1986年に発表され世界中でセンセーションを巻き起こしたアルバム_Graceland_の誕生の経緯を扱ったドキュメンタリー(1997年初出)。
_Graceland_は、世界中で大ヒットした一方で、発表当時まだネルソン・マンデラ解放前でアパルトヘイトへの制裁として世界中から排除されていた南アフリカに行って現地のミュージシャンと録音したことが南アフリカ政府を利するボイコット破りと非難されたり、アフリカの黒人音楽からの盗みだと批判されたりした。(アフリカ国民会議はこのアルバムを非難していないのだが。)だが、「南アフリカに行った目的は彼らの怒りを表すことではなかった」とか「『君らの心の声を伝えよう』なんておこがましい」と語る彼の言葉も、底の浅い知識と独善的な思い込みで政治的なメッセージを発する連中も多くいることを考えれば、間違いなく一つの見識である。歌詞を見ても、政治的というよりは人間的だ。
それに何より、サイモンが南アフリカのミュージシャンたちに心底惹かれており、アルバムに参加したミュージシャンたちの方もサイモンに敬意を持っていて、彼らが互いに持てる才能を発揮し自由にアイデアを出しあいながらこのアルバムの楽曲を作り上げていったことが、このフィルムを見るとよくわかる。全ての楽曲が含まれているわけではないのが残念だが(たとえば、アルバム発表後にロス・ロボスと裁判沙汰になった“All Around the World, or the Myth of Fingerprints”については含まれていない)、多くの曲の歌詞や楽器のフレーズがどのように生まれたかを、彼ら自身の口から聞けるのが、とても興味深い。そして、そうした彼らの素晴らしいチームワークがあったからこそ、このアルバムが大ヒットし世界から排除されていた南アフリカの音楽の素晴らしさを世界に知らしめる契機となったのだ、と納得できる。