近年の甲子園大会時期になると必ず現れる「球数制限をしなければ」派に対してずっと違和感を感じていた。
彼らは必ず、投球数制限を導入しないと日本の高校生投手は将来において潰れる、故に高校生の間は無理をせず、なんなら甲子園に出場することを至上命題とせず、自分の肩肘を守ることだけを考えよ、野球部の監督コーチは将来の逸材のために、チームが負けようとなにしようと我慢すべきだし、チームメイトも負けを甘受せよ、ということ言います。
アメリカではアマチュアレベルでは厳格な投球数制限があり、過剰な投球数は投げないから投手の腕は保護されているのだと彼らは言いますが、全然そんなのは嘘っぱちであることが、本書によってわかります。むしろ「ショーケース」と呼ばれるMLB顔負けの過酷な競争環境に進んで入っていき、そこでの成績を評価基準に高校や大学そしてMLBが投手を選抜している実情がこれでもかと描かれています。また、MLBではストラスバーグのように勝負を度外視した過剰に球数制限を厳格に適用して勝負の妙味を台無しにしつつも、投手は壊れ続け、トミージョン手術をしまくる様子が描かれています。
また、100球の投球制限を事実上考案した人物自体が「100が魔法の数字になった」と述懐する始末です。
要するに、球数制限は決して万能ではない、ということがよくわかる本です。
バカの一つ覚えのように球数制限を主張しさえすれば、正論を語る俺は偉い、変えようとしない高野連や現場の指導者は酷いと言い募る様なライター(広尾晃ら)はせめてこれぐらいの現実を自分で一次情報として取材してきてから、語るべきでしょう。
あえて言えば、およそスポーツ選手全体にとって言えることですが、ケガをしないのも才能の一つであることは言うまでもありません。野球界にもケガさえなければ、という選手も数多いたでしょう。壊れなかった選手が生き残るのがプロ野球の世界であり、過保護に大事大事しても壊れる時は壊れるわけです。乳母日傘で大事大事に扱われてきたであろうダルビッシュや大谷も結局靭帯を痛めました。
空虚かつお為ごかしな広尾や氏原英明の駄文に騙されないためにも、真の野球ファンには本書は必読と言えるでしょう。なお、米国人のノンフィクションものはこれぐらいの構成や言い回しは全く常識の範囲内であって、ちっとも読みにくいことはありません。これを読みにくいという人は、その程度の読み手に過ぎないということです。

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豪腕 使い捨てされる15億ドルの商品 単行本(ソフトカバー) – 2017/2/25
投手の故障率50%、肘の手術率25%。
MLBは投手の故障によって、毎年5億ドルをドブに捨てている。
荒木大輔氏絶賛!
「何が正しいかではなく、事実として知ってほしい」
野球選手の肘の問題とトミー・ジョン手術のすべて――
2015年、ダルビッシュ有投手が肘の靭帯を損傷し、
「トミー・ジョン手術(内側側副靭帯再建手術)」を受けた。
今、アメリカでは大リーグの投手の4分の1がこの手術を受ける一方、
10代の患者が急増し問題になっている。
手術をすれば球速が上がると信じて、
健康な肘にメスを入れるという噂さえあるのだ。
最先端の医学と巨額の資金に支えられる
「大リーグ」においてすら、なぜ腕は壊れ続けるのか。
甲子園の投げ過ぎ問題に警鐘を鳴らした
敏腕記者パッサンが1095日にわたりアメリカ人投手を密着取材。
日本の事例も取り上げ、投手の故障の問題と
トミー・ジョン手術のすべてに迫った、
NYタイムズ・ベストセラー、傑作ノンフィクション。
野球に携わる人々は腕の故障を伝染病と呼ぶ。だが、解決の方法はかならずある。簡単に解決できるものではないし、そのためには球界がなかなか重い腰を上げようとしない総点検が必要になるが、不可能なことではない。どんな苦労や心痛に見舞われ、その線上でどんな失意を味わおうと、投手の腕に驚異的な力が秘められていることを私は知っている。――「はじめに」より
MLBは投手の故障によって、毎年5億ドルをドブに捨てている。
荒木大輔氏絶賛!
