私がこの3巻で最も興味を引かれたのは、憲法制定国民議会での左派と右派の激しい論争と駆け引きの描写だ。その中心には怪物ミラーボーがおり、更にはやがてナポレオン時代に大活躍することになるタレーランも登場して暗躍、そして勿論ロベスピエールもダントンもいる。
このときの議論で面白いのは、戦争についての宣戦講和の機能を担うのは、立法権(国民議会)か執行権(国王政府)かという議論。左派は国家主権は国民にあるのだから、戦争を始める権利も止める決断も議会が担うべきだと主張し、右派は、戦争は危急存亡の事態への対応なのだから、悠長な議会の論議を待って決断を下していたのでは、いざと言う時には間に合わない。宣戦講和の機能は国王政府に委ねられるべきだと主張する。おまけにその議論の背景には、他国の領土への侵略戦争は悪であり、フランス国民も国王政府もそんな戦争をやる意志は無いという建前がある。問題なのは他国から不当な戦争を仕掛けられたときの自衛戦争のことだ言う。
これって、国民議会を国会に、国王政府を日本政府に読み替えれば、そっくりそのまま自衛隊の海外派遣を巡って繰り返されている現代日本の防衛論争そのものではないか!作者は勿論そのことを意識して書いているのだろう。論考の基底にしっかりとした歴史学、政治史の学識を置きながら、登場人物にタップリと強烈な個性を付加し、ダイナミックな現代版講談口調で面白ろ可笑しく話を進めていくこの作者の力量にはまったく感嘆する。
それにつけても、宣戦講和の権利に関する論争の結論に「フランス国民は征服を目的とする戦争を放棄する。他の国民の自由を害するために向後一切の武力を用いることは無い。」と付け加えることで、左派は王党派ミラボーの提案の受け入れに満足したという作者の言及によって、それがやがてナポレオンを生む国の話だと知っている我々読者は、冷酷な歴史の皮肉を改めて味わうことになるのが、本書を読む醍醐味の一つだ。
プライム無料体験をお試しいただけます
プライム無料体験で、この注文から無料配送特典をご利用いただけます。
非会員 | プライム会員 | |
---|---|---|
通常配送 | ¥410 - ¥450* | 無料 |
お急ぎ便 | ¥510 - ¥550 | |
お届け日時指定便 | ¥510 - ¥650 |
*Amazon.co.jp発送商品の注文額 ¥2,000以上は非会員も無料
無料体験はいつでもキャンセルできます。30日のプライム無料体験をぜひお試しください。
新品:
¥1,650¥1,650 税込
ポイント: 50pt
(3%)
無料お届け日:
3月30日 土曜日
発送元: Amazon.co.jp 販売者: Amazon.co.jp
新品:
¥1,650¥1,650 税込
ポイント: 50pt
(3%)
無料お届け日:
3月30日 土曜日
発送元: Amazon.co.jp
販売者: Amazon.co.jp
中古品: ¥19
中古品:
¥19

無料のKindleアプリをダウンロードして、スマートフォン、タブレット、またはコンピューターで今すぐKindle本を読むことができます。Kindleデバイスは必要ありません。
ウェブ版Kindleなら、お使いのブラウザですぐにお読みいただけます。
携帯電話のカメラを使用する - 以下のコードをスキャンし、Kindleアプリをダウンロードしてください。
聖者の戦い (小説フランス革命 3) 単行本 – 2009/3/26
佐藤 賢一
(著)
{"desktop_buybox_group_1":[{"displayPrice":"¥1,650","priceAmount":1650.00,"currencySymbol":"¥","integerValue":"1,650","decimalSeparator":null,"fractionalValue":null,"symbolPosition":"left","hasSpace":false,"showFractionalPartIfEmpty":true,"offerListingId":"ZP2ppQUwqnKcUmOT2Qv6HMWGKY32OBE5ivr5SPnsOF7FVL2YbJvNFICIy0orG3F9%2FboKMFaL9%2FebH%2F2pJkvk2gUGa5FRMeZLF7jQ7M2sziFP6YcK1GpsjW3sJL8jE70J","locale":"ja-JP","buyingOptionType":"NEW","aapiBuyingOptionIndex":0}, {"displayPrice":"¥19","priceAmount":19.00,"currencySymbol":"¥","integerValue":"19","decimalSeparator":null,"fractionalValue":null,"symbolPosition":"left","hasSpace":false,"showFractionalPartIfEmpty":true,"offerListingId":"ZP2ppQUwqnKcUmOT2Qv6HMWGKY32OBE5MSOWnlm2Zs%2FowRLlYZ5h%2BpR7J4GOm9fk1IJ3xoUjkzaQlbLpG2jasZtFyb6WqR5LLfasq%2BfpiTsOk071wG6xRL2Z5mfbB1hMQeLMZNltTsbD2yOYs0NGiWacFuEA86Jl9BSjwowOzZHA%2BQc%2FmCXfiw%3D%3D","locale":"ja-JP","buyingOptionType":"USED","aapiBuyingOptionIndex":1}]}
購入オプションとあわせ買い
革命の舞台はパリ。追及の手は聖職者へ
1789年10月。革命の舞台はヴェルサイユからパリへ。ついに、聖職者たちの富の独占が槍玉に挙げられる。教会の破壊を精力的に押し進める高位聖職者オータン司教・タレイランの真の野望とは?
