小説、エッセイ、コラムが一緒くたになった短編集ですが、一冊を読み通してみると、坂口安吾の丁寧で客観的な世界観、人間性に触れた心地よさがありました。
心許せる親友と一晩語り尽くし、満足して朝帰りする気持ちの良さを思い出しました。
「木枯らしの酒蔵から」
1931年。24歳のデビュー作
デビュー作らしい新鮮で斬新な文体です。酔っ払いの主人公が「〜う、ぶるぶるじゃよ。」「あべべい、酒は茨だねえ、」などと呟くのが楽しい。
「風博士」
同年に発表された出世作
ライバルの蛸博士を呪って自殺した風博士の遺書ですが、全くもって、ナンセンス。「否否否。千遍否。」とリズミカルに蛸博士を否定しつつ、自殺と言っても「POPOPO!」とシルクハットを被り直し「TATATATATAH!」と消えて無くなってしまうのです。う〜ん。
「紫大納言」
1939年に発表された荒れた平安の都で、色恋に生きた男のファンタジー。
1932年3月に発表した小論「FARCEに就いて」を具現化した小説です。
「真珠」
太平洋戦争開戦当時の風俗を描きつつ、人間魚雷回天で自爆した兵士へ捧げたもの。
特攻の翌年1942年3月に執筆されました。
特攻兵士や戦争で死ぬ事に対する当時の一般市民の「声」として参考になるような気がします。
「二流の人」
戦中、戦後と継続して書かれた時代小説です。
竹中半兵衛重治没後、豊臣秀吉の軍師として活躍した黒田官兵衛孝高が生きた時代を描いています。
「正義」「大義」「信義」など、何かと精神論で描かれる事が多い時代小説と毛色を異にした快作。武将の心理描写、平たく言えば「好き嫌い」を丁寧になぞりながら物語を進めています。
「白痴」
新潮1946年6月号に発表された小説。
「人間性とは何か」を問うた問題作である、と聞いていたので、てっきりヒロイン「白痴」を健常者が忘れている美点を持つ模範として描いた作品だと思い込んでいました。
そうではなくて、
「我々は、浮世の気まぐれに白痴を見習うべき人間本来の姿と賞賛しがちですが、結局のところ人間らしいと言う事は、雑事に紛れ、煩悩に苦しみ、孤独なのです。」
と著者が説いている、と理解しました。
「風と光と二十の私と」
文芸1947年1月号に発表。
小田急線が開通する直前の草深い世田谷下北沢で代用教員を務めた一年の回想録です。
大人にとってはどうでも良いように思えることでも子供にとっては大問題であることをくみ取る丁寧な人間観察眼に目を見張ります。
作中で、道徳観について触れている箇所が印象に残りました。本来自分なりの基準を持つべき善悪の判断を、他者との比較を言い訳にして放擲してしまう危険性を指摘しています。
一部要約しながら引用します
「教育者は人の非難を受けないよう自戒の生活をしているが、世間一般の人間は、したい放題の悪行に耽っているときめてしまっていて、だから俺たちだってこれぐらいはよかろうと悪いことをやる。当人は世間の人はもっと悪いことをしている、俺のやるのは大したことではないと思いこんでいるのだが、実は世間の人にはとてもやれないような悪どいことをやるのである。」
比較対象の他者も、架空の(悪どい)他者であるため、判断基準は際限なく甘くなって行く危険性を指摘しています。僕も「教訓とせねば。」と思うところがありました。
「青鬼の褌を洗う女」
1947年10月に発表された小説です。
坂口安吾が理想とする女性を主人公に据えて、女性の立場から描いた作品として読むことが出来ます。僕は、「カッコ良い女性だな。」と思いました。
しばしば女性に対して言われる「結婚しても、ぬかみそ臭い女になるなよ。」と言う男のダンディズムを女性の立場から書いたものと理解できます。
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白痴・二流の人 (角川文庫) 文庫 – 1970/2/28
坂口 安吾
(著)
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敗戦間近かの耐乏生活下、独身の映画監督と白痴女の奇妙な交際を描き反響をよんだ【白痴】。【二流の人】は秀れた知略を備えながら二流の武将に甘んじた黒田如水の悲劇を描く。(奥野健男/三枝康高)
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- 本の長さ319ページ
- 言語日本語
- 出版社KADOKAWA/角川書店
- 発売日1970/2/28
- ISBN-104041100011
- ISBN-13978-4041100011
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登録情報
- 出版社 : KADOKAWA/角川書店; 改版 (1970/2/28)
- 発売日 : 1970/2/28
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 319ページ
- ISBN-10 : 4041100011
- ISBN-13 : 978-4041100011
- Amazon 売れ筋ランキング: - 232,366位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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上位レビュー、対象国: 日本
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2006年3月27日に日本でレビュー済み
この短編集に入っている「風と光と二十の私と」を読んで、わたしは一発で安吾のファンになってしまった。これは安吾のエッセー的作品になるのだが、その中で彼は繰りかえし「人を嫌いになりたくない」と書いている。子供達の描写が細やかで驚いた。安吾という人は様々な面をもっている。そう感じさせたのが、次に読んだ「白痴」。これは文体からして全く違う。
正直最初は何の話がしたいのかわからない。しかし、物語が進むにつれ、物語の芯が見えてくる。此れを自然に出来るのが安吾に天性の才があったからとしか思えない。
同書にはこの他6編が収められている。
正直最初は何の話がしたいのかわからない。しかし、物語が進むにつれ、物語の芯が見えてくる。此れを自然に出来るのが安吾に天性の才があったからとしか思えない。
同書にはこの他6編が収められている。
2009年4月21日に日本でレビュー済み
匂いって何だろう?
