冒頭のお話。
幼い少女を愛してしまう危険な男。
彼がとんでもないことをしでかしてしまうのでは??と
観ていて気が気ではなく、怯えながら
ハラハラして観ていくのですが・・・。
少女に恋をする男。
実際の行動に出れば犯罪になります。
でも、この男は同世代の女性をたぶん愛せなくて
無垢な少女に強い性愛を抱いてしまう。
それが許されないことだという自覚を持って。
自覚しているから、表には表さないし
過去の過ちを経て、自分を責め
生きようとするけれども
やはり「少女を好きになる自分」から逃れられず。
幼い子供に性愛を抱く男性というのは
甚だ危険極まりない存在で
許されない存在で・・・
さて、では当事者はいったい
どんな世界に生きているのか?なんて
今まで想像したこともありませんでした。
少女愛を抱く主人公目線で描かれた話を
追って行くにつれて
「許されない相手に愛を抱く自分」を
否定しながら生きている主人公目線で
感情を共有することになります。
すると、どうでしょう。
許されないからと自分の気持ちを抑え込みひた隠しにし
もちろん告白もできようがなく
責めを負う悪夢にうなされる主人公。
もし、同世代の、いえ
成人している女性を普通に愛することができる男性だったなら
普通に愛を伝え、幸運にもそれが受け入れられたなら
幸せな家庭を築くこともできる・・・?
いいや、待てよ?
仮に何の問題もない女性相手に
恋を抱く「普通の男性」って
そんなくくりは果たして存在するのか?と
自問することになります。
「普通の男性」であったとして
違う次元で無限の「障壁」が存在し・・・
心を本当に通わせる恋を成就できると
誰もができると、断言できるのか?
容姿が釣り合う、釣り合わない。
仕事が釣り合う、釣り合わない。
年齢の差。貧富の差。学歴の差。
不倫。人種。国籍。
etc...
「普通の男女」だったとしても
実に様々な理由で
抱いた思いを伝えられず
孤独の涙にくれることだって
ごくごく普通にこの世に溢れていることでしょう。
「普通の男女」だったとしても
思いが堆積、暴発し
犯罪行為に及ぶことも
決して起こりえないわけではない。
そうやって、一見「普通」に属していると
思い込んでいる人たちであっても
何らかの「事情」で
孤独な愛にもがき苦しむということは
まさに「普遍的なテーマ」だと思い至るのです。
すべてのひとが誰からも祝福される愛を
心に抱くわけではない。
そうだからといって
それが「燃えてなくなってしまえばいい」ような
ゴミのような存在。果たしてそうなのか。
他人を傷つけては決していけないのだけれども。
どんな立場のひとであっても
思いが常軌を逸して
迷惑を及ぼす程度に達したり
誰かを傷つけたりするに至れば
裁かれ、罰されるけれども
それがわかっているはずの世の中で
絶えずそういうことが起き続けているのもまた事実です。
人知れず、孤独に打ち震えて
伝えられない想いを閉じ込めて
生きた経験のあるひとも
そういう経験のないひとも
誰もが広く、「愛したが故の孤独」については
理解も共感もできることでしょう。
少女性愛の主人公のような人物だけが
世の中で唯一危険なわけではなく
誰もが、どんなひとでも
一線を越えたら「危険なひと」に成りうるということをここで
あらためて思い知らされるのです。
監督はゲイであることを公言していて。
おそらくはゲイの方たちも
胸に秘めた思いを抱いて
(それは誰にでも簡単に告白なんてたぶんできないでしょうし
誰からも広く祝福されるということもなく、そういう意味でも)
孤独のうちに生きるひとたちのひとつの形なのでしょうが
それはゲイだから、とか
映画のような少女性愛者だから、という
取り立てて「特殊な人たち」と思われている人に限ったことではなく
実はこの世に生きているすべての人が
見かけ上は多少異なっていたとしても
その組み合わせと運命によっては
誰もが抱えるありふれた想いなのかもしれないということを
きっと・・・おっしゃりたかったのではないでしょうか。
少女性愛者がすなわち悪なのではなく
それで実際に誰かを傷つける人が悪なのであれば
特に問題のない「普通の」異性愛者だったとしても
誰かを傷つければそれは同様に悪であるし
異性愛者の絶対数が多数であるからこそ
実は異性愛者間の犯罪や残酷のほうが
この世には溢れかえっているのでしょうし。
どのような愛の形なのかがはじめに問題なのではなく
利己的で、他者を重んじない想いと行為に
他者を傷つけてでも、自分の欲を満たそうという行為に
問題の根源があるのだと。
いろんなことに思考が及んで
決して長いとは言えない各々のストーリー(3篇)を
観ながらこんなに思いを巡らせることになるとは
まったく予想していなかっただけに
それだけのテーマを明確に切り取って映像化した
監督の力量とセンスにただただ深い感銘を覚えます。