6月24日に、英国での国民投票結果をニュースで聞きましたが、国際情勢に疎い私には正直ピンと来ませんでした。そのため、本書を読んで勉強しようと考え、購入致しました。一読致しましたが、様々な時期の様々な立場の人々の言葉が紹介されており、非常に興味深く読み進めることができました。
例えば、1991年に当時のメージャー首相が言った「欧州統合に反対する多くの人は自分たちが議論で必ず負けると考えているが、これは敗北主義で間違いだ。われわれは随分昔に、大海での泳ぎ方を身につけている」(44頁)という言葉などは、非常に興味深く感じられたものでした。本書のご一読をお薦め致します。
ところで、私は本書と今話題になっているリスボン条約第50条(ご参考までに全文転載致します)を読んでみて、改めて今回の英国によるEU離脱問題を考えてしまいましたが、それを以下に記してしまいます。
今回の国民投票結果によって発生した大きな変化は、英国政府が「残留」と完全な「離脱」の間の様々な選択肢の中からEUとの関係を選択できるようになったことであると思います。そう考える理由を以下に記します。
・今回の国民投票の結果は明確な「離脱」でした。しかしながら、国民投票の結果がどうであれ、英国政府が動かないことには「離脱」はできないものだと思います。
・英国政府は、EUから離脱するフリをしながらEUに残留するということが民意を最大限反映させた政策であると、誰が首相になったとしても、考えるに至ると思います。つまり、「そば屋の出前」ではありませんが、「今、離脱のための手続きと調整を精一杯進めています」と英国政府が内外に言い続けながら、実際には英国がEUに残留または残留に近い立場に居続けること。これが英国民の民意を最大限反映させた政策であると考えるに至ると思うのです。なぜなら、英国民が離脱派と残留派に半分ずつ分かれているという現実があるからです。そして、その「離脱」のために必要な手続きなどというものは、減らすことは大変ですが増やすことはいくらでもできると思いますし、反対派が多い場合には、必要な調整というものはいくらでも存在すると思います。したがって、英国政府は、それらの手続きや調整が原因でなかなか「離脱」まで持って行けないということにしてしまうのだと思います。
・具体的にリスボン条約第50条を見ながら考えると、例えば、多くの手続きと調整が必要だという理由から、そもそもEuropean Councilに「離脱」のintentionをnotifyしようにも、なかなかできないということにしてしまうことがあり得ると思います。
・他にも、英国政府が、多くの手続きと調整が必要だという理由から、限りなく「残留」に近いframeworkを前提に、withdrawal agreementを結ばざるをえないということにしてしまうことが考えられます。第3項によると、withdrawal agreementがfailingされた場合でも、「離脱」のnotificationから2年後には、The Treatiesのthe State in questionへの適用がceaseされてしまうことになります。しかし、withdrawal agreementが無いままに「離脱」に突入という事態は、英国にとってもEUにとっても相当にキツイ事態なので、いかにも無さそうなシナリオです。したがって、英国政府だけでなくEUも、とりあえずはwithdrawal agreementを結ぼうと考えることになると思います。そして、それを結ぶ時には、英国政府は多くの手続きと調整が必要だという理由から、限りなく「残留」に近いframeworkを前提に、withdrawal agreementを結ばざるをえないということにしてしまうことが考えられます。
・その他にも、英国政府が、多くの手続きと調整が必要だという理由から期限の延長を主張し、European Councilが折れてunanimously decidesするに至り、期限が2年後から延長されることもあり得ると思います。というのも、そもそも第50条に基づいた「離脱」の実績が今に至るまで無く、2年後という期限の妥当性に説得力が乏しいからです(European Councilが、結局unanimously decidesしないまま、期限が2年後から延長されることも、あるにはあるかもしれませんが、その場合は、それこそ「EU崩壊」に直結してしまうことになると思います)。
・この様にして、英国政府は、今後「離脱」に向かって進んでいるフリを内外に見せながら、長い時間を掛けて、「残留」と完全な「離脱」の間にある様々な選択肢を模索し選択していくことになるのだと思いますが、英国政府の立ち位置がこの様になったことは一つの大きな変化であると思います。なぜなら、見方によっては、今までは「残留」という一つの選択肢しか持っていなかった英国政府が、多くの選択肢を持つに至ったと見えるからです。
この様な理由から、今回の国民投票結果によって発生した大きな変化は、英国政府が「残留」と完全な「離脱」の間の様々な選択肢の中からEUとの関係を選択できるようになったことであると思いました。
