本書は、戦前の日本映画の中から、SFというキーワードで発掘された多くの現代では無名と云える映画達を紹介した一冊。
著者の専門は、SFに加えて、古い日本映画にも博識が示されている。
一方で、タイトルの「ゴジラ」というキーワードは、皮肉にも本書で多く紹介されたB級日本映画にありがちな香具屋の口上のようで、怪獣特撮が好きなだけの向きは購入をよく検討した方がいいだろう。
しかし、そのことが本書の価値を毀損するものではないことは強調したい。横田順彌「SFこてん古典」長山靖生「日本SF精神史」といった先達の良書を下敷きに、著者はSFを広く解釈することで、戦前日本映画の中で現代の映画批評からはバッサリ切り捨てられたB級作品の系譜を見事に描き出している。また、円谷英二監督に限ることなく、現代でも巨匠・名匠と評される監督達(小津や衣笠)が実はB級SF映画に携わっていましたよというトリビアも実に興味深い。(但し、こうした監督を含めた日本映画への造詣を欠く者は、本書の数割の価値に気付かないことになる)
つまり、本書は、小説・映画のジャンルとしてのSF、ゴジラ・ウルトラマンに結実する円谷に代表される特撮、そして、戦中を挟んでの日本映画の歴史、この3つに興味・知識がある方には、3千円近い価格見合いの価値が真に発揮されるということ。
B級映画の関係者や筒井康隆など、関係者へのインタビューまで行った著者の労力に見合う知識のない私には、残念ながら最後の1☆を加えることは出来なかったが、映像の逸散を補う著者の想い・想像もまたSF好きの面目躍如といえる。
なお、他レビューで米国映画に関する事実誤認が指摘されているが、私は歴史に関する認識不足を指摘しておく。
・1927年の金融恐慌は高橋是清による緊急対策により短期間で収束し社会不安や経済崩壊には至っていない。本書が云うような状況は、1929年の世界恐慌以降のものと思われる。
・太平洋戦争直後の円谷らに戦争は殺し合いの認識はないと云うが、満州事変から10年、支那事変からでも5年が過ぎており、そもそも日露戦争以降も何度も日本兵が多数死亡する戦いはいくつもあったので(それも全て陸軍の戦争=直接的殺し合い)円谷自身が殺し合いをしたことはないだろうが、戦争で人が死ぬことは彼だけでなく多くの日本人が認識していた。
・1940年を対米戦目前の悲壮感が日本に溢れていたという前提が示されているが、厭戦感があるならそれは上述の通り対支戦が理由であり、以前として都市を中心に映画や音楽などでアメリカ文化は愛されていた事実が多く指摘されている。
この点は、円谷も公職追放の憂き目にあっているように、映画関係者の戦争協力の問題、また、多くの日本国民が対米戦争前期においても米国隙を残していたため政府が鬼畜米英等のネガキャンを必死で行ったことなど、著者の割とこの点ではステロな認識がこのくだりを大きくミスリードしかねない部分なだけに残念でならない。

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戦前日本SF映画創世記: ゴジラは何でできているか 単行本 – 2014/3/27
高槻 真樹
(著)
戦前の日本にSF映画はなかったのか? 戦後「ゴジラ」から紹介されるSF映画の源泉を探し、ビジュアル面から初めて紹介する傑作!
- 本の長さ261ページ
- 言語日本語
- 出版社河出書房新社
- 発売日2014/3/27
- ISBN-104309274773
- ISBN-13978-4309274775
登録情報
- 出版社 : 河出書房新社 (2014/3/27)
- 発売日 : 2014/3/27
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 261ページ
- ISBN-10 : 4309274773
- ISBN-13 : 978-4309274775
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,024,384位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2014年4月14日に日本でレビュー済み
2014年3月31日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
今までほとんど開けてなかった戦前のSF(…と言うかファンタジー)映画を紹介しているところは素晴らしい。
僕も知らない作品ばかりで勉強になりました。
だが…。
当時、日本に輸入配給されていた外国映画についての調査に不備が多々あり「当時の日本でこれは凄い!」的なニッポン万歳になってるところが残念。
例えば…。
本書:94ページより、
1932年:荻野茂二監督のインディーズ映画『百年後の或る日』を「未来世界に転がりこんだ男が火星への旅に出る~」と紹介し「メトロポリスなどの影響はあるけれど」と前置きした上で「ふわふわと軌道を走る飛行車」「火星に飛ぶ遊星艇」などの独自性が優れていると評している。
残念!
