今現在の若者たちよりも社会保障のうえでは恵まれていると考えられている高齢者の人たちの現状、また今の日本の社会の中でごく普通に生きる人達が、年齢を重ねた先に待ち受けるであろう悲惨な日本の現実が報告されています。
『ルポ 老人地獄』という題名は衝撃的ですが、思い返してみると私たちはこれまでも「まえがき」に書かれているような「受験地獄」、「通勤地獄」、「住宅ローン地獄」を経験してきました。そうした「地獄」をなんとか乗り越えてきたとしても、これから迎える「老人地獄」を乗り越えられるかどうは自信がありません。
章立ては次の通り。内容は章題あるいは見出しから予想される通り、暗澹たるものです。
「プロローグ 老人が報われぬ国」、「第1章 下層化する老人たち」、「第2章 カネなし家なし人手なし 八方ふさがりの老人介護」、「第3章 老人ビジネスに群がる社会福祉法人」、「第4章 医療・年金制度は崩壊している」、「第5章 老後の沙汰はカネ次第、でいいのか」、「あとがき 記者たちが目撃した現実」
格差が固定されつつある中で、人間の尊厳さえも金がなければ守れない国とは誰のものなのか、自分を含めて子供や身近な人たちが「地獄」に落ちないようにどう生きていけば良いのかなど、考えさせられる良書と言えます。年齢を問わず、多くの人に読んでいただきたい一冊です。

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ルポ 老人地獄 (文春新書 1056) 新書 – 2015/12/18
朝日新聞経済部
(著)
男女混合で雑魚寝、汚物の処理もせずノロウイルスも蔓延…。「ひもつきケアマネ」に食い物にされ、都内から都外の施設に追いやられる。こんな老後に誰がしたのか?硬骨の本格的社会派ルポ!
- 本の長さ255ページ
- 言語日本語
- 出版社文藝春秋
- 発売日2015/12/18
- ISBN-104166610562
- ISBN-13978-4166610563
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商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
絶望の老人社会を告発する、硬骨の社会派ノンフィクション!
川崎市の老人ホームで入居者が謎の連続転落死を遂げ、ヘルパーが老人を虐待する映像が公開されて世間に衝撃を与えた。
だが、これは氷山の一角に過ぎない。近い将来3人に1人が高齢者となる日本では、老人をめぐる状況が凄まじい勢いで悪化しているのだ。
たとえば……
・全国各地に「無届け老人ホーム」が増加。行政に届けを出さず、古い空き家を利用したホームが多い。男女混合で雑魚寝させる「お泊りデイ」施設も。排泄物の臭気が充満する不衛生な環境で、ノロウイルスが蔓延したり、転んでケガするケースが続出。それでも「安い料金」が魅力となり、入居させたい家族は後を絶たない。
・北海道には「老人下宿」なるものが増えている。狭い部屋が与えられ食事が出るが、経営者が逃げてしまい、入居者が突然放り出される例も。
・一方で、特別養護老人ホーム(特養)を経営する社会福祉法人のなかには、濡れ手で粟のボロ儲けをし、まさに「老人食い」で肥え太っているものもある。政治家の介在が見え隠れするケースも。
・個人の介護計画を立てるのはケアマネージャー(ケアマネ)。ところが、ケアマネが特定の施設にカネが落ちるよう誘導しているケースも多発。無意味に高い料金を払わされる老人が多い。
・未婚率の上昇とシングルマザーの増加により、低所得の独居高齢者は激増。年金をきちんと払っていても、年金基金が破綻し、実質無収入となる老人も増えている。
・国民健康保険が払えない老人たちも多い。だが、群馬県前橋市などの自治体は、低所得の老人からも無慈悲な「強制徴収」に踏み切っている。
……等々、枚挙に暇がない。
団塊世代が後期高齢者入りする2025年以降は、もっと悲惨な現実が待ち受けている。
はたしてわれわれは自分を守るためにどうすべきか? そのヒントが本書にある。
川崎市の老人ホームで入居者が謎の連続転落死を遂げ、ヘルパーが老人を虐待する映像が公開されて世間に衝撃を与えた。
