『三つ首塔』の原作は意欲作ではある。
『幽霊男』や『悪魔の寵児』といった都会を舞台したスリラーと岡山や那須を舞台した人間関係の複雑さが生む謎をメインしたパズラーを一つの作品で成立させようとしたのだろう。
が、ミステリとしてはいただけない。
都会の風俗描写や蠢く人間模様、過去の因縁話と横溝世界のオンパレードなのだが、それがパズラーと上手く結びついていない。
最後に明かされる犯人は意外ではあるものの、事件の状況からして??の部分が有る。
作者が当初想定していた設定が途中で変わってしまったのでは?とも考えてしまう。
そうしたわけで意欲作ではあるが、素直に高評価できない原作だが、TVで横溝正史シリーズの一本として作れらた本作は傑作と言っていい出来だ。
原作の傷が修正されているのか?そういう訳では無い。
むしろ、原作がストレートな本格でないことが映像に向いていたとも言える。
そもそも、本格探偵小説は映像には向かない。
え?クリスティとか映像化された作品が多いじゃん。
確かにクリスティは、映像化された作品は多いしルメット監督の『オリエント急行殺人事件』は傑作と名高い。
ただし、オールスターキャストでオリエント急行という舞台設定があの作品のキモであって正面切ったミステリものと見た場合に出来が良いかは別の話。
そもそも、クリスティというひとが、ストレートな純粋なミステリ作家というより、本格を少しずらしたところで勝負する部分がある作家で、そこに持ち味があるともいえる。
実際、クリスティは名探偵が出てこない『そして誰もいなくなった』、『ゼロ時間へ』、『ねじれた家』云った作品ほうが出来が良いのでは?とすら思ってしまう。
エラリー・クィーンの『国名シリーズ』なんて最期にエラリーが展開する濃密な事件の解体部分など小説で読むとすばらしいけど、映像化したら観ている方が飽きてくるだろう。
実際、エラリー・クイーンのこれらの作品群が原作に忠実に映像化されたことはない。
横溝正史も多くの作品が映像化されたが、横溝の特徴であるドロドロした人間模様がメインになっている。
実際、映像作品から横溝正史に入った人が「こんなにしっかりしたパズラーなんだ」と『獄門島」や『犬神家の一族』を読んで印象が変わったというひとが少なからずいる。
ところが『三つ首塔』は原作よりこの『横溝正史シリーズ』で映像化されたもののほうが面白い。
原作がパズラーというよりスリラーであることが映像化で生きてきている。
原作にある戦後、東京の夜の世界が出来のいいセットで再現されている。
怪しげなSMショー、金粉ストリップといった風俗。
そこに群がる男と女。
さらにそこに莫大な遺産まで絡み合って疑心暗鬼になる人々。
それが最期に地方にある三つ首塔と呼ばれる怪しげな建物へ人々が導かれていく。
それを演じるキャスト陣。
佐分利信、黒沢年男、小松方正、小池朝雄と云った面々が男の汗を感じる熱演。
ヒロインを演じる真野響子が原作から出てきたように清楚さと向こう見ずさ・・・そしてエロさを熱演。
さらに佳那晃子のエロチックさ・・・・一世一代の役どころではないだろうか。
これも『三つ首塔』という作品が本格探偵小説としては??の部分があるので、謎解きより男女のドロドロ感を全面にだして映像化したスタッフの勝利といったところ。
まあ、騙されたと思って観たら良い。
結構やばい作品。
昭和って凄いよね。
今のTVコードで絶対の放送できないレベルだよ。