後世の推理作家に多大な影響を与え、日本ミステリの最高傑作とも称される横溝正史の長篇推理小説「獄門島」。昭和22年1月から翌年10月まで雑誌「宝石」に連載されたもので、名探偵・金田一耕助シリーズとしては2番目の作にあたる。時系列としては「百日紅の下にて」の直後ということになるが、執筆順は「本陣殺人事件」の次である。
昭和21年9月、金田一耕助は瀬戸内海に浮かぶ獄門島へ向かう。その島は古くから海賊の根拠地であり、江戸時代には流刑の場でもあった。金田一の胸中には復員船の中で死んでいった戦友・鬼頭千万太が遺した「おれがかえってやらないと、三人の妹たちが殺される……」という不吉な言葉が渦巻いていた。
獄門島に到着した金田一がもたらした千万太戦死の知らせは、島一番の網元である本鬼頭のみならず、島全体に大きな衝撃を与える。当主である父の与三松は気が触れた状態で座敷牢に幽閉されており、千万太は実質的な本鬼頭の跡継ぎだったからだ。
千万太には月代・雪枝・花子という3人の異母妹がいたが、みな父親同様に精神を病んでおり、彼女たちに鬼頭家の財産が渡るのは先代・嘉右衛門の望むところではなかった。そして間もなく、千万太が恐れていた三姉妹を巡る惨劇が現実のものとなるのであった……。
本作は横溝作品の中でも「見立て殺人」ものとして高い人気があり、作中に用いられた俳句を詠むと、美しくも残酷な殺人風景がまざまざと思い浮かぶ。用いられたのは江戸時代の俳聖・松尾芭蕉とその弟子・宝井其角の残した俳句。和歌の書かれた紙が貼ってある衝立や梅の古木、妖しげな祈祷所など印象的なものがたくさん出てくるが、特に千光寺の釣鐘を使った見立ては忘れられない。
鶯の身をさかさまに初音かな(宝井其角)
むざんやな冑の下のきりぎりす(松尾芭蕉)
一つ家に遊女も寝たり萩と月(松尾芭蕉)
また、この作品は鬼頭早苗にほのかな恋心を抱く、若き金田一耕助の姿が描かれていることでも知られている。事件を解決した金田一は、東京へ出る気はないかと早苗を誘うのだが、その答えは「島で生まれたものは島で死ぬ。それがさだめられた掟なのです。でも……ありがとうございました。もうこれきりお眼にかかりません」という毅然としたものだった。
巧妙な伏線、奇抜なトリック、そして意外な犯人。「獄門島」はミステリの面白さをたっぷりと備えた素晴らしい作品だ。市川崑監督の映画で本作をご存じの方も多いかと思われるが、原作は犯人が異なるので、ぜひご一読いただきたいと思う。
<登場人物>
鬼頭嘉右衛門 … 本鬼頭の先代。太閤と崇められていた。故人。
勝野 … 嘉右衛門の妾。
鬼頭与三松 … 本鬼頭の当主。精神を患い座敷牢に入っている。
お小夜 … 与三松が惚れて妾にした元旅回りの女役者。故人。
鬼頭千万太 … 与三松の息子。復員船で死んだ金田一の戦友。
鬼頭月代 … 与三松とお小夜の長女。千万太の異母妹。
鬼頭雪枝 … 与三松とお小夜の次女。千万太の異母妹。
鬼頭花子 … 与三松とお小夜の三女。千万太の異母妹。
鬼頭一 … 本鬼頭分家。両親は既に他界。近々復員との連絡有。
鬼頭早苗 … 一の妹。千万太の従妹。金田一が心を寄せる。
鬼頭儀兵衛 … 網元・分鬼頭の当主。本鬼頭と対立している。
鬼頭志保 … 儀兵衛の後妻。潰れた網元・巴屋の娘。
鵜飼章三 … 分鬼頭に居候する美しい男。復員軍人。
荒木真喜平 … 獄門島の村長。横に平たい感じの男。
村瀬幸庵 … 獄門島の漢方医。鶴のようにやせている。
了然 … 千光寺の和尚。島では網元の上に君臨する存在。
了沢 … 千光寺の典座。無愛想だがたいへん親切な若い僧。
竹蔵 … 潮つくりの名人。先代から本鬼頭に出入りしている。
清公 … 床屋の親方。金田一に獄門島のことを語る。
清水巡査 … 獄門島の駐在。無精ひげをはやした好人物。
磯川警部 … 岡山県警の古狸。金田一とは旧知の仲。
金田一耕助 … 鬼頭千万太の死を伝えるため獄門島へ渡る探偵。
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獄門島 (角川文庫) 文庫 – 1971/3/30
横溝 正史
(著)
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獄門島――江戸三百年を通じて流刑の地とされてきたこの島へ金田一耕助が渡ったのは、復員船の中で死んだ戦友、鬼頭千万太に遺言を託されたためであった。『三人の妹たちが殺される……おれの代わりに獄門島へ行ってくれ……』瀬戸内海に浮かぶ小島で網元として君臨する鬼頭家を訪れた金田一は、美しいが、どこか尋常でない三姉妹に会った。だが、その後、遺言通り悪夢のような連続殺人事件が! トリックを象徴する芭蕉の俳句。後世の推理作家に多大な影響を与え、今なお燦然と輝く、ミステリーの金字塔! !
