放射線に関する正しい知識を得ることは、 これまで不審を買うことがないとは言えなかったマスメディアや政府機関が発する各種情報を的確に評価し、 この未曾有の状況にどのように立ち向かえばよいかを判断するために必須の条件である。
しかしながら、 放射線の作用を理解するには、 その物理あるいは生物作用など極めて多岐にわたる知識が求められており、 その全容を理解するのは専門家でも非常に困難であろう。 さらに、去年の 3 月以後に急遽発行された書籍の中には、 科学的に必ずしも正確ではないものも散見され、 それらに基く誤った見解が、 この災厄をさらに悲惨なものにするという嫌いもあった。
そんな中にあって、 物理学の専門家の手によってこの度上梓された本書は、 今後何十年もの間、我々が否応もなく向き合って暮らしていかなければならない 「やっかいな放射線」に関する基礎知識を平易な言葉で提供することを試みている。 著者の目的は、あくまでも 各種の情報から現状が安全か危険かを判断するために必要な知識を提供するところにあり、 現状が安全かつ安心できると主張するものでもなく、また危険・不安を主張するものでもない。
本書の前半は主に放射線の物理を扱っている。 主な項目を挙げれば、 ベクレル、 半減期、 放射線の種類と強さ、 自然の放射線と人工の放射線 など。 著者によれば読者対象を中学生以上としているとのことで、 一般の大人はもちろんのこと、 理科好きではない少年少女にも解るような平易な語り口で記述されている。
後半は本書で著者がもっとも力を入れて執筆したと思われる 放射線被曝による生物影響についての詳しい説明である。 この部分は重要なので、書かれている項目の中から 特に重要なものを選び以下に掲げる。
外部被曝と外部被曝の差異、 シーベルトとは何か、 実効線量とシーベルト、 外部被曝の実効線量、 内部被曝の実効線量、 等価線量など。 マスメディアにおいてもときとして誤って言及されているこれらの概念を 著者は簡単な図表の助けを借りながら具体的な数字を挙げつつ、 見事に説明している。
さらに、我々にとって最も大きな関心事である 被曝の健康への影響についても、多くのページを裂いている。 特に、 発癌に対する影響については、 広島・長崎における被爆者の追跡調査から得られたデータと 国際放射線防護委員会の勧告を丁寧に解説し、 ときとして誤解を呼んでいる線形閾値なし (LNT) 仮説や、 ALARA (As Low As Reasonably Achievable) 原則について 明快に解説している。 極めてわずかな汚染でも不安を感じる方や、 政府が決定した一般人の (自然被曝と医療被曝を差し引いた) 被曝量を 年間 1 ミリシーベルト以下に抑えるという方針に疑問を持つ方には、 参考になるのではないか。
被曝量に関する考察に続いて 放射性セシウムによる食品汚染および内部被曝についても 1 章がさかれている。 食品汚染の検出定量や、 ホールボディーカウンターによる内部被曝量の測定については、 事故後 1 年半を経てかなりのデータが揃ってきたようだが、 そのデータを解釈するにあたっての基礎知識は必ずしも 充分に流布しているとは言えない。 各方面から逐次公表される測定データを正しく解釈することは、 内部被曝を低減させるためだけではなく、 食材料選択に際しても重要な問題であるが、 本書のこの部分を参照することにより、 どの程度の量の汚染食物をどの程度に食べたら どの程度健康に悪影響を及ぼすのか (あるいは及ぼさないのか) を定量的に知ることができるだろう。
B5 版148 ページというハンディな体裁で、 巻頭の用語解説と巻末の索引が完備していることと相俟って、 手元に置いて繰り返し参照するのに適している。 放射線に対して漠とした不安を感じている多くの方に薦める。
なお、本書の最後の部分で著者は以下のように述べている。 本書を上梓するにあたっての著者の姿勢と誠意が感じられる。
考えてみれば、人類の歴史にせよ、個人の人生にせよ、すべてが「完全にわ かって」から決断して行動するなんていうことは決してない。いつでも何かし ら「わからない」ことは残る。それでも、最後は自分なりに考えた道を選んで 進んでいくものだ。「放射線や放射性物質が日常の一部になってしまった日 本でどう考えて生きて行くのか」というのは、 ずいぶん随分と重厚なテーマかもしれないけれど、 本質は変わらないとぼくは思う。やっぱり、何が「わかって」いて、 何が「わかっていない」かを知った上で、最後は自分なりに方針を決めて 進んで行くしかない。この本が、ほんの少しでも、そのお手伝いになれば、ぼ くとしてはものすごくうれしいです。
付記。 本書の内容はそっくりそのままの形で、 著者が管理しているホームページ上で無料公開されており、 興味のある者は自由にそれをダウンロードすることができる。 であるにもかかわらず、 著者の意を汲んでこういう形での商業出版を引き受けた版元の 朝日出版社の英断も賞賛に値する。
プライム無料体験をお試しいただけます
プライム無料体験で、この注文から無料配送特典をご利用いただけます。
非会員 | プライム会員 | |
---|---|---|
通常配送 | ¥410 - ¥450* | 無料 |
お急ぎ便 | ¥510 - ¥550 | |
お届け日時指定便 | ¥510 - ¥650 |
*Amazon.co.jp発送商品の注文額 ¥3,500以上は非会員も無料
無料体験はいつでもキャンセルできます。30日のプライム無料体験をぜひお試しください。
新品:
¥1,100¥1,100 税込
