私が「チベット」と聞いて思い起こす人物はといえば、お粗末なことながら、ダライ・ラマ14世、中沢新一、ユマ・サーマンのご尊父の三人くらいなものである。一度は正統なチベットのひとたちの精神的な核、真髄に触れたいと思いたち、本書を購読した。
感動した。ただただひたすらに熟読翫味すべし、である。読後の爽快感や昂揚感は筆舌に尽くしがたいものがある。
457句の四行詩から成るこの『サキャ格言集』は、マルクス・アウレリウス『自省録』、ラ・ロシュフコーの箴言集、ニーチェやウィトゲンシュタインの哲学的/反哲学的アフォリズムを想起させるものがあり、簡潔で、辛口で、巧みな隠喩が用いられ、そしてユーモアに溢れ、ものごとの本質を見事に言い得ており、深みや凄みが感じられる。チベットの文学は概して仏教色が濃いとのことであるが、この『格言集』はその限りでないようである。このちいさな書物を通して、私たちは熟練した老師の謦咳に接することができる。愛誦されて然るべき書である。
この『格言集』は九つの章から構成されており、すなわち、
一章 賢者についての考察
二章 貴人についての考察
三章 愚者についての考察
四章 賢愚混交についての考察
五章 悪行についての考察
六章 本性についての考察
七章 不相応についての考察
八章 行為についての考察
九章 教法についての考察
である。古典であり、現代人の価値観、倫理観にそぐわないところもあるにはあるが、しかしなお、今でも十分遜色しない鮮烈な刺戟がある。私が好きなのは本書65ページ138番目の句である;
劣った人が金持ちになると傲慢になり
立派な人が金持ちになると穏やかになる
狐は満腹になると傲慢に吠え
ライオンは満腹となると安らかに眠る
よろしい。

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サキャ格言集 (岩波文庫 赤 90-1) 文庫 – 2002/8/20
著者サキャ・パンデイタは,その著書百を越える13世紀チベットの大学者で,晩年は,脱出してきた強大なモンゴル帝国との交渉という至難の任にチベットを代表してあたった辣腕の政治家でもあった.古来の伝承を踏まえ,その希代の学識と政治家としての体験が生んだ辛口の格言詩457句は,今も人々に愛誦されている.
- 本の長さ210ページ
- 言語日本語
- 出版社岩波書店
- 発売日2002/8/20
- ISBN-10400320901X
- ISBN-13978-4003209011
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上位レビュー、対象国: 日本
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2011年5月17日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
13世紀チベットの学者、サキャ・パンディタの格言集です。入手しやすいチベット文学というのはなかなか出回っていないので、今回本書を見つけた時は心の中で小躍りいたしました。
本書は大きく9章から構成されており、チベットでは仏教が厚く信仰されていたということで、基本的に仏教を感じる内容になっています。ただ、本書は仏教文学という訳ではなく、俗文学という扱いだそうです。
「1章・賢者についての考察」「2章・貴人についての考察」「3章・愚者についての考察」「4章・賢愚混交についての考察」「5章・悪行についての考察」「6章・本性についての考察」「7章・不相応についての考察」「8章・行為につての考察」「9章・教法についての考察」となっています。1ページに付き、4行の格言が2つ載せられています。ページ数も文字数も少ないので短時間で読了できかつ内容は濃いという、非常にコストパフォーマンスの高い有益な本だと思います。
古典の名著、中でも政治に関わった経験を持つ文学者や詩人にはよくあることですが、格言で述べられる内容にはかなり具体的な様々な状況が想定され、かつ色々な角度、立場から物事の本質や正邪を指摘されています(ペルシャ詩人サーディの『果樹園』や、わが国の兼好法師の『徒然草』等もそうだと思います)。その辺りに関しては、かなり考えながら読まないと消化できなくはあるのですが・・。
ともあれ以下、心に残った格言をいくつか挙げさせていただきます。
●「立派な人に師事し 賢者に質問し 正直な人と交われば 誰でもいつでも幸せになれる」
●「与えたものは取り戻さず 劣ったものの悪口を受け止め 小さな恩も忘れない。 それが偉大な人の証である」
●「賢者は学ぶ時には苦労する。 安逸にいてどうして賢者になれようか。 小さな安楽に執着するものは大きな安楽が得られない」
●「賢者がすべての格言は 真実だと分かりつつ 実践しないのなら 論書を分かっても何になろう」
私は仏教徒なので、白蓮とか象とか獅子とか須弥山とか、本書で使われている比喩やインドの故事には馴染みがあり抵抗少なく読めたように思います。チベットは流石仏教文化の土壌があるようですが、一口に仏教と言っても<八万法蔵>と言われる位経典は色々あるようですし、本書でも悪人に対する考え等では時に自分の信仰している『法華経』と思想に微妙な違いを感じたりもしました。しかし経典は状況や語る相手によって強調する点が違ったりしますし、パンディタ独自の思想がどこまでなのかもちょっと判断がつきません。解説にも当時のチベットの人たちが主にどの経典を学んだのか等は詳述されていないので残念・・。
