ユジャ・ワンが弾いたトルコ行進曲をYoutubeで見て以来、ちょっと彼女にハマってます。
おそらく、彼女のテクニックは、全盛期のホロヴィッツや「ペトリューシュカ」のポリーニ(好きではないピアニスト)には及ばないが、肉薄している。いい線行ってると思う。このアルバムにもホロヴィッツ編曲の2曲が収録されているが、難しすぎて、他のピアニストはあまり手を出さない類のものでしょう。
かつて、宇野功邦氏は、ホロヴィッツを「教養がない」と評した。たしかに言いえて妙だ。彼が編曲した「星条旗よ永遠なれ」などを聞くと、なるほどと思う。
ワンをホロヴィッツと比較すると、どうだろう。重低音の迫力と澄んだ高音部においては、やはりホロヴィッツが上である。しかし、ホロヴィッツは、ことテクニックにかけては歴代一位と私は思っているので、ホロヴィッツに肉薄しただけでも大したものである。指は軽やかに鍵盤をめぐるし、音色も良いし、ミスタッチもきわめて少ない。
音楽性においては、ホロヴィッツには何やら「魔的(ダス・デモーニッシュ)」はものを感じさせる瞬間がある。
ワンは、ピアノを弾く歓びとそれを人々に聞かせたいという気概にあふれている。そこに共感する。それから、音楽が良くドライブする、そこが好ましい。教養についていえば、品性がまるでないラン・ランなどに比べれば、格段にマシで、教養はまだ足りない弾きっぷりだが、真摯に楽譜に向き合う姿勢に好感を覚える。まだ若いからね。
「ファウスト」読んだりオペラ聞いたりしてるらしいから、いい傾向だと思う。あと10年もすれば、内面は随分と熟成するのではないか。
なにしろ、彼女は、「どんな風に死にたいか?」とインタビューされて、「ハンマークラヴィーアを弾きながら死にたい」と答えているんです。そのひと言をもって、ボクは彼女を全面的に支持したいし、これからも彼女を聞き続けると思う。(素晴らしい答えだと思いませんか?)
ちなみに、日本盤のボーナストラックとして、「二人でお茶を」が加えられているのが嬉しい。というか、これを選ぶセンスを好ましく思う。この曲は、スタンダードナンバーをアート・テイタムが編曲したもの。アートと言えば、ホロヴィッツがその腕前に驚愕し羨望したほどのジャズ・ピアニスト。ワンの念頭には、やはりいつもホロヴィッツがいるんですね。(ライナーノートには、そこへの言及がない)。
そうだ、最後に。グルックといい、「二人でお茶を」といい、このアルバムの選曲は、とてもセンスがいい。ズガンバーディ、リスト、シフラ、スタウ、、、全部良い。やはり、センスのいいピアニストなんだと思う。
欲をいえば、ショパンの「舟歌」とか入れてほしかった。あと、ホロヴィッツが得意としたスクリャービンの練習曲(カーネギーホールのやつ)も。