ベートーヴェンの曲を熱心に聴いてきたわけではありませんが、このバレエ音楽『プロメテウスの創造物』の抜粋の演奏は珍しいのではないでしょうか。序曲を聴くことはあっても、イントロダクション、第5曲、第8曲、第14曲 フィナーレとその中でも美しい楽曲が選ばれています。第5曲の「アダージョ‾アンダンテ・クアジ・アレグレット」の美しい旋律は特筆もので、自分の不明を恥じるばかりです。バレエ音楽らしさが伝わってくるロマンチックな音楽でした。
2010年5月に録音されたこのケント・ナガノ指揮のモントリオール交響楽団の演奏は、数多の名指揮者が残した交響曲第3番『英雄』にどのような新風を注ぎ込むのでしょうか。
聴き慣れた第1楽章が颯爽と鳴り響きます。幾分テンポが早めで軽やかな出だしです。弦のメリハリもついており、格調の高さが伝わってきました。ベートーヴェンの変奏の冴えが随所に感じられます。あるモティーフを繰り返し効果的な配列する術に長けています。いまさらながら、ベートーヴェンの交響曲が後世の数多の作曲家のお手本になったのがわかるほど堅牢な構成で、管の響きの美しさと弦の伸びやかさの組み合わせが高揚感をもたらすようでした。
第2楽章の葬送行進曲の重いテーマは、作曲家の苦悩の表れでしょうか。ケント・ナガノは王道ともいえる真正面からこの曲を取り上げ、重すぎることなく美しく練り上げていました。オーボエ奏者の上手さが光ります。
第3楽章のスケルツォも早すぎることなく、掛け合いの妙が伝わってきます。ホルンの朗々たる響きを堪能しました。
第4楽章のテーマは、『プロメテウスの創造物』のフィナーレと同じで、この2曲のカップリングの意味が見えてきました。音楽は聴きこむごとに少しずつ新しい地平が見えてくるようです。爽やかなベートーヴェンでした。