「自己意識」も、結局は触覚と同様のやり方で情報を処理している。ボトムアップのシステムであり「わたし」という意識は実は、行動を決定していない。
なぜ、意識を獲得したのであろう。その答えは、進化的に生存に有利となるエピソード記憶の獲得にある。そして、それにより、因果律・時間概念をも獲得した。エピソード記憶=質感(クオリア)でもある。それは、脳にプログラムとして書き込まれていると考えればよい。つまり、脳による計算である。だからそれは、幻想(錯覚)であり実体ではない。
ダマシオは、進化的に身体という測定可能な情動が、測定不可能な感情より先に発生したと指摘した。泣くから悲しいのである。
臨死体験で語られる対外離脱体験は、身体イメージの書き換えであるとの興味ある記述がある。
人間の脳は、強固な身体イメージがまず存在しそのイメージに基づいて感覚を判断するのではなく、入力された感覚次第ではむしろ身体イメージの方を書き換えてしまうというものである。今後の研究に期待したい。
芭蕉は、言った。「ものの見えたる光いまだ心に消えざる中に言いとむべし」と。
何かが向こうからやってきて、それを受けとめるのである。
私が探して見つけ出すのではない。私は結果なのだから。意識という主体(実体)は無い。心という実体は無い。それは、意識を実体化した結果のそのまた結果に過ぎない。
実に、魅力的な本であった。

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人とロボットの秘密 単行本 – 2008/7/2
堀田 純司
(著)
意識とはなにか。人間らしさの原理とはなにか。
ヒューマノイドが人につきつける、新たな知識を知りたくはないか。
対象を理解するための方法は、観察し分析するだけでは実はない。
その対象を「自分でつくって、確認する」というアプローチもあるのだ。
ロボット工学ではまさにこの方法をとり、
「人間をテクノロジーで再現する」という究極の目標のもと、
身体や意識の工学モデルを手に入れようと日々、挑戦している。
そしてその成果は、従来の「人間についての常識」を揺さぶっているのだ。
ロボット工学とは未来の夢を追いかけるロマンティックな学問ではなく
日々、人間について新たな知見を提起するライブな分野なのである。
本書は、ロボット工学を究極の人間理解ととらえ
哲学、脳科学、認知心理学にもおよぶ領域を踏まえながら
松原仁(公立はこだて未来大学)、石黒浩(大阪大学)、
中田亨(デジタルヒューマン研究センター)、
前野隆司(慶應義塾大学)、吉田和夫(慶應義塾大学)、
高西淳夫(早稲田大学)ら、世界最先端を歩む日本のロボット工学者の研究に肉薄。
ヒューマノイドが人に問いかけるミステリーを伝える。
『萌え萌えジャパン』で日本のオタク文化を掘り下げた著者が挑む
ヒューマノイドの世界。今度はロボットだ!!
ヒューマノイドが人につきつける、新たな知識を知りたくはないか。
対象を理解するための方法は、観察し分析するだけでは実はない。
その対象を「自分でつくって、確認する」というアプローチもあるのだ。
ロボット工学ではまさにこの方法をとり、
「人間をテクノロジーで再現する」という究極の目標のもと、
身体や意識の工学モデルを手に入れようと日々、挑戦している。
そしてその成果は、従来の「人間についての常識」を揺さぶっているのだ。
ロボット工学とは未来の夢を追いかけるロマンティックな学問ではなく
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本書は、ロボット工学を究極の人間理解ととらえ
哲学、脳科学、認知心理学にもおよぶ領域を踏まえながら
松原仁(公立はこだて未来大学)、石黒浩(大阪大学)、
中田亨(デジタルヒューマン研究センター)、
前野隆司(慶應義塾大学)、吉田和夫(慶應義塾大学)、
高西淳夫(早稲田大学)ら、世界最先端を歩む日本のロボット工学者の研究に肉薄。
ヒューマノイドが人に問いかけるミステリーを伝える。
『萌え萌えジャパン』で日本のオタク文化を掘り下げた著者が挑む
ヒューマノイドの世界。今度はロボットだ!!
