政治とは調整であり、その調整の中心として、将軍の妻が機能していたということが分かりやすく解説されています。例として誰もが知っている北条政子と日野富子を持ってきていますが、単にこの二人の解説にとどまるだけでなく、この時代の正妻(御台)の役割を論理的に明らかにしているところに好感が持てます。
「女人政治」というと、将軍に取り入って、自分の要望をかなえてもらうようなイメージを持たれがちですが、実態はそんなものではなく、家の経営の判断を普段から行っていることが説明されています。あちこちから持ち込まれる案件を調整したり、家や幕府の外(主に朝廷)との折衝などその仕事は多岐にわたります。恋人というよりは「共同経営者」なんですね。
だからこそ北条政子は夫の死後でも、御家人たちを束ねることが可能であったし、また日野富子は夫が隠棲したあとでも朝廷・幕府を運営できた、ということなんですね。
日野富子さんの悪名高い「守銭奴疑惑」ですが、経営者として朝廷・幕府を財政的に支えていくためには、経済感覚を鋭くして、あちこちから収入を得る必要があったのでしょう。江戸時代の儒教的発想からは嫌われてしまうかもしれませんが、経営者としてはちゃんと責務を果たしていたんですね。確かに、夫と息子が全然経営者としてなってないんだからそうせざるを得なかったのかも。
このような御台政治の重要性は豊臣政権になっても続きます。豊臣政権崩壊の一つの要因として、御台政治が北政所と淀殿に分裂してしまったことがあげられています。そのように考えれば確かにわかりやすいですね。
あと、「なるほど」と思ったのは、戦国時代に恋愛結婚があったとしても資料に残らないだろうし、政略結婚でも仲睦まじく和平に貢献したのは物語の印象に残らないこと。だから、引き裂かれた政略結婚だけが悲惨な物語として強調されるということになるのでしょう。

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女人政治の中世: 北条政子と日野富子 (講談社現代新書 1294) 新書 – 1996/3/1
田端 泰子
(著)
- 本の長さ229ページ
- 言語日本語
- 出版社講談社
- 発売日1996/3/1
- ISBN-104061492942
- ISBN-13978-4061492943
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商品の説明
著者について
1941年、神戸市に生まれる。1964年、京都大学文学部卒業。69年、同大学院博士課程修了。専攻は日本中世史、女性史。現在、京都橘女子大学文学部教授。著書に『中世村落の構造と領主制』――法政大学出版局、『日本中世の女性』――吉川弘文館、『日本中世女性史論』――塙書房――など。
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2017年7月30日に日本でレビュー済み
北条政子は夫頼朝を落馬で亡くし息子で第2代、3代の将軍でもある頼家と実朝を暗殺で亡くした悲劇の女性である。 しかし悲嘆にくれず鎌倉幕府の尼将軍として将軍の代理を務め京都から藤原将軍や皇族将軍を迎え入れて9代まで存続させた偉大な政治家であった。 特に承久の乱では関東の御家人に檄をとばし後鳥羽上皇を隠岐に流して赦免を決してしなかった意志堅固の賢明な女性であった。 日野富子は室町幕府の将軍のキングメーカーであったが将軍の戦死や病死などで結果として公平な人事を行っている。 足利義政が義視を先にその後義尚を将軍につけておけば応仁の乱は起こらなかった。 義政が還俗させた義視に再出家を強要したために事態は悪化したのである。 また富子は守銭奴と非難されるが銀行業は正義ではなく最大限の利益を求めて行われる民間業務である。 宋銭の輸入で貨幣経済が日本でも発達して貸金業務が簡便になっていた。 銀行は政治的には常に中立で敵にも味方にも貸金するのは経済の鉄則である。 欧米の銀行は戦争では双方に融資して巨額の収益を上げている。 日野富子は米相場でも巨万の富を稼いでいる。 彼女は近代経財学を身に着けた賢明な優れた財政担当大臣だったといえる。 ロシュチャイルドを一歩先行していた財閥であった。 北条政子と日野富子は決して悪女ではなく瀕死の鎌倉幕府と室町幕府を救った救世主であった。