トビー・フーパー監督の異色オカルト・SFホラー映画(1989年製作)。
世界の七不思議的な怪現象「人体自然発火現象/スポンティニアス・ヒューマン・コンバッション」を題材に描く。
主人公を演じるのは、神経過敏で不健康、邪険で陰鬱な曲者役を得意とする個性派俳優ブラッド・ドゥーリフ。
1955年にネバダ砂漠の核実験場で水爆実験が行われた。
若きジョーンズ夫妻は、核シェルター「サムソン」と放射能抗体の被験者に志願、実験は見事成功する。
新時代を開くアメリカン・アトミック・ファミリーと讃えられる夫妻であった。
そしてシェルターの中で身籠もった夫人は、8月6日に男の子を無事出産する。
ある日、夫人の銜えた体温計が破損する。途端、水銀に触れた夫妻は、体内から激しい火を噴き出し、
あっという間に焼死してしまう。順風満帆な幸せに満ちた光景から突如として失意のどん底に叩き落す、
冒頭の人体自然発火現象が衝撃的である。
大変小柄な夫妻の体型や子供の誕生日が8月6日「広島原爆記念日」という事で、
日本を意識した設定は、無神経なのかどうかは別として、微妙な印象を残す。
手に痣を持って生まれた遺児サム(ドゥーリフ)は、両親の過去を知らずに成長する。
学校教師になった頃、彼の周辺で奇怪な事件が勃発する。自分が関わった人達が、次々と変死を遂げ、
自らも身体の異変を感じ始める。指先からは火や電気を発し、軈て腕からも火柱が上がる。
サムは調査して行くうちに再開した原子力発電所が絡んでいる事、自分の出生の秘密を知る事となる。
放射能や核実験に絡む裏組織の暗躍(黒幕の陰謀)などを背景に淡々とした展開で話は進む。
サムを含む登場人物たちの日常的な部分の描き方などは、やや荒い気もする。
しかし、人間が突然発火するという炎のスプラッター映画として、見世物小屋的なSFXシーンは満載。
炎の犠牲者になる放送局の技師役として、ジョン・ランディスが嬉々としてカメオ出演している。
フーパーの演出を見るとクローネンバーグのSF/ホラー映画一連作を意識しているかの様だ。
特に「スキャナーズ」(80)、「デッド・ゾーン」(83)あたりの80年代のSF風味を感じさせる。
「ポルターガイスト」(82)や「スペースバンパイア」(85)、「スペースインベーダー」(86)とは、
異なる作風を目指したフーパーだったが、持前の狂気パワー(個人的には好きだが)を抑え切れず、
過剰なまでに気合が入ってしまった演出と派手な視覚的効果が、勝ってしまった仕上がりである。
現在では希少価値ある珍しい作品ながらも、すべての問題が解決し切れない、
という消化不良気味なところもある。但し、自らの命を犠牲にするサムの取った最後の行動は、
「デッド・ゾーン」(83)の悲壮感溢れるジョニーを彷彿とさせる感動的なラストシーンを生んでいる。