- 本の長さ368ページ
- 言語日本語
- 出版社角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日1971/3/30
- ISBN-104041304032
- ISBN-13978-4041304037
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商品の説明
著者について
1902年5月24日、神戸市生まれ。旧制大阪薬専卒。26年、博文館に入社。「新青年」「探偵小説」の編集長を歴任し、32年に退社後、文筆活動に入る。信州での療養、岡山での疎開生活を経て、戦後は探偵小説雑誌「宝石」に、『本陣殺人事件』(第一回探偵作家クラブ賞長編賞)、『獄門島』、『悪魔の手毬唄』などの名作を次々と発表。76年、映画「犬神家の一族」で爆発的横溝ブームが到来、今もなお多くの読者の支持を得ている。81年、永眠。
登録情報
- 出版社 : 角川書店(角川グループパブリッシング) (1971/3/30)
- 発売日 : 1971/3/30
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 368ページ
- ISBN-10 : 4041304032
- ISBN-13 : 978-4041304037
- Amazon 売れ筋ランキング: - 11,450位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
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上位レビュー、対象国: 日本
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2023年8月30日に日本でレビュー済み
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2023年9月19日に日本でレビュー済み
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映画よりもストーリーがもっと複雑怪奇。はるか昔読んだ事があったのだが、もう映画との違いをすっかり忘れていた。改めて読んでみると当時より面白かった。それだけ歳を取ったという事なのだろう。映画には出てくる、【坂口良子演じる"床屋の娘"】が本書では出てこないのも今回気付いた。ファンだっただけに残念である。映画やDVDしか観た事が無い人にはおすすめしたい。
2022年9月26日に日本でレビュー済み
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今となっては、“家”の問題は薄らいでいると思うが、戦後はしかも島という独特の空間ではまだ江戸時代以前のような“家”は守るべき重要なものっだったのだろう。相次いで殺される本鬼頭家の三人娘(月雪花)。その殺害される理由が今では想像できないものだった。当時は殺人を犯す十分な理由だったのだろうが、島の呪縛に囚われた島民の行動が恐ろしい。
2023年5月4日に日本でレビュー済み
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『獄門島』という小説、横溝正史さんの最高傑作とよく言われるので読んでみた。個人的には『悪魔が来りて笛を吹く』の方が好きだが、結構たのしめた。
2020年6月18日に日本でレビュー済み
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トリックも犯人も分かっていますが、面白かったです。
流石は横溝正史です。
流石は横溝正史です。
2015年8月10日に日本でレビュー済み
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みなさんコメントされているようにY先生の代表作。関西以西に縁遠い小生からすると瀬戸内の島の風情が感じられる、その雰囲気を楽しむだけでも読んでいて時間を忘れてしまいます。映像化されていますがやはり原作が一番かと思います!
脳内BGMは市川作品のサントラ(田辺信一)ですね!
昨今、日本人は良質なミステリに恵まれない、至極不幸な長いトンネルに入ってしまった。はやいところ日本のミステリーの失われた30年を埋められる人にご登場願いたい。切に願う次第。
いつまでも獄門島がナンバーワンで良いのか?くらいの気概が欲しい。
永遠にナンバーワンだと思います。
脳内BGMは市川作品のサントラ(田辺信一)ですね!
昨今、日本人は良質なミステリに恵まれない、至極不幸な長いトンネルに入ってしまった。はやいところ日本のミステリーの失われた30年を埋められる人にご登場願いたい。切に願う次第。
いつまでも獄門島がナンバーワンで良いのか?くらいの気概が欲しい。
永遠にナンバーワンだと思います。
2015年7月25日に日本でレビュー済み
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名探偵、みんなを集めて「さて」と
いい・・・の場面がないということくらいです。
名探偵が終盤に関係者を一堂に集めて真犯人を論破する場面です。
それがないとダメというわけではないのですが、推理小説の醍醐味だと思うのです。
総じて金田一の長編に真犯人を面と向かって論破するシーンは少ないです。
獄門島は名探偵が真犯人の前で謎解きをする場面はあるのですが、答え合わせに終始してしまいスリリングな対決感が弱いですね。
推理小説の最高傑作といわれる本作ですが、本作の注目点は港町、島の空気感だと思います。
舞台となる孤島を実に魅力的に描写しています。
販促的には怨念だとか因習だとかといった禍々しさを業界は前面に出していると思いますが、実際の獄門島はおどろおどろしくないのです。
おっとりとした田舎の開けっぴろげの開放感があり、怪奇探偵小説ではありません。
怪奇探偵小説の闇を本格推理小説の世界の住人金田一が理知の光で照らし出してしまうのです。
カツカレーにエビフライも乗せちゃおうか。この茶目っ気が本作に最高傑作の栄誉を与えているのでしょう。
いい・・・の場面がないということくらいです。
名探偵が終盤に関係者を一堂に集めて真犯人を論破する場面です。
それがないとダメというわけではないのですが、推理小説の醍醐味だと思うのです。
総じて金田一の長編に真犯人を面と向かって論破するシーンは少ないです。
獄門島は名探偵が真犯人の前で謎解きをする場面はあるのですが、答え合わせに終始してしまいスリリングな対決感が弱いですね。
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販促的には怨念だとか因習だとかといった禍々しさを業界は前面に出していると思いますが、実際の獄門島はおどろおどろしくないのです。
おっとりとした田舎の開けっぴろげの開放感があり、怪奇探偵小説ではありません。
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カツカレーにエビフライも乗せちゃおうか。この茶目っ気が本作に最高傑作の栄誉を与えているのでしょう。