作者お得意のメタフィクションを史実の上に組み立てた作品。
だから舞台からいつの間にか転落していたと気付いた時の奇妙な味もまた別格。
取材もバッチリでそもそも読み物として面白い。その継ぎ目がどこにあって何が飛んでくるのかゾクゾクしながら読むのが作法。
「奇術師」ほど(良い意味の)とっ散らかりが無く、「夢幻諸島」ほど小難しくはない、整合性の高い構造になっている。
プリースト作品の根幹にはSF的着想があるのは明らかで、そこからワッと大きく物語を広げ、一周まわった所がお話のスタート地点。
一気に読者を突き放してしがみつかせるのもSF作品の手法の一つだが、これだけやさしく入口まで手を引いていってくれる作家も珍しい。ちゃんと高品質で。
双生児(原題はSeparate)という現象が当然キーで、物語が終わってからも敷衍してメタメタな味わいを深めるも良し。
最低限のSFマインドがあれば物語の面白みの所在は明らか。
大森望氏の解説が詳細で丁寧なので、話の答え合わせもバッチリ出来る。

無料のKindleアプリをダウンロードして、スマートフォン、タブレット、またはコンピューターで今すぐKindle本を読むことができます。Kindleデバイスは必要ありません。
ウェブ版Kindleなら、お使いのブラウザですぐにお読みいただけます。
携帯電話のカメラを使用する - 以下のコードをスキャンし、Kindleアプリをダウンロードしてください。
双生児(上) (ハヤカワ文庫FT) 文庫 – 2015/8/21
クリストファー・プリースト
(著),
古沢嘉通
(翻訳)
1999年英国、著名な歴史ノンフィクション作家スチュワート・グラットンのもとに、J・L・ソウヤーなる人物の回顧録原稿が持ちこまれる。第二次大戦中に活躍した英国空軍爆撃機の操縦士でありながら、同時に良心的兵役拒否者だったJ・L・ソウヤーとはいったいどんな人物なのか……。稀代の物語の魔術師が、持てる技巧のすべてを駆使して書き上げた、最も完成された小説。アーサー・C・クラーク賞、英国SF協会賞受賞作
- 本の長さ368ページ
- 言語日本語
- 出版社早川書房
- 発売日2015/8/21
- ISBN-104150205787
- ISBN-13978-4150205782
この商品をチェックした人はこんな商品もチェックしています
ページ 1 以下のうち 1 最初から観るページ 1 以下のうち 1
商品の説明
著者について
1943年イングランド生まれ。1966年に短篇“The Run"を発表してデビュー。1974年に『逆転世界』で英国SF協会賞を受賞。1995年に刊行した『奇術師』(ハヤカワ文庫FT)は世界幻想文学大賞を受賞、クリストファー・ノーラン監督の手により映画化された(映画化名「プレステージ」)。2002年に発表された本書『双生児』は英国SF協会賞とクラーク賞を受賞、ベストSF2007海外篇第1位に輝いた。2011年刊行の連作集『夢幻諸島から』(早川書房)は英国SF協会賞、ジョン・W・キャンベル記念賞を受賞、ベストSF2013海外篇第1位を獲得している。プリーストは名実ともに現代の英国SF/ファンタジイ界を代表する作家である。
登録情報
- 出版社 : 早川書房 (2015/8/21)
- 発売日 : 2015/8/21
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 368ページ
- ISBN-10 : 4150205787
- ISBN-13 : 978-4150205782
- Amazon 売れ筋ランキング: - 797,878位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 204位ハヤカワ文庫 FT
- - 3,847位SF・ホラー・ファンタジー (本)
- カスタマーレビュー:
著者について
著者をフォローして、新作のアップデートや改善されたおすすめを入手してください。

著者の本をもっと発見したり、よく似た著者を見つけたり、著者のブログを読んだりしましょう
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
2016年3月6日に日本でレビュー済み
1999年の英国。
第二次世界大戦期を扱うノンフィクション作家として知られるスチュワート・グラットンが、ダービシャー州バクストンの書店で新作のサイン会を行っているところへ一人の女性が現れた。
アンジェラと名乗ったその女性は、サインが主目的ではなく、スチュワートが出している広告が興味を惹いたらしい。
彼は、チャーチルの回顧録の中に見つけ出した人物、ソウヤー空軍大尉についての情報を求めて雑誌などに広告を出していたのだ。
