日本のマスコミを見ている限り、電磁波による健康被害の問題が話題になることはほとんどない。しかし、ヨーロッパの事情は全く異なる。2000年6月にはザルツブルグ国際会議で、脳腫瘍などの健康被害の危険性が指摘され、予防原則による規制が提唱された。その後、WHOのファクトシート193(2011年)が発行され、またIARCモノグラフ102(2013年)では、「ヒトに対して発がん性があるかもしれない」(グループ2B)と認定した。日本のマスコミは、巨大広告主に遠慮してだろう、この問題をほとんど報道しなかった。世界の趨勢から「周回遅れ」の日本の現状を再認識するとともに、「原子力ムラ」と同じ構造の「携帯ムラ」(通産省・総務省−企業−御用学者−マスコミ)が厳然として存在することを痛感した。また、携帯電話という便利なモノが、思わぬ安全・健康リスクを生じさせるという事態も、電気と原子力の関係に似ている。
本書は、1996年という極めて早期からの、九州各地における携帯電話基地局公害問題に対する取組みと、訴訟のいきさつを報告したものである。巨大企業を相手に、健康な環境保護のために立ち上がった住民の皆さんと、それを支援した弁護団の皆さんに敬意を表したい。残念ながら、これまでのところ訴訟はすべて住民側の敗訴である。原告側が、世界各国から電磁波による健康被害の資料を集め、第一線の科学者による説明を行ったにもかかわらず、裁判官は企業側の主張を丸呑みし、日本では「予防原則」は通用しなかった。基地局周辺の住民からは、すでに頭痛を始めとする健康被害が生じているにもかかわらず、である。
本書の裁判は、住民勝訴こそ勝ち取れなかったものの、全国に携帯電話基地局の危険性を知らしめた点で大きな意義があった。インターネット上では、携帯電話基地局を始めとする電磁波による健康被害問題の情報サイトが多数開設されている。それらによれば、最近は、住民の反対で基地局建設を断念させた例を少なくないようである。本書の裁判に携わった住民や弁護士の皆さんの苦労は並大抵のものではなかったと思われるが、先駆者が開拓した道は、全国に少しずつ広がりつつあるようである。

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隠された携帯基地局公害 単行本(ソフトカバー) – 2013/6/22
九州中継塔裁判の記録編集委員会
(著)
電磁波による健康被害の問題ほど、EUを中心とするヨーロツパと日本における認識の違いの著しいものはない。2000年6月の、「携帯電話基地局の健康被害に関するザルツブルグ国際会議」は、脳腫瘍をはじめ多くの健康被害の発生の危険性を指摘したうえで、予防原則での規制を提唱した。しかしながらこの間、日本では、新世代スマートフォンをはじめとする携帯電話の普及によって、全国至る所に中継塔の設置が相次いでいる有様で、その健康被害が省みられることは稀である。日本政府は予防原則の考え方が欠如しているため、未知のリスクに対する人体実験を容認しているといえる。
本書は、九州各地において、携帯電話中継塔の撤去を求めて提起された8つの裁判の経過とその特徴並びにその到達点と今後の課題を明らかにするために、裁判を担当した弁護士らによる報告と当事者の思いをまとめたものである。
本書は、九州各地において、携帯電話中継塔の撤去を求めて提起された8つの裁判の経過とその特徴並びにその到達点と今後の課題を明らかにするために、裁判を担当した弁護士らによる報告と当事者の思いをまとめたものである。
- 本の長さ304ページ
- 言語日本語
- 出版社緑風出版
- 発売日2013/6/22
- ISBN-104846113140
- ISBN-13978-4846113148
商品の説明
出版社からのコメント
人体実験は許されない! 反対に立ち上がった住民たち。
著者について
荻野 晃也(おぎの こうや)
1940年富山県生まれ。元京都大学工学部講師。理学博士。原子核物理、原子核工学、放射線計測学などが専門。原子力、核問題、環境問題などにも物理学者としてかかわり、伊方原発訴訟では住民の特別補佐人となり、また、各地の携帯電話基地局訴訟等では住民側証人として証言し、住民・市民側に立つ科学者として活躍。
亀井 正照(かめい まさてる)
大分県弁護士会所属。東京HIV 訴訟原告弁護団、別府荘園基地局撤去訴訟弁護団、延岡大貫基地局撤去訴訟弁護団など。執筆、著書は、「HIV訴訟の概要と争点」(法学セミナー1995年1月号、日本評論社)共著など。
三藤省三(さんとうしょうぞう)
1975年九州大学法学部卒業後、富士銀行(現みずほ銀行)勤務。1979年司法修習生(第33期)、1981年弁護士登録(熊本県弁護士会)1982年より水俣病訴訟弁護団員(第2次訴訟控訴審、第3次訴訟)、1997年沼山津中継塔裁判住民代理人、2007年より1期、熊本県弁護士会会長を務める。
白鳥努(しらとりつとむ)
1954年福岡県生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。1994年、司法試験合格。1997年、最高裁判所司法研修所修了し、第一東京弁護士会登録。2002年より鹿児島県弁護士会に登録。
高峰真(たかみねまこと)
