「謝罪と賠償」というと、中国・韓国との歴史問題がまず頭に思い浮かぶ。
しかし、過去に対する賠償請求という問題は、世界的にいろいろと発生している。
本書は、そういった問題の変遷を客観的な観点から記述している。
筆者は賠償政治を二本の軸で分ける。
一つの軸は「経済的/象徴的」というものであり、賠償が金銭自体として価値があるのか、金銭そのものは重要でなくて謝罪の表明等として重要なのか、という点である。
二つ目の軸は「文化的/法的」というものであり、それが相手の集団の文化性の破壊を回復させるものなのか(文化的遺物の返還等がこれに入る)、それとも純粋に法的な損害賠償の位置づけなのか、という点である。
ホロコーストや日系人強制収容などの多くの賠償要求は「象徴的かつ法的」の位置であり、奴隷制や植民地主義批判は「経済的かつ法的」の位置にくる。
賠償政治の噴出は冷戦終結後の「未来の崩壊」に起因しているという。
すなわち、社会主義という「希望」がソ連崩壊によって打ち砕かれ、また国民国家体制の限界があらわになるにつれて、「進歩してゆく未来」は共通の運動の紐帯としての位置を失ってしまった。
その状況で代替案として出現したのが「過去」であり、過去の追及とそれによるアイデンティティ回復を新たな運動の紐帯にしようとしているのである。
これは、冷戦終結後に左派知識人の歴史問題への参入が頻発した日本の状況と照らし合わせてもわりと理解できる。
本書では具体的な問題として、日系人強制収容、奴隷制、アパルトヘイトとナミビアの虐殺を取り上げる。
まず賠償の獲得に成功している日系人強制収容の賠償(ちなみにこれは冷戦終結前である)について、それが和解のために果たしてどの程度機能したかを分析する。
本書の結論は、一定程度の和解への寄与はあるが、その機能は期待されるよりはかなり限定的だというものである。
また、奴隷制の賠償請求の展開と、それが困難である理由、アパルトヘイトとナミビアの虐殺の賠償請求の展開を書いている。
ホロコーストでは賠償を行っているドイツだが、ナミビアのヘレロ人虐殺については「植民地問題は賠償で解決できない」という立場で、最左派の緑の党も立場は似通っている。
なお、本書では「戦後賠償:や「植民地賠償」はほとんど取り上げられていない(恐らく有力な動きとしてそもそもあまり存在しないのであろう)という点に注意しておく。
ホロコーストや日系人強制収容、アパルトヘイト、あるいはインディアンの土地収用やアボリジニの問題はすべて「同一国内における一部の人種への加害・差別的取扱い」であり、戦争や植民地のような二国間の問題ではない。
数少ない二国間の問題として本書で出ている奴隷制とナミビアの虐殺が、ともに賠償請求が非常に悲観的であるというのは示唆的である。
本書は事実の記述の徹している面が強く、何かの良しあしを論じている感じではなく、基礎資料として好感が持てる。
歴史問題を考えるうえでおススメの本である。
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歴史的賠償と「記憶」の解剖: ホロコースト・日系人強制収容・奴隷制・アパルトヘイト (サピエンティア) 単行本 – 2013/11/11
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かつて賠償という語は、国家間の戦争の賠償を意味するものだったが、いまでは国家が民族集団や個人に対して行なった残虐行為や犯罪に対するあらゆる形の対応を包含するようになった。本書は、それぞれの地域の歴史的賠償が、いかなる共通の時代背景をもち、先行する歴史的経験にどのような影響を受けてきたかを具体的な事例をもとに比較考察し、賠償政治の見取り図を提示する。
- 本の長さ318ページ
- 言語日本語
- 出版社法政大学出版局
- 発売日2013/11/11
- ISBN-104588603337
- ISBN-13978-4588603334
商品の説明
著者について
ジョン・トーピー
(John C. Torpey)
1959年生まれ。カリフォルニア大学アーヴァイン校の社会学助教授,ブリティシュ・コロンビア大学の人類学・社会学・ヨーロッパ研究学科の准教授を歴任。現在,ニューヨーク市立大学大学院の社会学教授。カリフォルニア大学バークリー校から,社会学の博士号を取得。主な著書に,Intellectuals, Socialism,and Dissent: The East German Opposition and its Legacy( Minneapolis, Minn:University of Minnesota Press, 1995), The Invention of the Passport: Surveillance, Citizenship and the State( Cambridge: Cambridge University Press, 1999)〔藤川隆男監訳『パスポートの発明──監視・シティズンシップ・国家』法政大学出版局,2008年〕, John Torpey and Jane…
(John C. Torpey)
1959年生まれ。カリフォルニア大学アーヴァイン校の社会学助教授,ブリティシュ・コロンビア大学の人類学・社会学・ヨーロッパ研究学科の准教授を歴任。現在,ニューヨーク市立大学大学院の社会学教授。カリフォルニア大学バークリー校から,社会学の博士号を取得。主な著書に,Intellectuals, Socialism,and Dissent: The East German Opposition and its Legacy( Minneapolis, Minn:University of Minnesota Press, 1995), The Invention of the Passport: Surveillance, Citizenship and the State( Cambridge: Cambridge University Press, 1999)〔藤川隆男監訳『パスポートの発明──監視・シティズンシップ・国家』法政大学出版局,2008年〕, John Torpey and Jane…
登録情報
- 出版社 : 法政大学出版局 (2013/11/11)
- 発売日 : 2013/11/11
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 318ページ
- ISBN-10 : 4588603337
- ISBN-13 : 978-4588603334
- Amazon 売れ筋ランキング: - 822,885位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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