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なぜ日本は没落するか ハードカバー – 1999/3/5
森嶋 通夫
(著)
このテーマについて執筆を進めているあいだ,私は非常に悲観的にならざるをえなかった-17年前『なぜ日本は「成功」したか』を記した著者が,いま,なぜ日本没落を予想せざるをえないのか.かなり高いレベルの生活水準を持つ,国際的にはあまり重要でない国,それが著者の見る,21世紀半ばの日本のイメージである.
- 本の長さ205ページ
- 言語日本語
- 出版社岩波書店
- 発売日1999/3/5
- ISBN-104000015508
- ISBN-13978-4000015509
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商品の説明
内容(「MARC」データベースより)
日本はいま危険な状態にある。次の世紀の中央時点2050年に照準を合わせ、その時に日本は没落しているかどうか、なぜこんな国になったのかについて考察する。
登録情報
- 出版社 : 岩波書店 (1999/3/5)
- 発売日 : 1999/3/5
- 言語 : 日本語
- ハードカバー : 205ページ
- ISBN-10 : 4000015508
- ISBN-13 : 978-4000015509
- Amazon 売れ筋ランキング: - 171,325位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 18,569位ビジネス・経済 (本)
- カスタマーレビュー:
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2024年2月23日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
現在の日本の状況が主としてどのような要因によって生じているのかを、20世紀末に説明していた稀有な本だと思います。20世紀の初めに書かれた「大衆の反逆」(オルテガ)に相当する、日本人のための著作だと思います。現在の日本はまだこの本で指摘されている課題を克服できていません。
2023年1月5日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
日本の見方に対して、新しい視点をくれた1冊。自分も含めた戦後世代が、日本をどうしていくか、今後の日本をどうしていきたいかが問われていると感じた。
2023年10月15日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
本は、大変綺麗で対応も迅速で満足しています。
2023年3月20日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
著者はイギリスの名門大学London School of Economics(Schoolは総合大学でなく単科大学のこと)の名誉教授で、1970年から1988年まで教授を務められ多くの業績を残されましたが惜しくも2004年に他界されました。
本書は1998年の時点で2050年の日本の状態を予測したものですが、2023年の現状を見ただけでも25年前の予測がまさに正確で、没落の理由についても的確に分析されていることに感嘆します。しかし、ただ感心している場合ではないのです。実は本書は恐るべき絶望の書であり読む者を暗澹とした気持ちにさせます。著者の予測によれば、日本は今後2050年に向けて没落につぐ没落を続け、もはやそれを救うことは出来ないからです(東北アジア共同体案については後述)。
日本がこのまま没落を続けた場合、我が国は将来どうなっているのでしょうか。弱小国ではあっても独立国という形を保持出来ているのか、あるいはアジアの大国に併合あるいは属国化されている可能性の方が大きいのかと心配します。
第2章「人口の分裂」で、まず人口減少が深刻な問題であることが指摘されます(9-11頁)。政府の少子化対策や企業の女性や配偶者に対する配慮も必要ですが、それだけでは人口減少曲線を多少緩やかにすることが出来てもV字回復はかないません。労働人口の減少は日本経済を破滅させ社会福祉制度の維持を不可能にします。著者にはこの点について解決策を聞きたかったところです。