1789年10月。革命の舞台はヴェルサイユからパリへ。ついに、聖職者たちの富の独占が槍玉に挙げられる。教会の破壊を精力的に押し進める高位聖職者オータン司教・タレイランの真の野望とは?
- 本の長さ296ページ
- 言語日本語
- 出版社集英社
- 発売日2009/3/26
- ISBN-10408771280X
- ISBN-13978-4087712803
よく一緒に購入されている商品

対象商品: 聖者の戦い (小説フランス革命 3)
¥1,650¥1,650
最短で3月30日 土曜日のお届け予定です
残り1点(入荷予定あり)
¥1,650¥1,650
最短で3月30日 土曜日のお届け予定です
残り2点(入荷予定あり)
¥1,650¥1,650
最短で3月30日 土曜日のお届け予定です
残り1点(入荷予定あり)
総額:
当社の価格を見るには、これら商品をカートに追加してください。
ポイントの合計:
pt
もう一度お試しください
追加されました
一緒に購入する商品を選択してください。
この商品をチェックした人はこんな商品もチェックしています
ページ 1 以下のうち 1 最初から観るページ 1 以下のうち 1
登録情報
- 出版社 : 集英社 (2009/3/26)
- 発売日 : 2009/3/26
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 296ページ
- ISBN-10 : 408771280X
- ISBN-13 : 978-4087712803
- Amazon 売れ筋ランキング: - 727,622位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
著者について
著者をフォローして、新作のアップデートや改善されたおすすめを入手してください。

1968年、山形県鶴岡市生まれ。東北大学大学院文学研究科で西洋史学を専攻。93年、『ジャガーになった男』で第六回小説すばる新人賞を受賞。99年、『王妃の離婚』で第一二一回直木賞を受賞(「BOOK著者紹介情報」より:本データは『 フランス革命の肖像 (ISBN-13:978-4087205411)』が刊行された当時に掲載されていたものです)
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
2009年4月16日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2018年12月13日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
自分では読んでません。頼まれたので買って送ったのですが、よかったようです。バカでも読めるフランス革命入門篇として良いのでは。
2009年5月5日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
フランス史を縦横無尽に書きつくす作家・佐藤氏が、いずれは書くだろうと期待して待っていたそのものずばりのフランス革命。
1・2巻もさることながら、ここからが目が離せません。
ベルばら世代の私にはたまらない。
序盤の主人公がミラボーというのも佐藤氏らしいチョイスでは。
私はパリの民衆(おかみさん)同様、ついついラ・ファイエットに目が行ってしまうが。そうか彼は軽薄なのかもね。
佐藤氏は男のコンプレックスを巧みに描き、そこにこそ男の色気というか、魅力を見出し、描き切るのを得意としていると、日頃感じております。
そして・・・待っていました。タレイラン!!!
革命をすり抜け、ナポレオン時代を生き抜きウィーン会議で優雅に舞った大貴族。彼こそが、フランス革命のキーパーソンです。
これからが大いに楽しみ。塩野氏のローマ史と同様、じっくりついてまいります。
1・2巻もさることながら、ここからが目が離せません。
ベルばら世代の私にはたまらない。
序盤の主人公がミラボーというのも佐藤氏らしいチョイスでは。
私はパリの民衆(おかみさん)同様、ついついラ・ファイエットに目が行ってしまうが。そうか彼は軽薄なのかもね。
佐藤氏は男のコンプレックスを巧みに描き、そこにこそ男の色気というか、魅力を見出し、描き切るのを得意としていると、日頃感じております。
そして・・・待っていました。タレイラン!!!
