今回の合田刑事ものは、実に読みやすく、しかも読み応え十分だった。
刑事小説としても、第二章から第三章の公判まで、刑事捜査の部分が実にリアルで、読ませる。
刑事たちは、粛々と尋問し証拠を集め、報告書をあげる。その連続の中で、事件を浮かび上がらせてゆく。
この語り口が、地味な分だけ極めて現実的で、捜査のリアリティを醸し出している。
特に、引き当たり捜査(現場検証)の部分は、強烈だ。順を追って淡々と語られる一家四人殺し。
淡々としているのが逆に、その凄惨さをすさまじく浮き彫りにする。
合田刑事も、前作『太陽を曳く馬』のように、納得できる答えを求めるあまり、思考の堂々巡りに陥るようなことはない。
あるいは、前作で延々と続けた自問自答の果てに、ある境地に達したと言えるか。
どんなにその心理、動機が理解できなくても、犯人は犯人。その事実には何を挟む余地もない――
そして、どんな殺人者でも、生は生であり、死は死である。そこにだけは何の留保もない――
その地点の上で、なおも犯人の“そこにいることの意味”を探ろうとする合田刑事は、やはり前作より一歩進んだ心境なんだと思う。
探った結果が、納得できるかどうかわからないのに。
結局は荒廃と空虚以外の何もないかもしれないのに。
それでも、人が存在することの意味を追い求め続けようとするのだから。
犯人との手紙のやりとりが、合田刑事の意志を、静かに、しかししっかりと表現している。
残虐な事件の惨たらしい詳細を語り尽くした後、それでもなお結末に漂う一抹の寂寥感に、小説としてのある種の到達を感じた。
それから、上巻を読み終えた時点ではカポーティの『冷血』と似た点も多く、どう違いを出すのかと心配もしたが、下巻は見事なまでの高村薫調。高村節全開。
加えて、医療過誤、検察のストーリー作り、死刑問題など、現代の社会的問題も背景としてしっかりと描き込まれ、本書の奥行きをぶ厚くしている。
読後、カポーティについては、全く意識の中から消えていた。
あれほどの名作をふまえて書き始めながら、最後には自分の世界に引っ張り込むその筆力たるや!見事としかいいようがない。
刑事小説としても読み応えがあり、淡々として迫力があり、なおかつ高村文学のテーマもより深みを増した本書は、非常に完成度が高いと思う。
しかし、今思うと、読み進めるのが苦痛なほどだった『太陽を曳く馬』の、バランスを崩しても書きたいことを全部ぶつけてしまう無軌道なパワフルさ。
あれも実は捨てがたいものがあったな、と今さら思ったりもする。
合田刑事が、新たな境地を獲得した中で、それでも再び激しく揺さぶられ突き崩されてしまいそうになる、そんな次回作も読んでみたい。
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冷血(下) 単行本 – 2012/11/29
高村 薫
(著)
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購入オプションとあわせ買い
『レディ・ジョーカー』(1997)『太陽を曳く馬』(2009)に続く、"合田雄一郎"シリーズ最新刊!
2002年クリスマス前夜。東京郊外で発生した「医師一家殺人事件」。衝動のままATMを破壊し、通りすがりのコンビニを襲い、目についた住宅に侵入、一家殺害という凶行におよんだ犯人たち。彼らはいったいどういう人間か?何のために一家を殺害したのか?ひとつの事件をめぐり、幾層にも重なっていく事実。都市の外れに広がる<荒野>を前に、合田刑事は立ちすくむ― 人間存在の根源を問う、高村文学の金字塔!
「子どもを二人も殺した私ですが、生きよ、生きよという声が聞こえるのです」
二転三転する供述に翻弄される捜査陣。容疑者は犯行を認め、事件は容易に「解決」へ向かうと思われたが・・・・・・。合田刑事の葛藤を描く圧巻の最終章『個々の生、または死』収録。
2002年クリスマス前夜。東京郊外で発生した「医師一家殺人事件」。衝動のままATMを破壊し、通りすがりのコンビニを襲い、目についた住宅に侵入、一家殺害という凶行におよんだ犯人たち。彼らはいったいどういう人間か?何のために一家を殺害したのか?ひとつの事件をめぐり、幾層にも重なっていく事実。都市の外れに広がる<荒野>を前に、合田刑事は立ちすくむ― 人間存在の根源を問う、高村文学の金字塔!