これって1930年公開の二十世紀FOXのSFミュージカル『五十年後の世界』
(原題:JUST IMAGINE)の影響が極めて大きい作品。「メトロポリス(1927)などに影響を受けたとはいえ独自性がある」という評価は決して正しくない。
その二年前の1930年製作(翌年、日本公開。さらに戦後も再公開)の二十世紀FOXのSFミュージカル『五十年後の世界:原題 Just Imagine』のパクリですね。人間が番号だけで呼ばれる未来の管理世界で身分違いの結婚を許して貰うために前人未踏の火星旅行に挑戦する男、火星の女王との接触…を描いた大怪作。
[・・・]
『百年後の或る日』は未見ですが、『メトロポリス』(1927)よりも『月世界の女』(1929)と前述の『五十年後の世界』(1930)の影響がすこぶる大きいと思われます。 HGウェルズ『来たるべき世界』(1936年)に先駆けたところだけは評価できるかも…。
…というように本来対比対照すべき日本に輸入されていた外国映画の資料と照らし合わせながら読む分には良き資料だと思います。
書いてあることを丸々鵜呑みにするのは危険!
僕も知らない作品ばかりで勉強になりました。
だが…。
当時、日本に輸入配給されていた外国映画についての調査に不備が多々あり「当時の日本でこれは凄い!」的なニッポン万歳になってるところが残念。
例えば…。
本書:94ページより、
1932年:荻野茂二監督のインディーズ映画『百年後の或る日』を「未来世界に転がりこんだ男が火星への旅に出る~」と紹介し「メトロポリスなどの影響はあるけれど」と前置きした上で「ふわふわと軌道を走る飛行車」「火星に飛ぶ遊星艇」などの独自性が優れていると評している。
残念!
これって1930年公開の二十世紀FOXのSFミュージカル『五十年後の世界』
(原題:JUST IMAGINE)の影響が極めて大きい作品。「メトロポリス(1927)などに影響を受けたとはいえ独自性がある」という評価は決して正しくない。
その二年前の1930年製作(翌年、日本公開。さらに戦後も再公開)の二十世紀FOXのSFミュージカル『五十年後の世界:原題 Just Imagine』のパクリですね。人間が番号だけで呼ばれる未来の管理世界で身分違いの結婚を許して貰うために前人未踏の火星旅行に挑戦する男、火星の女王との接触…を描いた大怪作。
[・・・]
『百年後の或る日』は未見ですが、『メトロポリス』(1927)よりも『月世界の女』(1929)と前述の『五十年後の世界』(1930)の影響がすこぶる大きいと思われます。 HGウェルズ『来たるべき世界』(1936年)に先駆けたところだけは評価できるかも…。
…というように本来対比対照すべき日本に輸入されていた外国映画の資料と照らし合わせながら読む分には良き資料だと思います。
書いてあることを丸々鵜呑みにするのは危険!