- 本の長さ196ページ
- 言語日本語
- 出版社講談社
- 発売日2008/7/2
- ISBN-104062147866
- ISBN-13978-4062147866
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商品の説明
著者について
堀田 純司
ノンフィクションライター。1969年、大阪府大阪市生まれ。桃山学院高等学校を中退後、大検を経て上智大学文学部ドイツ文学科入学。在学中よりフリーとして働き始める。日本のオタク文化に取材し、その深い掘り下げで注目を集めた『萌え萌えジャパン』(講談社)、新時代のライフスタイルを説いた共著『自殺するなら、引きこもれ―問題だらけの学校から身を守る法』(光文社)など発表。またキャラクター文化総合誌『メカビ』(講談社)では小説も執筆するなど、多様な分野で活躍する。
ノンフィクションライター。1969年、大阪府大阪市生まれ。桃山学院高等学校を中退後、大検を経て上智大学文学部ドイツ文学科入学。在学中よりフリーとして働き始める。日本のオタク文化に取材し、その深い掘り下げで注目を集めた『萌え萌えジャパン』(講談社)、新時代のライフスタイルを説いた共著『自殺するなら、引きこもれ―問題だらけの学校から身を守る法』(光文社)など発表。またキャラクター文化総合誌『メカビ』(講談社)では小説も執筆するなど、多様な分野で活躍する。
登録情報
- 出版社 : 講談社 (2008/7/2)
- 発売日 : 2008/7/2
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 196ページ
- ISBN-10 : 4062147866
- ISBN-13 : 978-4062147866
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,093,746位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 650位メカトロ・ロボット工学
- - 35,667位コンピュータ・IT (本)
- カスタマーレビュー:
著者について
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作家、漫画原作者。大阪府生まれ。大阪桃山学院高校を中退した後、上智大学文学部ドイツ文学科卒業。マンガ編集者として働いた後、自身の著作を発表するようになる。
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2008年9月24日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
急に思い立ち
趣味で、ロボットSF小説を書いてみようと考え
近年の、情報を知るために購入しました。
大変、満足しました。
とくに、AIに、関する所で
『人工知能』は、死語になっていて
体と、知能が一つになった『知能ロボット』
という用語が主流である
という所が、おもしろくて
興味がもてました。
趣味で、ロボットSF小説を書いてみようと考え
近年の、情報を知るために購入しました。
大変、満足しました。
とくに、AIに、関する所で
『人工知能』は、死語になっていて
体と、知能が一つになった『知能ロボット』
という用語が主流である
という所が、おもしろくて
興味がもてました。
2010年9月6日に日本でレビュー済み
学者の慧眼とそれを汲む著者の慧眼とが
マッチしている。
第一線に立つ数名の研究者の慧眼が並ぶので、
当然ながら刺激は相当に高まる。大切なのは
それを受け止める著者の慧眼。哲学などの周辺
領域の成果をフォローしながら、一般読者に
理解しやすく議論を整理、ストーリーに
仕立てている。一流だからこそ著者に平易に
語れる面もあろうが、よく咀嚼している。
結果、研究の全体像や可能性がよく掴まえ
られるようになっている。
残念なのは表紙デザイン。議論にどう関係する
のかが不明であるばかりでない。デザイン担当者は、
どこでも開けるものを内容に即して考えたほうが
よかったのでは(それとも考えすぎか)。
マッチしている。
第一線に立つ数名の研究者の慧眼が並ぶので、
当然ながら刺激は相当に高まる。大切なのは
それを受け止める著者の慧眼。哲学などの周辺
領域の成果をフォローしながら、一般読者に
理解しやすく議論を整理、ストーリーに
仕立てている。一流だからこそ著者に平易に
語れる面もあろうが、よく咀嚼している。
結果、研究の全体像や可能性がよく掴まえ
られるようになっている。
残念なのは表紙デザイン。議論にどう関係する
のかが不明であるばかりでない。デザイン担当者は、
どこでも開けるものを内容に即して考えたほうが
よかったのでは(それとも考えすぎか)。
2019年12月1日に日本でレビュー済み
コンピューターが行き渡り一頃コンピューターが人間を凌駕する時代がやってくると言われていたものの、一向にコンピューターが人間を凌駕する時代はやって来ない。
1950年頃からロボットが製造され、コンピューターの普及によりコンピューターを搭載したロボットが人間を凌駕するという発想が生まれたが、同様に一向にそういう時代はこない。
日本はロボット工学分野において西洋よりも進んでいるが、人間を凌駕できない理由というのが徐々に理解され始めてきた。
日本を代表するロボット工学の博士がそれぞれ得意分野から、何故現行ロボットが人間を凌駕できないかを解説していく。人間の嗜好は文字や数式と行った記号で表現しているので、コンピューターのほうが人間を凌駕できるという理論は、人間は生命誕生語数億年後に生まれたことを考えると、生命体が記号で嗜好を司ったのはつい最近のことであり、記号で思考を司るという考え事態が前提相違なのではないか、などなど、人間に酷似したアンドロイドの製造など興味深い。
コンピューターサイドからの発想では理解されていなかったが、曖昧理論を組み込むことで人間の思想に近づいたことから、徐々にコンピューターやロボットの方向性が見えつつあると解説している。
1950年頃からロボットが製造され、コンピューターの普及によりコンピューターを搭載したロボットが人間を凌駕するという発想が生まれたが、同様に一向にそういう時代はこない。
日本はロボット工学分野において西洋よりも進んでいるが、人間を凌駕できない理由というのが徐々に理解され始めてきた。
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コンピューターサイドからの発想では理解されていなかったが、曖昧理論を組み込むことで人間の思想に近づいたことから、徐々にコンピューターやロボットの方向性が見えつつあると解説している。