その昔『おらんだ左近事件帖』という時代劇があったことは薄っすら記憶している(改めて調べたら1971-72年にフジテレビ系で放映され、主演は高橋英樹)。ところが、その原作者が柴田錬三郎とは、本書を手にして初めて知った。そもそも、この『おらんだ左近』という作品、ウェブで探しても情報がほとんどないのだ。辛うじて、1972年に単行本が実業之日本社から発刊されたことは分かったのだが、初出誌がどこなのか、不明。時期を考えると、テレビ化を前提に原作を書き下ろしたようにも見える。
何故こんなことをだらだら書いたかというと、本作の物語がとても中途半端に思えるからだ。全6話の短編連作ではあるが、全編に通底するテーマは特にない。主人公・おらんだ左近は、尾張徳川家の妾腹の子で、嫉妬深い正室に気兼ねした当主のお陰で幼少期を日陰の身におかれた挙句に出奔。西に流れ、海の孤島に無名の剣豪を師事して天稟を開花させたり、長崎ではオランダ医学を修めたりと、経験知を積んで江戸のおんぼろ寺に居候を決め込むとともに診療所を構える。
左近は頭脳明晰で剣の腕もたち、周囲に起こるさまざまな謎めいた事件を華麗に解決…と、本書解説にもあるように、まさに明朗快活な眠狂四郎といった趣きなのだが、それがどうもピンとこない。環境の不遇さに対して屈託がなさ過ぎないか? また尾張に生まれ、青年期を西国方面に過ごした彼が何の故あって東に下り江戸に至るのか? 事程左様に本作の設定は整合性に欠けるし、説明不足である。漢籍を始めとした柴田錬三郎の博学振りが存分に駆使されて立派なエンタテインメントに仕上げてはあるものの、ホントにテレビ用にやっつけた原作なのかも知れない。不可解なことが多過ぎて、『眠狂四郎』シリーズのように素直に楽しめない妙ちきりんな代物だ。

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おらんだ左近 (集英社文庫) 文庫 – 1984/12/14
柴田 錬三郎
(著)
悪は叩っ斬る!剣の達人に師事し、その奥義を会得し、長崎で医術を修めた素浪人・左近は江戸へ向かった。その道中で、奇怪な事件が次つぎと起きる。胸のすく時代小説。(解説・武蔵野次郎)
- 本の長さ360ページ
- 言語日本語
- 出版社集英社
- 発売日1984/12/14
- ISBN-104087508315
- ISBN-13978-4087508314
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登録情報
- 出版社 : 集英社 (1984/12/14)
- 発売日 : 1984/12/14
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 360ページ
- ISBN-10 : 4087508315
- ISBN-13 : 978-4087508314
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,311,702位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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