このギリシア悲劇全集第3巻には、ソフォクレスが神話の英雄オイディプスとその子どもたちに題材を採った『オイディプス王』、『コロノスのオイディプス』、『アンティゴネー』が入っている。訳者はそれぞれ異なる。
その中の『オイディプス王』一つに注目しただけでも、この本は功績と呼べるとわたしは考えている。
なぜならその訳者岡道男のおかげで、わたしたちはやっと信頼できる『オイディプス王』の邦訳を手にすることができるようになったからだ。
たとえば多分これまでのほとんどの邦訳は、このドラマの真ん中ぐらい、オイディプスの妻であり母であるイオカステがかつて遺棄した自分の赤ん坊について語る台詞を、「留金で両のくるぶしを差し貫いたうえで」(藤沢訳より)山中に捨てたとしてきた。
では岡訳はどうかというと、子供の「両足を縛り」、とスッキリ正しく訳されている。
両足の無惨な傷についてはそれよりもあと、ドラマの2/3が経過したところではじめて知らせの男により語られるのだ。このようなことがあるとドラマの理解は大きく変わりうる。
岡は外国の権威の解釈や翻訳も検証し、原典に忠実な訳を試みたように思う。そのためたとえば福田訳のような読みやすさは少し損なわれたかも知れない。擬古的な美文は失せ、全体が散文的になったかもしれない。
しかし、ソフォクレスの悲劇オイディプース・テュラノスが本当はどのようなドラマなのか、わたしたちが翻訳を使って考えることのできるテキストが生まれたのだ。これは嬉しいしありがたいことだ。 わたし自身この悲劇を分析した拙著『オイディプスのいる町』でその恩恵にあずかった。
嬉しいしありがたいことはほかにもある。あとの2編『アンティゴネー』と『コロノスのオイディプス』も、ソフォクレスの傑作として名高い。この作家の傑作、と同時に「テーバイ物」3作が1冊にはいっているわけになる。
また各巻とも各頁の下段には訳者による注釈のスペースが設けられていて、ギリシア悲劇をはじめて読む人への配慮もある。
この本とではなく出版社と関係することで気づいたことがあるので、最後にひと言。
わたしはこの全集を90年代に買った。1991年に発刊された同じ全集の2巻の月報に、悲劇『オイディプス王』の舞台となったテーバイの町の建設者カドモスの像と題された写真が載った。ところが台座にはエパメイノンダスと書かれているではないか。似たようなことは『悲劇の解読』という本でもあった。岩波もずいぶんいい加減になったなーと感じてしまった次第。

無料のKindleアプリをダウンロードして、スマートフォン、タブレット、またはコンピューターで今すぐKindle本を読むことができます。Kindleデバイスは必要ありません。
ウェブ版Kindleなら、お使いのブラウザですぐにお読みいただけます。
携帯電話のカメラを使用する - 以下のコードをスキャンし、Kindleアプリをダウンロードしてください。
ソポクレース I ギリシア悲劇全集(3) 単行本 – 1990/6/1
オイディプース王,コロ-ノスのオイディプース,アンティゴネー
- 本の長さ376ページ
- 言語日本語
- 出版社岩波書店
- 発売日1990/6/1
- ISBN-104000916033
- ISBN-13978-4000916035
この商品をチェックした人はこんな商品もチェックしています
ページ 1 以下のうち 1 最初から観るページ 1 以下のうち 1
商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
2500年の歳月を越えて伝えられたギリシア古典文芸の精華に新たな息吹を与えることを願い、現存の全篇を新訳、脚注・解説を付し、数多の「断片」をも集成して刊行する。
登録情報
- 出版社 : 岩波書店 (1990/6/1)
- 発売日 : 1990/6/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 376ページ
- ISBN-10 : 4000916033
- ISBN-13 : 978-4000916035
- Amazon 売れ筋ランキング: - 408,540位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 86位その他の外国文学の全集・選書
- - 122位ギリシャ・ラテン文学
- - 1,696位その他の外国文学研究関連書籍
- カスタマーレビュー:
カスタマーレビュー
星5つ中5つ
5つのうち5つ
1グローバルレーティング
評価はどのように計算されますか?
全体的な星の評価と星ごとの割合の内訳を計算するために、単純な平均は使用されません。その代わり、レビューの日時がどれだけ新しいかや、レビューアーがAmazonで商品を購入したかどうかなどが考慮されます。また、レビューを分析して信頼性が検証されます。