本書には三つの物語(もちろん実話)があります。
一つは、「1987年から1990年の4年間、日本に輸入された海外の美術品は、
当時の世界中で売買される美術品の金額の半分、いやそれ以上にもなるといわれた。
正確な金額はだれにもわからないが、未曾有の量だったのは間違いない。株、不動産に次ぐ投資対象として絵画が注目され、推奨されたのである。
オークション史上の最高価格を記録した美術品のトップ20位のリストをつくると、落札記録をつくったのはほとんど日本人で、
そのわずか3年の間に買われた美術品群の値段になる」・・・というお話。
欧米から、「カネで我々の宝を買いあさる」、「知識がないから、どんな高い値段でも買ってくれる」と嘲笑されていた、
バブル時代の日本のお話。
もう一つは、バブルが崩壊してからのお話。
「あれだけ大量の美術品が日本に入り、そして出ていくという、大変な交通量と、それに伴う金銭の動き、
それに国際的に大いに恥をかくということが次々に起こった」・・・というお話。
目もくらむような大金で買った絵画を、軽トラが買えるていどの金額で売り飛ばすお話が死ぬほど楽しめます。
最後の三つ目は、『そして、その後』のお話。
「この(バブル期)の経験が日本人の文化に対する態度をまったく変えなかったとは思えない。
たとえば、明治以来、あるいはそれ以前から、日本人にとって文化とは西欧から学習して取得するもの、あるいは借りてくるものだった。
バブル経済の崩壊は、日本人が借りてきた美術品を『返却』することを強いたのだ。
そのために、欧米に影響を受けなければ、あるいは欧米から賞賛を受けなければすぐれた文化とはいえない、
といったある種の卑屈な考え方が、すべて消し去られたとまではいわないものの、かなり減らすことのなったのではないだろうか。
そのことが、1990年代後半以降の日本の美術マーケットやアーティストの現場に、
意外なよい影響を与えているのではないかと思う場面を、私は何度も目撃することになる」・・・という、ちょっとだけ希望はあるというお話。
これら全て面白いのですが、最後の『そして』に関しては、あくまで本書が世に出た時点でのお話(「2001年10月発行」)なので、
まぁ、よほど美術界に興味のある人でもない限り、その後がどうなったか、本の「中身」としては正直古すぎてどうでもいいお話です。
本書の真骨頂は、何といっても一つ目と二つ目のお話です。
なぜ、あんなに狂ったのか、そしてどんなヒドイ目にあったのか。これを笑い飛ばすことに尽きます。
たとえば、イトマン事件に巻き込まれた絵画たちのお話。
「1992年暮れのセールに出てきた許永中関連絵画は、(今までは)イトマン事件の『事件』になっていない部分の許コレクションの作品で、
債権回収のための売り立てだったが、今度はいよいよ、許永中らの特別背任罪の根拠となった『疑惑の絵画』が
マーケットに出てきたことを示すものだったからである。
イトマンの取引銀行、住友銀行が巨額融資の担保に取っていたものを出してきたわけだ。
イトマンの絵画取引では、値段のでたらめさが疑惑の焦点だったが、このセールで何よりも衝撃的だったのは、
現在のマーケットが認める価格が次々につけられたことで、イトマンが払った金額のばかばかしさが際立ったことである。
この日のセールで最も高い値段がついたのは、加山又造の四曲の屏風、『花吹雪』で、落札価格は28万8500ドル(約3千38万円)。
15万ドルから20万ドルという予想落札価格を上回ったが、1990年にイトマンが買ったときは、14億円(!)だったので、
落札価格は46分の1に下がったことになる。小磯良平の『白川女』という作品は、6万ドルから8万ドルという予想落札価格の
3倍にもなる26万6500ドル(約2800万円)で落ちたが、イトマンが払った金額、5億円の17分の1にしかならなかった」
・・・という、「バブル崩壊後のマーケットに(美術品が)出ると、
買ったときと比べて驚くほど低い値段で『買いたたかれる』状態になる」お話が、本当に面白いのを通り越してイヤになるほど読めてしまいます。
さらに、たとえばバブル華やかし頃の愚かしい日本人の姿。
「『自分が大金を払って買った絵を公開しようと、自分だけで楽しもうと、倉庫に入れっぱなしにしておこうと勝手ではないか』という」、
日本人が何人も登場するので悲しくなってしまいます。せめてこいつらに天誅が下ったと信じたいです。 (';ω;`)
そして、「日本」だけではありません。欧米のオークション会社の狂いっぷりも相当なものです。
「サザビーズもクリスティーズも日本に欧米式のオークションを持ち込み、東京で永続的、定期的に競売を行うことについに成功していない。
彼らは日本市場の閉鎖性を責め、心の狭い日本の業者がどれだけ自分たちを妨害しているかを嘆き、
西洋式のオークションが日本に定着することがどれだけ重要であるかを語ったものだ。
オークションは公正で、だれでも参加でき、正しい方法で落札さえすれば、だれでも欲しい美術品を手にすることができる。
落札価格はただちに公表され、だれにも隠すことはできない。
こうした方法が日本でも受け入れられるようになれば、市場が透明性を増し、コレクターにとって望ましい形になるだろう--------------。
10年以上たって、こうした人たちが手数料の談合を行っていたことが明るみに出た。
それに、サザビーズ、クリスティーズ両社が談合していたのは手数料についてだけではない。
アメリカ国内の報道によれば、両社は50人ほどの、特に裕福な得意先顧客リストを互いに交換していたという。
選ばれた特別な得意客は、たとえば一般の客よりも手数料を安くしてもらう、ときにはまったくのタダにしてもらうといった
特別待遇を受けていたとされる。市場が閉鎖的なのは日本だけではなかった」
・・・という、まるで腐ったミカンの最初の1個目は誰だったんだというお話。