回顧録の記述によれば、ソウヤーは良心的兵役拒否者であると同時に、空軍大尉でもあったのだが、そんなことがあり得るのだろうか。
アンジェラの旧姓はソウヤーであり、亡父の遺した戦時の体験記がスチュワートにもたらされるのだが・・・
アンジェラの父、J.L.ソウヤー氏の体験記は、仕官前の青年時代から始まっており、そこで双子であることと片割れのイニシャルもJ.L.であることが明かされ、早急に核心に迫るのかと思うと、かなり裏切られることになる。
体験記は、1941年5月10日のハンブルク爆撃の帰途で撃墜されたソウヤーが、外傷とともに記憶障害を患ったため、時間を追って書かれてはおらず、また、二人のソウヤーの視点が出てくるため、相当に混乱させられるが、その混乱が本書の醍醐味。
ソウヤー兄弟は、性格は異なるものの、二人とも同じ大学のボート部に所属しており、1936年のベルリンオリンピックに揃って出場して三位に入賞し、ルドルフ・ヘスその人から銅メダルを授与される。
ドイツの副総統であるヘスは、和平交渉のため1941年5月10日、強行的な夜間飛行でイギリスへ渡ったが、今でも替え玉説などか云々されていて、この歴史上の人物を巻末に至るまで巧みに活用している。
そもそも、スチュワートがソウヤー空軍大尉に興味をもったきっかけは、自分自身の生年月日である1941年5月10日が奇しくも英独戦争の終結した日であることからなのだが、フィクション部分も含めて全てが「1941年5月10日に何があったのか?」という謎に収束されていく展開の技巧性は見事の一言。
また、謎を追っているはずのスチュワート自身が謎の核心であることに気付いた時は、慄然とさせられた。
プリーストの他の作品、特に「奇術師」との類似性は多いが、様々な仕掛けの多さでは本作に軍配。
SF関連の賞も受賞しているが、読み解く愉しさが感じられる作品でもあり、本邦ではミステリとしての評価が高いのも頷ける。
第二次世界大戦期を扱うノンフィクション作家として知られるスチュワート・グラットンが、ダービシャー州バクストンの書店で新作のサイン会を行っているところへ一人の女性が現れた。
アンジェラと名乗ったその女性は、サインが主目的ではなく、スチュワートが出している広告が興味を惹いたらしい。
彼は、チャーチルの回顧録の中に見つけ出した人物、ソウヤー空軍大尉についての情報を求めて雑誌などに広告を出していたのだ。
回顧録の記述によれば、ソウヤーは良心的兵役拒否者であると同時に、空軍大尉でもあったのだが、そんなことがあり得るのだろうか。
アンジェラの旧姓はソウヤーであり、亡父の遺した戦時の体験記がスチュワートにもたらされるのだが・・・
アンジェラの父、J.L.ソウヤー氏の体験記は、仕官前の青年時代から始まっており、そこで双子であることと片割れのイニシャルもJ.L.であることが明かされ、早急に核心に迫るのかと思うと、かなり裏切られることになる。
体験記は、1941年5月10日のハンブルク爆撃の帰途で撃墜されたソウヤーが、外傷とともに記憶障害を患ったため、時間を追って書かれてはおらず、また、二人のソウヤーの視点が出てくるため、相当に混乱させられるが、その混乱が本書の醍醐味。
ソウヤー兄弟は、性格は異なるものの、二人とも同じ大学のボート部に所属しており、1936年のベルリンオリンピックに揃って出場して三位に入賞し、ルドルフ・ヘスその人から銅メダルを授与される。
ドイツの副総統であるヘスは、和平交渉のため1941年5月10日、強行的な夜間飛行でイギリスへ渡ったが、今でも替え玉説などか云々されていて、この歴史上の人物を巻末に至るまで巧みに活用している。
そもそも、スチュワートがソウヤー空軍大尉に興味をもったきっかけは、自分自身の生年月日である1941年5月10日が奇しくも英独戦争の終結した日であることからなのだが、フィクション部分も含めて全てが「1941年5月10日に何があったのか?」という謎に収束されていく展開の技巧性は見事の一言。
また、謎を追っているはずのスチュワート自身が謎の核心であることに気付いた時は、慄然とさせられた。
プリーストの他の作品、特に「奇術師」との類似性は多いが、様々な仕掛けの多さでは本作に軍配。
SF関連の賞も受賞しているが、読み解く愉しさが感じられる作品でもあり、本邦ではミステリとしての評価が高いのも頷ける。
2015年11月21日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
決して波乱万丈ではない興味も関心も湧かないお話が延々と続きます。
興味も関心も湧かないのは登場人物に魅力が感じられないし
時代背景や設定がありきたりだからなんでしょうね。
おまけに山場もなくスリルやサスペンスの要素もない。
双子の兄弟の生涯が、淡々と語られていくだけなんですね( -_-)
これ、どう思いますか?