そして、私たちは、英国政府がこの大きな変化を通じてEUとどの様な関係を今後築いていくのかに注意する必要があるのだと思います。これは、今回の国民投票の結果、英国がEUから完全に「離脱」して行くだろうとは思わない方が良いということでもあると思います。なぜなら、いつか実際に「残留」と「離脱」の間のいずれかの選択肢を英国が選択した時に、「離脱」ではなかったという理由から全てがサプライズになってしまいかねないからです。
更には、本書40頁に記載されている、オランダの社会学者ホフステードの研究に基づいた「『ドイツとフランスの結婚』は『イギリスを加えた三角関係』の中でこそ『
完全なる結婚
』に近づく」という視点に立って、この大きな変化を見た場合、「ドイツとフランスの結婚」の行方がどの様なものになるのかにも注意する必要があるということになります。なぜなら、今後イギリスが「残留」と「離脱」の間のどの様な選択肢を選択したとしても、「イギリスを加えた三角関係」は変化していくことになるためです。
本書を読んでこの様なことを考えましたが、本書からは英国のEUからの離脱問題を考えるためのヒントを得ることができると思います。本書とリスボン条約第50条のご一読をお薦め致します。
Treaty of Lisbon
Article 50
1. Any Member State may decide to withdraw from the Union in accordance with its own constitutional requirements.
2. A Member State which decides to withdraw shall notify the European Council of its intention. In the light of the guidelines provided by the European Council, the Union shall negotiate and conclude an agreement with that State, setting out the arrangements for its withdrawal, taking account of the framework for its future relationship with the Union. That agreement shall be negotiated in accordance with Article 218(3) of the Treaty on the Functioning of the European Union. It shall be concluded on behalf of the Union by the Council, acting by a qualified majority, after obtaining the consent of the European Parliament.
3. The Treaties shall cease to apply to the State in question from the date of entry into force of the withdrawal agreement or, failing that, two years after the notification referred to in paragraph 2, unless the European Council, in agreement with the Member State concerned, unanimously decides to extend this period.
4. For the purposes of paragraphs 2 and 3, the member of the European Council or of the Council representing the withdrawing Member State shall not participate in the discussions of the European Council or Council or in decisions concerning it.
A qualified majority shall be defined in accordance with Article 238(3)(b) of the Treaty on the Functioning of the European Union.
5. If a State which has withdrawn from the Union asks to rejoin, its request shall be subject to the procedure referred to in Article 49.

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EU崩壊 (新潮新書 544) 新書 – 2013/11/16
木村 正人
(著)
国家エゴ、隠れ債務、移民排斥……混迷の果てに――。度重なる債務危機と繰り返される首脳のドタバタ劇。「大欧州」という理想はもはや崩壊の途に……その混乱の本質を探る現地最新レポート。ビル・エモット氏推薦!
