身体が研ぎ澄まされた12人との対話であり、通奏低音として日本人の身体には、日本固有の風土・歴史・文化に裏打ちされた身体技法があるという内容である、当然、外国にもそれぞれ固有の身のこなし、身体技法がある。身体運用は、集団的な仕方で制度化されている。
例えば、近世までの武士と町人とは、挙措動作が異なっていてそれは、誰の眼にも明らかであった。性別・年齢・社会的立場により異なっていた。
ところで、日本人の身体運用は明治の文明開化及び敗戦により二度激変した。
それは例えば、武術とスポーツの違いである。
スポーツは、ヨーロッパ由来であくまで相手を対象化する。武術は、一体化する。
楽器を例に採るとヨーロッパでは、人間にとっての使い勝手を良くするため楽器を改良する。他方、日本では、寧ろ逆に楽器を単純化し人の操作技術を極度に高める。
スポーツに於いては、筋肉重視となり行き着く処はドーピングである。武術は、身体運用つまり質の高度化を目指した。筋肉の肥大なぞ重たくそして、鈍感となるので有害無益という訳である。また、スポーツは、起点を置き反動を利用する。武術は、これを居着き・遅いと言って嫌う。
そのような身体運用により、戦前の小柄な女性でも身体全体を有機的に使うため現代人からみれば驚異的な重量を運んでいた。
ブルース・リーの筋肉は、バレーの専門家によると男性ダンサーがリフトという女性を持ち上げるように人間に触って出来た筋肉だという。武術の達人に見られるように細かく割れているのだ。それは、単純なウェイト・トレーニングでは作れない。
大相撲の話も面白い。
栃・若も強かったが、体軸が直立していなくスポーツ的な前傾姿勢であった。双葉山に較べると次元が異なるという。筋肉と質の異なる動きの差である。勝負しても問題にならない。それは、69連勝という記録が物語っている。双葉山は、体が甘く柔らかかったのである。それは、体を割って万遍なく使い深層筋を使っているのである。朝青龍の動きには、多少なりともそれが在ったということである。
女流義太夫鶴澤寛也も同様、古典芸能の深みが語られていて興味深い。
譜面は、有って無いようなものである。義太夫とは、「模様を弾く」ものだからである。
そして、太夫とは、闘う関係ではなく一体となり「場」に参入するものである。指揮者がいて分業が徹底しているオーケストラとは成り立ちも構造も異質のものである。
日本的身体なるものは、一面では「ゾーン」に入ると同じと言ってもいい。
それは、一人でも、複数人でも、物とでも、世界とでも「場」として「共感」する事によって鳥瞰的に「全てが観える」状態という同化するための技術を磨くことである。それは、師匠の真似から始まり=共感・同期・共振=無分節・無我である。
鶴澤寛也は、全くの素人からその世界に入り修行したため、かなり言語化する事が可能となっている。
そのため、素人でもある程度は古典芸能が理解できる。
義太夫節には、家元制度がなく師範とかの階梯もなく独立という概念もないという古典芸能には珍しい形態である。
修業は、非常に厳しく一回で覚える能力を要求する。それは、師匠の真似によりカラダで覚えるもので言葉を介さない。
日本的身体は、道具(楽器とか剣)も対象とはしない。一体となる。
ヨーロッパとは、極めて異質であるバックグラウンドは何であろうか。
沙漠の世界と異なり、日本は子どもの足でも歩ける範囲に動物も植物も無限の多様性を示している(養老孟司)、ではないだろうか。
グローバル化・グローバル・スタンダード(実質人工国家アメリカ化)とは、単なる頭の遊戯ではないだろうか。

無料のKindleアプリをダウンロードして、スマートフォン、タブレット、またはコンピューターで今すぐKindle本を読むことができます。Kindleデバイスは必要ありません。
ウェブ版Kindleなら、お使いのブラウザですぐにお読みいただけます。
携帯電話のカメラを使用する - 以下のコードをスキャンし、Kindleアプリをダウンロードしてください。
日本の身体 単行本 – 2014/5/30
内田 樹
(著)
使うほどに発見がある、私たちの身体――運用の達人12人との、名物対談集! 漫画、茶の湯、文楽からラグビー、大相撲、マタギまで、自らも能楽と合気道に親しむ著者が、日本独自の身体運用の達人たちと語り合い、それぞれの魅力を引き出す対話集。“身体の使い方は集団的に決定されており、日本人には固有の技法がある。が、そこには合理的な理由がある”―― 著者渾身の原稿「日本の身体仮説」も必読!