ポイント: 33pt
(3%)
無料お届け日:
3月31日 日曜日
発送元: Amazon.co.jp 販売者: Amazon.co.jp
新品:
¥1,100¥1,100 税込
ポイント: 33pt
(3%)
無料お届け日:
3月31日 日曜日
発送元: Amazon.co.jp
販売者: Amazon.co.jp
中古品: ¥160
中古品:
¥160

無料のKindleアプリをダウンロードして、スマートフォン、タブレット、またはコンピューターで今すぐKindle本を読むことができます。Kindleデバイスは必要ありません。
ウェブ版Kindleなら、お使いのブラウザですぐにお読みいただけます。
携帯電話のカメラを使用する - 以下のコードをスキャンし、Kindleアプリをダウンロードしてください。
やっかいな放射線と向き合って暮らしていくための基礎知識 単行本(ソフトカバー) – 2012/9/27
田崎 晴明
(著)
{"desktop_buybox_group_1":[{"displayPrice":"¥1,100","priceAmount":1100.00,"currencySymbol":"¥","integerValue":"1,100","decimalSeparator":null,"fractionalValue":null,"symbolPosition":"left","hasSpace":false,"showFractionalPartIfEmpty":true,"offerListingId":"gSvJHV1qs%2BOnOXBA6xv8rlpG2x0sO5NyezyKYmubitqKgq%2FlFs%2FJFRYYLsxFwd8KJBYlu9sgacbiDMFVC9p%2FxBldZyC21veh4oYpFiTeJM0kwm%2F7rPf%2FG8slh5Gwf%2FA7Pg%2Bh9vYNql0%3D","locale":"ja-JP","buyingOptionType":"NEW","aapiBuyingOptionIndex":0}, {"displayPrice":"¥160","priceAmount":160.00,"currencySymbol":"¥","integerValue":"160","decimalSeparator":null,"fractionalValue":null,"symbolPosition":"left","hasSpace":false,"showFractionalPartIfEmpty":true,"offerListingId":"gSvJHV1qs%2BOnOXBA6xv8rlpG2x0sO5Ny09x6ycJaPu%2Fu0RqtxmALW8Dmt%2B7GF2LDP9VYno2iFS5tPqogVPKLGgC%2FimLgtEn4maouDQuVsfzQQd1J61aSYigmQv8yBK4%2FxAR6z7allpgp9MIRf4DGKuNp5sGPlS46mThVdnbqKBEXMwcX4B7uIg%3D%3D","locale":"ja-JP","buyingOptionType":"USED","aapiBuyingOptionIndex":1}]}
購入オプションとあわせ買い
- 本の長さ160ページ
- 言語日本語
- 出版社朝日出版社
- 発売日2012/9/27
- 寸法18.5 x 1.2 x 25.8 cm
- ISBN-104255006768
- ISBN-13978-4255006765
よく一緒に購入されている商品

対象商品: やっかいな放射線と向き合って暮らしていくための基礎知識
¥1,100¥1,100
最短で3月31日 日曜日のお届け予定です
残り4点(入荷予定あり)
¥1,540¥1,540
最短で3月31日 日曜日のお届け予定です
残り1点(入荷予定あり)
総額:
当社の価格を見るには、これら商品をカートに追加してください。
ポイントの合計:
pt
もう一度お試しください
追加されました
一緒に購入する商品を選択してください。
この商品をチェックした人はこんな商品もチェックしています
ページ 1 以下のうち 1 最初から観るページ 1 以下のうち 1
商品の説明
著者について
田崎 晴明(たざき・はるあき)
理論物理学者、学習院大学理学部教授1986年東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。米国プリンストン大学講師、学習院学助教授等を経て1999年より現職。1997年「量子多体系の数理物理学的研究」で第1回久保亮五記念賞を受賞。研究以外では、見通しのよい現代的な教科書『熱力学』、『統計力学I, II』の著者として知られている。ポストモダン哲学における科学の濫用を批判した『「知」の欺瞞』の翻訳も手がけた。
理論物理学者、学習院大学理学部教授1986年東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。米国プリンストン大学講師、学習院学助教授等を経て1999年より現職。1997年「量子多体系の数理物理学的研究」で第1回久保亮五記念賞を受賞。研究以外では、見通しのよい現代的な教科書『熱力学』、『統計力学I, II』の著者として知られている。ポストモダン哲学における科学の濫用を批判した『「知」の欺瞞』の翻訳も手がけた。
登録情報
- 出版社 : 朝日出版社 (2012/9/27)
- 発売日 : 2012/9/27
- 言語 : 日本語
- 単行本(ソフトカバー) : 160ページ