- 本の長さ191ページ
- 言語日本語
- 出版社新潮社
- 発売日2013/11/16
- ISBN-104106105446
- ISBN-13978-4106105449
登録情報
- 出版社 : 新潮社 (2013/11/16)
- 発売日 : 2013/11/16
- 言語 : 日本語
- 新書 : 191ページ
- ISBN-10 : 4106105446
- ISBN-13 : 978-4106105449
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,164,191位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 1,745位新潮新書
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2016年7月2日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2016年3月4日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
ギリシャに端を発した欧州の経済危機。
一見難しそうなテーマだけども、
分かりやすく説明していて読みやすい。
ヨーロッパの大国であるドイツやフランスの長年の関係やイギリス、
小国についても記述があって幅広く網羅している。
EUという日本と切っても切れない関係なだけに
できるだけ影響は小さく問題を解決して欲しいが
今のままでは難しいのかなというのが読んでみた感想。
一見難しそうなテーマだけども、
分かりやすく説明していて読みやすい。
ヨーロッパの大国であるドイツやフランスの長年の関係やイギリス、
小国についても記述があって幅広く網羅している。
EUという日本と切っても切れない関係なだけに
できるだけ影響は小さく問題を解決して欲しいが
今のままでは難しいのかなというのが読んでみた感想。
2017年3月24日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
筆者は産経新聞ロンドン支局長時代を含め6年間ロンドンに住み、現在は、フリーのジャーナリスト。 あくまでジャーナリストの視点で、経済学者の視点ではない。 従って、統一通貨の下、異なった経済状況にある国が、一つの金融政策(金利)でくくられている矛盾、その帰結としてのギリシアを発端とする、南欧諸国の財政危機の要因については、理論だって説明されているものではない。 その代わり、各国の政党、政治家については比較的細かく書かれている。
ジャーナリストの見る、EUの危機、という積りで読む書。
ジャーナリストの見る、EUの危機、という積りで読む書。
2016年7月19日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
地政学の初心者です。英国のEU離脱ニュースを理解するために、「そもそもEUって何のために、どうやってできたの?」を学びたくて買いました。
目的は達成できました。
もちろん、知らない言葉も多いですし、政治に疎いために登場人物に混乱することもありました。
しかし、EU成立時の歴史的、経済的な背景から、現代の、例えばギリシャ経済の問題などに繋げて、本質的な一本の説明が成されることで、まずは趣旨を理解することができました。加えて「その時、他の国では」的な別観点からの説明があるため、欧州各国がどのような思惑で動いていたかを感じとることができました。
結果として、どのような思惑でEUが始まり、どのようなリスクを含んで、絶妙な道を進んでいるか、また北と南の各国がどのような性格の違いがあるのか、という、これからのニュースを理解するのに必要な知識は身についた気がします。
オススメです。
目的は達成できました。
もちろん、知らない言葉も多いですし、政治に疎いために登場人物に混乱することもありました。
しかし、EU成立時の歴史的、経済的な背景から、現代の、例えばギリシャ経済の問題などに繋げて、本質的な一本の説明が成されることで、まずは趣旨を理解することができました。加えて「その時、他の国では」的な別観点からの説明があるため、欧州各国がどのような思惑で動いていたかを感じとることができました。
結果として、どのような思惑でEUが始まり、どのようなリスクを含んで、絶妙な道を進んでいるか、また北と南の各国がどのような性格の違いがあるのか、という、これからのニュースを理解するのに必要な知識は身についた気がします。
オススメです。
2015年9月7日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
