【収録作】
「ブロンド・ヴィナス(1932)」
ドイツ人の前途有望な女優ヘレナ(ディートリッヒ)が、アメリカ人留学生(ハーバート・マーシャル)に見初められて結婚、米国で所帯を持ち、主婦となるお話。
かなり素に近い主婦時のディートリッヒはのっぺりとした顔で、いかにも化粧映えしそうな地顔を見せていますが、1-2年前のドイツ時代とは脚線美以外は別人に見えます。
特に放射線症に罹った夫の治療費を捻出する為にレビュー界に再デビューして以降の彼女の衣装とレビューの様子は華麗かつ幻惑的で、異国情緒どころか超現実的ですらあります。
前期マーシャルや遊び人ながら義侠心も持った富豪を演じた若き日のケーリー・グランドも印象に残りますが、ディートリッヒ尽くしの映画。
「恋のページェント(1934)」
18世紀のロシア宮廷を舞台にしたスタンバーグ&ディートリッヒ空間に満ち満ちたメロドラマ。
後のエカチェリーナ2世となるゾフィー(マレーネ・ディートリッヒ)が美形偉丈夫、明朗快活と聴いて嫁いだロシアの皇太子ピョートル(サム・ジャッフェ《「ペン・ケーシー」》)が実はハーポ・マルクスの様な笑みを浮かべた問題児だった…、という所は下手をするとダウンタウンのコント(「みすずちゃん」)になってしまう所がそうならない妙が御座います。
10代から即位する30代までを演じたディートリッヒの、特に男性を誘惑し煙に巻く演技はお見事。
彼女の衣装とロシア宮殿内の奇抜な美術は一見の価値あり。
ヘイズ・コード(ハリウッドにおける自己検閲機構)を逃れた最後期のハリウッド映画の為、史実を元にしているとは言え、主人公女性が平然と浮気を繰り返しても罰せられず、ロシア人の蛮行を想起させる僅かなシーンで上半身裸の女性が映っています。
「上海ジェスチャー(1941)」
ディートリッヒと袖を分かち、ジーン・ティアニー主演で撮られた、どこか心の洞を抱えた様な作品。
現在は殆ど試みられない蒙古襞を特殊メイクで張り付けたオナ・マンソン(「風と共に去りぬ」)演いるジンスリングの奇抜な衣装を楽しむと共に、生き別れの家族を覆う悲劇とデラシネとして魔都「上海」に居付いてしまった外国人の群像劇、そして衝撃的な終幕に無常観漂う作品。
名優ウォルター・ヒューストン(「黄金」「ヤンキー・ドゥードゥル・ダンディー」)、史劇で名を馳せた肉体美のヴィクター・マチュア(「サムソンとデリラ」「荒野の決斗」)と共に、ソ連から亡命し、スタニスラフスキーのメソッド演技をアメリカに伝えた大女優マリア・ウスペンスカヤ(「孔雀夫人」「狼男」)がジンスリングの侍女役で顔を見せています。
「上海〜」のみ少し感触が異なりますが、繊細で芸術家肌だったスタンバーグ監督の美意識が現在観ても光る傑作集でした。
ディートリッヒ出演作を担当したバート・グレノン(「駅馬車」「肉の蝋人形」)他の撮影と美術も見事です。
「ブロンド〜」でディートリッヒが歌う個性的な歌曲や、「恋の〜」でチャイコフスキーの作品(エカチェリーナ2世の治世より後の生まれですが)を多用した音楽も印象に残ります。
本ブロードウェイの監督別傑作選は一般的にはあまり知られていない拾遺集的印象が強く、例えばスタンバーグでしたら「モロッコ」や「間諜X27」や「上海特急」は選ばれておりません。
それでも、充分面白い内容でした。
本DVDは時代を考えても中庸より少々上位の画質・音質。
もし丁寧にレストアされた画面で拝見したらより印象が深くなる傾向の作品ばかりでしたので残念です。
本体特典は字幕のON/OFFとチャプター選択のみでした。
4頁解説リーフレットとスタンバーグ監督のジャケットと同じ写真のポストカード1枚付。
お値段は少々高めに感じました。