著者は非行や犯罪行動のある人々への治療教育、なかでも性の問題行動、性犯罪の問題に取り組んできた、日本では数少ない専門家だ。少年院、少年鑑別所、刑務所の現場で治療の実務に携わってきた著者は、治療教育は「グループ・アプローチが介入の第一選択肢」と主張する。一対一の面接よりも、グループ。日本では、心理臨床の現場でも、大学の臨床心理コースでも、グループより個別面接が重視されている。なぜ、犯罪者治療に「グループ」が効果的なのだろうか。
犯罪も、非行も、「社会の中での個人の行動行動であ」るからだ。非行は、ある程度発達をした子どもの人間関係の中で起きる行動で、たとえば性非行のある子は学校生活でどの仲間にも入れていない場合が多い。大人の犯罪者であれば、家庭的に恵まれない幼少期を過ごしたことが、問題の端緒になっていたとしても、今さらカウンセラーが、彼らに子供時代をやり直させてあげられるわけではない。
グループ治療の利点はここにある。家庭や学校での体験といった、成長する過程で得ておくべきだったのに得られなかった社会グループでの体験を、あらためて、疑似的に体験させることができるのだ。
法的に裁かれている、といった同じ立場の人間が集まることで、メンバー同士の共感が広がる。メンバーがそのグループに所属意識を持てば、そこから、新たな学びが生まれる。「そのとき、グループは個人をそだてる「家庭」や「学校」になるのである」
そのように、効果を発揮するグループを作るには、それを取りまとめる専門家の知恵がいる。どのようなメンバーを集め、どんな先行プログラムに基づいて内容を組み立てるのか。プログラムのデザイン力が求められるのだ。
藤岡教授は、少年向けと成人向けに、社会内・施設内でグループによる治療教育プログラムを立ち上げてきた。そのグループの立ち上げにあたっての奮戦ぶりが、詳述されている。たとえば、世界の潮流の中から、アメリカやカナダで効果をあげている矯正プログラムを選び、日本の現場での現状に合ったものにする。基本テキストは翻訳する。そして人脈だ。新しいもの、これまでになかったものを立ち上げる時に、志に共感してくれる人の(教え子や心理関係、矯正関係者)ネットワークがどれほど大切か。矯正の世界は、あまり世間的な日の当たる世界ではないが、そこをよくしていこう、彼らに再犯をやめさせて、性犯罪や非行行為を減らしていこうとする人々の奮闘ぶりは、「プロジェクトx」のようだ。(たとえ方が古いが)
ちなみに、本書では、「非行少年は」「犯罪者が」という言葉は使われていない。「非行行動のある」中学3年生、あるいは「犯罪行動のある人」と彼らを「呼んで」いる。人を、人間として、全人的に見ているからだ。

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非行・犯罪心理臨床におけるグループの活用:治療教育の実践 単行本 – 2014/4/15
藤岡 淳子
(著)
児童自立支援施設や少年院、刑務所において矯正教育の第一線を歩んできた著者が、矯正教育の歴史的・理論的展開を振り返るとともに、これまで行ってきたグループの実践を概括する。さらに官民協働(PFI)刑務所のひとつである島根あさひ社会復帰促進センターで治療教育システムを立ち上げた貴重な経験をまとめた矯正教育に携わる人のための必読書。
【目次】
第1章 非行・犯罪への教育プログラム介入を支える理論と実践の展開
第1節 初期の非行・犯罪原因論から改善更生主義へ
第2節 効果評価研究――矯正無効論から矯正有効論へ、そして何が効果的か
第3節 科学的根拠に基づくプログラム
第4節 現在の日本の状況と本書の立場――統合的犯罪離脱理論に基づいて
第2章 自己と関係性の発達と非行・犯罪――育つためのグループとは br> 第1節 感情と認知、自己と対人関係の発達からみた非行
第2節 衝動・欲求統制と非行・犯罪行動
第3節 育つためのグループとは br>
第3章 決意の段階から機能回復の段階まで――子どもと少年の場合
第1節 非行・犯罪をやめようという決意が生じるとき
第2節 治療教育プログラムの実際
第4章 児童自立支援施設での少女を対象とした治療教育プログラム
第1節 男子グループと女子グループは異なるか
第2節 女子グループの実際
第3節 非行のある少年少女の教育グループをリードするコツ
第5章 刑務所内での治療教育グループの実践
第1節 刑務所と受刑者に関する基礎知識
第2節 矯正施設内におけるグループ教育プログラムの歴史的展開
第3節 心理士・福祉士として刑務所で働くということ――刑務所で勤務する民間心理士の感想から
第4節 官民協働刑務所「島根あさひ社会復帰促進センター」における治療教育プログラム
第6章 決意から機能回復、そして社会再参加へ――刑務所内治療共同体の試み
第1節 ノルウェーの刑務所を見て考えたこと
第2節 治療(回復)共同体とは
第3節 回復共同体の実践
第7章 社会再参加――普通の暮らしへ
第1節 保護者支援――犯罪とその衝撃に巻き込まれる家族
第2節 当事者グループ
第3節 社会再参加から普通の暮らしへの移行を支援するネットワーク作り
第4節 おわりにかえて
【目次】
第1章 非行・犯罪への教育プログラム介入を支える理論と実践の展開
第1節 初期の非行・犯罪原因論から改善更生主義へ
第2節 効果評価研究――矯正無効論から矯正有効論へ、そして何が効果的か
第3節 科学的根拠に基づくプログラム
第4節 現在の日本の状況と本書の立場――統合的犯罪離脱理論に基づいて
第2章 自己と関係性の発達と非行・犯罪――育つためのグループとは br> 第1節 感情と認知、自己と対人関係の発達からみた非行
第2節 衝動・欲求統制と非行・犯罪行動
第3節 育つためのグループとは br>
第3章 決意の段階から機能回復の段階まで――子どもと少年の場合
第1節 非行・犯罪をやめようという決意が生じるとき
第2節 治療教育プログラムの実際
第4章 児童自立支援施設での少女を対象とした治療教育プログラム
第1節 男子グループと女子グループは異なるか
第2節 女子グループの実際
第3節 非行のある少年少女の教育グループをリードするコツ
第5章 刑務所内での治療教育グループの実践
第1節 刑務所と受刑者に関する基礎知識
第2節 矯正施設内におけるグループ教育プログラムの歴史的展開
第3節 心理士・福祉士として刑務所で働くということ――刑務所で勤務する民間心理士の感想から
第4節 官民協働刑務所「島根あさひ社会復帰促進センター」における治療教育プログラム
第6章 決意から機能回復、そして社会再参加へ――刑務所内治療共同体の試み
第1節 ノルウェーの刑務所を見て考えたこと
第2節 治療(回復)共同体とは
第3節 回復共同体の実践
第7章 社会再参加――普通の暮らしへ
第1節 保護者支援――犯罪とその衝撃に巻き込まれる家族
第2節 当事者グループ
第3節 社会再参加から普通の暮らしへの移行を支援するネットワーク作り
第4節 おわりにかえて
- 本の長さ268ページ
- 言語日本語
- 出版社誠信書房
- 発売日2014/4/15
- ISBN-10441440083X
- ISBN-13978-4414400830
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商品の説明
著者について
大阪大学大学院人間科学研究科教授、臨床心理士
登録情報
- 出版社 : 誠信書房 (2014/4/15)
- 発売日 : 2014/4/15
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 268ページ
- ISBN-10 : 441440083X
- ISBN-13 : 978-4414400830
- Amazon 売れ筋ランキング: - 932,662位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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