晋書は唐太宗によって編纂指示がなされた。
実際に太宗も筆を走らせるほどの入れ込みようであった。
そうして出来上がった晋書からは、事跡の正誤と言う問題もさることながら、
いったいその筆によって唐と言う国をどう正統足らしめるか、という意図を見出し、
様々な事跡、あるいは捏造と思しきものも含めて、洗い出すのも一つの面白さなのではないか。
その基本的視座を、この本からもらったように思う。
例えば賈南風。例えば赫連勃勃。
この両者は、晋書上においては問答無用のド外道として書かれている。
だが賈南風は「八王の乱を招き晋の正統性を傷つけた大悪女でなければならない」わけだし、
赫連勃勃は「長らく正当王朝たる拓跋一族に歯向かい続け、塞外の地を荒らし回った大悪党でなければならない」のだ。
さぁ、悪人アピールしなきゃいけないですよ。とは言っても事跡での嘘はアレだしね。
……みたいなね。
そして、五胡十六国を学ぶ人間たちはだいたい晋書を困った奴と見做さなきゃいけないわけだが、
一方でもう一個関門が存在していたりもする。それが北魏孝文帝、拓跋宏、改姓して元宏の存在。
鮮卑拓跋部としてのアイデンティティの放棄と言う側面から語られることが多い彼だが、
「北魏の曖昧だった正統性を確固たるものとする必要があった」からこそ、漢化政策に辿り着いたのでは、
という推定もメタ的に提示されている。あれっどなたかダイレクトに書いてたっけな?
まぁいいや。
この本において、孝文の存在感はすさまじく大きい。
正統性の担保のためには歴史観の設定こそがキーとなる。
故に孝文は「十六国春秋」を編み、北魏以前の胡族国家を「五胡十六国」にねじ込んだ。
お前らはしょせん蛮族国家です、うちは違います、というわけだ。
そしてこの思想を、後の世の晋書が継承している。
「載記」は蛮族たち、でもまぁ時代を語る上では重要なので扱ってあげよう、
というスタンスだ。ここで赫連勃勃を最後に持ってくるあたり、
匈奴鉄弗への恨み骨髄と言う感じがして面白い。
だってさ、列伝の最後って反逆者枠ですしね?
という事で、晋書においては、
元宏のポジショントークと、
それを下敷きにした李世民のポジショントーク。
以上二つに沿う記述があった場合は、
周辺に残る事跡との比較をしたうえでの検討をすると、
ちょっとした意図を覗き見ることができるのかもしれませんね。
そしてその意図の存在は、
今どんどん発見されている考古資料によってさらに検証が深まりそうですよ。
理解が追い付かない部分もあったので完全に読めてはいないんですが、
一通り読み、そう言う認識を手に入れました。
ここから先晋書、資治通鑑を読むのがまた少し面白くなりそうです。

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魏晋南北朝史のいま (アジア遊学 213) 単行本(ソフトカバー) – 2017/9/4
窪添慶文
(編集)
魏晋南北朝時代は秦漢統一帝国と隋唐統一帝国の中間に位置する。
政治的に複数の政権が並立する分裂の時代ではあるが、そこには新しい動きが様々な点で生まれ、成長して行き、隋唐時代に繋がって行く。
それら新しい動きを「政治・人物」、「思想・文化」、「国都・都城」、「出土資料」の4つの側面から捉え、魏晋南北朝史研究の「いま」を分かりやすく解説し、非統一時代に生きた人々・物事の足跡を浮かび上がらせる。
政治的に複数の政権が並立する分裂の時代ではあるが、そこには新しい動きが様々な点で生まれ、成長して行き、隋唐時代に繋がって行く。
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- 本の長さ304ページ
- 言語日本語
- 出版社勉誠出版
- 発売日2017/9/4
- 寸法14.8 x 1.5 x 21 cm
- ISBN-104585226796
- ISBN-13978-4585226796
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商品の説明
著者について
窪添慶文(くぼぞえ・よしふみ)
(公財)東洋文庫研究員。専門は中国魏晋南北朝史。
主な著書に『魏晋南北朝官僚制研究』(汲古書院、2003年)、『中国史2―三国〜隋唐―』(共著、山川出版社、1994年)、『墓誌を用いた北魏史研究』(汲古書院、2017年)などがある。
(公財)東洋文庫研究員。専門は中国魏晋南北朝史。
主な著書に『魏晋南北朝官僚制研究』(汲古書院、2003年)、『中国史2―三国〜隋唐―』(共著、山川出版社、1994年)、『墓誌を用いた北魏史研究』(汲古書院、2017年)などがある。
登録情報
- 出版社 : 勉誠出版 (2017/9/4)
- 発売日 : 2017/9/4
- 言語 : 日本語
- 単行本(ソフトカバー) : 304ページ
- ISBN-10 : 4585226796
- ISBN-13 : 978-4585226796
- 寸法 : 14.8 x 1.5 x 21 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,338,841位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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