Amazonで購入させていただきました。
まず、題名が『宮澤賢治殺人事件』とあるため、ミステリかと思って買ってしまう方がいらっしゃるかもしれないので注意を喚起しておきたいと思います。
ぼくは批評家の大澤信亮(おおさわ・のぶあき)さんの『神的批評』(新潮社、2010)所収の「宮澤賢治の暴力」(新潮新人賞<評論部門>受賞作品)を読んでいたところ、本作に言及していたのであまり深く考えず「タイトルからしてミステリかなぁ」と思って買ったところ、批評作品でした。
著者は吉田司(よしだ・つかさ)さんです。
カバーそでによるなら「1945年、山形県生まれ。大学在学中に映画監督・小川紳介と小川プロを結成。『三里塚の夏』などを制作。1970年から水俣に住み、胎児性の水俣病患者らと「若衆宿」を組織する。87年にそれまでの水俣での体験をまとめた『下下戦記』を出版、翌年、大宅壮一ノンフィクション大賞受賞。(後略)」ということです。
本書の内容に入りたいと思います。
『宮澤賢治殺人事件』、タイトルどおり、「宮澤賢治についてまわる<聖人伝説>を粉砕する」という趣旨の批評本です。
吉田さんは最終章である「第八章 聖者伝説の時代」のなかでこのように述べています(ここが結論だと思われます)。
「そう、かつて賢治が花巻の封建的な<現実暗黒>と戦えなくて、空想のバーチャル王国を作ってその物語世界の中にたてこもったが、いま私たちは己れの現実暗黒に疲れ果て、かといって自前の夢想王国を作る力もない。賢治の<聖者伝説>を自分たちのバーチャル王国に作り変えたり、その代役に使ったりしているのだろう。つまり、いまやわれわれ自身が、あの時の<戦えない賢治>の位置にいる。そして賢治の清らかな物語から「わたくしたちは朝の光だってのめるのです」とさとされているのだ。あやされているのだ。ちょうどあの母親イチが幼い賢治に、/「ひとというものは、ひとのために何かしてあげるために生まれてきたのス」/とあやし続けた、あの子守唄のように。(中略)私たちは決して<賢治>ではない。賢治がこの世で生き難かった哀しみは愛するが、賢治のように子守唄に呪縛されたりはしないのだと。私たちはもう少し大人なのだと」(p.293-294)
いつもAmazonレビューは出来るだけ価値中立的に書くのですが、ことが星をいくつつけるかという問題につながるため、あえて個人的な感想も書きます。
まず、文体が独特です。以下に例を挙げます。
「三角島は、水俣湾に実在する恋路島に私がつけた名前だ。ちなみに水俣名物の白い砂糖のかかった饅頭「恋路」は、この島名からつけられたものだ(笑)」(p.187)
問題はこの最後の「(笑)」で、吉田さんが水俣病問題にコミットしていたことを踏まえて考えると、ぼくはすこしゾッとしました。
同じ系譜につながる文章が以下のものです。
「前出の石川啄木の年譜をもう一度繰って見るがいい。その母は「肺患」として死に、啄木とその妻は「肺結核」として死亡したことが、誰恥じることなく記されている。惨タンたる敗北だが、その敗北のなんと凛として屹立していることよ!」(p.167)
「惨タンたる敗北」とはどういったことでしょうか。なにか昨今の「勝ち組/負け組」を想起させる「いかにも不快である」(©️金井美恵子さん)ことばです。石川啄木が肺結核で死亡したことが「敗北」なのでしょうか。人生に勝ち負けなどないのではないでしょうか。
というわけで評価が難しい本です。
一方では、宮澤賢治の偶像破壊をした本がほかにはあまりない(あとは押野武志『童貞としての宮沢賢治』(ちくま新書、2003))ということ、もう一方は、その文体にゾッとしないところがある、ということ(全般的に見られる嘲笑的態度)。
そういうわけで評価は星4つとしました。
「宮澤賢治年譜」も「引用文献・参考文献」一覧もついていますし、「文庫本あとがき」を含めて317ページありますが、1日で読み終えられるほどリーダブルです。
複雑な心境ですが、宮澤賢治の偶像破壊が読みたい方にはオススメです。

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宮澤賢治殺人事件 (文春文庫 よ 12-2) 文庫 – 2002/1/1
吉田 司
(著)
無名の賢治売出しに関わった母を持つ著者が、デクノボーとしての賢治を再生させ、伝説化した賢治の亡霊を葬るスキャンダラスな論