「戦後の教育改革の影響」から「社会変動に不感症の悲劇」(11~30頁)では戦前教育を受けた世代と戦後民主教育を受けた世代の断裂が書かれていますが、前者は消え去る世代です。しかし若い世代の投票率の低さに表れる政治への無関心さは指摘されるように大きな問題です。1998年の時点で著者に予測出来なかったことにスマートフォンやSNSの普及があります。電車の中でさえ常にスマートフォンをいじっている世代に政治への関心を期待するのが無理なのかもわかりません。また、SNSという仮想空間に生きている人間には現実世界を実感することは難しく、またいわゆるフェイクの影響を容易に受けてしまいます。
若者世代が政治に背を向けることにより、日本の政治は依然として「ムラ社会の政治(19~20頁)」であり続け、政治家であるべき人達はただの政治屋にすぎません。本来政治家は国のあるべき姿を構想し、それに向けて舵をとるリーダーであるはずですが、ムラ社会において政治家の頭にあるのは党利党略、派閥そして自身の再選並びに閣僚や議員としての地位に付随する甘い汁(金)を吸うことだけです。著者が政治家に求めるのは国に対する正しく大きな構想とイノベーションです。そのようなカリスマ性を持った政治家が出てこないと、国としての日本の評価は没落する一方ですし、それには一般国民(有権者)も大きな責任があります。
第3章「精神の荒廃」ではエリート主義の欠如により社会をリードする者がなくなり、「物質主義者・功利主義者になるための教育を受けた若者世代は、倫理上の価値や理想、また社会的な義務について語ることに対しては、何の興味も持たない。(48頁)」と述べられています。「日本の経済を根本的に改革し、公平な競争に基づいた経済を築くためには、贈収賄や共謀・脅迫などを拒否する強力な倫理的バリケードが必要であるが、それらを構築して現在の若者を防衛するには時すでに遅しと見なければならない(49頁)。」
第4章「金融の荒廃」と第5章「産業の荒廃」では、まずバブルとその破綻、そして株価の時価発行というエクイティ・ファイナンスが金融システムに与えた衝撃(75頁)について述べられています。さらに、ドル建て決済が可能になったことによる円の価値の下落について書かれています。バブル崩壊はまた達成不可能な経営目標を設定したノルマ経営を導き、これが社員のモラルを崩壊させた(77頁)とあります。かつて、政府、官僚、企業は鉄の三角形の結束をもってオイル危機を乗り切ってきたが、そのなれ合いが同時に職業倫理の荒廃を招いてしまったと書かれています(96頁)。
破壊された経済体制の修復の一つの手段として著者は自分の確信する職業倫理に企業が反する運営を行っていると社員が感じたら、その職場を捨ててより自分に適した職場に移動するようなシステム(労働斡旋)がもっと数多く開設されるべきと述べられています(105頁)。
第6章「教育の荒廃」では大学への高い進学率によるエリート主義の欠如と無気力(31~61頁)について指摘されています。大量に大学に入った学生の多くが勉強らしい勉強をせず4年間過ごし、それでも無事卒業して学士号を得ていることは事実です。また、一方的に「講義」という形で上から下への知識の受け渡しを行い、知識の暗記だけで学生に自発的に考えさせるということをしない教育はイノベーションを生み出さないと批判しています。「日本がいま必要としているのはいわゆる博学の人ではなく、自分で問題を作り、それを解きほぐすための論理を考え出す能力を持った人である(132頁)。」そして、教育内容を向上させて本来の活力ある教育を取り戻すための教育改革がされておらず、教育関係者も政治家もそのことに無関心なことも事実です。
著者は教養課程を廃止して現在の4年制を2年制に圧縮し高度の教育を行うという改革案を提示しています(139~142頁)が、これについては少々異論があります。私は文科系については全く知らないのですが、少なくとも理科系の場合にはまず基礎となる専門知識を身に着ける期間(例えば2年間)が必須であり、そのために最低4年制(現行医学部薬学部は6年制)は必要と考えます。高校の習得科目を減らし、大学入試を簡単にあるいは廃止するという案(140頁)には賛成です。
ここで、非常に僭越ではありますが、私の大学改革案を少しだけ述べさせて下さい。まず、教養課程は廃止します。そして、一部の学部・学科を除いて大学教育は総て英語によるものとします(教科書、講義、討論、レポート、試験など)。現在でも10以上の私立大学で英語だけによる教育がなされているのでやってやれないことはありません。また、2年次終了の際に試験を行い20~30%の学生を不合格として退学させます。(1年終了時に、学習継続の自信の無い学生には自主退学を勧めます。)また、卒業前に再度試験を行い10~20%の学生を不合格として留年(再度4年次を履修する)させます。留年して再度試験を受け不合格の場合は退学させます。また、入学後2年間は専門知識を得るために講義を主としますが、残りの2年間は学生自身に独自の考え方を身に着けさせるためにレポート提出と面接および討論を大幅に取り入れます。この改革は国立大学から始めます・
