昔大好き人間にとってはたまらない掘り出し物。タイトルバックに流れるノスタルジックなワルツが一気に1970年代前半にタイムスリップさせてくれる。
人生の折り返し点はとうに過ぎた三人の男、工場経営者のヴァンサン、開業医のフランソワ、作家のポールは、何かと口実をつけては集まり、妻や子供たち、友人をも交えて、ワイワイやるのが大好き。毎日曜日には、郊外のポール宅で食事会もしている。
三者三様の悩みを抱えている。ヴァンサンは過剰な設備投資がたたり、多額の借金を抱え込み、債権者から返済を迫られている。それに彼の浮気が原因だが、別居中の妻カトリーヌから離婚を求められている。
フランソワは妻リュシーの浮気性に悩んでいる。リュシーは夫を人間味のない機械みたいだとなじり、昼顔妻(Belle-de-jour)状態。
ポールは作家としてはスランプに陥っているが、家庭生活は円満である。友人二人と比べると、一歩ひいた傍観者的な役柄だが、これは原作者で脚本家の一人クロード・ネロン(1926〜1991)自身の姿が投影されているからと思われる。彼は学校へ通ったのは13歳(フランスが対独宣戦した1939年)までで、ありとあらゆる職業(ホテルのボーイ、家具職人、毛皮職人、タクシー運転手、広告代理業、屑鉄屋など)を体験した苦労人。処女作にして映画の原作La Grande Marrade(大はしゃぎ)は、1964年にN.R.F.(新フランス評論)誌に「ボクシングの試合」の部分だけが掲載され、翌年出版されたもの。
さてヴァンサンは3日以内に1300万フラン支払わねばならない。かっての共同経営者の息子で、従業員のジャンの助けを借りて、金策に奔走するが万事休す。どこの国でも、銀行から融資を断られた人間に金を貸す人はまずいない。自身の身の破滅につながりかねないから。しかし個人主義の国フランスにも人情はある。元共同経営者で成功しているアルマンは協力を約束してくれたし、何よりも、別居中の妻カトリーヌの父親が翌朝1000万フラン貸そうと申し出てくれたのだ。娘婿としてはともかく、人柄を見込んで。
ヴァンサン役のイブ・モンタンがいい。若い愛人が出来、「実は……」と妻に告白し、彼女が別居せざるを得ないようにしておきながら、借金で首が回らなくなると、愛人には相談も出来ずに誤解から別れ話を持ち出される。頼れたのは妻の方、自分の父親に夫の窮状について相談してくれたのだ。しかし、縒りを戻そうとするヴァンサンに彼女は手厳しい。しばらくぶりに会った妻に魅力を感じ、復縁をそれとなく打診する身勝手な男をモンタンが好演している。
この作品中の事件と言えば、ポールの家の物置小屋が子供たちのたき火が原因で焼けたこと、ヴァンサンが熟慮の末、工場を手放したこと位で、あとは浮気、離婚、ジャンの恋人コレットのおめでたなど平凡な日常生活のひとこまばかり。
そんな中、この映画最大の見所と言えるのは、工場勤務のかたわら、プロボクサーを目指しているジャン(ジェラール・ドパルデュー)が強敵ジョー・カタノに挑戦するミドル級のボクシングシーン。迫力満点で、ドパルデューが若い!当時26歳だ。
登場人物は善人ばかりで、さりげなく相手を気遣っている。それがこの映画の心地良さだ。ヴァンサンの人生観が楽天的なのも救いだ。フィリップ・サルドの音楽も効果的で、作品を味わい深いものにしている。
監督クロード・ソーテは芸が細かい。冒頭のシーンで、焚き火の火が物置小屋に燃え移った際、登場人物たちにその役柄とか性格がはっきり分かるような言動をさせているので、人間関係も把握しやすい。それにヴァンサンの愛人マリー役を演じた絶世の美女リュドミラ・ミカエル、ポールの妻役で、目が魅力的な美貌のイタリア女優アントネッラ・ルアルディに巡り合えたのも望外の幸せだ。