だが、これは氷山の一角に過ぎない。近い将来3人に1人が高齢者となる日本では、老人をめぐる状況が凄まじい勢いで悪化しているのだ。
たとえば……
・全国各地に「無届け老人ホーム」が増加。行政に届けを出さず、古い空き家を利用したホームが多い。男女混合で雑魚寝させる「お泊りデイ」施設も。排泄物の臭気が充満する不衛生な環境で、ノロウイルスが蔓延したり、転んでケガするケースが続出。それでも「安い料金」が魅力となり、入居させたい家族は後を絶たない。
・北海道には「老人下宿」なるものが増えている。狭い部屋が与えられ食事が出るが、経営者が逃げてしまい、入居者が突然放り出される例も。
・一方で、特別養護老人ホーム(特養)を経営する社会福祉法人のなかには、濡れ手で粟のボロ儲けをし、まさに「老人食い」で肥え太っているものもある。政治家の介在が見え隠れするケースも。
・個人の介護計画を立てるのはケアマネージャー(ケアマネ)。ところが、ケアマネが特定の施設にカネが落ちるよう誘導しているケースも多発。無意味に高い料金を払わされる老人が多い。
・未婚率の上昇とシングルマザーの増加により、低所得の独居高齢者は激増。年金をきちんと払っていても、年金基金が破綻し、実質無収入となる老人も増えている。
・国民健康保険が払えない老人たちも多い。だが、群馬県前橋市などの自治体は、低所得の老人からも無慈悲な「強制徴収」に踏み切っている。
……等々、枚挙に暇がない。
団塊世代が後期高齢者入りする2025年以降は、もっと悲惨な現実が待ち受けている。
はたしてわれわれは自分を守るためにどうすべきか? そのヒントが本書にある。
登録情報
- 出版社 : 文藝春秋 (2015/12/18)
- 発売日 : 2015/12/18
- 言語 : 日本語
- 新書 : 255ページ
- ISBN-10 : 4166610562
- ISBN-13 : 978-4166610563
- Amazon 売れ筋ランキング: - 333,759位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 667位文春新書
- カスタマーレビュー:
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2015年12月27日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2023年7月22日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
本書は朝日新聞経済部の著。その朝日系著者のルポルタージュが、文春から出
版されるという、いささか首を傾げる形態になっている。朝日には朝日選書のあ
る、朝日新聞出版があるのだが、この「ねじれた」関係がどうにも気になった。
2015年出版で、はや8年(2023年現在)経っている。
この手のルポは、かなり取材を絞りやすく(つまりは「ネタ」となる事例が多く、
新聞や雑誌で何度も連載されている)、ややもすれば「貧困あるある話」、「こん
な悲惨なケースがある」と、騒ぎ立てるのは簡単で、その実内容がないルポが多
い。実際にAmazonを探れば、類似の安手のルポはごまんとある。
こんな不安を持ちながらページをめくった。
本書の基となるのは、朝日新聞の2014年から2015年まで連載された、
「報われぬ国 負担増の先に」である。取材の基本線は、「日本の社会保障など
の仕組みは、消費増税や公的保険の保険料値上げなどの負担増に見合うものであ
るか」にある。全5章で構成されている。
「普通の一軒家を使った施設に十人もの高齢者が詰め込まれるように寝起きして
いる」、「無届の有料老人ホームが倒産して、いきなり別の施設に移される」。そ
んな現実をあばく目的もある。
背景には「老後に安心して介護を受けられるかどうかは、カネ次第になりつつある」。その事実は重い。
取材の年、2014年には10年後に訪れる「2025年問題」が課題となっ
ていた。2025年にはいわゆる「団塊の世代」が、75才以上の後期高齢者と
なる問題である。そういえばかなり話題になっていた感があるが、最近のコロナ
