元となる映画はとても素晴らしいドキュメンタリー映画です。映画にはロドリゲス以外のBGMも多数使われていますが、オリジナル・サウンドトラックとしてリリースされた本作はおそらく監督/製作者らのロドリゲスに対するリスペクトにより彼の楽曲のみ収録されています。まずそれがとても素敵です。
内容はロドリゲスの2アルバム+未発表に終わった幻の3作目から構成されていてロドリゲスのベスト・アルバムとして機能しています。このレビュー執筆時点でPrime会員は2アルバム『Cold Fact』『Coming From Reality』のどちらもPrime Musicで全曲聴けますが(!)、アメリカでまったく売れなかったのがわかるというか1回でわしづかみにされるようなインパクトはまったくなく、なかなかヘビールーチン入りしません。1970年のリリース時点で70年代Frijid Pink風サイケデリック+60年代Animals風アレンジ+50/60年代風フォーク曲が混在していてレーベルもプロデューサーもロドリゲスを捉えることができなかったように感じます。
本作はそれらの中から重要曲のみがよりすぐられていて、オリジナル2アルバムを遥かに凌駕しています。それでもなおキャッチーでもなければインパクトも極薄で、映画つながりのない人にアピールしにくいはずです。そんな本作ですが、わたくしのヘビールーチン入りしている理由は一生抜け出すことができない都会の貧困や打ちのめされるような人生の不平などを誰よりも鋭く、しかし淡々と、怒りや不満を含めずに歌い上げていて、プロテストソングという表面のすぐ向こうにロドリゲスの誠実・純粋といった肯定的で前向きな精神に触れることができるからです。
6曲目の"This Is Not A Song, Its An Outburst: Or, The Establishment Blues"は打破されるべき支配層がありながらまったく有効に機能しない被支配層の現実を2分の曲なかに凝縮しています。麻薬の売人に訴える"Sugar Man", 現実から逃避ができないことを知らされる"Can't Get Away", 社会からはみでた存在を直視して認めることを即す(ようにきこえます)"Street Boy"などから、普段触れたくない&忘れたい人生や社会の現実に連れ戻してくれます。
ナイフのように鋭い歌詞ですがその鋭利は決してリスナーに向けられていません。失われた愛を憎むことなく歌い上げる"I'll slip away"や"Crucify your mind"にロドリゲスの他に対する深い愛情やいたわりがあります。それら全14曲を聞き終わるととても心地よくなります。
なにが悪かったのかミキシングやアレンジはまったくいけてないですが、どれも些細なことのように思えてしまいます。ロドリゲスという名の現代の稀有な詩人のすべてが含まれています。可能であれば歌詞を探索してみてください。総評としてとてもオススメです。