メイド・イン・ジャパンのとんでもないゲームが出ました。
うまくまとめる自信がないがなんとかやってみようと思う。
〇演出
一番にこれを挙げたい。往々にしてゲーム性という言葉が使われるとき、演出は本質ではないというように語られることすらあるが、それは完全な誤りである。
例えば『モンスターハンター』では飲み食いするごとに過剰ともいえるコミカルさを演出する。もしこれらの要素がなければ、同ゲームは血しぶきが飛び交う殺伐としたゲームでしかありえなかっただろうし、多くの日本のユーザー(ましてや中高生)に受け入れられることはなかったろうと思う。この場合は過剰演出は、リアリティを増したビジュアル表現からあえてリアリティを奪うことで、ユーザーに安心感を与える役目をしている。そういったプレイの親近感はプレイ前、間、後のすべての段階でゲームの印象に密接に関係してくる。
『パペッティア』においては演出は「人形劇」というこの特徴的なゲームデザインを一層高めるべく洗練される。
画面は常ににぎやかである。横スクロールアクションであり操作はFC時代のアクションと同じ程度の複雑さしか持たず、直感的で何も悩むことはない。かといってプレイ可能なものが昔ながらの横スクロールアクション部分だけかというとそうではない。プレイヤーは右スティックを用いて、ほとんどの場面で小さなサブキャラクターを操作できる。彼/彼女は画面のあらゆる場所にタッチでき、そこから様々に演出やアイテムを引き出し、気の利いた台詞を吐く。仮にゲーム中から適当に一画面を取り出してみても、そこから3、4個の「触れる場所」が見つかるだろう。それらはやり込み要素でもあり、世界観の遊びを足していく役割も果たしている。プレイは簡単に、ゲームプレイは濃く、この両者を見事に両立させているといっていい。このサブキャラクターは2人プレイを選べば2P側が操作することになる。自分はこのモードはやっていないが協力出来たり、微妙に邪魔をしたりできるらしい。
上記のゲームデザインから簡単操作のアクションであるにもかかわらずリプレイ性は割と高く、通しで十数時間以上、やり込めばその倍と言うくらいのボリュームがある。ちなみにステージは1ステージ三部構成、全7ステージになっているが、どれも長すぎることなく、短すぎることもない。区切られているので止めどきも決めやすい。
〇シナリオ
話作りも秀逸。子供でも分かる善と悪といった分かりやすい対立軸を押さえさながら、時々人形劇の舞台裏をのぞかせることで正義と悪は皮肉な握手をする。子供向け番組を作る人間が子供ではないように、『パペッティア』のキャラクターは「人形劇の役者」という仕事も同時にこなしているからである。
これらの情報はゲーム進行ややり込みをすることで追加されていくゲーム内絵本やヘッドというアイテムの(舞台裏の)説明によって補足される。ライターは過去に『街』などのシナリオにかかわった人らしいが、その教養(というか趣味の幅)が広いようで、TV、漫才、コント、ネット言説、社会状況、政治、演劇、小説、童話、流行など様々なテイストを盛り込んでいる。ビジュアルは一見西洋テイストのように見えるが、テキストの内容はむしろ現代日本あれこれといった風体だ。これらは子供より大人の方が面白く読むだろう(というか子供には意味が分からないようなものが多い)。
童話や昔話にしばしばグロテスクや残酷表現が混じっているように、「子供向け人形劇」のこのゲームにもそういう要素が混じっている。それを含めて「らしい」作りになっている。登場キャラクターが積み木の人形やヌイグルミだから直接的な刺激ははるかに控えめではあるが。
また人形劇であるということが声優に大きな演技の幅を残しているらしく、一言でいうとやりたい放題である。自分は声優の声というのは出来過ぎていてあまり好きな方じゃないが、このゲームの声優は聞いていて本当に楽しい。子供なら言っている内容が分からなくても言い方で笑うだろうというレベルである。つい台詞を最後まで聞いて見たくなる。関西弁も似非関西弁ではなく本物である。
あと当たり前のことだが大事なこととして「話がきっちりキレイに終わる」。最近これすら守っていないゲームがやたら多いので。
〇操作性
すでに言ったようにゲームプレイは昔ながらの横スクロールアクションアクションであるが、カリバスという魔法のハサミで「モノを切りながら飛ぶ」という新しい操作感を実現している点は見逃せない。それから操作補正がかなり強く、微妙な操作のズレはゲームの方で修正してくれる。これにより全体的に「やさしい」〜「やややさしい」という難易度になっている。劇が通しで続いているという設定なので、難しくて話がぶつ切りにされないという点でやさしいのは正解だと思う。というか難しくしても面白くならないタイプのゲームだと思うので。
〇モーション
これにも言及しておかないと嘘だろう。とにかく凝っていて100個を優に超えるヘッド1個々々に説明+個別モーション+個別演出がついている。これがコミカルで楽しい。また劇というのは複数の人間が同時に動いているものだが、『パペッティア』もショートムービーの中でスポットライトの当たっていないキャラクターも常に忙しく動いている。主人公クウタロウは何とムービーではほとんどスポットライトが当たらないのだが、常に何かしらやっているのでそこを見るのも楽しい。ムービーとは言いながら注目すべきキャラクターを変えて再二再三見る価値がある。
〇最後に
間違いなくここ数年で出た日本産ゲームのなかで最高の一つに挙げられる。普段ゲームを触る人も触らない人もやってみる価値がある。面白いというよりとにかく楽しいゲームである。今のゲームはつまらないという人はこのゲームをやった後で同じ台詞が言えるかどうか試してほしい。
(分かる人にはもの現在の技術で作りこんだ『ダイナマイトヘッディー』だけ通じると思う。オマージュも散見される)