こちら、1991年に書かれ、今では25刷。
今でこそ、脳腸ホルモン、という言葉が一般的になりつつありますが、それでも、脳の方がなんとなくお利口、スマートで、日々、消化・排泄を担当する消化管は、下座、みたいな印象ありますよね。
そんな消化管のメカニズム究明の研究プロセスが、研究室内外のあたたかい交流関係も含め、大まかに描かれています。
これまで知られてなかった戦前の日本人研究者の卓越した研究にスポットをあてたり、国際学会での海外の研究者たちとのやり取りも興味深いです。
ストイックに、ではなく仲間と存分に楽しみながら、行き先の見えない研究に勤しんでらっしゃる様子が、伝わってきて和やかな感じです。
この本の内容で、画期的なことのひとつが以下ですね。
胃から小腸、大腸の全域に分布する基底顆粒細胞、という舌の上、味蕾をつくる味細胞と同じような紡錘形の細胞が、消化管に入ってきた食べ物の内容をセンサーで判断し、すばやくそれに対応する分泌物を、細胞の下部から放出する、ということ!
これは世界で初めて明らかにした事実だったそうです。このプロセスにおいて、神経を遮断しても同じ反応が起こることから、消化管が独自に反応している、つまり“腸は考えてる”ということが明らかになりました。毒物が入ってきても、それを判断して下痢させるホルモンを出したりする働きをしているそうですよ。
よく、食中毒とか毒物事件などでも、同じものを口にしているのに、必ず被害を受けない方っていらっしゃいますよね。これら腸の基底顆粒細胞が健康で免疫力の高い状態にあったということでしょう。
今では、消化管関係というと、糖尿病のインシュリンとか、腸内フローラとかが注目を集めてますが、腸管の細胞自体が、健康な状態であれば、私たちの健康の強~い味方であるということですね。大切にしたいものです。
そしてこの、外界からの刺激に反応して、対応するホルモンなどを分泌するメカニズムは、腸だけでなく、先ほどの味蕾の味細胞、鼻の嗅細胞、皮膚のメルケル細胞、それだけでなく小脳のプルキンエ細胞や脊髄の椎体細胞にも、共通する!ってかなり面白いと思います。
そうして、このメカニズムにおいて、腸からセロトニンやソマトスタチンなど、脳と同じホルモンが分泌されていることがわかりました。脳腸ホルモンですね。;
ここから、このメカニズムを、動物の進化(系統発生)の中で、考えるという研究へ。
驚くことに、哺乳類と対局にある節足動物のゴキブリの腸からも、ヒトと同様の基底顆粒細胞、同様のペプチドホルモン10種が発見されたことから、ルーツを求めて、もっとも原始的な動物、腔腸動物のヒドラの研究へ。
ヒドラは、もっとも単純な動物で、腸からできてます。上端に口があるのみ、口からはいった食べ物が消化され、残りはまた口から吐き出されるそうです。このヒドラの腸に、ヒトの腸の基底顆粒細胞の原型を発見。哺乳類と共通する6種類ものペプチドも見つかりました。ということは、生き物の原型は、ヒドラかもってことですね。
ところで、このヒドラに脳はありません。つまり、動物の始まりは腸であり、その腸の口のまわりに、ニューロンの密集する神経節が現れ大きくなる、これが次第に脳となると推論されます。ということは「脳は腸から始まった」と推察されるのです。
何度読んでもおもしろい一冊です。

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腸は考える (岩波新書 新赤版 191) 新書 – 1991/10/21
藤田 恒夫
(著)
人間のからだの中でも軽く見られがちな胃や腸.しかし,これらの器官は,食物の成分をすばやく認識したり,毒素の排出を指令するなど,脳と同じ原理で絶妙な働きをしている.消化器ホルモンの研究で主導的な役割を果たしてきた著者が,酒が胃を強くする話など意外なエピソードをまじえながら,知られざる腸の働きとその素晴らしさを語る.