但し、勿論例外もあります。真の天才である学生についてはいち早くそれを見抜き、大幅な飛び級をはじめとする特別の処遇を行うことが必要となります。多様化に伴ってそのような学生も増えてくることが考えられます。
これで学生の数が減り余裕が出て高度の教育が出来るのではないでしょうか。勿論、大学院も英語教育です。日本の大学および大学院が英語教育になると優秀な留学生が世界中から集まり、多様な考え方に触れることにより日本人学生は大きな刺激とインスピレーションを受けることになります。
一方、大学でなくても進学を望む者には大学レベルの専門学校を充実し、実務学習だけでなく自分で起業する方法(関連する経済法律の講義を含む)を身につけさせます。これにより、若い野心的な起業家が続々と現れてくることが期待されます。英語教育がどうしても無理という大学は専門学校に転換させます。
このような一見過激な改革案を文部省の「審議会」にかけた場合に拒否されるのは目に見えていますので(143頁)、「日本の没落」について真剣に憂慮する政治家の強いリーダーシップが必要です。いずれにせよ、勉強しない学生達に対して国は莫大な教育予算を割いていますので、思い切った改革が必要です。余剰となった教育予算はアルバイトなしで勉強に集中しなければならない学生への無償奨学金に回すべきと考えます。
第7章「ただ一つの解決策」(147~159頁)で著者は「東北アジア共同体」を提唱しています。日本の没落を止める唯一の解決策として、日本、中国(6ブロックに分割)、朝鮮半島、台湾、琉球(独立国化)からなるEUに似た共同体を立ち上げ、首都を定め、共同で資源開発やインフラ整備を行い、将来的には統一通貨も作るというものです。
著作を何冊か読ませて頂き、著者を心から尊敬してきた私はここでがっかりしたというよりも愕然としました。世界覇権を狙う国があり核戦略を第一の国策とする国があるというこの地域の政治状況を見た場合、他の評者も言っておられるようにこれは夢物語以外の何物でもありません。国内の将来像を予測することは出来ても世界の将来を予測することは誰にとっても不可能です。他力本願の解決策は意味をなしません。EUはそれが成立する歴史的政治的下地があってこそ出来たものです。現在の東アジアに残念ながらそれはありません。
第8章「救済策への障害」では日本の右傾化と歴史修正主義について強く警鐘を鳴らしています。海外に居住していると自然に愛国的になり、祖国に対する外国人による批判にはむきになって反論します。そして、「大海を知らぬ」祖国の人々の行状を外国から「はらはらしながら」見守るのです。
著者は「没落が進行すれば、右傾化は強くなるだろう(178頁)」と述べています。著者が最も懸念しているのは一部の歴史修正主義者達が太平洋戦争について事実に反することを主張し、中学や高校の歴史教科書の書き換えを意図していることです(169頁)。これらの人達は一言でいえばまさに「大海を知らぬ井の中の蛙」であり、狭い井戸の中で「左翼的自虐史観」などと存在もしないことをあげつらってぶつぶつ呟きあっています。植民地主義で西欧に遅れをとった後進国日本がいかにして無謀な戦争を始め、拡大させ、そしてその結果がどうなったかという苦い歴史はそのまま若い世代に伝えなければなりません(184~185頁)。この戦争の歴史を捻じ曲げて正当化しようとするのは(179頁)愛国と逆のことです。
いじめっ子はいじめたことをすぐ忘れますが、いじめられた者はそのことをいつまでも忘れません。殴られた方は殴られたことをいつまでも覚えています。なんでも時が速やかに水に流してくれると考えるのはいじめた方の一方的で都合の良すぎる考えです。日本軍に占領されたアジアの国々は当時のことを忘れませんし、現在最大の同盟国であるアメリカは真珠湾奇襲のことを決して忘れません。愚策中の愚策であった真珠湾奇襲のために日系米人は収容所に入れられ、アメリカ人の多くは現在でも広島および長崎に対する原爆投下について真珠湾奇襲を持ち出して正当化します。
日本の閣僚や議員の一部が靖国参拝を行う度にアジアの国々だけでなくアメリカ議会でも反発が起こり大統領はそれを抑えるのに苦労します。そして、日本に対してそれとなく苦言を呈しています。将来、日本が没落して世界における存在感を失った場合に、アメリカが日本を見捨てるということは実際に考えられることです。そのようなことは「世界を知ろうとしない」閣僚や議員達には理解できないことでしょう。
