かつてCDショップでこのアルバムを買い求めた時、店頭のポップの推薦文に「ネオ・ヒッピー」と書かれていて、その言葉がいまだに頭から離れない。ネオ・ヒッピーなどという人たちが本当にいるのか判らないが、ジャケットの写真を見ると、なるほど、という感じがする。そして曲も、まさにそんな表現がぴったりくる。それがアイーダの歌声だ。
高らかなハーモニカのメロディーから始まる1曲目の「High Over Hollywood」で、いきなり澄み切った秋の空高く心を持っていかれる。彼女はハーモニカがよっぽど好きなのか、11曲中4曲でハーモニカを使っている。ちょっとカントリーサイドな感じの、心地よい曲が多い。3曲目の「From Me to You」は、明け方のまどろみの中に訪れた青い夢のよう・・・。
アイーダの曲は、都会での生活に疲れた者、人生に挫折した者、自分の居場所を見失ってしまって彷徨う心に、ふっと訪れた優しいそよ風のようだ。遥か故郷の森や草原の匂いをはらんで・・・。大好きな8曲目の「Hickory Wind」はまさにヒッコリーのこずえをゆったりと吹き抜けてゆく風を感じるメロディー。11曲目の「Music Carries On」は、目を閉じると豊かに実った麦の穂が風にそよぐ風景が浮かんできます。
他のアルバムのレビューを見ると、彼女は歌唱力があまりない、というような事も書かれている一方で、でも愛聴してます、とも書かれていたりしているところが、いかにもアイーダらしい、というか・・・このちょっと素人っぽい素朴な歌声がかえってこのメロディーに合っているのだと思う。決してヘタなわけではないし、そこがまた「ネオ・ヒッピー」な感じでいいんじゃないかな。
大切なのは、彼女の歌声とこのメロディーを聴いていると、とても安らいだ気持ちになってくるという事。
超絶技巧に心震わせなくたっていい。色々な価値があって、心で聴くことができるのが、音楽の素敵なところなのだから、と思う。
そしてもちろん、秋のドライブのお供に、お薦めの一枚です。