トマス・ペインはもっと評価されてよい。人権を語るとき、ロックやルソーの名は登場するものの、ペインの名は忘れられているようだ。
ペインの著作としては『コモン・センス』が有名かもしれない。これはアメリカ独立戦争中に書かれたパンフレットだった。多くの戦士たちに読まれ、彼らを鼓舞した。そして『コモン・センス』の一部がほぼそのまま、アメリカ独立宣言に採用されている。
フランス革命が起こると、イギリスの政治家エドマンド・バークが『フランス革命の省察』を1790年に出版する。それに反対するためペインはイギリスに渡り、翌年の1791年に『人間の権利』を出版する。両書は革命の途中で出版されているので、革命後の社会の予言の書ということになる。バークの予言は、フランス革命が終わらないうちに的中する。一方ペインの予言は、現在の多くの民主的な国々で実現されている。
本書は、ペインばかりでなく、バークについても詳しく書いているところが面白い。
ペインは祖国イギリスからアメリカに渡り独立戦争の英雄となったが、フランス革命を擁護するためにイギリスに渡り、イギリスでも革命を起こそうとしたため追われてフランスに渡る。フランスでは歓迎されるも、ジロンド派に協力したためジャコバン派に捉えられて投獄される。恐怖政治が終わって釈放された後、ナポレオンに呼ばれて意見を求められ、「イギリス軍に勝てても、イギリス人民を支配することはできない」と答えて、フランスにいられなくなりアメリカに戻る。しかし、投獄中に書いた『理性の時代』の教会批判があだとなって、アメリカにも居場所がなくなり、アメリカ独立戦争の功績によって与えられた地で、酒におぼれて悲惨な生活を送り、1809年に死んだ。
確かに英雄としての死に方ではない。彼の文章は思想書というより政治のアジテーション調であるところが評価を下げているのだろう。しかし、ときの政治にへつらうことなく、信じるところを進んだ。国家は必要悪にすぎず、人民は自由で平等な社会を望んでいると信じていた。
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