「付記 社会科学の暗黒分野(197~206頁)」では、ごく最近問題になった新興宗教団体の問題を見通したような記述に感嘆しました。これが25年前に書かれたとは思えないほどで、信者個人や親族の問題であると同時に政治がらみの非常に大きな問題です。
さて、私は著者が「ただ一つの救済策」として提案された「東北アジア共同体」を無礼にも夢物語として一蹴してしまいました。それでは、お前はそれに代わる案を持っているのだろうなと詰問されるのは当然です。そこで、私の考えを少しだけ述べさせて下さい。
私の案というのは「多様性を受け入れる」つまり、欧米諸国に比べて厳格すぎる日本の政策を見直し、移民や難民の受け入れ数をある限度をもって増やすということです。現在国内に在住する外国人は約300万人(人口の2.3%)と言われます。島国根性のかたまりというべきイギリスではこの数字は全体で14%、ロンドンでは36%に達します。また、現在のイギリス首相はインド系移民の二世です。私は日本でも慎重にではありますが、多様な人々(移民)を将来的に人口の10%まで増やしてよいのではないかと考えます。まず、少子化問題はこれで解決します。
多様化で重要なのは、言葉の通り多様な文化、背景、生き方、考え方を持つ人々を受け入れることにより、日本そのものが多様化して良い意味の刺激とエネルギーを受けることです。しかし、移民を増やすことにはプラス面とマイナス面があります。良質の移民(日本の繁栄に役立つ人々)を受け入れる政治と役所(移民局)の対応が重要です。また、受け入れ側が移民に対して偏見、差別、排斥などを行った場合には、移民同士が同じ地域に固まって暮らし、いわゆるゲットーを形成してこれは最悪で犯罪の温床ともなります。移民がうまく日本人の中に溶け込めるような施策そして住民の寛容な姿勢が必要です。
没落しつつあるとは言え、少なくとも現在の日本は高度の医療技術を持ち、医療の国民皆保険は世界に誇れるものです。介護(介護保険)が充実しており、教育のレベルも比較的高く、治安がよく、独特の文化を持ち、公共交通機関に関してその正確さは定評があります。また、地方では中古の住宅が安く手に入り衛生意識が高いなどと移住を考える人々にとって魅力のある国です。一つの壁は日本語でしょう。また近年の低賃金と円安は日本で働きたいという優秀な人材を集める障害になります。
著者は高校の教育改革に関して「もっと実用的な(日常生活に役に立つ)英語を教える(135頁)。」と書かれていますが、外国語の会話は必要性が無いと決して上達しません。移民の増加に伴って日本全体がバイリンガル化してゆくことになります。地方や中央の官公庁、病院その他もバイリンガルとなります。もちろん、バイリンガル化は移住者にも求められることです。将来の日本の首相は公式の場において日本語の原稿を読み上げるだけではなく、非公式の場で海外首脳と英語で自由に話し合い世界での地位を高めてゆき、世界における日本の存在感を増すことでしょう。
多様な人々のアイデアは資源の無い日本の産業を活性化し、新しい形のシリコンバレーを各地に出現させて日本経済を再生させると考えます。また、留学生(大学の英語教育化により言語の壁はない)のうち、日本に留まって各分野で活躍する人々も増えるでしょうし、移住者を巻き込んだ村や町おこしもあるでしょう。移民政策の成功は一に住民の受け入れ姿勢にあります。古代ローマの繁栄(パクスロマーナ)は征服蛮族をも正式なローマ市民としたローマ帝国の寛容政策にあったことを忘れてはなりません。
実は、多様化は既にスポーツ界、芸能界、国際的企業、世界的研究所などでは当たり前のこととして進行しています。この波が広く一般化するかどうかというだけです。
エレベーターに乗っている人は表示板を見ない限り、自分が上や下に移動していることに気付きません。ぬるま湯につかっていた私は日本が没落しつつあるという実感を持っていませんでした。本書を読み、没落の原因を詳しく知ることにより、没落しつつあるということに気付くことができました。日本がこのまま没落を続けて線香花火のように消えて無くなるのを待つか、思い切った改革によりそれを防いで世界に存在感を示すかの二者択一の選択が国民全体に課せられていると思います。
政財官学界は勿論のこと、一般の人々にも広く読んでいただきたい本として推奨致します。