禍で話題になることも少なくなった。問題が先送りにされているのだろう。
第1章では、介護施設の劣悪な状況を紹介している。デイサービスからお泊ま
りサービス、さらには長期宿泊へ。このデイサービスが、「厚生労働省が…小規
模事業者を優遇したという経緯がある…儲かるビジネスと言っていいだろう」と
ある。実際には2015年にこの優遇策は廃止されたのだが。
フランチャイズ方式による「日本介護福祉グループ」(2023年現在、68
5事業所、本書では約800と紹介されている)や、「日本介護事業」(事業所数
300)が代表的なビジネスモデルとなるだろう。
両事業者とも「開業の紹介」を麗々しくHPに載せ、「開業費用」や「資金回収」
と衒いもなく前面に押し出している。
生々しい「~年での資金回収」の文言もある。完全に「ビジネス」と割り切っ
て「事業を展開」していることがよく分かる。
その中で実名を出して紹介しているのが、「日本介護福祉グループ」の「茶話
本舗」。徹底したコストカットはそこで生活する高齢者の生活の質に直結するが、
これも基本は「いかに収益を出すか」。
職員の数もとにかく人件費抑制から判断する。「茶話本舗」の社長へのインタ
ビューもある。ビジネスという名の福祉事業への参入には、何ら問題がないと断
言する。「介護という名のサービスを提供する産業のひとつでいい」。ここにはむ
き出しの利潤獲得の意志しか見えない。
その他「無届け有料老人ホーム」について。
これは北海道まで取材に行っている。一戸建てを簡単に改修(そもそも改修すら
していない施設もある)して、そこを施設とする事例。規則の網をくぐる事業者
は後を絶たないようだ。居室の形態、広さ、スプリンクラー(これがまともに設
置していないままも多い)これらが決定的に劣悪。
どうにも気になって調べたが、 2018年1月札幌市の自立支援住宅の火災で、
11人が犠牲になるという、痛ましい事故があった。これは高齢者施設のこと。
取材の時点ではまだ事故は起きていない。これは「事故」なのだろうか、「事件」
ではないのか。
「高齢者3人が次々に転落死した」施設は「メッセージ」という有料老人ホーム。
調べると、現在は「SOMPOホールディングス」の傘下になっている。このど
こまでも「犯罪の臭いのする『事故』」では、「入所者への虐待が2013年度以
降で述べ81件あった」。
大規模アンケート(NPO法人によるもの)では、老健施設が21%、特養が20
%で虐待事例があると推測される。5つの事業所があれば1つは虐待があること
になる。
ケアマネージャーという介護される側の防波堤となる職もまた、事業者の都合
に合わせて「ひもつきケアマネ」となる例も紹介されている。
第2章は、老人を襲う高額医療費のこと。都道府県別のデータや実際に必要と
なる高額医療費の実態等、この点はさすが新聞の取材と、感心した。
「有料老人ホームは、介護保険外の費用に関する規制が比較的少ない。そのため
…過大な費用請求が横行しやすい。一方、特養や老健などは自治体から補助が出
るなど公的性格が強く…費用は多くはかからない」。そういう実態がある。
そのため、例示されているケースでは高額請求を知らずのうちに、「何でも高額
な料金」を請求している有料老人ホームは多い、という。
第3章。題名通りの「老人ビジネスに群がる社会福祉法人」について。
興味深いデータがある。厚労省の調査では、「全国の特養の『収支差率』(企業の
利益率に当たる)は8.7%と、中小企業の2.2%を大きく上回る」。
問題となった社会福祉法人は、わざと複雑な仕組みでサービスや必要労働力を下
請けに回すが、その「うまみ」がかなり大きい。
身内で経営陣を固めたり、高額な「随意契約」を繰り返して、とにかくカネの
収奪に血道を上げる。
特に「あそか会」(調べると今でも活動していた。かなり巨大な企業)のでたら
めぶりが酷い。
もっと目茶苦茶なのが、新潟の「心友会」。社長の交代で、前社長は「月収2
20万(22万ではない)、年収で3000万円」で「社員」として再雇用され
ている。無論これには捜査が入り、家宅捜索までおこなわれている。
まさに「甘い汁」に群がる経営陣一家であろう。
さらにでたらめぶりに拍車をかけるのが、社会福祉法人の理事長のポストが、
