色は常に人類と共にある。
勿論、日頃は余り意識しないかもしれないが、例えば、冠婚葬祭の折には色の慣例やタブーに気を付けるであろうし、日々の買い物でも色を重視する方は多いであろう。
或いは、自然にしろ造形物にしろ、とにかく“色”に感動した…と言う経験を持つ方も多いのではなかろうか。
編者の浜本氏は言う…「人間の長い歴史も色彩の文化の積み重ねに依って作られて来た」と。
そこで、色彩史を紐解く事に依って“色彩の総合文化”を論じたのが本書である。
本書は先ず序章にて、色彩研究には「社会学」「文化史」「美学」「心理学」のアプローチ方法がある事を解説し、それを5名の研究者が各章を担当しながら実践する内容だ。
第一章「聖なる色・邪悪な色」では神や王の金色、差別対象としての黄色、純白のマリアや黒い魔女等、所謂「色の象徴」を紹介した上で善悪両方の意味を持つ色にも着眼する。
次に、第二章ではヨーロッパに於ける青の意義と重要性、更には変遷について論述し、続く第三章では美術作品としてのシルエットを中心に考察していく。
また「東西美術の光り輝く色彩」と題された第四章では、琳派の金銀装飾やヨーロッパのステンドグラス等、東西の色彩文化について幅広く言及し、更なる第五章では実際のアンケート調査の結果を基に、人々の色に対する心理を探っているのだ。
尚、最終章は「色彩のカノンは死んだか」という問題提議を以て締め括っている。
本書を読むと、私達の文化や歴史が如何に色彩と密接に関わって来たかが理解出来る。
そして、何よりもその多彩な視点こそが本書の魅力であり「色彩の文化史」の本髄に接する事が出来たように思う。
取り分け個人的に興味深かったのは、シルエットについて論じた第三章だ。
何故なら、通常の美術史に於いては忘れられがちな“影絵”を取り上げた着眼点と「黒」一色に焦点を絞った追求性が新鮮だったからである。
本論では、中世のヨーロッパで巻き起こった“シルエット・ブーム”の発達から終焉に至る迄を解説し、そのシンプルな肖像画が何故これ程までに愛されたのか…そして、その理由として啓蒙主義と言う思想的背景が挙げられる事にまで言及しているので、美術の隆盛を単なる“流行り”として捉えるべきではない事を考えさせられずにはいられなかった。
また、第五章の心理学的分析は色彩史を論じた他の章とはやや様相が異なるものの、緻密なデータ結果を自分の観念と照らし合わせてみるのも面白いと思う。
例えば「幸福」と聞いて何色を連想するか…「自然」は何色だろうか…「安全」は?「危険」は?…私の場合、凡庸過ぎるのが悲しい位、見事にアンケート結果に合致していたが、果たして皆様はどうであろうか。
色彩のイメージにぶれがない事を実感するか、或いは、自らの特別な価値観を見出すか…どちらに転んでも楽しいに違いない。
私達の日常、行事、歴史、文化、趣味の全ては色彩なくしては決して語る事が出来ないが、その原点を探り当ててくれるのが本書。
様々な視点で色彩を読み解いた良書として、純粋な面白さは然る事ながら、得るものは計り知れない位に大きいと思う。

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色彩の魔力 単行本 – 2005/3/31
- 本の長さ243ページ
- 言語日本語
- 出版社明石書店
- 発売日2005/3/31
- ISBN-104750320889
- ISBN-13978-4750320885
登録情報
- 出版社 : 明石書店 (2005/3/31)
- 発売日 : 2005/3/31
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 243ページ
- ISBN-10 : 4750320889
- ISBN-13 : 978-4750320885
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