九州大学法学部卒業。2004年弁護士登録。久留米第一法律事務所所属。久留米市三済町のNTTドコモ中継基地局差止訴訟に住民例代理人として関わった。また、現在、日本弁護士連合会公害環境委員会委員としても電磁波問題に取り組んでいる。
徳田靖之(とくだやすゆき)
1969年弁護士登録。薬害スモン事件、「みどり荘事件」(1審無期懲役判決が出されていたところ、控訴審で無罪となった事件で、当番弁護士制度発足のきっかけになった事件)、エイズ予防法反対運動、東京HIV訴訟弁護団、ハンセン病国賠訴訟西日本弁護団共同代表、飯塚事件再審弁護団共同代表。
原 啓章(はら けいしょう)
1963 年熊本県生まれ、1994 年裁判官任官 主に民事事件、少年事件に携わる。2002 年弁護士登録、川辺川利水訴訟、西日本石炭じん肺訴訟、ノーモア・ミナマタ国家賠償等訴訟などに携わる。2003 年原法律事務所開設2012 年弁護士法人観音坂法律事務所開設 現在に至る。
馬奈木 昭雄 ( まなぎ あきお)
九州大学法学部卒業。1969 年弁護士登録(司法修習21 期)水俣病訴訟弁護団副団長。九州予防接種弁護団長筑豊じん肺訴訟弁護団長。「よみがえれ! 有明」訴訟弁護団長。電磁波問題については、九州中継塔裁判・三瀦訴訟(携帯電話基地局操業禁止等請求事件)弁護団長。
三角 恒(みすみ こう)
弁護士。熊本市弁護士会所属。熊本市御領地区携帯電話中継塔裁判(電磁波)に住民側代理人として関わった。また、原爆症熊本訴訟、水俣病3次訴訟、川辺川利水訴訟などの弁護団に所属し、現在、再審請求をした松橋事件の主任弁護人を務める。
1940年富山県生まれ。元京都大学工学部講師。理学博士。原子核物理、原子核工学、放射線計測学などが専門。原子力、核問題、環境問題などにも物理学者としてかかわり、伊方原発訴訟では住民の特別補佐人となり、また、各地の携帯電話基地局訴訟等では住民側証人として証言し、住民・市民側に立つ科学者として活躍。
亀井 正照(かめい まさてる)
大分県弁護士会所属。東京HIV 訴訟原告弁護団、別府荘園基地局撤去訴訟弁護団、延岡大貫基地局撤去訴訟弁護団など。執筆、著書は、「HIV訴訟の概要と争点」(法学セミナー1995年1月号、日本評論社)共著など。
三藤省三(さんとうしょうぞう)
1975年九州大学法学部卒業後、富士銀行(現みずほ銀行)勤務。1979年司法修習生(第33期)、1981年弁護士登録(熊本県弁護士会)1982年より水俣病訴訟弁護団員(第2次訴訟控訴審、第3次訴訟)、1997年沼山津中継塔裁判住民代理人、2007年より1期、熊本県弁護士会会長を務める。
白鳥努(しらとりつとむ)
1954年福岡県生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。1994年、司法試験合格。1997年、最高裁判所司法研修所修了し、第一東京弁護士会登録。2002年より鹿児島県弁護士会に登録。
高峰真(たかみねまこと)
九州大学法学部卒業。2004年弁護士登録。久留米第一法律事務所所属。久留米市三済町のNTTドコモ中継基地局差止訴訟に住民例代理人として関わった。また、現在、日本弁護士連合会公害環境委員会委員としても電磁波問題に取り組んでいる。
徳田靖之(とくだやすゆき)
1969年弁護士登録。薬害スモン事件、「みどり荘事件」(1審無期懲役判決が出されていたところ、控訴審で無罪となった事件で、当番弁護士制度発足のきっかけになった事件)、エイズ予防法反対運動、東京HIV訴訟弁護団、ハンセン病国賠訴訟西日本弁護団共同代表、飯塚事件再審弁護団共同代表。
原 啓章(はら けいしょう)
1963 年熊本県生まれ、1994 年裁判官任官 主に民事事件、少年事件に携わる。2002 年弁護士登録、川辺川利水訴訟、西日本石炭じん肺訴訟、ノーモア・ミナマタ国家賠償等訴訟などに携わる。2003 年原法律事務所開設2012 年弁護士法人観音坂法律事務所開設 現在に至る。
馬奈木 昭雄 ( まなぎ あきお)
九州大学法学部卒業。1969 年弁護士登録(司法修習21 期)水俣病訴訟弁護団副団長。九州予防接種弁護団長筑豊じん肺訴訟弁護団長。「よみがえれ! 有明」訴訟弁護団長。電磁波問題については、九州中継塔裁判・三瀦訴訟(携帯電話基地局操業禁止等請求事件)弁護団長。
三角 恒(みすみ こう)
弁護士。熊本市弁護士会所属。熊本市御領地区携帯電話中継塔裁判(電磁波)に住民側代理人として関わった。また、原爆症熊本訴訟、水俣病3次訴訟、川辺川利水訴訟などの弁護団に所属し、現在、再審請求をした松橋事件の主任弁護人を務める。
登録情報
- 出版社 : 緑風出版 (2013/6/22)
- 発売日 : 2013/6/22
- 言語 : 日本語
- 単行本(ソフトカバー) : 304ページ
- ISBN-10 : 4846113140
- ISBN-13 : 978-4846113148
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,412,425位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 2,456位環境・エコロジー (本)
- カスタマーレビュー:
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