・・・以上。先述したように、本書はこのレビューを書いている時点で15年も前の本なので、
本書の中で著者が記しているささやかな希望がどこまで実現しているのか、門外漢には皆目検討もつきませんが、
とにかくバブル狂乱時代の日本と欧米の狂いっぷりを楽しむには申し分のない出来です。
自分のように美術に興味がなくとも十分に楽しめたので、絶対にオススメの作品です。
なお、本書の中には絵画にまつわる犯罪なども記されているのですが、
そういったものに興味のある人には以下のような本もオススメ。
「世紀の贋作画商」 七尾和晃 平成26年(2014)2月
昭和50年代後半からバブル崩壊までに、日本国内でニセモノの美術品を売っていたユダヤ人画商を、
画商が逮捕されるまでに著者がインタビューできるのかを綴ったノンフィクション。
「偽りの来歴」 訳・中山ゆかり 平成23年(2011)8月
いくつものニセの肩書きを持つ狂人ジョン・ドリューと、挫折した画家ション・マイアット、
二人のジョンが起こした「20世紀最大の絵画詐欺事件」。狂人ジョンの狂いっぷりは爆笑必至で、
画家のほうのジョンが巻き込まれた被害者にしか思えくなる。
・・・などなど。
このレビューが参考になれば幸いです。 (*^ω^*)
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消えた名画を探して 単行本 – 2001/9/1
糸井 恵
(著)
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購入オプションとあわせ買い
- 本の長さ249ページ
- 言語日本語
- 出版社時事通信社
- 発売日2001/9/1
- ISBN-104788701715
- ISBN-13978-4788701717
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商品の説明
内容(「MARC」データベースより)
125億円という史上最高値で日本人が落札したゴッホの名画はどこへ行ったのか。「塩漬け絵画」「焼け残り品バーゲンセール」とは? 経済大国の金の動きに翻弄される美術市場の内実を追ったノンフィクション。
登録情報
- 出版社 : 時事通信社 (2001/9/1)
- 発売日 : 2001/9/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 249ページ
- ISBN-10 : 4788701715
- ISBN-13 : 978-4788701717
- Amazon 売れ筋ランキング: - 976,783位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 506位東洋・日本美術史
- カスタマーレビュー:
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2016年7月17日に日本でレビュー済み
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2003年1月20日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
銀行の金庫には世界的な名画がたくさん眠っているらしい。
そんな話をきいたことがあるだろうか?
バブルというものを実体験しなかった自分にとって、この本に書かれていることがにわか信じがたい。まさに絵空事では?と思ってしまう。
オークションでは信じられないような金額で競り落とした名画の数々は日本経済の下落とともに今では人手に渡り、海を渡り。
日本に訪れ、そして去って行った芸術作品を日本の経済の浮き沈みを絡めながら記述されている。また作品だけではなくやたらと作りすぎた美術館というハコモノの存在、企画倒れしたアートプロジェクトなどについても記されている。
日本(人)に於いての美術のあり方を問われ、考えさせられる本である。
わくわくするような好奇心そそられる内容は実に面白かったけれども、読み終わった後かなりへこみました。
バブルとは一体なんだったのでしょう??
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バブルとは一体なんだったのでしょう??
2010年2月8日に日本でレビュー済み
ある企業の貴賓室に有名な画家の作品が飾られていた。
本当に限られた人しか入る事のできない場所で名画がひっそりと年に数年に見られるためにそこにあった。
おそらくその絵はまだ部屋にひっそりと飾られているか、コレクターの手に渡ったのかそれはわからない。
ゴッホの「ひまわり」落札はその金額もさることながら大きな衝撃だったが、今その絵は毎年多くの人の目に触れ、見た人に感動を与える・
そういった意味で「ひまわり」は幸運な絵だった。
しかしここに挙げられている多くの絵は、投資目的、見得や功名心に翻弄された挙句、闇に葬られてしまった。
日本人が大金で買いあさったという以上に、その絵が人々の目に触れる機会を失われてしまったという事がなんとも悔やまれる。
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おそらくその絵はまだ部屋にひっそりと飾られているか、コレクターの手に渡ったのかそれはわからない。
ゴッホの「ひまわり」落札はその金額もさることながら大きな衝撃だったが、今その絵は毎年多くの人の目に触れ、見た人に感動を与える・
そういった意味で「ひまわり」は幸運な絵だった。
しかしここに挙げられている多くの絵は、投資目的、見得や功名心に翻弄された挙句、闇に葬られてしまった。
日本人が大金で買いあさったという以上に、その絵が人々の目に触れる機会を失われてしまったという事がなんとも悔やまれる。