「何が正しいかではなく、事実として知ってほしい」
野球選手の肘の問題とトミー・ジョン手術のすべて――
2015年、ダルビッシュ有投手が肘の靭帯を損傷し、
「トミー・ジョン手術(内側側副靭帯再建手術)」を受けた。
今、アメリカでは大リーグの投手の4分の1がこの手術を受ける一方、
10代の患者が急増し問題になっている。
手術をすれば球速が上がると信じて、
健康な肘にメスを入れるという噂さえあるのだ。
最先端の医学と巨額の資金に支えられる
「大リーグ」においてすら、なぜ腕は壊れ続けるのか。
甲子園の投げ過ぎ問題に警鐘を鳴らした
敏腕記者パッサンが1095日にわたりアメリカ人投手を密着取材。
日本の事例も取り上げ、投手の故障の問題と
トミー・ジョン手術のすべてに迫った、
NYタイムズ・ベストセラー、傑作ノンフィクション。
野球に携わる人々は腕の故障を伝染病と呼ぶ。だが、解決の方法はかならずある。簡単に解決できるものではないし、そのためには球界がなかなか重い腰を上げようとしない総点検が必要になるが、不可能なことではない。どんな苦労や心痛に見舞われ、その線上でどんな失意を味わおうと、投手の腕に驚異的な力が秘められていることを私は知っている。――「はじめに」より
- 本の長さ464ページ
- 言語日本語
- 出版社ハーパーコリンズ・ ジャパン
- 発売日2017/2/25
- 寸法13 x 2.3 x 18.8 cm
- ISBN-104596551189
- ISBN-13978-4596551184
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登録情報
- 出版社 : ハーパーコリンズ・ ジャパン (2017/2/25)
- 発売日 : 2017/2/25
- 言語 : 日本語
- 単行本(ソフトカバー) : 464ページ
- ISBN-10 : 4596551189
- ISBN-13 : 978-4596551184
- 寸法 : 13 x 2.3 x 18.8 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 638,094位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 17,181位スポーツ (本)
- - 84,757位ノンフィクション (本)
- カスタマーレビュー:
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2018年9月16日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2017年9月28日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
結局のところ結論は出てこない。
ピッチャーの腕は消耗品なのか守れるものなのか、リスク回避はできないのか等等。
筆者の取材力には驚かされます。
何しろ日本の地方都市のクリニックにまで取材に赴いている。
メジャーリーガーへの取材も大物からそうでない選手まで行っている。
その取材件数が多過ぎるため、結論が欲しい読者にはとっ散らかるのだろうが、帯にある通り筆者は事実を丹念に取材して現実を露わにしたにすぎない。
そういうジャーナリズムも有りかと。
何でもかんでも本に結論を求めるのは良くない。
本を読んで、自分で正解を導くのが筋だろう。
そのためには非常に役に立つ本だと思います。
ピッチャーの腕は消耗品なのか守れるものなのか、リスク回避はできないのか等等。
筆者の取材力には驚かされます。
何しろ日本の地方都市のクリニックにまで取材に赴いている。
メジャーリーガーへの取材も大物からそうでない選手まで行っている。
その取材件数が多過ぎるため、結論が欲しい読者にはとっ散らかるのだろうが、帯にある通り筆者は事実を丹念に取材して現実を露わにしたにすぎない。
そういうジャーナリズムも有りかと。
何でもかんでも本に結論を求めるのは良くない。
本を読んで、自分で正解を導くのが筋だろう。
そのためには非常に役に立つ本だと思います。
2017年6月24日に日本でレビュー済み
運動学くらい勉強してから書いたらよかろうと。本書はベテラン記者によるプロ野球界における投手の腕の故障大量発生事情について、むかしから今日までどのように発生していたか、いるか。それに対してどのような対策が取られているか、非常に大量の取材を通して書き綴ったものである。