2014年6月28日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
今まで観たことのある映画、タイトルだけは知っていた映画、まったく知らなかった映画……についての詳細な解説がたっぷり。ネットなどでタイトルだけはよく見かける「江戸に現れたキングコング」についても多くページが割かれ満足した。
写真の掲載に関しては、あまり期待していなかったのだが、このタイプの本としてはかなり多く揃っており、本文をうまく補足している。
ただ、メインはあくまで戦前日本SF映画についてであり、サブタイトルにある「ゴジラ」について多くは期待しないほうがいいかもしれない。
写真の掲載に関しては、あまり期待していなかったのだが、このタイプの本としてはかなり多く揃っており、本文をうまく補足している。
ただ、メインはあくまで戦前日本SF映画についてであり、サブタイトルにある「ゴジラ」について多くは期待しないほうがいいかもしれない。
2014年3月29日に日本でレビュー済み
購入して読んで見ました(完全読破ではないのでご容赦ください)。
私は、「東宝特撮ファン、ゴジラファンから見て、本書の印象はどうだろう?」という観点で読みました。
円谷英二特技監督は日米開戦前に既に映画界で活躍されていましたが、本書で掲載されている「戦前の空想映画」、
「戦前の驚き映画」に関してどう見ていたか、を例えば、竹内博氏の労作「随筆集・円谷英二」(ワイズ出版)を引合に出し、
「こういう風に捉えていたようだ」と、非常に細かく、かつ丁寧に記載されていて、読む側を納得させる内容になっています。
ハードカバーで大人しめの外観ですが、(それほど大きくありませんが)写真も多く掲載されていますし、DVDはおろか
観る事さえ殆ど出来ない作品も「どこそこで数年に一回は観られるので、粘り強く待つ」といった記事も有り、著者の「熱さ」
が随所で感じられ、読み飽きない内容になってます。
少し高額に感じますが、興味の有る方は、是非お読みください。
私は、「東宝特撮ファン、ゴジラファンから見て、本書の印象はどうだろう?」という観点で読みました。
円谷英二特技監督は日米開戦前に既に映画界で活躍されていましたが、本書で掲載されている「戦前の空想映画」、
「戦前の驚き映画」に関してどう見ていたか、を例えば、竹内博氏の労作「随筆集・円谷英二」(ワイズ出版)を引合に出し、
「こういう風に捉えていたようだ」と、非常に細かく、かつ丁寧に記載されていて、読む側を納得させる内容になっています。
ハードカバーで大人しめの外観ですが、(それほど大きくありませんが)写真も多く掲載されていますし、DVDはおろか
観る事さえ殆ど出来ない作品も「どこそこで数年に一回は観られるので、粘り強く待つ」といった記事も有り、著者の「熱さ」
が随所で感じられ、読み飽きない内容になってます。
少し高額に感じますが、興味の有る方は、是非お読みください。
2014年3月29日に日本でレビュー済み
戦前日本には当然SFなんて言葉はありません。しかし、映画の世界ではSF的なもの、そして
SFに後に見られる驚異や恐怖の要素も含まれていたわけです。これを著者は丁寧に紹介する。
「江戸に現われたキングコング」は「キングコング対ゴジラ」(1962)が封切られた当時、新聞で
触れられていました。その後もテレビでスチルを見る機会がありましたが、現在その資料は入手
不可能のようでした。それが、本書にはしっかり出ています。これだけを見ても「買い」と判断
しました。
「ゴジラは何でできているか」という副題は面白そうですが、あまりこだわる必要はないでしょう。
そんな単純に「これがゴジラの原型」などという書き方はしていません。怪獣映画ではなく、
「ゴジラ」に結実するSF映画の要素が戦前日本にもあったことを示そうとする意欲作です。
SF、SF映画にこんなアプローチがあったかと感動しています。
SFに後に見られる驚異や恐怖の要素も含まれていたわけです。これを著者は丁寧に紹介する。
「江戸に現われたキングコング」は「キングコング対ゴジラ」(1962)が封切られた当時、新聞で
触れられていました。その後もテレビでスチルを見る機会がありましたが、現在その資料は入手
不可能のようでした。それが、本書にはしっかり出ています。これだけを見ても「買い」と判断
しました。
「ゴジラは何でできているか」という副題は面白そうですが、あまりこだわる必要はないでしょう。
そんな単純に「これがゴジラの原型」などという書き方はしていません。怪獣映画ではなく、
「ゴジラ」に結実するSF映画の要素が戦前日本にもあったことを示そうとする意欲作です。
SF、SF映画にこんなアプローチがあったかと感動しています。