ともあれ、チベット文化の息吹を多少なりと感じることができる素敵な一冊でした。
本書は大きく9章から構成されており、チベットでは仏教が厚く信仰されていたということで、基本的に仏教を感じる内容になっています。ただ、本書は仏教文学という訳ではなく、俗文学という扱いだそうです。
「1章・賢者についての考察」「2章・貴人についての考察」「3章・愚者についての考察」「4章・賢愚混交についての考察」「5章・悪行についての考察」「6章・本性についての考察」「7章・不相応についての考察」「8章・行為につての考察」「9章・教法についての考察」となっています。1ページに付き、4行の格言が2つ載せられています。ページ数も文字数も少ないので短時間で読了できかつ内容は濃いという、非常にコストパフォーマンスの高い有益な本だと思います。
古典の名著、中でも政治に関わった経験を持つ文学者や詩人にはよくあることですが、格言で述べられる内容にはかなり具体的な様々な状況が想定され、かつ色々な角度、立場から物事の本質や正邪を指摘されています(ペルシャ詩人サーディの『果樹園』や、わが国の兼好法師の『徒然草』等もそうだと思います)。その辺りに関しては、かなり考えながら読まないと消化できなくはあるのですが・・。
ともあれ以下、心に残った格言をいくつか挙げさせていただきます。
●「立派な人に師事し 賢者に質問し 正直な人と交われば 誰でもいつでも幸せになれる」
●「与えたものは取り戻さず 劣ったものの悪口を受け止め 小さな恩も忘れない。 それが偉大な人の証である」
●「賢者は学ぶ時には苦労する。 安逸にいてどうして賢者になれようか。 小さな安楽に執着するものは大きな安楽が得られない」
●「賢者がすべての格言は 真実だと分かりつつ 実践しないのなら 論書を分かっても何になろう」
私は仏教徒なので、白蓮とか象とか獅子とか須弥山とか、本書で使われている比喩やインドの故事には馴染みがあり抵抗少なく読めたように思います。チベットは流石仏教文化の土壌があるようですが、一口に仏教と言っても<八万法蔵>と言われる位経典は色々あるようですし、本書でも悪人に対する考え等では時に自分の信仰している『法華経』と思想に微妙な違いを感じたりもしました。しかし経典は状況や語る相手によって強調する点が違ったりしますし、パンディタ独自の思想がどこまでなのかもちょっと判断がつきません。解説にも当時のチベットの人たちが主にどの経典を学んだのか等は詳述されていないので残念・・。
ともあれ、チベット文化の息吹を多少なりと感じることができる素敵な一冊でした。
2019年10月11日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
13世紀チベットの学者が残した格言集である。一句が四行で成り立つ格言を集めて構成されており、平易な言葉で訳されている。人生についての指摘は辛辣であり、少し意地悪くも感じる。しかし、仏教を深く学んだ碩学の言葉だけあって一々もっともであり、我が身を省みる縁になった。チベットの文化的な背景を感じることもでき、チベット学の入り口にも立たせてくれる。折に触れて、楽しめる本である。
2017年9月4日に日本でレビュー済み
7 明日死のうとも学問する。
今生(こんじょう)で賢者になれなくても
学問を来世に託して
受けとる。
400 どんなことでも
慣れれば難しくない。
工芸を習うように
正法(しょうぼう)も難なく成就できる。
、、、まあまあかな。800年前のチベットの人の言葉集。
心に響く言葉はたくさんあるが、一般性の有無は不明。
まあ、僕が納得すればそれでいいのだが。
そういやジョン・レノンがいつかのインタビューで言っていたな
「僕のみたいな詩はあらゆるレベルで通用するはずだ」
今生(こんじょう)で賢者になれなくても
学問を来世に託して
受けとる。
400 どんなことでも
慣れれば難しくない。
工芸を習うように
正法(しょうぼう)も難なく成就できる。
、、、まあまあかな。800年前のチベットの人の言葉集。
心に響く言葉はたくさんあるが、一般性の有無は不明。
まあ、僕が納得すればそれでいいのだが。
そういやジョン・レノンがいつかのインタビューで言っていたな
「僕のみたいな詩はあらゆるレベルで通用するはずだ」
2014年2月27日に日本でレビュー済み
チベット仏教サキャ派のサキャ・パンディタによる13世紀の格言集である。世知にも長けていた人のようで、宗教的なことにとどまらない、良い言葉がたくさん出ている。サキャの格言集だが、小生の手元に3点ある。本書の他に、「智恵の言葉『サキャ・レクシェー』の教え」(ツルティム・ケサン、正木晃著。角川書店刊)と「薩迦格言」(西蔵仏教文化協会、ツルティム・ケサン著。文栄堂)がある。日本語訳は「智恵の言葉」が最善と思われるが、抄訳である。「薩迦格言」は全詩偈掲載の上、チベット語原文と日本語対訳が掲載されており、もっとも完備されてはいるが、訳があまり良くない。翻訳は日本人が分担で行い、ツルティム・ケサンが校閲したように前書きにあったが、どこまでなされたのか疑問が残る。と言うわけで、総合的に見て、書架に備えるサキャの格言集として本書を選ぶのは充分ありと思う。
ただ、ちょっと次の詩を比べてみてほしい。どちらがサキャの本意を表しているのだろうか?