- 本の長さ317ページ
- 言語日本語
- 出版社文藝春秋
- 発売日2002/1/1
- ISBN-104167341034
- ISBN-13978-4167341039
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登録情報
- 出版社 : 文藝春秋 (2002/1/1)
- 発売日 : 2002/1/1
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 317ページ
- ISBN-10 : 4167341034
- ISBN-13 : 978-4167341039
- Amazon 売れ筋ランキング: - 729,013位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 8,020位文春文庫
- - 92,940位ノンフィクション (本)
- - 119,794位文学・評論 (本)
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2019年10月23日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2015年4月11日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
「皆ニデクノボート呼バレ」てる私は、うっかり「静カニ笑ッテ」しまうところだった。あぁ、ヤバ・・・。
2007年5月2日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
私は宮沢賢治の作品が難しくって、どうしても理解できなかった
とても難しい哲学書みたいな深い意味をそこから読み取ろうとしたからだ
だって宮沢賢治って皆が絶賛しているではないか、いかようにも
読めるではないか・・・・だから私には計り知れない深い物語を書いた
理解すらできない賢者だって勝手に思い込んでいたんだ。
でも、この作品の中には作者なりに解釈した私でも理解できる宮沢賢治がいた
とても難しい哲学書みたいな深い意味をそこから読み取ろうとしたからだ
だって宮沢賢治って皆が絶賛しているではないか、いかようにも
読めるではないか・・・・だから私には計り知れない深い物語を書いた
理解すらできない賢者だって勝手に思い込んでいたんだ。
でも、この作品の中には作者なりに解釈した私でも理解できる宮沢賢治がいた
2008年3月14日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
賢治=聖人伝説を覆す問題作。
たぶん、これが本当の賢治像なんだろうね。
で、
この本を読んで、
賢治が嫌いになるか、
好きになるか。
僕はむしろ好きになったよ。
たぶん、これが本当の賢治像なんだろうね。
で、
この本を読んで、
賢治が嫌いになるか、
好きになるか。
僕はむしろ好きになったよ。
2012年7月18日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
著者・吉田司氏の視点には共感する部分が大きく、本書も期待して購入させて頂きました。
残念ながら文章がネチネチしていて、印象がとても悪い。 全編に渡り宮沢賢治への冷笑が続くのですが、読者は気持ちが重くなってしまうと思います。 著者ご自身もお認めのように、これは批評・批判ではなく<悪口>のレベルです。 なぜもう少しまともな文章を書けない(書かない)のでしょう。 賢治の『脱神話化』の試みは面白いと思うのですが、このかたちでは成功しない=一般人にはまともに取り合ってもらえないものと推測されます。
私の本籍は花巻なのですが、宮沢賢治は生きていた頃は地元では変人扱いであったことは祖父母の世代の方々より聞いています。 質屋のボンボンであることも周知の事実。 近代資本主義への移行の過程にて、「社会的使命を過剰に担うべく周囲からも期待され、自らもそう運命付ていった」、自らが地方財閥の御曹司として優遇されて生きていること、そしてそれに甘んじていることに対する苦悩。 賢治の諸作品が「遊民の文学」であることは一面の事実であり、なんら新しい指摘ではないと思います。