本書は1998年の時点で2050年の日本の状態を予測したものですが、2023年の現状を見ただけでも25年前の予測がまさに正確で、没落の理由についても的確に分析されていることに感嘆します。しかし、ただ感心している場合ではないのです。実は本書は恐るべき絶望の書であり読む者を暗澹とした気持ちにさせます。著者の予測によれば、日本は今後2050年に向けて没落につぐ没落を続け、もはやそれを救うことは出来ないからです(東北アジア共同体案については後述)。
日本がこのまま没落を続けた場合、我が国は将来どうなっているのでしょうか。弱小国ではあっても独立国という形を保持出来ているのか、あるいはアジアの大国に併合あるいは属国化されている可能性の方が大きいのかと心配します。
第2章「人口の分裂」で、まず人口減少が深刻な問題であることが指摘されます(9-11頁)。政府の少子化対策や企業の女性や配偶者に対する配慮も必要ですが、それだけでは人口減少曲線を多少緩やかにすることが出来てもV字回復はかないません。労働人口の減少は日本経済を破滅させ社会福祉制度の維持を不可能にします。著者にはこの点について解決策を聞きたかったところです。
「戦後の教育改革の影響」から「社会変動に不感症の悲劇」(11~30頁)では戦前教育を受けた世代と戦後民主教育を受けた世代の断裂が書かれていますが、前者は消え去る世代です。しかし若い世代の投票率の低さに表れる政治への無関心さは指摘されるように大きな問題です。1998年の時点で著者に予測出来なかったことにスマートフォンやSNSの普及があります。電車の中でさえ常にスマートフォンをいじっている世代に政治への関心を期待するのが無理なのかもわかりません。また、SNSという仮想空間に生きている人間には現実世界を実感することは難しく、またいわゆるフェイクの影響を容易に受けてしまいます。
若者世代が政治に背を向けることにより、日本の政治は依然として「ムラ社会の政治(19~20頁)」であり続け、政治家であるべき人達はただの政治屋にすぎません。本来政治家は国のあるべき姿を構想し、それに向けて舵をとるリーダーであるはずですが、ムラ社会において政治家の頭にあるのは党利党略、派閥そして自身の再選並びに閣僚や議員としての地位に付随する甘い汁(金)を吸うことだけです。著者が政治家に求めるのは国に対する正しく大きな構想とイノベーションです。そのようなカリスマ性を持った政治家が出てこないと、国としての日本の評価は没落する一方ですし、それには一般国民(有権者)も大きな責任があります。
第3章「精神の荒廃」ではエリート主義の欠如により社会をリードする者がなくなり、「物質主義者・功利主義者になるための教育を受けた若者世代は、倫理上の価値や理想、また社会的な義務について語ることに対しては、何の興味も持たない。(48頁)」と述べられています。「日本の経済を根本的に改革し、公平な競争に基づいた経済を築くためには、贈収賄や共謀・脅迫などを拒否する強力な倫理的バリケードが必要であるが、それらを構築して現在の若者を防衛するには時すでに遅しと見なければならない(49頁)。」
第4章「金融の荒廃」と第5章「産業の荒廃」では、まずバブルとその破綻、そして株価の時価発行というエクイティ・ファイナンスが金融システムに与えた衝撃(75頁)について述べられています。さらに、ドル建て決済が可能になったことによる円の価値の下落について書かれています。バブル崩壊はまた達成不可能な経営目標を設定したノルマ経営を導き、これが社員のモラルを崩壊させた(77頁)とあります。かつて、政府、官僚、企業は鉄の三角形の結束をもってオイル危機を乗り切ってきたが、そのなれ合いが同時に職業倫理の荒廃を招いてしまったと書かれています(96頁)。
破壊された経済体制の修復の一つの手段として著者は自分の確信する職業倫理に企業が反する運営を行っていると社員が感じたら、その職場を捨ててより自分に適した職場に移動するようなシステム(労働斡旋)がもっと数多く開設されるべきと述べられています(105頁)。
第6章「教育の荒廃」では大学への高い進学率によるエリート主義の欠如と無気力(31~61頁)について指摘されています。大量に大学に入った学生の多くが勉強らしい勉強をせず4年間過ごし、それでも無事卒業して学士号を得ていることは事実です。また、一方的に「講義」という形で上から下への知識の受け渡しを行い、知識の暗記だけで学生に自発的に考えさせるということをしない教育はイノベーションを生み出さないと批判しています。「日本がいま必要としているのはいわゆる博学の人ではなく、自分で問題を作り、それを解きほぐすための論理を考え出す能力を持った人である(132頁)。」そして、教育内容を向上させて本来の活力ある教育を取り戻すための教育改革がされておらず、教育関係者も政治家もそのことに無関心なことも事実です。