小生個人的には「智恵の言葉」の解釈が正しいのではないかと思えて仕方がない。残念ながら、「薩迦格言」ではその答えを得られなかった。
どんな仕事でも遂行するならば
正負両面の結果を招くのが常識
正負が等しいときは遂行すべし
遂行しない場合よりずっといい
(「智恵の言葉」角川書店P.39)
一つのことをするときには
不都合と利点の両者を考える。
両者対等ならやめるべきで
不都合が多ければ言うまでもない。
(「サキャ格言集」岩波書店P.158)
ただ、ちょっと次の詩を比べてみてほしい。どちらがサキャの本意を表しているのだろうか?
小生個人的には「智恵の言葉」の解釈が正しいのではないかと思えて仕方がない。残念ながら、「薩迦格言」ではその答えを得られなかった。
どんな仕事でも遂行するならば
正負両面の結果を招くのが常識
正負が等しいときは遂行すべし
遂行しない場合よりずっといい
(「智恵の言葉」角川書店P.39)
一つのことをするときには
不都合と利点の両者を考える。
両者対等ならやめるべきで
不都合が多ければ言うまでもない。
(「サキャ格言集」岩波書店P.158)
2009年5月22日に日本でレビュー済み
サキャ・パンディタの格言はすばらしい。ぜひ多くの人に知ってほしい。しかし、翻訳に納得のいかないところが少なからずある。その一部をあげておく。
第7詩
今枝訳:明日死のうとも学問する。/今生で賢者になれなくても/学問を来世に託して/受け取るようなものである。
試訳:学問は、来年死ぬとしても、しなければならない、たとえ今生において賢者であることはかなわなくても。〔それはちょうど、今生において〕託しておいた財産を、次の生において、みずからが受け取るようなものである。
第18詩
今枝訳:この世とあの世の幸せを/実現するのが智恵である。/チャンドラ王子の智恵により/スダーサ王はこの世とあの世で守られた。
コメント:有名な「斑足」の故事。今枝訳が「故事未詳」とする理由は未詳。
第22詩
今枝訳:頭のいい人はいわれなくても/表情から相手の心が分かる。/野性リンゴは食べなくても/色から味が分かる。
試訳:智慧があるならば、たとえ〔相手が〕語らなくても、その態度から〔どんなことを〕考えているかは分かるものだ。ネパールのザクロは、たとえ食べなくても、その色合いから、どんな味かは知れるものだ。
コメント:後半を「ネパール人は、たとえザクロを口にしなくても、その色合いからどんな味か知っている」とする写本あり。
第31詩
今枝訳:貴人の功徳はたえず/賢者に賞賛される。/マレーの白檀の香りは/風で十方に広がる。
試訳:勝れた功徳はたえず賢者(勝れた人)が賞賛する。マラヤ〔山地〕の栴檀の香りは風が十方に広げていく〔ように〕。
コメント:原文ma la yaを「マレー」とする理由は未詳。マラヤは香木である栴檀の産地として有名な南インドの山地名。
第49詩
今枝訳:偉大な人は敵を慈しむので/敵はその支配下に入る。/マハーサンマタ王は誰をも守ったので/誰もが彼を王位に就けた。
コメント:マハーサンマタ王は人類最初の王とされる有名な人物。今枝訳が「故事未詳」とする理由は未詳。
第59詩
今枝訳:悪人は富んでも/行いが悪くなる。/滝の水をひっくり返しても/水は下に落ちるばかりだ。
試訳:悪人はたとえ富を得たとしても、おこないはますます悪くなる。滝の水はどんなに押し返しても、下に流れようとばかりするものだ。
第128偈
今枝訳:立派な人を仲違いさせるのは難しく、調和させるのはたやすい/劣った人はその逆だ。/木から木炭にするのはたやすいが/木炭から木にするのは難しい
試訳:正しい人を仲違いさせるのは難しく、調和させるのは易しい。劣った人は仲違いさせやすいが、調和させるのは難しい。木と木炭の切断と結合の〔難易の〕違いを見なさい。〔木は切りにくいが接合しやすい。木炭は切りやすいが接合しにくい。〕