- ISBN-104004301912
- ISBN-13978-4004301912
- 出版社岩波書店
- 発売日1991/10/21
- 言語日本語
- 寸法10.7 x 1 x 17.3 cm
- 本の長さ226ページ
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登録情報
- 出版社 : 岩波書店 (1991/10/21)
- 発売日 : 1991/10/21
- 言語 : 日本語
- 新書 : 226ページ
- ISBN-10 : 4004301912
- ISBN-13 : 978-4004301912
- 寸法 : 10.7 x 1 x 17.3 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 307,962位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 442位医学
- - 1,514位岩波新書
- - 12,719位医学・薬学・看護学・歯科学
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2017年7月11日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
だから、腸には単なる消化・吸収を超えた免疫機能や危険退避機能があることを考えさせられます。
腸が考えていると発想した著者の考えに脱帽です。
腸が考えていると発想した著者の考えに脱帽です。
2014年12月17日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
個人的にむづかしく感じました下痢の部分を目的に購入しましたが
2019年7月9日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
現在のように腸活がブームになる前の本であるが、今読んでみても含蓄のある名著である。
新書なのでやや文字が小さく、60過ぎの身には骨が折れるが、新たな発見がある。
私は健康マニアで、相当の本も論文も読むが、最近のわけのわからないあやしい健康書を読むくらいなら、基本書として本書をオススメしたい。
長く残る本には理由がある。
新書なのでやや文字が小さく、60過ぎの身には骨が折れるが、新たな発見がある。
私は健康マニアで、相当の本も論文も読むが、最近のわけのわからないあやしい健康書を読むくらいなら、基本書として本書をオススメしたい。
長く残る本には理由がある。
2017年5月16日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
面白かったですし、勉強になりました。
つくづく腸は偉いと思います。
つくづく腸は偉いと思います。
2014年9月21日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
腸は、「小さな脳である」とか、超能力じゃなくて、“腸”能力って、学者さんらしいコピーに、座蒲団、一枚。
腸は、「ゆりかごから墓場」まで、どんな状態(植物状態・脳死)でも、一瞬たりとも休まず働き続ける(7P)。
逆に、脳は四の五の言い訳ばっかりして、新しい波を遮る。 有無を言わせない、仕組み作り(生きる為に不可欠、っていう錯覚を)。
進化の過程で、無駄なものを削ぎ落とした結果が、現代人であることを考えると、腸は必要不可欠な臓器であることは、言うまでもない。 5尺そこそこの身体に、余分な(余裕な)スペースは無い。
嘗て、24時間戦ったビジネスマン、今はいずこに。
腸は、「ゆりかごから墓場」まで、どんな状態(植物状態・脳死)でも、一瞬たりとも休まず働き続ける(7P)。
逆に、脳は四の五の言い訳ばっかりして、新しい波を遮る。 有無を言わせない、仕組み作り(生きる為に不可欠、っていう錯覚を)。
進化の過程で、無駄なものを削ぎ落とした結果が、現代人であることを考えると、腸は必要不可欠な臓器であることは、言うまでもない。 5尺そこそこの身体に、余分な(余裕な)スペースは無い。
嘗て、24時間戦ったビジネスマン、今はいずこに。
2016年9月4日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
熱のこもる書き方に引き寄せられました。一気に読んでしまいました、今ではすこし古い内容ですが、その科学にたいする姿勢からたくさん学んだ気がします。
2007年5月19日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
医学研究の分野ではないがしろにされがちな「腸」の研究を続けてきた著者。
正直言うと、素人が読み全てを理解するのは至難の業だろう。
専門用語が頻発するので、まともに読むとその度に中断しなければならない。
よって3割くらいは斜め読み。
しかし、それでも腸の機能のすごさと、著者から伝わる研究の「楽しさ」は素人が読んでも面白い。
正直言うと、素人が読み全てを理解するのは至難の業だろう。
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