- 本の長さ271ページ
- 言語日本語
- 出版社新潮社
- 発売日2014/5/30
- 寸法13.3 x 2.1 x 19.1 cm
- ISBN-104103300132
- ISBN-13978-4103300137
登録情報
- 出版社 : 新潮社 (2014/5/30)
- 発売日 : 2014/5/30
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 271ページ
- ISBN-10 : 4103300132
- ISBN-13 : 978-4103300137
- 寸法 : 13.3 x 2.1 x 19.1 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 668,732位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
著者について
著者をフォローして、新作のアップデートや改善されたおすすめを入手してください。

1950(昭和25)年東京都生まれ。東京大学文学部仏文科卒。現在、神戸女学院大学文学部総合文化学科教授。専門はフランス現代思想。ブログ「内田樹の研究室」を拠点に武道(合気道六段)、ユダヤ、教育、アメリカ、中国、メディアなど幅広いテーマを縦横無尽に論じて多くの読者を得ている。『私家版・ユダヤ文化論』(文春新書)で第六回小林秀雄賞受賞、『日本辺境論』(新潮新書)で第三回新書大賞を受賞。二〇一〇年七月より大阪市特別顧問に就任。近著に『沈む日本を愛せますか?』(高橋源一郎との共著、ロッキング・オン)、『もういちど村上春樹にご用心』(アルテスパブリッシング)、『武道的思考』(筑摩選書)、『街場のマンガ論』(小学館)、『おせっかい教育論』(鷲田清一他との共著、140B)、『街場のメディア論』(光文社新書)、『若者よ、マルクスを読もう』(石川康宏との共著、かもがわ出版)などがある。
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
2014年7月15日に日本でレビュー済み
感性に秀でた方々の対談に触れられて参考になりました。
ただ、内田氏の何何はこうであると言い切ってしまう言動とやたら横文字を多用する文に少し不快を感じました。
だからこその深いところまで話を展開出来るんだと思いますので
ご興味のある方はご一読を。
ただ、内田氏の何何はこうであると言い切ってしまう言動とやたら横文字を多用する文に少し不快を感じました。
だからこその深いところまで話を展開出来るんだと思いますので
ご興味のある方はご一読を。
2018年11月4日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
本屋さんの書棚から買い求めてきた感じです。ページから漂ってくる香りも心地よく、読書意欲が倍増です。
2017年4月1日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
内田さんの持論もあり、他業種との観想の他流試合ともいえる。よく読むほどに、自分のからだを動かさないで、理解したつもりになっていけないと思った。それだけで大きな収穫。
2014年7月6日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
内田先生とは親しくないが、面識があります。
この人は かしこすぎて、わかったような
わからない人です。
大学教授というより、政治家だと思う。
この本の対話もかみあっているような
かみあっていない内容です。
この人は かしこすぎて、わかったような
わからない人です。
大学教授というより、政治家だと思う。
この本の対話もかみあっているような
かみあっていない内容です。
2015年2月17日に日本でレビュー済み
以下の12人との対談。(『考える人』連載、コメントは評者)
1 千宗屋(茶道家) 武者小路千家跡継ぎ、五感を全て使う
2 安田登(能楽師) 宝生流ワキ方、ロルファー(身体のバランス回復術)
3 桐竹勘十郎(文楽人形遣い) いきなり本番が稽古
4 井上雄彦(漫画家) スラムダンク・バガボンド作者
5 多田宏(合気道家) 植芝盛平の弟子、著者の師匠
6 池上六朗(治療者) 三軸修正法(著作あり)
7 鶴澤寛也(女流義太夫) やめない、あがらない人がプロ
8 中村明一(尺八奏者) 密息(著作あり)
9 安部季昌(雅楽演奏家) 楽家29代目
10 松田哲博(元大相撲力士) 現役24年
11 工藤光治(マタギ) 白神の森
12 平尾剛(スポーツ教育学者) ラグビー
この中で評者が事前に知っていたのは、安田登、中村明一の2人だけ。
でも、読んでみればどの話もとても興味深く、面白い。
中でも井上雄彦がなぜ「身体」といぶかったが、バガボンド=宮本武蔵で納得。
漫画を読む習慣がないので、恥ずかしながら、大漫画家の名前すら知らなかった。
この長編シリーズに挑戦してみたくなった。
桐竹勘十郎もいい。3人で1体の人形を遣うが、ぶっつけ本番(稽古は不要!?)を繰り返していたら、身体がシンクロしてくるそうだ。話を聞いていると、一度生で見てみたくなる。合気道もこのシンクロが重要で、合い通じるところがあるという。
評者はスポーツには関心がなかったが、今は毎日泳いでいる。