完全に利益対象として、売買の対象になっていること。それほど、カネの匂いが
するのだろう。
本書でなぜか実名を出してないのが、岡光序治は、厚労省(1996年)の事
務次官であったが、特養の建設に補助金を出す便宜をはかり、見返りに6000
万を受け取り、逮捕されている。戦後の汚職事件の中で、中央官庁の幹部が実刑
を受けたのは初めてだった。
岡光について。こんな事実があった。
2004年出所(懲役2年)。事件後2009年に、東京池袋に早稲田大学と組
んで野菜の産直会社を起業。自然尊厳死提唱のための社団法人「高齢問題研究会」
理事長。こんな人間が「尊厳死」を考えているらしい。高齢者をさっさと処分す
るつもりだろう。あな恐ろし。
地方も腐りきっている。青森の平川市では、市内の社会福祉法人「津軽やわら
ぎ」(今も活動していた)は、市議を買収したとして逮捕される。何と市議会の
四分の三の市議15にんが逮捕されている。
千葉、舟橋では市長の妻に補助金が6億円交付されていた。
中央官庁からの天下りも多い。全ては金、カネ、銭。
第4章。金のない人からさらに保険料をむしり取る行政。
いつでも行政は、金持ちには優しいが、金がない人には厳しい。その実態を読む
と身体が震えるほどの怒りを覚える。これが日本という国の現らしい。
静岡、浜松では「このままだちあなたの給料が! 家が! 車が! 差し押さえ
になります。今すぐ『滞納金』の納付を!!」。これは本当の公式文書として郵
送されてくる。
またも信じられない話。「生活反故で支給されたお金は、法律で差し押さえが
禁じられている。ところが、厚労省の保護課は『生活保護のやりくりは本人の判
断。自主的に滞納額を返すことまで禁じていない』」。この答弁、典型的な○○役
人の○○答弁だろう。
同様の事例はいくらでもある。国保の保険料や固定資産税の滞納分を期日まで
に払わなかったために、前橋市は差し押さえをちらつかせる。これは明らかに生
活保護で受け取ったお金を行政が違法に取り立てようとするもの。こういう場合
はいつも、法律違反と法律のプロ(弁護士、司法書士等)が抵抗した瞬間に、取
り立てを止める。悪意の小役人は、さっさといなくなってほしい。
第5章は、年金、社会保障の現状とその運用について。もうすぐ破綻するので
はないかと思われるほど、場当たり的、この部分は読み飛ばした。
「あとがき」では、本書が基本的には4人の記者によって取材がされた。経済部
ではあるが、記者クラブにも属したこともない記者が担当している。
なるほどそれで各行政機関への「忖度」もないわけだ。経済部では本書の他に、
リストラ部屋=「追い出し部屋」やマクドナルドで夜を過ごす、「マクド難民」
なども取材している。
またこの経済部のルポルタージュを読みたいと思う。読売はどうしても体制寄
りのイメージ(渡辺恒雄の影響が大きいか)があるが、かつて読売の「良心」と
して、大阪本社社会部のルポが、その視線の優しさで有名だった。それにひけを
とらないと思われる。
このレビューの冒頭で「嫌み」を書いたが、それは本書の帯に原因がある。
やたらと大きいフォントで、「老後はブラックだ!」、「自治体、業者、華族…あ
なたの老後を破滅させる無責任のトライアングル」。
随分と「扇情的」な惹句で、この手の公告がついた本で、ついぞまともな本の出
会ったことはなかった。
そのために冒頭の文章となる。
良い意味で裏切られ、ページをめくる手が止まらなかった。
できればこの惹句を外してもらえたらいいのだが。
文春新書も、ごく稀に良い本を出しますね。
版されるという、いささか首を傾げる形態になっている。朝日には朝日選書のあ
る、朝日新聞出版があるのだが、この「ねじれた」関係がどうにも気になった。
2015年出版で、はや8年(2023年現在)経っている。
この手のルポは、かなり取材を絞りやすく(つまりは「ネタ」となる事例が多く、
新聞や雑誌で何度も連載されている)、ややもすれば「貧困あるある話」、「こん
な悲惨なケースがある」と、騒ぎ立てるのは簡単で、その実内容がないルポが多
い。実際にAmazonを探れば、類似の安手のルポはごまんとある。
こんな不安を持ちながらページをめくった。