著者は教養課程を廃止して現在の4年制を2年制に圧縮し高度の教育を行うという改革案を提示しています(139~142頁)が、これについては少々異論があります。私は文科系については全く知らないのですが、少なくとも理科系の場合にはまず基礎となる専門知識を身に着ける期間(例えば2年間)が必須であり、そのために最低4年制(現行医学部薬学部は6年制)は必要と考えます。高校の習得科目を減らし、大学入試を簡単にあるいは廃止するという案(140頁)には賛成です。
ここで、非常に僭越ではありますが、私の大学改革案を少しだけ述べさせて下さい。まず、教養課程は廃止します。そして、一部の学部・学科を除いて大学教育は総て英語によるものとします(教科書、講義、討論、レポート、試験など)。現在でも10以上の私立大学で英語だけによる教育がなされているのでやってやれないことはありません。また、2年次終了の際に試験を行い20~30%の学生を不合格として退学させます。(1年終了時に、学習継続の自信の無い学生には自主退学を勧めます。)また、卒業前に再度試験を行い10~20%の学生を不合格として留年(再度4年次を履修する)させます。留年して再度試験を受け不合格の場合は退学させます。また、入学後2年間は専門知識を得るために講義を主としますが、残りの2年間は学生自身に独自の考え方を身に着けさせるためにレポート提出と面接および討論を大幅に取り入れます。この改革は国立大学から始めます・
但し、勿論例外もあります。真の天才である学生についてはいち早くそれを見抜き、大幅な飛び級をはじめとする特別の処遇を行うことが必要となります。多様化に伴ってそのような学生も増えてくることが考えられます。
これで学生の数が減り余裕が出て高度の教育が出来るのではないでしょうか。勿論、大学院も英語教育です。日本の大学および大学院が英語教育になると優秀な留学生が世界中から集まり、多様な考え方に触れることにより日本人学生は大きな刺激とインスピレーションを受けることになります。
一方、大学でなくても進学を望む者には大学レベルの専門学校を充実し、実務学習だけでなく自分で起業する方法(関連する経済法律の講義を含む)を身につけさせます。これにより、若い野心的な起業家が続々と現れてくることが期待されます。英語教育がどうしても無理という大学は専門学校に転換させます。
このような一見過激な改革案を文部省の「審議会」にかけた場合に拒否されるのは目に見えていますので(143頁)、「日本の没落」について真剣に憂慮する政治家の強いリーダーシップが必要です。いずれにせよ、勉強しない学生達に対して国は莫大な教育予算を割いていますので、思い切った改革が必要です。余剰となった教育予算はアルバイトなしで勉強に集中しなければならない学生への無償奨学金に回すべきと考えます。
第7章「ただ一つの解決策」(147~159頁)で著者は「東北アジア共同体」を提唱しています。日本の没落を止める唯一の解決策として、日本、中国(6ブロックに分割)、朝鮮半島、台湾、琉球(独立国化)からなるEUに似た共同体を立ち上げ、首都を定め、共同で資源開発やインフラ整備を行い、将来的には統一通貨も作るというものです。
著作を何冊か読ませて頂き、著者を心から尊敬してきた私はここでがっかりしたというよりも愕然としました。世界覇権を狙う国があり核戦略を第一の国策とする国があるというこの地域の政治状況を見た場合、他の評者も言っておられるようにこれは夢物語以外の何物でもありません。国内の将来像を予測することは出来ても世界の将来を予測することは誰にとっても不可能です。他力本願の解決策は意味をなしません。EUはそれが成立する歴史的政治的下地があってこそ出来たものです。現在の東アジアに残念ながらそれはありません。
第8章「救済策への障害」では日本の右傾化と歴史修正主義について強く警鐘を鳴らしています。海外に居住していると自然に愛国的になり、祖国に対する外国人による批判にはむきになって反論します。そして、「大海を知らぬ」祖国の人々の行状を外国から「はらはらしながら」見守るのです。
著者は「没落が進行すれば、右傾化は強くなるだろう(178頁)」と述べています。著者が最も懸念しているのは一部の歴史修正主義者達が太平洋戦争について事実に反することを主張し、中学や高校の歴史教科書の書き換えを意図していることです(169頁)。これらの人達は一言でいえばまさに「大海を知らぬ井の中の蛙」であり、狭い井戸の中で「左翼的自虐史観」などと存在もしないことをあげつらってぶつぶつ呟きあっています。植民地主義で西欧に遅れをとった後進国日本がいかにして無謀な戦争を始め、拡大させ、そしてその結果がどうなったかという苦い歴史はそのまま若い世代に伝えなければなりません(184~185頁)。この戦争の歴史を捻じ曲げて正当化しようとするのは(179頁)愛国と逆のことです。