その興味は泳ぐこと自体よりも身体のコントロールの研究、だから常にフォームを変えながら泳ぐ。本書も参考になるような気がする。
1 千宗屋(茶道家) 武者小路千家跡継ぎ、五感を全て使う
2 安田登(能楽師) 宝生流ワキ方、ロルファー(身体のバランス回復術)
3 桐竹勘十郎(文楽人形遣い) いきなり本番が稽古
4 井上雄彦(漫画家) スラムダンク・バガボンド作者
5 多田宏(合気道家) 植芝盛平の弟子、著者の師匠
6 池上六朗(治療者) 三軸修正法(著作あり)
7 鶴澤寛也(女流義太夫) やめない、あがらない人がプロ
8 中村明一(尺八奏者) 密息(著作あり)
9 安部季昌(雅楽演奏家) 楽家29代目
10 松田哲博(元大相撲力士) 現役24年
11 工藤光治(マタギ) 白神の森
12 平尾剛(スポーツ教育学者) ラグビー
この中で評者が事前に知っていたのは、安田登、中村明一の2人だけ。
でも、読んでみればどの話もとても興味深く、面白い。
中でも井上雄彦がなぜ「身体」といぶかったが、バガボンド=宮本武蔵で納得。
漫画を読む習慣がないので、恥ずかしながら、大漫画家の名前すら知らなかった。
この長編シリーズに挑戦してみたくなった。
桐竹勘十郎もいい。3人で1体の人形を遣うが、ぶっつけ本番(稽古は不要!?)を繰り返していたら、身体がシンクロしてくるそうだ。話を聞いていると、一度生で見てみたくなる。合気道もこのシンクロが重要で、合い通じるところがあるという。
評者はスポーツには関心がなかったが、今は毎日泳いでいる。
その興味は泳ぐこと自体よりも身体のコントロールの研究、だから常にフォームを変えながら泳ぐ。本書も参考になるような気がする。
2014年6月19日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
身体がこころを決めると思っているので身体からこころをとらえるためには素晴らしい内容だ。
2014年9月3日に日本でレビュー済み
茶道(武者小路千家)、能楽、文楽、漫画、合気道、大相撲など日本文化と呼ばれる物の達人さんたちとの対談集である。
確かに、茶道と漫画の対談は「読んだ価値があった」と感じた。茶道は私の家にも茶室があるので(裏千家だが)、面白く感じたことから。漫画は、バガボンドの作者が甲野善紀氏との関わりがある事とスラムダンクの秘話を知れたからである。
ただ、その他の対談は正直言って「分かりにくかった」
特に能楽。作者自身が能楽も詳しいからか、他の対談以上に専門用語のオンパレードであり、しかも解説も少ない。
それ以上に、写真が巻初めに少しあるだけで「いったいどんな動きをしているのか」が分かりにくい。
題材としては非常にいいものを扱っているので、対談DVD、少なくとも対談付き写真集という体で作っていただいていたらと思われる非常に惜しい作品である。
数少ない写真からでも「この人たちの立ち居振る舞いが並のものではない」ことは分かるだけに。
また気になった点として「作者の独自理論」がある。
理論自体が分かりにくい上に、その証明しようがない独自理論をもって「日本は世界で一番素晴らしい」というのだが。
よく読むと作者が体験した国は日本とフランスのみ。アジア、アフリカ、南米を市販本の知識から談じているに過ぎない。
これはいただけない。
「ドイツ国民は、世界一文法が複雑なドイツ語を話せるから世界一優秀」だとしたヒトラーと大差ないではないか。
ちょっと視点を変えれば「韓国人は世界一すごい」と当人達しか言ってないことを主張しているのとも似ているように見える。
この独自理論を受けた側の対談相手さんたちは、軽く流すか聞かなかった事にして話を進めているのであるが。
題材と対談相手の人選が良いだけに、伝え方と著者が違えば歴史に残る大作となり得ただろう作品。
確かに、茶道と漫画の対談は「読んだ価値があった」と感じた。茶道は私の家にも茶室があるので(裏千家だが)、面白く感じたことから。漫画は、バガボンドの作者が甲野善紀氏との関わりがある事とスラムダンクの秘話を知れたからである。
ただ、その他の対談は正直言って「分かりにくかった」
特に能楽。作者自身が能楽も詳しいからか、他の対談以上に専門用語のオンパレードであり、しかも解説も少ない。
それ以上に、写真が巻初めに少しあるだけで「いったいどんな動きをしているのか」が分かりにくい。
題材としては非常にいいものを扱っているので、対談DVD、少なくとも対談付き写真集という体で作っていただいていたらと思われる非常に惜しい作品である。
数少ない写真からでも「この人たちの立ち居振る舞いが並のものではない」ことは分かるだけに。
また気になった点として「作者の独自理論」がある。
理論自体が分かりにくい上に、その証明しようがない独自理論をもって「日本は世界で一番素晴らしい」というのだが。
よく読むと作者が体験した国は日本とフランスのみ。アジア、アフリカ、南米を市販本の知識から談じているに過ぎない。
これはいただけない。
「ドイツ国民は、世界一文法が複雑なドイツ語を話せるから世界一優秀」だとしたヒトラーと大差ないではないか。
ちょっと視点を変えれば「韓国人は世界一すごい」と当人達しか言ってないことを主張しているのとも似ているように見える。
この独自理論を受けた側の対談相手さんたちは、軽く流すか聞かなかった事にして話を進めているのであるが。
題材と対談相手の人選が良いだけに、伝え方と著者が違えば歴史に残る大作となり得ただろう作品。