本書の基となるのは、朝日新聞の2014年から2015年まで連載された、
「報われぬ国 負担増の先に」である。取材の基本線は、「日本の社会保障など
の仕組みは、消費増税や公的保険の保険料値上げなどの負担増に見合うものであ
るか」にある。全5章で構成されている。
「普通の一軒家を使った施設に十人もの高齢者が詰め込まれるように寝起きして
いる」、「無届の有料老人ホームが倒産して、いきなり別の施設に移される」。そ
んな現実をあばく目的もある。
背景には「老後に安心して介護を受けられるかどうかは、カネ次第になりつつある」。その事実は重い。
取材の年、2014年には10年後に訪れる「2025年問題」が課題となっ
ていた。2025年にはいわゆる「団塊の世代」が、75才以上の後期高齢者と
なる問題である。そういえばかなり話題になっていた感があるが、最近のコロナ
禍で話題になることも少なくなった。問題が先送りにされているのだろう。
第1章では、介護施設の劣悪な状況を紹介している。デイサービスからお泊ま
りサービス、さらには長期宿泊へ。このデイサービスが、「厚生労働省が…小規
模事業者を優遇したという経緯がある…儲かるビジネスと言っていいだろう」と
ある。実際には2015年にこの優遇策は廃止されたのだが。
フランチャイズ方式による「日本介護福祉グループ」(2023年現在、68
5事業所、本書では約800と紹介されている)や、「日本介護事業」(事業所数
300)が代表的なビジネスモデルとなるだろう。
両事業者とも「開業の紹介」を麗々しくHPに載せ、「開業費用」や「資金回収」
と衒いもなく前面に押し出している。
生々しい「~年での資金回収」の文言もある。完全に「ビジネス」と割り切っ
て「事業を展開」していることがよく分かる。
その中で実名を出して紹介しているのが、「日本介護福祉グループ」の「茶話
本舗」。徹底したコストカットはそこで生活する高齢者の生活の質に直結するが、
これも基本は「いかに収益を出すか」。
職員の数もとにかく人件費抑制から判断する。「茶話本舗」の社長へのインタ
ビューもある。ビジネスという名の福祉事業への参入には、何ら問題がないと断
言する。「介護という名のサービスを提供する産業のひとつでいい」。ここにはむ
き出しの利潤獲得の意志しか見えない。
その他「無届け有料老人ホーム」について。
これは北海道まで取材に行っている。一戸建てを簡単に改修(そもそも改修すら
していない施設もある)して、そこを施設とする事例。規則の網をくぐる事業者
は後を絶たないようだ。居室の形態、広さ、スプリンクラー(これがまともに設
置していないままも多い)これらが決定的に劣悪。
どうにも気になって調べたが、 2018年1月札幌市の自立支援住宅の火災で、
11人が犠牲になるという、痛ましい事故があった。これは高齢者施設のこと。
取材の時点ではまだ事故は起きていない。これは「事故」なのだろうか、「事件」
ではないのか。
「高齢者3人が次々に転落死した」施設は「メッセージ」という有料老人ホーム。
調べると、現在は「SOMPOホールディングス」の傘下になっている。このど
こまでも「犯罪の臭いのする『事故』」では、「入所者への虐待が2013年度以
降で述べ81件あった」。
大規模アンケート(NPO法人によるもの)では、老健施設が21%、特養が20
%で虐待事例があると推測される。5つの事業所があれば1つは虐待があること
になる。
ケアマネージャーという介護される側の防波堤となる職もまた、事業者の都合
に合わせて「ひもつきケアマネ」となる例も紹介されている。
第2章は、老人を襲う高額医療費のこと。都道府県別のデータや実際に必要と
なる高額医療費の実態等、この点はさすが新聞の取材と、感心した。
「有料老人ホームは、介護保険外の費用に関する規制が比較的少ない。そのため
…過大な費用請求が横行しやすい。一方、特養や老健などは自治体から補助が出
るなど公的性格が強く…費用は多くはかからない」。そういう実態がある。
そのため、例示されているケースでは高額請求を知らずのうちに、「何でも高額
な料金」を請求している有料老人ホームは多い、という。
第3章。題名通りの「老人ビジネスに群がる社会福祉法人」について。