いじめっ子はいじめたことをすぐ忘れますが、いじめられた者はそのことをいつまでも忘れません。殴られた方は殴られたことをいつまでも覚えています。なんでも時が速やかに水に流してくれると考えるのはいじめた方の一方的で都合の良すぎる考えです。日本軍に占領されたアジアの国々は当時のことを忘れませんし、現在最大の同盟国であるアメリカは真珠湾奇襲のことを決して忘れません。愚策中の愚策であった真珠湾奇襲のために日系米人は収容所に入れられ、アメリカ人の多くは現在でも広島および長崎に対する原爆投下について真珠湾奇襲を持ち出して正当化します。
日本の閣僚や議員の一部が靖国参拝を行う度にアジアの国々だけでなくアメリカ議会でも反発が起こり大統領はそれを抑えるのに苦労します。そして、日本に対してそれとなく苦言を呈しています。将来、日本が没落して世界における存在感を失った場合に、アメリカが日本を見捨てるということは実際に考えられることです。そのようなことは「世界を知ろうとしない」閣僚や議員達には理解できないことでしょう。
「付記 社会科学の暗黒分野(197~206頁)」では、ごく最近問題になった新興宗教団体の問題を見通したような記述に感嘆しました。これが25年前に書かれたとは思えないほどで、信者個人や親族の問題であると同時に政治がらみの非常に大きな問題です。
さて、私は著者が「ただ一つの救済策」として提案された「東北アジア共同体」を無礼にも夢物語として一蹴してしまいました。それでは、お前はそれに代わる案を持っているのだろうなと詰問されるのは当然です。そこで、私の考えを少しだけ述べさせて下さい。
私の案というのは「多様性を受け入れる」つまり、欧米諸国に比べて厳格すぎる日本の政策を見直し、移民や難民の受け入れ数をある限度をもって増やすということです。現在国内に在住する外国人は約300万人(人口の2.3%)と言われます。島国根性のかたまりというべきイギリスではこの数字は全体で14%、ロンドンでは36%に達します。また、現在のイギリス首相はインド系移民の二世です。私は日本でも慎重にではありますが、多様な人々(移民)を将来的に人口の10%まで増やしてよいのではないかと考えます。まず、少子化問題はこれで解決します。
多様化で重要なのは、言葉の通り多様な文化、背景、生き方、考え方を持つ人々を受け入れることにより、日本そのものが多様化して良い意味の刺激とエネルギーを受けることです。しかし、移民を増やすことにはプラス面とマイナス面があります。良質の移民(日本の繁栄に役立つ人々)を受け入れる政治と役所(移民局)の対応が重要です。また、受け入れ側が移民に対して偏見、差別、排斥などを行った場合には、移民同士が同じ地域に固まって暮らし、いわゆるゲットーを形成してこれは最悪で犯罪の温床ともなります。移民がうまく日本人の中に溶け込めるような施策そして住民の寛容な姿勢が必要です。
没落しつつあるとは言え、少なくとも現在の日本は高度の医療技術を持ち、医療の国民皆保険は世界に誇れるものです。介護(介護保険)が充実しており、教育のレベルも比較的高く、治安がよく、独特の文化を持ち、公共交通機関に関してその正確さは定評があります。また、地方では中古の住宅が安く手に入り衛生意識が高いなどと移住を考える人々にとって魅力のある国です。一つの壁は日本語でしょう。また近年の低賃金と円安は日本で働きたいという優秀な人材を集める障害になります。
著者は高校の教育改革に関して「もっと実用的な(日常生活に役に立つ)英語を教える(135頁)。」と書かれていますが、外国語の会話は必要性が無いと決して上達しません。移民の増加に伴って日本全体がバイリンガル化してゆくことになります。地方や中央の官公庁、病院その他もバイリンガルとなります。もちろん、バイリンガル化は移住者にも求められることです。将来の日本の首相は公式の場において日本語の原稿を読み上げるだけではなく、非公式の場で海外首脳と英語で自由に話し合い世界での地位を高めてゆき、世界における日本の存在感を増すことでしょう。
多様な人々のアイデアは資源の無い日本の産業を活性化し、新しい形のシリコンバレーを各地に出現させて日本経済を再生させると考えます。また、留学生(大学の英語教育化により言語の壁はない)のうち、日本に留まって各分野で活躍する人々も増えるでしょうし、移住者を巻き込んだ村や町おこしもあるでしょう。移民政策の成功は一に住民の受け入れ姿勢にあります。古代ローマの繁栄(パクスロマーナ)は征服蛮族をも正式なローマ市民としたローマ帝国の寛容政策にあったことを忘れてはなりません。