結局かつては4000回登板500勝から300勝もする投手がたくさんいたのに最近故障増加勝数低下している要因については何ら明確な仮説すら提示していない。テーマがテーマなので基礎的運動学くらい勉強してからでないと妄言をさらすことになる。著者は安易にオーバーハンドのスロウイングが原因のひとつと述べているがオーバーハンドスロウに問題があったら人類は数千年前に、こんなことはやめているだろう。
サンディ・コーファクスやサチェル・ペイジのようにけた外れの投球回数をこなした投手の特徴は全身の可動性に優れたダイナミックなフォームの持ち主であるということだ。投球は全身運動なのでそこに問題が生じたとき腕の故障を生じる。この程度のことも知らずに書くテーマではないだろう。
トミージョン手術の開発者ふらんく・ジョーブを肯定的に書いているが、彼はただの手術やである。文中出てくる彼がりがく療法士と共に開発したと書いているスローワーズ10エクササイズは腕の故障の原因を肩に求めて、肩の筋肉トレーニングを行うものだが、なんの効果もあげていない。40年前私もやったことがあるが。つまりジョーブが宣伝する前から世界中でやってたものだ。
本来星0がふさわしいが、人間の愚行と苦悩の小史をと読むと興味深い読み物となる。現在野球界の主流となっている100球理論と言うものが全く合理的根拠がないこともわかる。つまりちょっと冗長だが、楽しめる本だ。それで星三つ
結局かつては4000回登板500勝から300勝もする投手がたくさんいたのに最近故障増加勝数低下している要因については何ら明確な仮説すら提示していない。テーマがテーマなので基礎的運動学くらい勉強してからでないと妄言をさらすことになる。著者は安易にオーバーハンドのスロウイングが原因のひとつと述べているがオーバーハンドスロウに問題があったら人類は数千年前に、こんなことはやめているだろう。
サンディ・コーファクスやサチェル・ペイジのようにけた外れの投球回数をこなした投手の特徴は全身の可動性に優れたダイナミックなフォームの持ち主であるということだ。投球は全身運動なのでそこに問題が生じたとき腕の故障を生じる。この程度のことも知らずに書くテーマではないだろう。
トミージョン手術の開発者ふらんく・ジョーブを肯定的に書いているが、彼はただの手術やである。文中出てくる彼がりがく療法士と共に開発したと書いているスローワーズ10エクササイズは腕の故障の原因を肩に求めて、肩の筋肉トレーニングを行うものだが、なんの効果もあげていない。40年前私もやったことがあるが。つまりジョーブが宣伝する前から世界中でやってたものだ。
本来星0がふさわしいが、人間の愚行と苦悩の小史をと読むと興味深い読み物となる。現在野球界の主流となっている100球理論と言うものが全く合理的根拠がないこともわかる。つまりちょっと冗長だが、楽しめる本だ。それで星三つ
2020年7月9日に日本でレビュー済み
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ときどぎ時系列がわかりにくくなることがありますが、それ以外は期待通りでした。筆者のジェフ・パッサンは最も著名なMLB記者で、あちらの記者の知識や洞察の深さは素晴らしいと思います。ベースボールへの愛が伝わってきます。
特に、ここで取り上げられたダニエル・ハドソンが二度のトミージョン手術を経て(ここまでが本の内容)、その後に復活し、昨年のワールドシリーズで最後を抑えた(胴上げ投手というのか?)ことにつながったのは、読んでてとても感慨深かったです。
特に、ここで取り上げられたダニエル・ハドソンが二度のトミージョン手術を経て(ここまでが本の内容)、その後に復活し、昨年のワールドシリーズで最後を抑えた(胴上げ投手というのか?)ことにつながったのは、読んでてとても感慨深かったです。
2019年11月15日に日本でレビュー済み
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アメリカの事情が分かってとてもためになった
2017年5月2日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
ダルビッシュや田中将大も痛めた右ヒジ靱帯。投手であれば無関心ではいられないヒジの問題を取り上げる力作ルポです。
3年以上の年月をかけて220人以上を取材したといいます。プロの投手はもちろん、医者や代理人、チーム経営陣から少年野球関係者までその幅広いこと。荒木大輔さんや上甲さん、楽天の安楽にダルビッシュの昔の指導者など日本の野球ファンになじみのある顔ぶれも多数登場します。