革命をすり抜け、ナポレオン時代を生き抜きウィーン会議で優雅に舞った大貴族。彼こそが、フランス革命のキーパーソンです。
これからが大いに楽しみ。塩野氏のローマ史と同様、じっくりついてまいります。
2009年3月26日に日本でレビュー済み
フランスを舞台にした時代小説を手がけてきた著者による
大河プロジェクト「小説フランス革命」
その最新刊である本書は
タレイランの登場から
彼も中心的にかかわった<全国連盟祭>までが描かれます。
理想や信仰とは無縁に、ただ自らの欲望を満たそうとするタレイラン。
そんな彼に、フランスの未来を想い清濁併せ呑むミラボー、
自らの信念を純粋に追い続けるロベスピエールなどが加わり
革命の歯車はさらに加速する。
議会での白熱する議論もさることながら
教会改革に挑むタレイランと
頑迷にそれを拒む司教との噛み合わないやり取りなど
政治・歴史小説としての面白さは十分。
さらに、議員として一線で活躍するタレイランと
彼に対して羨望や友情、そして屈辱が入り混じった想いを抱くデムーランのシーンなどは
現代の青春小説のようなほろ苦さを味わえます。
それ以外にも様々な楽しみ方ができる本作。
フランス革命の流れがわかっている方であれば
お好みの場面から読み始めてもよいのではないでしょうか☆
なお今後に関しては、
ミラボーの死やフーシェをどのように描くのか?
が一番の関心事です☆☆
大河プロジェクト「小説フランス革命」
その最新刊である本書は
タレイランの登場から
彼も中心的にかかわった<全国連盟祭>までが描かれます。
理想や信仰とは無縁に、ただ自らの欲望を満たそうとするタレイラン。
そんな彼に、フランスの未来を想い清濁併せ呑むミラボー、
自らの信念を純粋に追い続けるロベスピエールなどが加わり
革命の歯車はさらに加速する。
議会での白熱する議論もさることながら
教会改革に挑むタレイランと
頑迷にそれを拒む司教との噛み合わないやり取りなど
政治・歴史小説としての面白さは十分。
さらに、議員として一線で活躍するタレイランと
彼に対して羨望や友情、そして屈辱が入り混じった想いを抱くデムーランのシーンなどは
現代の青春小説のようなほろ苦さを味わえます。
それ以外にも様々な楽しみ方ができる本作。
フランス革命の流れがわかっている方であれば
お好みの場面から読み始めてもよいのではないでしょうか☆
なお今後に関しては、
ミラボーの死やフーシェをどのように描くのか?
が一番の関心事です☆☆
2010年10月26日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
マンガ感覚といいましょうか、フランス革命というあれだけの大事件を小説仕立てにしてくれると、知らない間に、いろいろ情報が与えられるというのは、やっぱりありがたいことです。
たとえば、タレイラン。
ジャコバン派の恐怖政治の時代も生き抜き、ナポレオンのブリュメール18日のクーデターで成立した政府でも外務大臣の座を占め、さらにはルイ18 世の即位後も外務大臣を続けてウィーン会議で列強を煙に巻き、はたまたナポレオンの百日天下のあとには首相にもなってしまうという長命な政治ですが、シャルル=モーリス・ド・タレイラン=ペリゴールという名前からもわかる名門貴族の生まれ。
しかし、こういった人間にも必ずひとつの弱点はあって、実は、そのために政治的にも、生物的にも長命を保持したんじゃないかと思うのですが、それは片足の障害。そして、家の格式によってフランスでも屈指の司教座を占めていた聖職者でありながら、放蕩を重ねるだけでなく、教会資産の国有化を提案することで、世俗化を一気に進めることができたのかな、と。また、ラ・ファイエットの道化のような描き方も印象に残ります。
ダントン、マラも活躍しはじめ、最後には、いよいよロベスピエールのもとにサン・ジュストから手紙が来るというところで終わるのですが、4巻目が楽しみ。
たとえば、タレイラン。