興味も関心も湧かないのは登場人物に魅力が感じられないし
時代背景や設定がありきたりだからなんでしょうね。
おまけに山場もなくスリルやサスペンスの要素もない。
双子の兄弟の生涯が、淡々と語られていくだけなんですね( -_-)
これ、どう思いますか?
2015年11月3日に日本でレビュー済み
第二次大戦中のイギリスで二人の一卵性双生児が時代に翻弄され・・・というお話。
と上記の様に書いただけでは何の要約にもなっていないメタ・ファンタジーの大作。二人の主人公の辿る歴史は虚実入り乱れて時に絡み合い、時に乖離し、時に錯綜し、時に反発し・・・と読者を翻弄します。
その錯綜ぶりも尋常ではなく、解説を書いてらっしゃる評論家の大森氏でもメモを取りながら読んで読解したとの由。評論家の人でもそこまでしないと読解できないという一回読んだくらいでは到底歯が立たない作品。私も昔一回読んだ時にはよく判らなかったのでレビューを書かず、今回は大森氏の解説を読みながら精読して判ったーつもりですがー次第です。なので、読むにあたっては一回読んで終わりにしないで、解説を読みながら再読することをお勧めしておきます。ここまでやるかぁ?というぐらい錯綜したメタ・ファンタジーなので。
それと、本書では第二次大戦とその前後のイギリスとドイツの歴史が虚実ない交ぜに語られているのでメタ・歴史改変・戦争小説としても楽しめる作品になっており、その部分だけでも十分面白い作品になっております。
これは、私の個人的見解ですが、この一卵性双生児の辿る歴史をメタファーとして、イギリスとドイツの関係を捉えている様に思えましたがどうでしょうか。つまり、あの当時のイギリスとドイツは戦争して仲が悪かったけれど、どちらの国も一卵性双生児のように似た国ではなかったのかという歴史修正主義的見方を本書は提示しているのではないかと(ドイツの方が圧倒的に悪かった様には思えますが)。
ともあれ、本書が稀に見るメタ・ファンタジーの傑作であるのは論を待たない事実に思いました。是非ご一読を。
と上記の様に書いただけでは何の要約にもなっていないメタ・ファンタジーの大作。二人の主人公の辿る歴史は虚実入り乱れて時に絡み合い、時に乖離し、時に錯綜し、時に反発し・・・と読者を翻弄します。
その錯綜ぶりも尋常ではなく、解説を書いてらっしゃる評論家の大森氏でもメモを取りながら読んで読解したとの由。評論家の人でもそこまでしないと読解できないという一回読んだくらいでは到底歯が立たない作品。私も昔一回読んだ時にはよく判らなかったのでレビューを書かず、今回は大森氏の解説を読みながら精読して判ったーつもりですがー次第です。なので、読むにあたっては一回読んで終わりにしないで、解説を読みながら再読することをお勧めしておきます。ここまでやるかぁ?というぐらい錯綜したメタ・ファンタジーなので。
それと、本書では第二次大戦とその前後のイギリスとドイツの歴史が虚実ない交ぜに語られているのでメタ・歴史改変・戦争小説としても楽しめる作品になっており、その部分だけでも十分面白い作品になっております。
これは、私の個人的見解ですが、この一卵性双生児の辿る歴史をメタファーとして、イギリスとドイツの関係を捉えている様に思えましたがどうでしょうか。つまり、あの当時のイギリスとドイツは戦争して仲が悪かったけれど、どちらの国も一卵性双生児のように似た国ではなかったのかという歴史修正主義的見方を本書は提示しているのではないかと(ドイツの方が圧倒的に悪かった様には思えますが)。
ともあれ、本書が稀に見るメタ・ファンタジーの傑作であるのは論を待たない事実に思いました。是非ご一読を。
2015年11月18日に日本でレビュー済み
初プリーストなので期待を持って読んだが、すっきりせんね。
双子の視線で語られるパラレルワールドということはわかったが、
パラレルな世界が交錯しつつ、結局パラレルのまま投げっぱなし。
最後には収束して何らかの解を与えてくれるのかと思ったら、そういうもんじゃないんだね。
SFの流儀にはちょっとついていけん。
双子の視線で語られるパラレルワールドということはわかったが、
パラレルな世界が交錯しつつ、結局パラレルのまま投げっぱなし。
最後には収束して何らかの解を与えてくれるのかと思ったら、そういうもんじゃないんだね。
SFの流儀にはちょっとついていけん。