2度のトミー・ジョン手術からの復活を目指す2人の大リーガーの葛藤物語が軸ですが、章ごとに様々な角度から投手の腕の裏側を描きます。専門用語も多く、それなりにページ数もあるので、読み通すには相応の根気が必要でしょう。もっとも、興味さえあればその価値はあります。
それにしても、腕を傷めた投手のリハビリの辛さ、復帰後の尽きない不安などは予想以上に厳しいもののようです。先日、120球以上投げたダルビッシュが翌日の腕の状態を危惧するコメントをしていましたが、スター選手たちといえど、どれだけ大きな不安と日々戦っていることか。
なお、邦題のサブタイトルにある「使い捨て」という言葉は原題にはありません。ただ著者は、この問題に球界が十分に取り組んでいないことに不満を持っています。その問題意識をうまく表した邦訳ではないでしょうか。
3年以上の年月をかけて220人以上を取材したといいます。プロの投手はもちろん、医者や代理人、チーム経営陣から少年野球関係者までその幅広いこと。荒木大輔さんや上甲さん、楽天の安楽にダルビッシュの昔の指導者など日本の野球ファンになじみのある顔ぶれも多数登場します。
2度のトミー・ジョン手術からの復活を目指す2人の大リーガーの葛藤物語が軸ですが、章ごとに様々な角度から投手の腕の裏側を描きます。専門用語も多く、それなりにページ数もあるので、読み通すには相応の根気が必要でしょう。もっとも、興味さえあればその価値はあります。
それにしても、腕を傷めた投手のリハビリの辛さ、復帰後の尽きない不安などは予想以上に厳しいもののようです。先日、120球以上投げたダルビッシュが翌日の腕の状態を危惧するコメントをしていましたが、スター選手たちといえど、どれだけ大きな不安と日々戦っていることか。
なお、邦題のサブタイトルにある「使い捨て」という言葉は原題にはありません。ただ著者は、この問題に球界が十分に取り組んでいないことに不満を持っています。その問題意識をうまく表した邦訳ではないでしょうか。
2017年3月13日に日本でレビュー済み
近年予想不能のリスク・ファクターとして大金が動く野球界を悩ませる投手の腕。
投げさせ過ぎても壊れる。乳母日傘で大事にしても壊れる。
そもそも人間の身体は完全には上手投げに適応していない。
それにも関わらず人類が狩猟時代に他の生き物を圧倒出来たのは主に上手からの投擲能力で有った。
遠く速く多く投げられる事に対する神話的な憧憬。
他のチーム・スポーツに比べ圧倒的に試合を左右する割合が高い野球の投手。
当初は一人の投手が年間3-400イニングを投げるのが当たり前であり、日米共に多くの名投手が酷使の末、故障を抱え成績を落とし消えて行った。
ところが1974年、切れればそれまでだった肘の靭帯の修復手術が成功する。
医学会では珍しく術式の考案者ではなく、患者名が付いた術式。
「トミー・ジョン手術」である。
年間数百億円の損失を野球界に与え、選手にも多大な負担を強いる故障が何故起こるのか、を米ヤフースポーツのライターであり、我が国でもスラッガー誌への寄稿で知られているパッサン氏が関係者インタビューを含む豊富な取材の下に綴ったルポルタージュ。
(少し内容に触れています)
前半は主に肘の内側側副靭帯(UCL)損傷とその画期的な治療法であるトミー・ジョン手術を軸に、選手、指導者、医学会、経営陣達から丁寧に取材した米国の事情を書いています。
中半は米国には無い国民的行事である甲子園大会を擁した日本の事情を。
甲子園の名監督、多くの球数を投げ抜いた球児、そして卒業後プロ入りした選手、元選手と医師の取材を基に描いています。
読む内に現状の商業野球大国の米日を比較は両国がそれぞれ抱える問題の難しさが浮き彫りとなる構造です。
日本球児の投げ過ぎが球界の考え方を根底から変えないと解決出来ない根深い問題で有る事。
我が国のスポーツ医学の権威のもとに土日に肩・肘の故障を抱えた少年球児たちが列を作って訪れる様子には驚きました。
それを批判する米国でも近年少年野球の初の全国規模のショーケースである「パーフェクト・ゲーム」が隆盛となり、才能ある球児を持った親や指導者、将来の有望株を探す球界の損得で狂騒状態となっており、そこでも新たにジュニア投手の投げ過ぎが問題になっている事。
途中、少し肘に違和感を持つ程度の名投手ジョン・レスターを巡る球団と選手間の丁丁発止のやりとりというビジネス面のお話も挿入される等、多様な興味を逸らさない書でもあります。
後半は最新の治療法、トレーニング理論すなわち新たな希望に付いて述べています。
それらを本書の為に辛い手術・リハビリ期間にも関わらず協力した腕の投手二人(トッド・コッフィーとダニエル・ハドソン)苦悩と希望のエピソードで挟む構造となっています。