P. 105あたりに書かれてる、「宗教教育というか、洗脳が行き過ぎた結果」としての賢治の捉え方は斬新でした。 肺結核者への差別も今では想像がつかないほどに陰湿で根深いものであったことも読み取れます。 そして、賢治が国柱会のような狂信的日蓮主義集団に傾倒していたことをマイナスの文脈で容赦なく暴いていく著者の勇気は賞賛に値するのですが。。。
P. 222にある死の僅か10日前に教え子に出したという手紙の内容があまりに哀しい。 賢治は自らの文学が生み出した非現実の夢世界を全否定して死んでいかなければならなかったのですね。
『宗教ニッポン狂騒曲』は天皇制、そして創価学会などの大宗教団体との正面衝突ですので、あえて“狂人”的作風にし、身を守る必要があったのでしょう。 しかし、宮沢賢治程度の存在との対決に“狂人”のフリをしなければならない理由はないでしょう。 (本書でもP. 111ぐらいから天皇制、そして創価学会などについての記載がありますのであるいはこのあたりとの兼ね合いなのでしょうか。。。)
これからも世間一般でタブー視されている問題にたくさん挑んで頂きたいと思いますが、次回こそは良質な文章での批評を期待したいと思います。
***
人間はとかく「聖者」、そして「聖者伝説」を求めたがる。 特に日本人は他人が良いと言っているものを自分も良いと思えるようになりたい、良いと思わなければならないという一種の脅迫観念を持ち続けています。 宮沢賢治のようなほとんど無害な“聖者”は別にいくらいても問題はないでしょう。 (その存在に“救われた”と思えるひとがたくさんいるわけですし。) 問題は“万歳教”のような強制力を持った「聖者」が再び世の中を跋扈するようになった場合ではないでしょうか。
残念ながら文章がネチネチしていて、印象がとても悪い。 全編に渡り宮沢賢治への冷笑が続くのですが、読者は気持ちが重くなってしまうと思います。 著者ご自身もお認めのように、これは批評・批判ではなく<悪口>のレベルです。 なぜもう少しまともな文章を書けない(書かない)のでしょう。 賢治の『脱神話化』の試みは面白いと思うのですが、このかたちでは成功しない=一般人にはまともに取り合ってもらえないものと推測されます。
私の本籍は花巻なのですが、宮沢賢治は生きていた頃は地元では変人扱いであったことは祖父母の世代の方々より聞いています。 質屋のボンボンであることも周知の事実。 近代資本主義への移行の過程にて、「社会的使命を過剰に担うべく周囲からも期待され、自らもそう運命付ていった」、自らが地方財閥の御曹司として優遇されて生きていること、そしてそれに甘んじていることに対する苦悩。 賢治の諸作品が「遊民の文学」であることは一面の事実であり、なんら新しい指摘ではないと思います。
P. 105あたりに書かれてる、「宗教教育というか、洗脳が行き過ぎた結果」としての賢治の捉え方は斬新でした。 肺結核者への差別も今では想像がつかないほどに陰湿で根深いものであったことも読み取れます。 そして、賢治が国柱会のような狂信的日蓮主義集団に傾倒していたことをマイナスの文脈で容赦なく暴いていく著者の勇気は賞賛に値するのですが。。。
P. 222にある死の僅か10日前に教え子に出したという手紙の内容があまりに哀しい。 賢治は自らの文学が生み出した非現実の夢世界を全否定して死んでいかなければならなかったのですね。
『宗教ニッポン狂騒曲』は天皇制、そして創価学会などの大宗教団体との正面衝突ですので、あえて“狂人”的作風にし、身を守る必要があったのでしょう。 しかし、宮沢賢治程度の存在との対決に“狂人”のフリをしなければならない理由はないでしょう。 (本書でもP. 111ぐらいから天皇制、そして創価学会などについての記載がありますのであるいはこのあたりとの兼ね合いなのでしょうか。。。)
これからも世間一般でタブー視されている問題にたくさん挑んで頂きたいと思いますが、次回こそは良質な文章での批評を期待したいと思います。