EUとユーロの違いもよく分かっていなかった経済学の門外漢には、ちょっと難しいところがあったが、最後まで読むのが苦痛と言うほどではなかった。EUと言うのは、どうもヨーロッパ全体でアメリカのような「合衆国」を作ろうとして、まづは経済システムから取り掛かり、その共通通貨として「ユーロ」を位置づけ、最終的には財政から政治まで統合しようと言う壮大な実験を試みているらしいことは何となく分かった気がした。しかし、同じEU 域内の国でも、ドイツなどの北の国と、ギリシア、イタリア、スペインなどの南の国とで、国民気質の違いに基づく様々な不協和音が生じ、混乱しかかっているのも分かった。かくのごとく、この問題は、とても複雑で、簡単には理解できない面もあり、したがって、迫っている危機を回避するのは簡単ではないこともよく分かったが、鍵は何といっても盟主ドイツであり、ドイツが頑張らなければこの実験は不成功に終わりそうな気配であり、そのきっかけとなりそうなのが、ギリシャとか、イタリア、スペインなどで起きている経済問題であるということである。要は、働き者のアリである北の国代表のドイツが怠け者のキリギリスのようなギリシアなどの南の国を助け続けることにより、何とか今まで維持してきたEUの体制であるが、ここへ来てさすがの働き者のアリももうキリギリスのために働き続けるのは嫌だと言い出してこのシステムから抜けると言い出しているという状況と読めた。確かにドイツ人の気持ちも分からないではないし、本来、何故ドイツが怠け者を助け続けなければならないかと言う「理屈」はないかもしれない。しかし、理屈はともあれ、EUの外部にいる日本としては、ドイツには何が何でも頑張ってもらわないと困ると言うのが率直な感想である。なぜならば、EUが崩壊したらまたまた世界経済には甚大な悪影響が広がり、世界同時不況が起こるに決まっているからである。また、本書の説明が悪いのか読者の頭が悪いのか、その辺の機序はよく分からなかった(そのような箇所は本書の中に少なからずあった。筆者には頭の悪い読者もいるかもしれないと考え、必要な対応をとっとて雄いて欲しかった)が本書などによるとユーロと言う通貨体制で、最も大きな恩恵を受けたのはドイツであるとのことであり、今では殆どドイツのひとり勝ち状態だそうである。そうであれば、ドイツには簡単に抜けてもらっては困るし、最後の最後まで責任を取ってもらわなければならにとの意を強くした次第である。
2019年3月19日に日本でレビュー済み
反日は容認するくせに、韓国人へのヘイト、経済制裁などは否定します。在日〇〇人でしょうか。
2013年12月30日に日本でレビュー済み
著者は、もと産経新聞ロンドン支局長で、現在は国際ジャーナリストの人です。
本書は、その著者がEU構成国ごとの状況を記述することで、混迷するEUの状況をレポートした本です。
(a) ドイツ、フランス、イギリスという主要3国はそれぞれの思惑・立場があって協調できていないこと、(b) ユーロ危機の震源地であるギリシャの指導者・国民のドイツ等に対する複雑な気持ち、(c) 欧州中央銀行のスタンスの推移、(d) EUはドイツ・北欧を中心とした財政規律がとれている国とそれができていない南欧の国々で2極分化しつつあることなど、現在のEU危機・ユーロ危機の主要部分を記述しています。そしてさらに、ロシアとキプロスやバルト三国との関係、ハンガリー、デンマークなどまで記述が及んでいます。
本書を読むと、通貨を統合している一方で財政を国家主権のもとに置く現在のEU、ユーロの難しさが伝わってきます。EU・ユーロの将来の危うさが理解できて、とても参考になる本です。
ただ、本書は、国家間の通貨・政治に関するレポートであり、(特に私のようなこの分野の知識の乏しい人にとっては)知らない政治家の名前が何人も出てきたり、理解するのが難しい部分もあり、スラスラ読める本ではありません。読むのに根気が必要な本でした。
その面で、もう少していねいな、わかりやすい説明があればもっとよかったかもしれません。
本書は、その著者がEU構成国ごとの状況を記述することで、混迷するEUの状況をレポートした本です。
(a) ドイツ、フランス、イギリスという主要3国はそれぞれの思惑・立場があって協調できていないこと、(b) ユーロ危機の震源地であるギリシャの指導者・国民のドイツ等に対する複雑な気持ち、(c) 欧州中央銀行のスタンスの推移、(d) EUはドイツ・北欧を中心とした財政規律がとれている国とそれができていない南欧の国々で2極分化しつつあることなど、現在のEU危機・ユーロ危機の主要部分を記述しています。そしてさらに、ロシアとキプロスやバルト三国との関係、ハンガリー、デンマークなどまで記述が及んでいます。
本書を読むと、通貨を統合している一方で財政を国家主権のもとに置く現在のEU、ユーロの難しさが伝わってきます。EU・ユーロの将来の危うさが理解できて、とても参考になる本です。
ただ、本書は、国家間の通貨・政治に関するレポートであり、(特に私のようなこの分野の知識の乏しい人にとっては)知らない政治家の名前が何人も出てきたり、理解するのが難しい部分もあり、スラスラ読める本ではありません。読むのに根気が必要な本でした。
その面で、もう少していねいな、わかりやすい説明があればもっとよかったかもしれません。
2016年7月8日に日本でレビュー済み
英国のEU離脱を聞いてから、これからのEUがどうなるのかを知りたかったので読み始めましたが、このままではやはりEUは崩壊していくのではと考えてしまします。それだけで終わればいいのですが、段々戦いの足音が聞こえてきそうで嫌な感じです。