興味深いデータがある。厚労省の調査では、「全国の特養の『収支差率』(企業の
利益率に当たる)は8.7%と、中小企業の2.2%を大きく上回る」。
問題となった社会福祉法人は、わざと複雑な仕組みでサービスや必要労働力を下
請けに回すが、その「うまみ」がかなり大きい。
身内で経営陣を固めたり、高額な「随意契約」を繰り返して、とにかくカネの
収奪に血道を上げる。
特に「あそか会」(調べると今でも活動していた。かなり巨大な企業)のでたら
めぶりが酷い。
もっと目茶苦茶なのが、新潟の「心友会」。社長の交代で、前社長は「月収2
20万(22万ではない)、年収で3000万円」で「社員」として再雇用され
ている。無論これには捜査が入り、家宅捜索までおこなわれている。
まさに「甘い汁」に群がる経営陣一家であろう。
さらにでたらめぶりに拍車をかけるのが、社会福祉法人の理事長のポストが、
完全に利益対象として、売買の対象になっていること。それほど、カネの匂いが
するのだろう。
本書でなぜか実名を出してないのが、岡光序治は、厚労省(1996年)の事
務次官であったが、特養の建設に補助金を出す便宜をはかり、見返りに6000
万を受け取り、逮捕されている。戦後の汚職事件の中で、中央官庁の幹部が実刑
を受けたのは初めてだった。
岡光について。こんな事実があった。
2004年出所(懲役2年)。事件後2009年に、東京池袋に早稲田大学と組
んで野菜の産直会社を起業。自然尊厳死提唱のための社団法人「高齢問題研究会」
理事長。こんな人間が「尊厳死」を考えているらしい。高齢者をさっさと処分す
るつもりだろう。あな恐ろし。
地方も腐りきっている。青森の平川市では、市内の社会福祉法人「津軽やわら
ぎ」(今も活動していた)は、市議を買収したとして逮捕される。何と市議会の
四分の三の市議15にんが逮捕されている。
千葉、舟橋では市長の妻に補助金が6億円交付されていた。
中央官庁からの天下りも多い。全ては金、カネ、銭。
第4章。金のない人からさらに保険料をむしり取る行政。
いつでも行政は、金持ちには優しいが、金がない人には厳しい。その実態を読む
と身体が震えるほどの怒りを覚える。これが日本という国の現らしい。
静岡、浜松では「このままだちあなたの給料が! 家が! 車が! 差し押さえ
になります。今すぐ『滞納金』の納付を!!」。これは本当の公式文書として郵
送されてくる。
またも信じられない話。「生活反故で支給されたお金は、法律で差し押さえが
禁じられている。ところが、厚労省の保護課は『生活保護のやりくりは本人の判
断。自主的に滞納額を返すことまで禁じていない』」。この答弁、典型的な○○役
人の○○答弁だろう。
同様の事例はいくらでもある。国保の保険料や固定資産税の滞納分を期日まで
に払わなかったために、前橋市は差し押さえをちらつかせる。これは明らかに生
活保護で受け取ったお金を行政が違法に取り立てようとするもの。こういう場合
はいつも、法律違反と法律のプロ(弁護士、司法書士等)が抵抗した瞬間に、取
り立てを止める。悪意の小役人は、さっさといなくなってほしい。
第5章は、年金、社会保障の現状とその運用について。もうすぐ破綻するので
はないかと思われるほど、場当たり的、この部分は読み飛ばした。
「あとがき」では、本書が基本的には4人の記者によって取材がされた。経済部
ではあるが、記者クラブにも属したこともない記者が担当している。
なるほどそれで各行政機関への「忖度」もないわけだ。経済部では本書の他に、
リストラ部屋=「追い出し部屋」やマクドナルドで夜を過ごす、「マクド難民」
なども取材している。
またこの経済部のルポルタージュを読みたいと思う。読売はどうしても体制寄
りのイメージ(渡辺恒雄の影響が大きいか)があるが、かつて読売の「良心」と
して、大阪本社社会部のルポが、その視線の優しさで有名だった。それにひけを
とらないと思われる。
このレビューの冒頭で「嫌み」を書いたが、それは本書の帯に原因がある。
やたらと大きいフォントで、「老後はブラックだ!」、「自治体、業者、華族…あ
なたの老後を破滅させる無責任のトライアングル」。
随分と「扇情的」な惹句で、この手の公告がついた本で、ついぞまともな本の出
