初めにインフレーション理論を提唱したのが日本人で、しかもその方が私の地元出身であると知ったときの驚きとうれしさは今も覚えている。
その佐藤先生が退官時の最終講義をまとめたのが、この本である。
口絵写真で、名だたる世界の物理学者と並んで写っている佐藤先生をみると、あらためてすごい方なのだなあと思う。
素粒子論を宇宙創生時の理論に適用したのが、始めは佐藤先生を含め世界で数人程度だったとのことから、いかに時代を先駆けた理論だったかと思う。
あとがきに書かれてあるとおり、最終講義は院生以上が対象だったことから、この本の内容は、一般人には理解が難しい部分もあるが、インフレーション理論のエッセンスを平易な表現で語ってくれていたりするので、重要な理論の本質は知ること出来るのではないだろうか。
興味深かった内容をいくつか挙げたい。
恒星が重力崩壊する過程で、素粒子が莫大なエネルギーに変換されるとのことだが、それは、宇宙創成の過程を逆戻ししているように感じた。エネルギーに満ちた宇宙が冷えて素粒子・原子核・物質ができ、それらがまた重力により集まって、最終的に重力崩壊を起こしエネルギーに戻る、そんなストーリーを想像する。
溶けた原子核のパスタ構造も面白い。
ミートボール状の中性子が、密度を上げ続けると、ミートボールとそれ以外の空間が反転した状態になる!しかも、その過程では、パスタ状、ラザーニャ状の構造を経ると!なんでそんな秩序だった構造をとれるのだろう??
先生が発表されたニュートリノ・トラッピング理論のくだりも面白い。
ワインバーグ・サラム両氏が提唱した電弱統一理論からすると、他と干渉しないはずのニュートリノが中性子星の内部でトラップされることに気づいたくだりや、トラッピング理論発表後、超新星爆発が観測され、理論通りのトラップ時間・ニュートリノ数がカミオカンデで検出されたことなど、実にスリリングである。
もちろん、インフレーション理論についての説明も大変興味深い。
とくに、P.191以降、大変平易な言葉で、インフレーション理論を説明してくれている。インフレーションを起こしているとき、マイナスの重力エネルギーも同時に蓄積し、それが真空のエネルギーに変換され、さらにそれが「潜熱」としてビッグバンを起こす元になるという。
ふつうの感覚では、体積が大きくなれば密度は下がる。しかし、始原宇宙のインフレーションでは、急膨張してもエネルギー密度が一定だった!これが「インフレーション理論の極めつけのエッセンス」とのことだ。そして、ここで生成されたエネルギーが、最終的に今の星々や我々生命体の元になっているとのことである。
続けて語られるマルチプロダクションも面白い。
相転移を起こしてエネルギーゼロとなった部分が泡状になって相転移を起こしていない高エネルギー部分を取り囲み、取り囲まれた部分が光速で縮む一方、体積は増大する。その増えた体積は、ワームホールを通じて別の宇宙を生成するというもの。
佐藤先生のインフレーション理論はノーベル賞に値すると思われるが、昨今の流れである観測による実証が受賞要件となることを考えれば、初期インフレーションの名残である重力波の検出が必要となるだろう。
宇宙空間に観測機を複数浮かばせる計画もあるとのこと。将来、始原重力波が観測され、先生の功績がさらに高まることを期待したい。

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宇宙137億年の歴史 佐藤勝彦 最終講義 (角川選書 465) 単行本 – 2010/3/10
佐藤 勝彦
(著)
〈目次〉
はじめに
序章 宇宙創生への旅 137億年の彼方へワープ
第1章 超新星爆発の研究から「宇宙の始まり」の解明へ
第2章 素粒子論的宇宙論の入り口に立って
第3章 インフレーションによって解決した問題
第4章 なぜ今、第2のインフレーションが起こったのか? 未解決の問題と「人間原理」
参考文献一覧
あとがき
はじめに
序章 宇宙創生への旅 137億年の彼方へワープ
第1章 超新星爆発の研究から「宇宙の始まり」の解明へ
第2章 素粒子論的宇宙論の入り口に立って
第3章 インフレーションによって解決した問題
第4章 なぜ今、第2のインフレーションが起こったのか? 未解決の問題と「人間原理」
参考文献一覧
あとがき
- ISBN-104047034657
- ISBN-13978-4047034655
- 出版社KADOKAWA/角川学芸出版
- 発売日2010/3/10
- 言語日本語
- 寸法13 x 1.5 x 18.9 cm
- 本の長さ252ページ
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商品の説明
著者について
一九四五年生まれ。京都大学大学院理学研究科博士課程修了。東京大学大学院理学系研究科教授などを経て、現在、東京大学数物連携宇宙研究機構特任教授。インフレーション理論により、宇宙論研究の世界的牽引者に。著書に『宇宙「96%の謎」』(角川ソフィア文庫)など多数。
登録情報
- 出版社 : KADOKAWA/角川学芸出版 (2010/3/10)
- 発売日 : 2010/3/10
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 252ページ
- ISBN-10 : 4047034657
- ISBN-13 : 978-4047034655
- 寸法 : 13 x 1.5 x 18.9 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 365,314位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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2013年4月1日に日本でレビュー済み
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面白い内容ですが、興味の引く内容ですので幾度も読み返しています。
2017年2月28日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
サーと読めて、大まかな流れを掴むのにいい本です。少し裏話も書いてあって面白かったです。
2010年7月3日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
佐藤先生の本は、いつも注目しています。
特に、今回は最終講義となっていたので購入しました。
佐藤先生の他の本の内容と全然違うわけではないのですが、新鮮な感じがしました。
特に、今回は最終講義となっていたので購入しました。
佐藤先生の他の本の内容と全然違うわけではないのですが、新鮮な感じがしました。
2013年10月5日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
購入後時間がたってますが、いまだ積読状況です。
本の状態は、提示の想定条件の想定範囲内にありました。
本の状態は、提示の想定条件の想定範囲内にありました。
2012年12月14日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
難しい量子論も分りやすく解説された、宇宙の歴史がよく分る一冊。
2010年12月21日に日本でレビュー済み
宇宙論の本はライバルが多いので★★★★。本書は佐藤最終講義と長谷川サイエンスライターの合本のような構成。1、2章はなかなか読みやすく、最終講義の内容は3、4章だったのかと思われる。
p.44「4次元の球は球の表面が面ではなく体積になっているような球をイメージ」
図26 対称性の破れの模式図(大阪市立博物館の「磁石のテーブル」が簡単になったような図)
図29 対称性の破れの南部模式、「宴席の丸いテーブルでみんなが右のナプキンを取るイメージ」
というあたりが気に入りました。
p.44「4次元の球は球の表面が面ではなく体積になっているような球をイメージ」
図26 対称性の破れの模式図(大阪市立博物館の「磁石のテーブル」が簡単になったような図)
図29 対称性の破れの南部模式、「宴席の丸いテーブルでみんなが右のナプキンを取るイメージ」
というあたりが気に入りました。