とにかく非常に切なく胸に響きます。
冒頭の『1秒で一年分この人を愛そう』というモノローグで一気に引き込まれました。
主人公みことは救命救急士。
９歳まで父一人子一人だったが父が再婚し、母と兄、姉、そして弟が一気に出来た。
しかし１年後に父は病気で死亡。それ以来みことは血のつながらない家族と暮らしているが家族は非常に仲が良く幸せであった。
そんなみことには子供の頃から不思議な現象が起きていた。誰かと手を重ね合わせると浮かび上がる不思議なイメージ。
それが何か分からないまま、みことは大人になり父が倒れた時に何も出来なかった無念さから休憩救急士となった。
そこでみことは自分のそのイメージが『その人の死ぬ未来を視ている』という事に気づく。
そして同時に９歳の時に一つ違いの姉、沙羅と初めて出会った時——
何気なく重ねた手から視えたものを思い出す。
みことはずっと昔から——初めて会ったその日から——
この優しい姉に——
自分のためよりも人のために泣く姉に——
美しい笑顔で笑う姉に恋をして——
その想いを胸に秘めたまま、姉が幸せになる日を願い、そして恐れていた。
その姉が——
沙羅が——
来年、２７歳の誕生日に死ぬ——
伝えられぬ想いと告げられぬ未来を胸に秘めたまま、みことは懸命に目の前の救助者の命を助けようと懸命に尽くす。
それは数年後に迫る沙羅の死の未来を変えるため、沙羅を差為せないため——
だがその願いも空しく、一度見たその死の運命は——
必ず現実になる。
どれだけ手を尽くしても——
人の最後が見えても助けられないなら意味が無い。
どれだけ尽くしても何をしても助けられない。
未来が変えられない。
自分に誰の命も救えないという事がみことの心を傷つける。
その張り裂けそうなみことの想いが、空しさが、哀しみがページから滲みだしていて、読む毎に胸を打ちます。
その身を引裂いてしまいたいほどの哀しみを——
業火で焼かれる方が何倍も楽に思えるその苦しみを——
みことは誰にも言えないまま、ただその日が刻一刻と迫っていくその切なさはもう筆舌に尽くしがたいものがあり、繊細な絵のタッチと相まって、そのネームのセンスはとてもデビュー作とは思えないほどで、そこかしこに詩的な空気が溢れています。
主人公以外のキャラも見事に立っていて、それは一話限りで消えていくみことが関わる要救助者やその家族まで血の通った息遣いを感じさせるほどであり、正直ケチのつけどころがありません。
コンテンツというかストーリー的には短い方がコントロールしやすいのですが、それを敢えて連載というハードルが高いものに持ってきながら決して間延びさせないそのセンスと勇気に感服しています。
みことと沙羅——
その二人の現代人とは思えないある意味古風な人格、考え方、そして恋愛観も、フィクションの世界として見ると非常に清々しく美しいもので沙羅の死という要素が無くても見守りたくなるほど素敵なものでした。
この先、血がつながらないとはいえ姉と弟という関係での恋愛や、１年後に迫る沙羅の避けられない死、それを知らないままの沙羅にみことはいつそれを告げるのか、その時の沙羅や家族の反応は？など気になる要素が満載です。
他の方のレビューを見ると意外に評価が低くて驚きましたが、個人的には多くの方にお勧めしたい素晴らしい作品だと思います。
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