コメント:今枝訳はわかりやすいが、チベット原文をまったく無視。
「故事未詳」があまりにも多すぎる。そのほとんどは有名な故事で、諸注釈では指摘されているのに。故事の説明がなければ格言の意味は十分に味得できない。サキャ格言の価値を一般に知らしめた功績は高いが、サキャの真意が日本の読者に十分に伝わらなくて、とても残念、無念。
第7詩
今枝訳:明日死のうとも学問する。/今生で賢者になれなくても/学問を来世に託して/受け取るようなものである。
試訳:学問は、来年死ぬとしても、しなければならない、たとえ今生において賢者であることはかなわなくても。〔それはちょうど、今生において〕託しておいた財産を、次の生において、みずからが受け取るようなものである。
第18詩
今枝訳:この世とあの世の幸せを/実現するのが智恵である。/チャンドラ王子の智恵により/スダーサ王はこの世とあの世で守られた。
コメント:有名な「斑足」の故事。今枝訳が「故事未詳」とする理由は未詳。
第22詩
今枝訳:頭のいい人はいわれなくても/表情から相手の心が分かる。/野性リンゴは食べなくても/色から味が分かる。
試訳:智慧があるならば、たとえ〔相手が〕語らなくても、その態度から〔どんなことを〕考えているかは分かるものだ。ネパールのザクロは、たとえ食べなくても、その色合いから、どんな味かは知れるものだ。
コメント:後半を「ネパール人は、たとえザクロを口にしなくても、その色合いからどんな味か知っている」とする写本あり。
第31詩
今枝訳:貴人の功徳はたえず/賢者に賞賛される。/マレーの白檀の香りは/風で十方に広がる。
試訳:勝れた功徳はたえず賢者(勝れた人)が賞賛する。マラヤ〔山地〕の栴檀の香りは風が十方に広げていく〔ように〕。
コメント:原文ma la yaを「マレー」とする理由は未詳。マラヤは香木である栴檀の産地として有名な南インドの山地名。
第49詩
今枝訳:偉大な人は敵を慈しむので/敵はその支配下に入る。/マハーサンマタ王は誰をも守ったので/誰もが彼を王位に就けた。
コメント:マハーサンマタ王は人類最初の王とされる有名な人物。今枝訳が「故事未詳」とする理由は未詳。
第59詩
今枝訳:悪人は富んでも/行いが悪くなる。/滝の水をひっくり返しても/水は下に落ちるばかりだ。
試訳:悪人はたとえ富を得たとしても、おこないはますます悪くなる。滝の水はどんなに押し返しても、下に流れようとばかりするものだ。
第128偈
今枝訳:立派な人を仲違いさせるのは難しく、調和させるのはたやすい/劣った人はその逆だ。/木から木炭にするのはたやすいが/木炭から木にするのは難しい
試訳:正しい人を仲違いさせるのは難しく、調和させるのは易しい。劣った人は仲違いさせやすいが、調和させるのは難しい。木と木炭の切断と結合の〔難易の〕違いを見なさい。〔木は切りにくいが接合しやすい。木炭は切りやすいが接合しにくい。〕
コメント:今枝訳はわかりやすいが、チベット原文をまったく無視。
「故事未詳」があまりにも多すぎる。そのほとんどは有名な故事で、諸注釈では指摘されているのに。故事の説明がなければ格言の意味は十分に味得できない。サキャ格言の価値を一般に知らしめた功績は高いが、サキャの真意が日本の読者に十分に伝わらなくて、とても残念、無念。
2003年12月11日に日本でレビュー済み
サキャ格言集を読んで、気に入った格言。
1、害することができる者は
益することもできる。
処刑できる王は
善政もできる。
2、友達は遠くにいてもためになり
意見が合わないものは近くにいても縁がない。
蓮は泥には汚れないが
何時も太陽に守られている。
1、害することができる者は
益することもできる。
処刑できる王は
善政もできる。
2、友達は遠くにいてもためになり
意見が合わないものは近くにいても縁がない。
蓮は泥には汚れないが
何時も太陽に守られている。