ジャコバン派の恐怖政治の時代も生き抜き、ナポレオンのブリュメール18日のクーデターで成立した政府でも外務大臣の座を占め、さらにはルイ18 世の即位後も外務大臣を続けてウィーン会議で列強を煙に巻き、はたまたナポレオンの百日天下のあとには首相にもなってしまうという長命な政治ですが、シャルル=モーリス・ド・タレイラン=ペリゴールという名前からもわかる名門貴族の生まれ。
しかし、こういった人間にも必ずひとつの弱点はあって、実は、そのために政治的にも、生物的にも長命を保持したんじゃないかと思うのですが、それは片足の障害。そして、家の格式によってフランスでも屈指の司教座を占めていた聖職者でありながら、放蕩を重ねるだけでなく、教会資産の国有化を提案することで、世俗化を一気に進めることができたのかな、と。また、ラ・ファイエットの道化のような描き方も印象に残ります。
ダントン、マラも活躍しはじめ、最後には、いよいよロベスピエールのもとにサン・ジュストから手紙が来るというところで終わるのですが、4巻目が楽しみ。
2009年7月23日に日本でレビュー済み
佐藤賢一のフランス革命シリーズの第3弾。
いよいよタレイランの登場。バスティーユ陥落から約1年間が舞台となっている。
もちろん、小説だから史実と異なるところもあろうが、タレイラン、ミラボー、ロベスピエールがフランス革命という嵐の中で、それぞれの革命の行く末を思いながら、活動していく様を生き生きと描いている。
なんと魅力的な政治家たちか。
200年前の議会の方が、よっぽど議論をしているなぁ。どこかの議員に読ませたい。
次巻は半年後の9月ということだけど、それまで待てない。
いよいよタレイランの登場。バスティーユ陥落から約1年間が舞台となっている。
もちろん、小説だから史実と異なるところもあろうが、タレイラン、ミラボー、ロベスピエールがフランス革命という嵐の中で、それぞれの革命の行く末を思いながら、活動していく様を生き生きと描いている。
なんと魅力的な政治家たちか。
200年前の議会の方が、よっぽど議論をしているなぁ。どこかの議員に読ませたい。
次巻は半年後の9月ということだけど、それまで待てない。
2009年4月28日に日本でレビュー済み
1789年の暮から翌年の革命一周年までを描く、第3巻。
ロベスピエールが左派の領袖として力を持ち始め、タレイランが
教会改革を画策する。
そして、相変らずミラボーは睨みをきかせている。
半年で一年分、時間の流れを少し早回ししていく感じで刊行されて
いるこのシリーズだが、正直言って少し辟易しつつもある。
あまりの逆接の文章の多さがそのひとつ。
多い時には見開き一つに「が、‥」が3回も出てくる。
言い回しも同じものが多い。
例えば「はん、むしろ神など気分が悪い」の「はん」、そして
「ええ、ええ、‥」というあいづち、「なんとなれば」という接続詞。
「なんとなれば」は10回以上、「ええ‥」は「ああ、」「おお、」
「いえいえ」なども含めるとかなりになる。
因みに「はん」は20回以上出てくる。
著者の語り口は、今まで気になったことはないのだが、こんなところが
目に付くのは、3巻目だから‥?
ロベスピエールが左派の領袖として力を持ち始め、タレイランが
教会改革を画策する。
そして、相変らずミラボーは睨みをきかせている。
半年で一年分、時間の流れを少し早回ししていく感じで刊行されて
いるこのシリーズだが、正直言って少し辟易しつつもある。
あまりの逆接の文章の多さがそのひとつ。
多い時には見開き一つに「が、‥」が3回も出てくる。
言い回しも同じものが多い。
例えば「はん、むしろ神など気分が悪い」の「はん」、そして
「ええ、ええ、‥」というあいづち、「なんとなれば」という接続詞。
「なんとなれば」は10回以上、「ええ‥」は「ああ、」「おお、」
「いえいえ」なども含めるとかなりになる。
因みに「はん」は20回以上出てくる。
著者の語り口は、今まで気になったことはないのだが、こんなところが
目に付くのは、3巻目だから‥?