『白痴』『青鬼の褌を洗う女』は新潮文庫版でも読んだけど、面白かった。
『二流の人』は、奇を衒った時代小説かと思いきや至極全うな時代小説で、すごくおもしろかった。
黒田如水が一応の主人公だけど、小西行長や豊臣秀次を総括的に「二流の人」と呼び、時代に翻弄されつつも味のある人生を送った、一流ではないヒーローたちの物語。な気がする。
スティグマを持ったヒーローは、決して主役にはなれないということですね。そんなヒーローのほうが個人的には好きだけど。
苦しまなければならぬ。
できるだけ自分を苦しめなければならぬ。
人間の尊さは自分を苦しめるところにあるのさ。
君、不幸にならなければいけないぜ。
うんと不幸に、ね。
そして、苦しむのだ。
不幸と苦しみが人間のふるさとなのだから、と。
『白痴』『青鬼の褌を洗う女』は新潮文庫版でも読んだけど、面白かった。
『二流の人』は、奇を衒った時代小説かと思いきや至極全うな時代小説で、すごくおもしろかった。
黒田如水が一応の主人公だけど、小西行長や豊臣秀次を総括的に「二流の人」と呼び、時代に翻弄されつつも味のある人生を送った、一流ではないヒーローたちの物語。な気がする。
スティグマを持ったヒーローは、決して主役にはなれないということですね。そんなヒーローのほうが個人的には好きだけど。
苦しまなければならぬ。
できるだけ自分を苦しめなければならぬ。
人間の尊さは自分を苦しめるところにあるのさ。
君、不幸にならなければいけないぜ。
うんと不幸に、ね。
そして、苦しむのだ。
不幸と苦しみが人間のふるさとなのだから、と。
2018年2月28日に日本でレビュー済み
奥付に、昭和四十九年三月十日 初版発行改版、昭和六十三年十月三十日 改版二十九版発行、とある。1988年に購入し「白痴」を読み始めて投げ出した記憶がある。読み続けるのは厳しいと感じたからだ。改めて読み始めたが、やはり読み続けるのは厳しいと感じながらも、我慢して読了した。
「賤業」、「会社員的」と面白い言葉も飛び出すが、文体が統一されているわけではなく、幾つかの文体で書かれていて、概ねスッキリしない叙述である。ゆえに読み続けるのが厳しい。
太平洋戦争で日本の戦況が極端に悪化していく中で、蒲田辺りの路地のような町内会に住む27歳の伊沢。気違いと白痴という美男美女夫婦、そのうち婦の白痴が、伊沢の部屋に転がり込んできて肉体関係をもってしまうが、伊沢はそのことを町内の連中に知られたくないがための行動をとる。一方で、伊沢は文化映画の演出見習い勤務であり、芸術と戦意発揚映画製作とのはざまで葛藤する。また空襲が迫る中、伊沢は生き延びるために白痴の手を引いて必死に逃げながらもどうにでもなれとも開き直る。
ただ伊沢にとって、犬でしかない、肉の塊でしかない白痴という女の存在は何なのか、最後まで分からない。それは伊沢自身の何かであったり、伊沢自身の一部、あるいは、くだらない人間というものを暗喩しているのかもしれないが、読了後も分からずじまい。
戦時下での状況と心持ちを表現するには、白痴という仕掛けが必要だったのか、白痴という存在が必要だったのか、戦時下での状況と心持ち自体が白痴なのか、定かではない。
「白痴」にも出てくる、安吾の談論風発は痛快である。だが、文学が主張するためだけにあるのではないとすれば、白痴が何であるかを主張するのではなく、白痴のありのままを書き綴った「白痴」は、まさしく文学である。
「賤業」、「会社員的」と面白い言葉も飛び出すが、文体が統一されているわけではなく、幾つかの文体で書かれていて、概ねスッキリしない叙述である。ゆえに読み続けるのが厳しい。
