デンマークの作曲家、ルーズ・ランゴー(1893-1952)による弦楽四重奏曲集。ランゴーはこのジャンルに合計10篇(番号付きで6曲、他に4曲)の作品を遺しており、リリース元のダカーポはこれを全集化する予定という。
本CDはその初回分として番号付きの第二番、第三番、第六番と「“聖なる御頭、今ここに”の変奏曲」の4作品を収録。2010年12月、2011年6月/8月、デンマーク王立音楽院ホールにてセッション録音。総収録時間70分27秒。
北欧デンマークはクラシック音楽の歴史で「太い幹ではないが、独特の存在感を持つ枝に豊かな葉を茂らせた」国である。その葉がほぼ似通った形をしているのは、カール・ニールセンという名の枝で幹につながっているためらしい。
だがかつてそこに、異形の葉を茂らせた小枝があった。ランゴーはニールセンとはまったく別の系統に属した作曲家で、その仕事は生前にさしたる理解を得られず、没後はほぼ枯れ枝の状態になっていたようだ。
枝は枯れても、そこから落ちた実は日の当たらない場所に芽吹いていた。その若木をきちんとした場所に移植して育てる試みが、近年の母国でようやく盛んになったらしく、このダカーポからのCDもその一環ということである。
ブックレットの解説によれば、本作に収められた4作品は、ランゴーの創作がもっとも充実していた時期のもの。初稿は1914年から24年にかけて著わされ、その後に改訂もされているが、作者の生前に出版されたのは1曲のみ。当然演奏機会にも恵まれず、中には初演が没後という曲もある。
作曲者と作品が不遇であった理由は、本作に耳を傾ければよく分かる。二十世紀前半という時代の北欧において、その音楽は保守とか革新という以前に、あまりに急進的であったと思えるからだ。
このことは各作品の楽章に付された副題にも表れており、特に第二番の第二楽章「走り去る列車」などは、後のスティーヴ・ライヒを思わせる着想で、楽曲の調性と併せて優に半世紀を先取りした感覚といえる。「それゆえに」または「だからこそ」、ランゴーの作品は今の時代には違和感なく受け入れられるのだが。
本作に収録の楽曲は、過去に同じダカーポから、
コントラ四重奏団の演奏
でリリースされている。
ホルンボー作品集
などで優れた録音を残すベテラン楽団だが、今回のリメイクではそれと正反対の楽団が起用された。
その「ナイチンゲール四重奏団」はメンバー全員がデンマーク王立音楽院に席を置く女性奏者。演奏はたいへん瑞々しく理知的で、白木とアルミでつくられたモダンデザインの北欧家具を思わせる。特に清冷な空気感と鋭利なテクスチャー感は、ランゴーの楽曲によくマッチしている。今後が大いに期待できる楽団である。