2011年7月5日に日本でレビュー済み
本書(佐藤賢一『聖者の戦い 小説フランス革命III』集英社、2009年3月30日発行)はフランス革命を描いた歴史小説の3作目である。著者はフランスを舞台とした歴史小説を得意とし、『小説フランス革命』シリーズは全12巻を予定している。本書ではヴェルサイユ行進などの民衆の実力行使が一段落し、その後の憲法制定国民議会の混迷を描く。
本書では新たにタレイランが主要人物として登場する。タレイランは由緒を辿ればフランス王家に匹敵するほどの大貴族の生まれである。革命当時は自身もオータン司教として特権身分の座にあった。
旧体制を代表する立場にあるタレイランはフランス革命では革命を支持する側に回った。その論理を本書は興味深く描いている。絶対王政下では大貴族であっても王の家臣でしかない。しかし、自身が制定に参加した人権宣言で人間は平等とすることで、誰もが一番になれる時代が到来したとタレイランは考えた(16頁)。「究極の貴族主義は革命をこそ歓迎する」との発想にはタレイランの怪物ぶりを示している。
このタレイランは自らも聖職者でありながら、教会財産の国有化や聖職者の特権廃止などを強引に進める。それに対し、聖職者側は反発し、容易には進まない。表題の「聖者の戦い」は、この対立を示している。進退窮まったタレイランはミラボーを仲立ちとして抵抗勢力の首領・ポワジュランと話し合いの場を持つ。
革命そのものには反対ではなく、宗教としての神秘性を維持したいポワジュランと、それを理解しようとしない現実主義者のタレイランの噛み合わない議論が興味深い。ここではミラボーが間に入ることで妥協点を見出せた。しかし、相手の理念を理解しないことからの行き違いで、協調できる者が対立することも現実には起こりうる。
このタレイランはフランス革命期よりも、ナポレオン失脚後のブルボン復古王政期の外務大臣として歴史に名を残している。当時のフランスはナポレオン侵略戦争の敗戦国であった。にもかかわらず、彼はブルボン王家も被害者とすることで、フランスの損失を最小限にとどめた。
タレイランを名外相とする意識は西欧世界に共通する外交感覚であり、今日の国際社会の価値観に続いている。この外交感覚に則るならば、第二次世界大戦の侵略国・敗戦国であり、連合国(戦勝国)の価値観を受け入れた日本政府の高官(田母神俊雄・航空幕僚長)が侵略戦争を正当化する主張をしたことは、本人の信念の是非は別として、国際社会における日本の国益を大きく損なうものであったことは確かである。
後世には名外相と称えられるタレイランも本書では自尊心ばかりが肥大化した存在である。発想はユニークであるものの、他者を説得するという感覚に乏しく、ミラボーの助け船で何とか多数派工作に成功できた状況である。今後、タレイランが名外相としての片鱗を見せるのかも『小説フランス革命』シリーズの見どころの一つである。
第1巻『革命のライオン』で描かれたアンシャン・レジームの行き詰まりは閉塞感漂う現代日本のアナロジーと感じられた。同様に本書での国家の交戦権についての議論も、憲法の謳う徹底した平和主義が骨抜きにされつつある日本において参考になる内容となっている。
憲法制定国民議会とは文字通り憲法を制定するための議会である。そこでは宣戦・講和の権限を国王が持つべきか、議会が持つべきかで対立した。右派(保守派)は「防衛は急を要する」ことを理由に国王大権に属すると主張し、左派(愛国派)は「戦争をするか、しないか、それを決めるのは国民」として議会の権限であると主張した(161頁)。
この議論が行われた時期はフランスの友好国であるスペインとイギリスが一触即発の危機にあった。そのため、艦隊に出航待機命令を出し、イギリスを牽制した国王政府への支持に議会内も傾いていた。これに対して、左派のラメット議員は国王が議会に諮らずに派兵の準備を進めた手続き上の問題を指摘する。状況に流されず原則論から問題点を明確にする姿勢は付和雷同しがちな日本社会にとって眩しい存在である。
左派が国王の交戦権に反対する論理構成が興味深い。国王が宣戦・講和の権限を持てば、国王は自分の意思で軍隊を動員でき、その軍隊が再び国民を弾圧することに使われる可能性があるとする(163頁)。ロベスピエール議員は「戦争とは常に専制君主を守るための営みだ」と喝破する(166頁)。
平和主義は空想的と非難されることがある。しかし、有事に軍隊が国民を守ってくれるとは考えない点で真の平和主義者は現実主義者である。現実問題として近代憲法は最大の人権侵害の主体を自国政府と位置付けている。国家が戦争を行わないようにすることは理想論ではなく、権力の害悪を直視した現実論である。