太平洋戦争で日本の戦況が極端に悪化していく中で、蒲田辺りの路地のような町内会に住む27歳の伊沢。気違いと白痴という美男美女夫婦、そのうち婦の白痴が、伊沢の部屋に転がり込んできて肉体関係をもってしまうが、伊沢はそのことを町内の連中に知られたくないがための行動をとる。一方で、伊沢は文化映画の演出見習い勤務であり、芸術と戦意発揚映画製作とのはざまで葛藤する。また空襲が迫る中、伊沢は生き延びるために白痴の手を引いて必死に逃げながらもどうにでもなれとも開き直る。
ただ伊沢にとって、犬でしかない、肉の塊でしかない白痴という女の存在は何なのか、最後まで分からない。それは伊沢自身の何かであったり、伊沢自身の一部、あるいは、くだらない人間というものを暗喩しているのかもしれないが、読了後も分からずじまい。
戦時下での状況と心持ちを表現するには、白痴という仕掛けが必要だったのか、白痴という存在が必要だったのか、戦時下での状況と心持ち自体が白痴なのか、定かではない。
「白痴」にも出てくる、安吾の談論風発は痛快である。だが、文学が主張するためだけにあるのではないとすれば、白痴が何であるかを主張するのではなく、白痴のありのままを書き綴った「白痴」は、まさしく文学である。
2014年3月18日に日本でレビュー済み
大河ドラマで黒田官兵衛をやっている。そういえば海援隊の倭人伝というアルバムの「黒田官兵衛苦笑い 一生ツキがなかったと」という歌詞を思い出した。ネットで検索したら坂口安吾の小説から取ったらしいので、読んでみた。登場人物の切り取り方がシャープで、キャラが立っていて面白い。特に小西行長や伊達政宗。いい意味で漫画的。
2007年4月28日に日本でレビュー済み
エッセイを書かせては天下一品の安吾は小説家としては残念ながら"二流の人"であった。その安吾の特徴が良くも悪くも出ている作品集。
安吾はエッセイを通じ、漱石の諸作品が男女の愛を扱っているのにも関らず、生身の人間が描けていないと批判していた。ところが、安吾自身はもっと描けないのである。「白痴」では女性を無垢の存在にする事でしか、男女の愛を描けない。「二流の人」は皮肉な題名だが、竹中半兵衛の後継として秀吉の参謀を務めた黒田如水が、秀吉の天才的なアイデアの前で、二番手に甘んずるしかない様を描いたもの。だが、如水の深謀配慮のおかげで黒田家が徳川時代まで繁栄した事を考えると、やはり如水は一流の人だったのである。大阪の陣の際、家康が最も警戒した武将は如水だったと言う。
小説家としての安吾の評価が何故今一つなのか、実感できる作品集。
安吾はエッセイを通じ、漱石の諸作品が男女の愛を扱っているのにも関らず、生身の人間が描けていないと批判していた。ところが、安吾自身はもっと描けないのである。「白痴」では女性を無垢の存在にする事でしか、男女の愛を描けない。「二流の人」は皮肉な題名だが、竹中半兵衛の後継として秀吉の参謀を務めた黒田如水が、秀吉の天才的なアイデアの前で、二番手に甘んずるしかない様を描いたもの。だが、如水の深謀配慮のおかげで黒田家が徳川時代まで繁栄した事を考えると、やはり如水は一流の人だったのである。大阪の陣の際、家康が最も警戒した武将は如水だったと言う。
小説家としての安吾の評価が何故今一つなのか、実感できる作品集。
2021年4月7日に日本でレビュー済み
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半藤一利さんの「文士の遺言」を読んで興味を持ち購入しました。坂口安吾さんの本は難しいですが、何か心に響くものがありました。