- ISBN-10 : 4255006768
- ISBN-13 : 978-4255006765
- 寸法 : 18.5 x 1.2 x 25.8 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 496,514位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
著者について
著者をフォローして、新作のアップデートや改善されたおすすめを入手してください。

理論物理学者、学習院大学理学部教授。1986年東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。米国プリンストン大学講師、学習院大学助教授等を経て1999年より現職。1997年「量子多体系の数理物理学的研究」で第1回久保亮五記念賞を受賞(「BOOK著者紹介情報」より:本データは『やっかいな放射線と向き合って暮らしていくための基礎知識(ISBN-10: 4255006768)』が刊行された当時に掲載されていたものです)
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
2012年9月29日に日本でレビュー済み
2013年1月12日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
原子力は現代の「荒ぶる神」であるから、ヨーロッパの原発は神殿に模されている。内田樹さんがこのように述べています。
「荒ぶる神」の「荒ぶる」とは、ときに人間の手ではどうしても宥めることのできないほどにそこらのものを破壊し尽くすことを意味しますが、原子力が「神」にたとえられるのは、大破壊がいつ起こるのか予測できないばかりでなく、そもそも、それがどういう存在なのか、人間にはわからない、人間は原子力のことを知りえないからでしょう。
放射線はどのように危険なのか、今の日本の放射線レベルが危険なのか安全なのか、人間の生命にどのような影響を及ぼすのか、何かを断定することは不可能だと思います。
本書の著者は、福島の原発大事故によって、健康を損なう人が著しく増加することはないだろう、チェルノブイリの時のような子どもたちの大量被ばくはなかった、パニックや大騒ぎを引き起こす必要はない、と述べています。
けれども、どうじに、キノコを自分で採取して食べたり子どもに食べさせたりするのはやめよう、長期的な健康被害が起こらないとは断言できないので内部被爆を避ける努力は必要、放射線との闘いは始まったばかり、地域によっては内部・外部被爆の状況を長期的に測定し、食品の管理を続けなくてはならない、3・11にものすごいことがおこり、その余波が続いていて、戦後最大の難関である、とも警告しています。
そして、放射線について何がわかっていて、何がわかっていないのかを知ったうえで、自分で判断して生きるしかない、その際には、放射線を「気にする自由」も「気にしない自由」もおたがいに尊重しつつ、「最良の未来」を目指すべきことを訴えています。
「わかっていない」ことがたくさんある、そして、そこには危険なこともありうる、このことを「わかる」。これが放射線についての、基礎中の基礎知識だと思います。
「荒ぶる神」の「荒ぶる」とは、ときに人間の手ではどうしても宥めることのできないほどにそこらのものを破壊し尽くすことを意味しますが、原子力が「神」にたとえられるのは、大破壊がいつ起こるのか予測できないばかりでなく、そもそも、それがどういう存在なのか、人間にはわからない、人間は原子力のことを知りえないからでしょう。
放射線はどのように危険なのか、今の日本の放射線レベルが危険なのか安全なのか、人間の生命にどのような影響を及ぼすのか、何かを断定することは不可能だと思います。
本書の著者は、福島の原発大事故によって、健康を損なう人が著しく増加することはないだろう、チェルノブイリの時のような子どもたちの大量被ばくはなかった、パニックや大騒ぎを引き起こす必要はない、と述べています。
けれども、どうじに、キノコを自分で採取して食べたり子どもに食べさせたりするのはやめよう、長期的な健康被害が起こらないとは断言できないので内部被爆を避ける努力は必要、放射線との闘いは始まったばかり、地域によっては内部・外部被爆の状況を長期的に測定し、食品の管理を続けなくてはならない、3・11にものすごいことがおこり、その余波が続いていて、戦後最大の難関である、とも警告しています。
そして、放射線について何がわかっていて、何がわかっていないのかを知ったうえで、自分で判断して生きるしかない、その際には、放射線を「気にする自由」も「気にしない自由」もおたがいに尊重しつつ、「最良の未来」を目指すべきことを訴えています。
「わかっていない」ことがたくさんある、そして、そこには危険なこともありうる、このことを「わかる」。これが放射線についての、基礎中の基礎知識だと思います。
2014年2月2日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
あれからはや3年が経とうとしています。
著者は科学者ではありますが、放射線については専門家ではないとのこと。
それだけに、一般人にわかりやすく放射線についてかいておられます。
私も他の本読んでいて、「これは偏っているのではないか?」という疑問をもち、途中からこの本を読め始めました。
他書からの孫引きではなく常に公文書を参照して書かれたとの事で、信頼できる入門書だと思います。
語り口もフランクで読みやすかったです!