全体を通して投手の腕の問題が家族・小自治体を越えて大きな市場から注目される高額商品になっている状況を描いた少々苦い書でもあります。
「遅かれ早かれ腕は壊れる。」とは本書内の投手コーチの身も蓋も無い言葉が胸に響きます。
一部手術描写は迫真で、ちょっとスプラッター的に感じる所も。
怪しげな治療法、予防法を「革新的だ!」と売り込む人物も。
その他、年間106試合登板のMLB記録を持ち独自理論のベースボールクリニックを運営するマイク・マーシャルや生涯一度も致命的な故障をせずに40代まで投げた名投手ウォーレン・スパーン、上甲正典監督、安樂智大、荒木大輔、松坂大輔、立田将太、ファルサ・ダルビッシュ、そして生まれつきUCLが無くとも何故かMLBで投げているR.A.ディッキー、選手以外ではフロント、GM、トレーナー、医師、有望球児の両親、理論家、分析家等様々な人物が登場します。
本書主要登場人物の近況が巻末に追加。
日米球界を共に知る斉藤隆氏が自身の驚きの靭帯事情も含めて語る解説付。
お薦めです。
投げさせ過ぎても壊れる。乳母日傘で大事にしても壊れる。
そもそも人間の身体は完全には上手投げに適応していない。
それにも関わらず人類が狩猟時代に他の生き物を圧倒出来たのは主に上手からの投擲能力で有った。
遠く速く多く投げられる事に対する神話的な憧憬。
他のチーム・スポーツに比べ圧倒的に試合を左右する割合が高い野球の投手。
当初は一人の投手が年間3-400イニングを投げるのが当たり前であり、日米共に多くの名投手が酷使の末、故障を抱え成績を落とし消えて行った。
ところが1974年、切れればそれまでだった肘の靭帯の修復手術が成功する。
医学会では珍しく術式の考案者ではなく、患者名が付いた術式。
「トミー・ジョン手術」である。
年間数百億円の損失を野球界に与え、選手にも多大な負担を強いる故障が何故起こるのか、を米ヤフースポーツのライターであり、我が国でもスラッガー誌への寄稿で知られているパッサン氏が関係者インタビューを含む豊富な取材の下に綴ったルポルタージュ。
(少し内容に触れています)
前半は主に肘の内側側副靭帯(UCL)損傷とその画期的な治療法であるトミー・ジョン手術を軸に、選手、指導者、医学会、経営陣達から丁寧に取材した米国の事情を書いています。
中半は米国には無い国民的行事である甲子園大会を擁した日本の事情を。
甲子園の名監督、多くの球数を投げ抜いた球児、そして卒業後プロ入りした選手、元選手と医師の取材を基に描いています。
読む内に現状の商業野球大国の米日を比較は両国がそれぞれ抱える問題の難しさが浮き彫りとなる構造です。
日本球児の投げ過ぎが球界の考え方を根底から変えないと解決出来ない根深い問題で有る事。
我が国のスポーツ医学の権威のもとに土日に肩・肘の故障を抱えた少年球児たちが列を作って訪れる様子には驚きました。
それを批判する米国でも近年少年野球の初の全国規模のショーケースである「パーフェクト・ゲーム」が隆盛となり、才能ある球児を持った親や指導者、将来の有望株を探す球界の損得で狂騒状態となっており、そこでも新たにジュニア投手の投げ過ぎが問題になっている事。
途中、少し肘に違和感を持つ程度の名投手ジョン・レスターを巡る球団と選手間の丁丁発止のやりとりというビジネス面のお話も挿入される等、多様な興味を逸らさない書でもあります。
後半は最新の治療法、トレーニング理論すなわち新たな希望に付いて述べています。
それらを本書の為に辛い手術・リハビリ期間にも関わらず協力した腕の投手二人(トッド・コッフィーとダニエル・ハドソン)苦悩と希望のエピソードで挟む構造となっています。
全体を通して投手の腕の問題が家族・小自治体を越えて大きな市場から注目される高額商品になっている状況を描いた少々苦い書でもあります。
「遅かれ早かれ腕は壊れる。」とは本書内の投手コーチの身も蓋も無い言葉が胸に響きます。
一部手術描写は迫真で、ちょっとスプラッター的に感じる所も。
怪しげな治療法、予防法を「革新的だ!」と売り込む人物も。
その他、年間106試合登板のMLB記録を持ち独自理論のベースボールクリニックを運営するマイク・マーシャルや生涯一度も致命的な故障をせずに40代まで投げた名投手ウォーレン・スパーン、上甲正典監督、安樂智大、荒木大輔、松坂大輔、立田将太、ファルサ・ダルビッシュ、そして生まれつきUCLが無くとも何故かMLBで投げているR.A.ディッキー、選手以外ではフロント、GM、トレーナー、医師、有望球児の両親、理論家、分析家等様々な人物が登場します。
本書主要登場人物の近況が巻末に追加。
日米球界を共に知る斉藤隆氏が自身の驚きの靭帯事情も含めて語る解説付。
お薦めです。