***
人間はとかく「聖者」、そして「聖者伝説」を求めたがる。 特に日本人は他人が良いと言っているものを自分も良いと思えるようになりたい、良いと思わなければならないという一種の脅迫観念を持ち続けています。 宮沢賢治のようなほとんど無害な“聖者”は別にいくらいても問題はないでしょう。 (その存在に“救われた”と思えるひとがたくさんいるわけですし。) 問題は“万歳教”のような強制力を持った「聖者」が再び世の中を跋扈するようになった場合ではないでしょうか。
2004年10月30日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
「宮澤賢治殺人事件」は、ある意味ではこれまでの伝を覆す試みであった。生前に名前が出なかった賢治の著作をまとめ、売り出した一群の人々をかなり克明に追っている。なにせ著者の吉田司の母親がその一人であったというのだから、その著述は的確だ。著者の筆にかかると、賢治は結局「東京モダン」というスタイルを花巻にもってくる文化的な行商になってしまう。また、賢治にとっての鉄道の持つ意味が、作品の上からも経済的、家系的な問題からもかなり丹念に追われていた。私は、本書で初めて鉄道がモダンなものであったのだという感覚を得ることができた。賢治は、田舎に閉じ込められ、好きでもない家業につくことを強制され、自分は不遇だと思っていたに違いない。だが、質屋があこぎな商売だなんて後付の理屈にすぎない。賢治はただ商売に向いていなかった、それだけだ。そんな賢治が自分の力を発揮できたのは、幻想の中と鉄道で逃げ出した東京だけだったのだと、作者は主張している。
それでも、賢治が病弱な身体を引きずって信仰に生きようとした姿を私は評価したいし、ヴァーチャルランドの中でしか、自分の思いを遂げることが出来なかったにせよ、執念ともいえるエネルギーで賢治の書いた作品が、さまざまな過程を経て現代にいたるまで読みつがれていることは否定できない。行間に宮澤賢治の作品への愛が感じられるにもかかわらず、なぜ吉田司が偶像破壊を目指さなければならなかったのが、私には読み取れずにいる。
それでも、賢治が病弱な身体を引きずって信仰に生きようとした姿を私は評価したいし、ヴァーチャルランドの中でしか、自分の思いを遂げることが出来なかったにせよ、執念ともいえるエネルギーで賢治の書いた作品が、さまざまな過程を経て現代にいたるまで読みつがれていることは否定できない。行間に宮澤賢治の作品への愛が感じられるにもかかわらず、なぜ吉田司が偶像破壊を目指さなければならなかったのが、私には読み取れずにいる。
2013年11月10日に日本でレビュー済み
一読すっきり納得である
花を作り、楽器を演奏し、生徒に夢のような話を語る、ジブリの
映画にでも出てきそうな優雅な田舎暮らしを、なぜ農業学校の一教師が
送る事が出来たのか不思議に思っていた。
その謎解きをこの本はしてくれる。
賢治は、結局のところエエ所の坊ちゃんであり
定職を持たない親のスネ齧りのニートだったわけだ。
日本がもっと貧乏で「生活」がもっと切実だった戦前においては
そりゃあ無名だったのも無理はない。
日本が豊かになりニートが溢れかえる世の中になって、賢治は人気を得た。
やっと日本人の平均収入が賢治の生活に追いついたのだ。
ああロハスなスローライフ(笑)には金がかかるのだ。
豊かさって本当にいいものですね。
花を作り、楽器を演奏し、生徒に夢のような話を語る、ジブリの
映画にでも出てきそうな優雅な田舎暮らしを、なぜ農業学校の一教師が
送る事が出来たのか不思議に思っていた。
その謎解きをこの本はしてくれる。
賢治は、結局のところエエ所の坊ちゃんであり
定職を持たない親のスネ齧りのニートだったわけだ。
日本がもっと貧乏で「生活」がもっと切実だった戦前においては
そりゃあ無名だったのも無理はない。
日本が豊かになりニートが溢れかえる世の中になって、賢治は人気を得た。
やっと日本人の平均収入が賢治の生活に追いついたのだ。
ああロハスなスローライフ(笑)には金がかかるのだ。
豊かさって本当にいいものですね。
2021年3月15日に日本でレビュー済み
よくもまあ、直接自分は会ったこともない故人をここまで悪く言えるものだ。
自分の根深いコンプレックスを赤裸々にぶつける標的に賢治が使われている。
なぜ筆者のねちねちとした恨み言に読者が付き合わされなければならない?
自分の根深いコンプレックスを赤裸々にぶつける標的に賢治が使われている。
なぜ筆者のねちねちとした恨み言に読者が付き合わされなければならない?