著者は科学者ではありますが、放射線については専門家ではないとのこと。
それだけに、一般人にわかりやすく放射線についてかいておられます。
私も他の本読んでいて、「これは偏っているのではないか?」という疑問をもち、途中からこの本を読め始めました。
他書からの孫引きではなく常に公文書を参照して書かれたとの事で、信頼できる入門書だと思います。
語り口もフランクで読みやすかったです!
2013年8月8日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
図書館で借りて見た際、他の放射線の本とは違って役に立つ内容が多く手元に置きたいと思い購入。放射線の影響が実用的な数字と共に記載され、すぐに調べられるので便利です。
2012年10月15日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
この本の第1章には、この本が書かれた動機が綴られている。著者は「こんな章は不要かも」と謙遜なさっているが、ここを読むと、あとの科学知識をしっかり理解しよう、丁寧に読み込んでいこうという気持ちになれると思う。
残りの章は、殆ど余計な雑談やエピソードは書かず、科学知識のみをできるだけわかりやすく書いてある。数式などは殆どない。Webでこの本の下敷きとなる文章を公開なさった時から さまざまな専門知識をもつ人のアドヴァイスを受けて内容が練られていったとのこと。
ところどころ、福島第一原発の事故現場で懸命に働き(まさに懸命である)事故の収束に向かって努力しつつある人たちへの 先生の尊敬と感謝が顔を出す。この姿勢にぐっと心を掴まれる。情緒に訴えることは全く目的としておらず、科学知識だけをしっかり書いてある本なのに。
この先、福島原発の事故をめぐって、また原発の是非をめぐって新たな報道がなされたり、論争が持ち上がったりするだろう。そのとき、いつも手元に置いて参照したい本。
残りの章は、殆ど余計な雑談やエピソードは書かず、科学知識のみをできるだけわかりやすく書いてある。数式などは殆どない。Webでこの本の下敷きとなる文章を公開なさった時から さまざまな専門知識をもつ人のアドヴァイスを受けて内容が練られていったとのこと。
ところどころ、福島第一原発の事故現場で懸命に働き(まさに懸命である)事故の収束に向かって努力しつつある人たちへの 先生の尊敬と感謝が顔を出す。この姿勢にぐっと心を掴まれる。情緒に訴えることは全く目的としておらず、科学知識だけをしっかり書いてある本なのに。
この先、福島原発の事故をめぐって、また原発の是非をめぐって新たな報道がなされたり、論争が持ち上がったりするだろう。そのとき、いつも手元に置いて参照したい本。
2012年12月14日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
非常に問題のある本だ。一見、良心的にすべての問題を網羅しているように見えるが、肝心の問題はうまく避けられている。ホルミシス効果の欺瞞の問題や、核廃棄物の問題などだ。結局、「向きあってくらしてゆく」とは、原発の存続を大前提にした考えであり、著者の立場では、原発への依存が大前提になっていることをわからなくてはならない。これまでの著者の発言も、推進側です。
2014年1月13日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
内部被曝の議論が不正確であり、ヒバクに関する本としては不適当である。
2013年9月7日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
正直、まだよんでいません。時間をみつけてよもうと思っています。