会ったことはなかった。
そのために冒頭の文章となる。
良い意味で裏切られ、ページをめくる手が止まらなかった。
できればこの惹句を外してもらえたらいいのだが。
文春新書も、ごく稀に良い本を出しますね。
2016年1月21日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
【概要】
(分野)介護、生活保護、行政
(頁数)前書&目次14頁 + 本文236頁 + 後書16頁
(出版日)2015/12/18
本書は、朝日新聞で2014年1月から2015年3月まで連載された「報われぬ国」を元に執筆されています。
本書のテーマは「老後の貧困」と「介護(行政)の不備」が織り成す、蓄えの少ない高齢者に訪れるかもしれない悲惨な現状を、様々な取材を元に描いたものです。本書は、激安老人ホームの劣悪な環境の描写を皮切りに、それが改善されない背景を、高齢者の貧困や、家族の負担、行政の不備といった側面から追求して行きます。
本書の前半は、介護を受ける高齢者、逆に介護を行うヘルパーや、ケアマネージャーの抱える問題など、個々人に着目した記述が多いですが、後半は、社会福祉法人や介護行政、年金行政にまつわる様々な“歪み”について追究しています。特に社会福祉法人については、「儲かる業界」としてビジネス注目される一方、認可を求めて政治家との癒着、同族経営による利益の独占などが描かれています。
※本書の元となった連載「報われぬ国」に関する誤報について
現状の行政に対する問題提起を主題とする本書ですが、非常に不適切なのは、本書の元となった連載「報われぬ国」における2014年5月26日朝刊での誤報について本書で全く触れられていない点です。
誤報の内容は社会福祉法人「ひまわりの会」の理事長が「社福法人を私物化」し、「親族会社から備品を購入」、更には理事長が「寄付された土地を理事長が独断で売却した」ことで不当な利益を得るなど、理事長一族が私腹を肥やしているという内容です。しかし、実際は事実無根であり、朝日新聞社は「ひまわりの会」から名誉棄損で訴訟を受けており、東京地裁から名誉棄損を認定され、2015年4月16日に和解が成立しています。
当の「ひまわりの会」は、本報道がテレビ番組「ひるおび」で取り上げられたこともあり、誤解によって多くの寄付が撤回され、経営が悪化して財政的な打撃を受けました。
本書では、そうした誤報に対し、記者らの与えた損害について謝罪が一切ありませんでした。逆に、後書きでは、自分たちがいかに取材で苦労し、裏付けがしっかり取れないあまりに書ききれないことが多かったぐらいだと自分たちの努力を称えているくらいです。
「社会の公器」として、朝日新聞社のこうした姿勢は強く批判されるべきだと思います。
(分野)介護、生活保護、行政
(頁数)前書&目次14頁 + 本文236頁 + 後書16頁
(出版日)2015/12/18
本書は、朝日新聞で2014年1月から2015年3月まで連載された「報われぬ国」を元に執筆されています。
本書のテーマは「老後の貧困」と「介護(行政)の不備」が織り成す、蓄えの少ない高齢者に訪れるかもしれない悲惨な現状を、様々な取材を元に描いたものです。本書は、激安老人ホームの劣悪な環境の描写を皮切りに、それが改善されない背景を、高齢者の貧困や、家族の負担、行政の不備といった側面から追求して行きます。
本書の前半は、介護を受ける高齢者、逆に介護を行うヘルパーや、ケアマネージャーの抱える問題など、個々人に着目した記述が多いですが、後半は、社会福祉法人や介護行政、年金行政にまつわる様々な“歪み”について追究しています。特に社会福祉法人については、「儲かる業界」としてビジネス注目される一方、認可を求めて政治家との癒着、同族経営による利益の独占などが描かれています。
※本書の元となった連載「報われぬ国」に関する誤報について
現状の行政に対する問題提起を主題とする本書ですが、非常に不適切なのは、本書の元となった連載「報われぬ国」における2014年5月26日朝刊での誤報について本書で全く触れられていない点です。