「子どもを二人も殺した私ですが、生きよ、生きよという声が聞こえるのです」
二転三転する供述に翻弄される捜査陣。容疑者は犯行を認め、事件は容易に「解決」へ向かうと思われたが・・・・・・。合田刑事の葛藤を描く圧巻の最終章『個々の生、または死』収録。
- 本の長さ304ページ
- 言語日本語
- 出版社毎日新聞社
- 発売日2012/11/29
- 寸法13.6 x 2.5 x 19.3 cm
- ISBN-104620107905
- ISBN-13978-4620107905
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登録情報
- 出版社 : 毎日新聞社 (2012/11/29)
- 発売日 : 2012/11/29
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 304ページ
- ISBN-10 : 4620107905
- ISBN-13 : 978-4620107905
- 寸法 : 13.6 x 2.5 x 19.3 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 572,168位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
著者について
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1953(昭和28)年、大阪市生れ。
1990(平成2)年『黄金を抱いて翔べ』で日本推理サスペンス大賞を受賞。1993年『リヴィエラを撃て』で日本推理作家協会賞、日本冒険小説協会大賞を受賞。同年『マークスの山』で直木賞を受賞する。1998年『レディ・ジョーカー』で毎日出版文化賞を受賞。2006年『新リア王』で親鸞賞を受賞。2010年『太陽を曳く馬』で読売文学賞を受賞する。他の著作に『神の火』『照柿』『晴子情歌』などがある。
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2012年12月5日に日本でレビュー済み
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2019年2月18日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
言わずとしれたカポーティの傑作「冷血」をフィクションに翻案した、非常に挑戦的な作品なのだろうが、高村薫
にしても、果たしてそれが成功したかはやや疑問である。
ノンフィクションのもつ圧倒的なリアリティを、フィクションで構成、再現するには、どだい無理があったのかも
しれない。
主人公、合田刑事は犯人の行動の軌跡を辿りながら何度も自問を繰り返すが、そのたびに読者は少しづつその心情
から遠ざかってしまうような気がする。
にしても、果たしてそれが成功したかはやや疑問である。
ノンフィクションのもつ圧倒的なリアリティを、フィクションで構成、再現するには、どだい無理があったのかも
しれない。
主人公、合田刑事は犯人の行動の軌跡を辿りながら何度も自問を繰り返すが、そのたびに読者は少しづつその心情
から遠ざかってしまうような気がする。
2012年12月8日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
私個人として、現代作家の中で一番好きなのが作者です。ずっと読み続けていますが、前作の、オウム真理教を題材にした、仏教問答が多い、「太陽を曳く馬」は難しかった。正直なところ理解できないページも多く、何度も読み返し、読み終わるまで何ヶ月もかかり、ぐったりしてしまいました。「靖子純情」「新リア王」から比べても一気にある方向に進んだ感じで、このあとの高村さんの作品はどうなるのだろうかと、ちょっと怖いような、それでも、やはり期待の方が大きく、待ち続けていました。
そして最新作の「冷血」。週刊誌に2010年の4月号から連載されていたことは露知らず、通りがかりの本屋さんに、真っ白な表紙が平積みになっているのにハッと気づき、アマゾンで買って今日読み終わったところです。毎日1,2時間ずつ読んで、ちょうど1週間かかりました。
新鮮な気持ちで、まっさらなところから読んで欲しいので内容に関するレビューは避けたいと思いますが、2012年の最後に、高村薫さんの新作を読むことができて、こんな幸せなことはありません。しかし、一方、またもや深く考えさせられ、打ちのめされてもいます。