日本国憲法が平和主義を憲法の3原則の一つにまで高めた理由は平和がなければ国民主権も基本的人権も画餅に帰すと考えたためである。ここに日本国憲法の斬新さがあるが、戦争と平和の問題はフランス革命の時代においても内政上の争点であり、民主主義や人権に直結する問題であると理解できた。
本書では新たにタレイランが主要人物として登場する。タレイランは由緒を辿ればフランス王家に匹敵するほどの大貴族の生まれである。革命当時は自身もオータン司教として特権身分の座にあった。
旧体制を代表する立場にあるタレイランはフランス革命では革命を支持する側に回った。その論理を本書は興味深く描いている。絶対王政下では大貴族であっても王の家臣でしかない。しかし、自身が制定に参加した人権宣言で人間は平等とすることで、誰もが一番になれる時代が到来したとタレイランは考えた(16頁)。「究極の貴族主義は革命をこそ歓迎する」との発想にはタレイランの怪物ぶりを示している。
このタレイランは自らも聖職者でありながら、教会財産の国有化や聖職者の特権廃止などを強引に進める。それに対し、聖職者側は反発し、容易には進まない。表題の「聖者の戦い」は、この対立を示している。進退窮まったタレイランはミラボーを仲立ちとして抵抗勢力の首領・ポワジュランと話し合いの場を持つ。
革命そのものには反対ではなく、宗教としての神秘性を維持したいポワジュランと、それを理解しようとしない現実主義者のタレイランの噛み合わない議論が興味深い。ここではミラボーが間に入ることで妥協点を見出せた。しかし、相手の理念を理解しないことからの行き違いで、協調できる者が対立することも現実には起こりうる。
このタレイランはフランス革命期よりも、ナポレオン失脚後のブルボン復古王政期の外務大臣として歴史に名を残している。当時のフランスはナポレオン侵略戦争の敗戦国であった。にもかかわらず、彼はブルボン王家も被害者とすることで、フランスの損失を最小限にとどめた。
タレイランを名外相とする意識は西欧世界に共通する外交感覚であり、今日の国際社会の価値観に続いている。この外交感覚に則るならば、第二次世界大戦の侵略国・敗戦国であり、連合国(戦勝国)の価値観を受け入れた日本政府の高官(田母神俊雄・航空幕僚長)が侵略戦争を正当化する主張をしたことは、本人の信念の是非は別として、国際社会における日本の国益を大きく損なうものであったことは確かである。
後世には名外相と称えられるタレイランも本書では自尊心ばかりが肥大化した存在である。発想はユニークであるものの、他者を説得するという感覚に乏しく、ミラボーの助け船で何とか多数派工作に成功できた状況である。今後、タレイランが名外相としての片鱗を見せるのかも『小説フランス革命』シリーズの見どころの一つである。
第1巻『革命のライオン』で描かれたアンシャン・レジームの行き詰まりは閉塞感漂う現代日本のアナロジーと感じられた。同様に本書での国家の交戦権についての議論も、憲法の謳う徹底した平和主義が骨抜きにされつつある日本において参考になる内容となっている。
憲法制定国民議会とは文字通り憲法を制定するための議会である。そこでは宣戦・講和の権限を国王が持つべきか、議会が持つべきかで対立した。右派(保守派)は「防衛は急を要する」ことを理由に国王大権に属すると主張し、左派(愛国派)は「戦争をするか、しないか、それを決めるのは国民」として議会の権限であると主張した(161頁)。
この議論が行われた時期はフランスの友好国であるスペインとイギリスが一触即発の危機にあった。そのため、艦隊に出航待機命令を出し、イギリスを牽制した国王政府への支持に議会内も傾いていた。これに対して、左派のラメット議員は国王が議会に諮らずに派兵の準備を進めた手続き上の問題を指摘する。状況に流されず原則論から問題点を明確にする姿勢は付和雷同しがちな日本社会にとって眩しい存在である。
左派が国王の交戦権に反対する論理構成が興味深い。国王が宣戦・講和の権限を持てば、国王は自分の意思で軍隊を動員でき、その軍隊が再び国民を弾圧することに使われる可能性があるとする(163頁)。ロベスピエール議員は「戦争とは常に専制君主を守るための営みだ」と喝破する(166頁)。
平和主義は空想的と非難されることがある。しかし、有事に軍隊が国民を守ってくれるとは考えない点で真の平和主義者は現実主義者である。現実問題として近代憲法は最大の人権侵害の主体を自国政府と位置付けている。国家が戦争を行わないようにすることは理想論ではなく、権力の害悪を直視した現実論である。
日本国憲法が平和主義を憲法の3原則の一つにまで高めた理由は平和がなければ国民主権も基本的人権も画餅に帰すと考えたためである。ここに日本国憲法の斬新さがあるが、戦争と平和の問題はフランス革命の時代においても内政上の争点であり、民主主義や人権に直結する問題であると理解できた。