実は、多様化は既にスポーツ界、芸能界、国際的企業、世界的研究所などでは当たり前のこととして進行しています。この波が広く一般化するかどうかというだけです。
エレベーターに乗っている人は表示板を見ない限り、自分が上や下に移動していることに気付きません。ぬるま湯につかっていた私は日本が没落しつつあるという実感を持っていませんでした。本書を読み、没落の原因を詳しく知ることにより、没落しつつあるということに気付くことができました。日本がこのまま没落を続けて線香花火のように消えて無くなるのを待つか、思い切った改革によりそれを防いで世界に存在感を示すかの二者択一の選択が国民全体に課せられていると思います。
政財官学界は勿論のこと、一般の人々にも広く読んでいただきたい本として推奨致します。
2016年1月30日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
まだ読んで降りません・・・・・
題名で購入してしまうんだけど、参考にならないよね。
題名で購入してしまうんだけど、参考にならないよね。
2021年7月25日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
人口史観を未来予測に使った書籍。
人口史観自体は予測を含まないが、本書は大胆に論理を展開し日本の未来を予測しています。
そして、
驚くほど現在の状況を予測できています。
このまま、政財界が保守主義を貫徹すれば、2050年代には著者のいう没落が実現します。
現実の問題として日本は極端に右傾化しています。著者の予測は当たっているわけです。
その理由と因果関係についての考察も、じつに見事に的中しています。
米国が中国と韓国を肯定し、日本を否定する可能性まで指摘しています。
まさに、卓見というしかありません。
実際に、そうなりつつあるからです。
大した学者でしたが、日本という国家と国民は著者を受け入れられませんでした。
日本は、じつに不幸な国家であるといえるでしょう。
人口史観自体は予測を含まないが、本書は大胆に論理を展開し日本の未来を予測しています。
そして、
驚くほど現在の状況を予測できています。
このまま、政財界が保守主義を貫徹すれば、2050年代には著者のいう没落が実現します。
現実の問題として日本は極端に右傾化しています。著者の予測は当たっているわけです。
その理由と因果関係についての考察も、じつに見事に的中しています。
米国が中国と韓国を肯定し、日本を否定する可能性まで指摘しています。
まさに、卓見というしかありません。
実際に、そうなりつつあるからです。
大した学者でしたが、日本という国家と国民は著者を受け入れられませんでした。
日本は、じつに不幸な国家であるといえるでしょう。
2023年8月23日に日本でレビュー済み
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この本が書かれたのは1999年。
今から24年も前のことだが、戦後日本が抱える日本人の構造問題は明らかに24年分の時間経過とともに、残念ながら悪化していると思わざるを得ない。
特にこれまでの日本には政治的なイノベーションを起こす政治家は生まれなかったが、それはこれからも変わることがなく、その原因は我々日本国民の無気力にあるという指摘は非常に深く刺さるものがある。
日本は「和」をもって行われる独裁国家であるという指摘もその通りだ。
日本人に備わる奴隷根性の克服が、日本を没落から救えるか否かのポイントだろう。
今から24年も前のことだが、戦後日本が抱える日本人の構造問題は明らかに24年分の時間経過とともに、残念ながら悪化していると思わざるを得ない。
特にこれまでの日本には政治的なイノベーションを起こす政治家は生まれなかったが、それはこれからも変わることがなく、その原因は我々日本国民の無気力にあるという指摘は非常に深く刺さるものがある。
日本は「和」をもって行われる独裁国家であるという指摘もその通りだ。
日本人に備わる奴隷根性の克服が、日本を没落から救えるか否かのポイントだろう。
2023年4月26日に日本でレビュー済み
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内容はけっして古びていません。今読んでも得るところの多い良書です。現在公職、要職についている方々、また将来そのような仕事を目指している志の高い若者にぜひ読んでいただきたいです。