読み続けている日々、電車の中で、布団の中で、まわりの世界が違ってみえていました。被害者の生活があり、加害者の衝動があり、犯罪が起こり、警察が動き、やがて犯人が逮捕され、調べられ、裁判に臨む・・・・私の日常では、新聞やテレビで断片的に触れているような事件のひとつが、高村さんによって深く掘り起こされています。それを読みながら、私は日常の日々を過ごしているという矛盾。
同じ世界に生きていて、偶然となり同士になったとしても、まったく違う人生を抱えている他人がいるという当たり前の事実。同じ人間でも、多様な断片を持っているという、やはり当たり前の事実。そして偶然の出会いが、あっという間に殺人事件になってしまうという、酷さ。
「太陽を曳く馬」とは違って、全面的に登場している会田雄一郎警部の視点が読者にとっての救いです。彼自身も若い頃から比べると格段に思慮深くなっており、その自問が何とも言えない。
下巻は一気に進んでいきますが、何カ所か涙腺が緩みました。会田雄一郎警部の思いやりに、です。この作品では、誰も幸福にはならないし、誰も納得しません。それでも日々は積み重ねられて、ひとつの結末に向かいます。
高村薫さんのファンの方なら当然お読みになるでしょうが、多くの方にも、たくさんの書籍の中で選んで、ぜひ読んでいただきたいと願っております。
私は作品の中で語られた高村さんの思想を真摯に受け止めて、自分の今後の行動、他人との関わりを考えながら、死を迎える瞬間まで何とか生きていこうと思います。生きる、生きる、生きる、です。
そして最新作の「冷血」。週刊誌に2010年の4月号から連載されていたことは露知らず、通りがかりの本屋さんに、真っ白な表紙が平積みになっているのにハッと気づき、アマゾンで買って今日読み終わったところです。毎日1,2時間ずつ読んで、ちょうど1週間かかりました。
新鮮な気持ちで、まっさらなところから読んで欲しいので内容に関するレビューは避けたいと思いますが、2012年の最後に、高村薫さんの新作を読むことができて、こんな幸せなことはありません。しかし、一方、またもや深く考えさせられ、打ちのめされてもいます。
読み続けている日々、電車の中で、布団の中で、まわりの世界が違ってみえていました。被害者の生活があり、加害者の衝動があり、犯罪が起こり、警察が動き、やがて犯人が逮捕され、調べられ、裁判に臨む・・・・私の日常では、新聞やテレビで断片的に触れているような事件のひとつが、高村さんによって深く掘り起こされています。それを読みながら、私は日常の日々を過ごしているという矛盾。
同じ世界に生きていて、偶然となり同士になったとしても、まったく違う人生を抱えている他人がいるという当たり前の事実。同じ人間でも、多様な断片を持っているという、やはり当たり前の事実。そして偶然の出会いが、あっという間に殺人事件になってしまうという、酷さ。
「太陽を曳く馬」とは違って、全面的に登場している会田雄一郎警部の視点が読者にとっての救いです。彼自身も若い頃から比べると格段に思慮深くなっており、その自問が何とも言えない。
下巻は一気に進んでいきますが、何カ所か涙腺が緩みました。会田雄一郎警部の思いやりに、です。この作品では、誰も幸福にはならないし、誰も納得しません。それでも日々は積み重ねられて、ひとつの結末に向かいます。
高村薫さんのファンの方なら当然お読みになるでしょうが、多くの方にも、たくさんの書籍の中で選んで、ぜひ読んでいただきたいと願っております。
私は作品の中で語られた高村さんの思想を真摯に受け止めて、自分の今後の行動、他人との関わりを考えながら、死を迎える瞬間まで何とか生きていこうと思います。生きる、生きる、生きる、です。
2019年2月23日に日本でレビュー済み
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上巻は本屋で買ったですが、その続きで読んでいます。警察の調書がながいですが、193ベージに「一人一人歴史の小石になる」との部分は、刑事の矜持を感じる。作者のほかの作品も同様だが、時代、社会、権力などの高説はべつとして、細かい所に光っている石を拾えるのが好きです。
2013年3月22日に日本でレビュー済み