誤報の内容は社会福祉法人「ひまわりの会」の理事長が「社福法人を私物化」し、「親族会社から備品を購入」、更には理事長が「寄付された土地を理事長が独断で売却した」ことで不当な利益を得るなど、理事長一族が私腹を肥やしているという内容です。しかし、実際は事実無根であり、朝日新聞社は「ひまわりの会」から名誉棄損で訴訟を受けており、東京地裁から名誉棄損を認定され、2015年4月16日に和解が成立しています。
当の「ひまわりの会」は、本報道がテレビ番組「ひるおび」で取り上げられたこともあり、誤解によって多くの寄付が撤回され、経営が悪化して財政的な打撃を受けました。
本書では、そうした誤報に対し、記者らの与えた損害について謝罪が一切ありませんでした。逆に、後書きでは、自分たちがいかに取材で苦労し、裏付けがしっかり取れないあまりに書ききれないことが多かったぐらいだと自分たちの努力を称えているくらいです。
「社会の公器」として、朝日新聞社のこうした姿勢は強く批判されるべきだと思います。
2016年1月12日に日本でレビュー済み
本書の下敷きになっている朝日新聞の連載「報われぬ国」は、社会福祉法人を巡る記事に重大な事実誤認があったとして法人側が名誉毀損訴訟を起こし、朝日新聞がおわびを出している。
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対象の記事以外にも雑な取材、強引な論理展開の記事が多く、朝日新聞に特有の結論ありきの姿勢が感じられた。高齢化社会のさまざまな過大を意欲的に取り上げた点は評価できるが、前述のような問題があることも加味して読まなければならないだろう。
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対象の記事以外にも雑な取材、強引な論理展開の記事が多く、朝日新聞に特有の結論ありきの姿勢が感じられた。高齢化社会のさまざまな過大を意欲的に取り上げた点は評価できるが、前述のような問題があることも加味して読まなければならないだろう。
2019年7月17日に日本でレビュー済み
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だいたい予想はしてました。新聞や雑誌に載ってる内容ですね。
2016年3月14日に日本でレビュー済み
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若い人も、同年代もどうかこの本を読んで頂きたい。
日本昔話の姥捨て山よりひどい、現代の老人に対する仕打ちではないか?
国を思い、思わなくてもそれぞれの職場で国に尽くしてきた人ばかりと思うが、
介護施設などは単なる老人の捨て場にしか思えない現実を正しく理解して、
また、お年寄りを抱える家族の負担など真剣に理解して欲しい。また今こそ
政治を変える必要があると気づいて頂きたい。
朝日の職員が書いたから偏見とするのはいかがなものか?
日本昔話の姥捨て山よりひどい、現代の老人に対する仕打ちではないか?
国を思い、思わなくてもそれぞれの職場で国に尽くしてきた人ばかりと思うが、
介護施設などは単なる老人の捨て場にしか思えない現実を正しく理解して、
また、お年寄りを抱える家族の負担など真剣に理解して欲しい。また今こそ
政治を変える必要があると気づいて頂きたい。
朝日の職員が書いたから偏見とするのはいかがなものか?
2021年5月12日に日本でレビュー済み
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以前働いていた施設が本に書かれていることそのものでした。
2016年1月31日に日本でレビュー済み
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真面目な視点で書かれていると思います。介護保険は、徹底して業者の情報開示によって、賢い選択がなされて、安価で質の高いサービスを提供できるという趣旨で始まりましたが、ここでも見られるように、本来の趣旨ではなく、嘘の多いバラ色パンフと、病院などのバックマージンつきの紹介など、不足を理由におかしい状況です。今度は賢い消費者になれるように、ここに書かれているような悪徳業者にかからないような視点での続編を期待します。