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高村氏は昔から「自分はサスペンス小説を書いていると言う覚えはない」と仰っていたようだが、本当にサスペンス小説でなくなってしまいました。この救いのない荒涼とした世界を彷徨うのは合田裕一郎でないとダメなのか…?合田を含め、空しさを抱えつつ淡々と事件に応対する警察官僚達だけがリアリティを感じさせる本作…うーん、私にはもう良さが解りません。
2013年8月13日に日本でレビュー済み
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僕はすべて高村さんの作品をすべて読んでいないので単純にエンタテイメントとして面白かったかどうかで判断させていただきますと、下巻になって実に面白かったです。上巻でやや疲れながら下巻に来ましたが疲れも吹っ飛んで読んでしまいました。1日です。こういうのは久しぶりです。
初めは一言でいえばこういう人間が出現してきているということかなと思いました。従来の犯罪の物差しで測れない、単純に不条理、衝動とかという名前が当てはまらないもの、それを何とか捕まえようとする合田さんね。そんな構造のように思って読んでおりましたが、井上はともかく戸田のほうはあり得るかなとさらに井上の感覚もひょっとしたら今の世では起こり得るかなと思いながら読みました。題名から当然カポーティを連想しますが、設定がこちらは架空の話なので全くのフイクションです。(世田谷の事件を連想させますが、似させなかったほうがよかったような気がします)。個人的にはこちらのほうが面白かった。まあ今の時代を取り扱ってますから当然と言えば当然です。設定が突飛すぎるという書評も読みましたが小説は突飛の集約なんでいいかなと思います。
それと村上春樹にも通じるけれど作品の中に作者の世代感が出る(当然ですが)「パリ・テキサス」「ナスターシャ・キンスキー」「ライ・クーダー」・・・妙に納得してしまいます。
でも最後のあたりになってこの本の主題って、理由もない殺人の犯人を死刑に処するために正当な理由を見つけねばならないあ司法のジレンマを書き表しているのかなと思ったり、なかなか単純に痛快丸かじりという本ではありません。
それとちょっと前の事実が出てくるので(たとえば中村紀洋の移籍問題とか)昔々読んだ「赤ずきんちゃん気をつけて」を思い出した。いしだあゆみの「ブルーライトヨコハマ」が出てきて当時は新鮮な小説だった。
初めは一言でいえばこういう人間が出現してきているということかなと思いました。従来の犯罪の物差しで測れない、単純に不条理、衝動とかという名前が当てはまらないもの、それを何とか捕まえようとする合田さんね。そんな構造のように思って読んでおりましたが、井上はともかく戸田のほうはあり得るかなとさらに井上の感覚もひょっとしたら今の世では起こり得るかなと思いながら読みました。題名から当然カポーティを連想しますが、設定がこちらは架空の話なので全くのフイクションです。(世田谷の事件を連想させますが、似させなかったほうがよかったような気がします)。個人的にはこちらのほうが面白かった。まあ今の時代を取り扱ってますから当然と言えば当然です。設定が突飛すぎるという書評も読みましたが小説は突飛の集約なんでいいかなと思います。
それと村上春樹にも通じるけれど作品の中に作者の世代感が出る(当然ですが)「パリ・テキサス」「ナスターシャ・キンスキー」「ライ・クーダー」・・・妙に納得してしまいます。
でも最後のあたりになってこの本の主題って、理由もない殺人の犯人を死刑に処するために正当な理由を見つけねばならないあ司法のジレンマを書き表しているのかなと思ったり、なかなか単純に痛快丸かじりという本ではありません。
それとちょっと前の事実が出てくるので(たとえば中村紀洋の移籍問題とか)昔々読んだ「赤ずきんちゃん気をつけて」を思い出した。いしだあゆみの「ブルーライトヨコハマ」が出てきて当時は新鮮な小説だった。
2013年4月29日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
「太陽を曳く馬」まで持続した「暴力」と「命」への問いかけが、「冷血」では拡散してしまった印象だ。おそらくこの理由なき犯罪は、成立する社会の「わからなさ」を前提とするが、では、その反対の分かりやすい社会とは何だろう。その社会ではこのような犯行は理路整然とあたかも調書のように抹殺されたのだろうか。そうではあるまい。「わからなさ」はこのハイパー資本主義制社会ゆえに発生しているのではなく、人間の存在そのものに付随するものだ。そこを刑事の視点から描くのではなく、別の人間を新たに登場させることで問い詰めていく展開を期待していた。そこに違和感が残った。