1997年新書館からの刊行。オリジナルは1975年刊。本書は津軽三味線の巨匠高橋竹山(1910~1998)の自伝です。
高橋竹山(本名:定蔵)は、現在の青森県東津軽郡平内町小湊に農家の二男坊として生まれましたが、2歳のときに麻疹に罹って半失明となりました。田舎ですから盲学校もありません。とりあえず普通の小学校に行くのですが、目が見えないのでやはり勉強にならず、3、4日行っただけで中退。その後隣村の盲目の門付け芸人戸田重次郎の弟子になり三味線を学ぶことになります。17歳で師匠の許しを得て独り立ちして各地を門付けして歩く、というのが前半。
その後は単独で門付けをしたり、ローカル民謡歌手の興行に伴奏者として雇われ巡業したり、大雪の降る地方ですから、冬期は門付けは難しいので青森市の映画館の楽団の一員となったり(無声映画の時代ですね)、門付けがままならなければインチキ目薬や飴を売ってテキ屋のマネをしてみたり、とまあ波乱万丈の半生。しかも戦争が激化すると三味線どころではなくなり、1944年35歳にして八戸の盲学校に入学し5年で卒業して鍼灸・マッサージの免状を見事取得。その後故郷でしばらくマッサージ師として細々と営業していたようですが、戦争が終わって自由になると、娯楽に飢えた人たちのために芸能の世界に舞い戻るのです。そこで津軽民謡の名人、成田雲竹の伴奏者になり(竹山の名は雲竹から授かった)、本格的な津軽三味線の演奏者としてメキメキと腕を上げて次第に本格化して他の追随を許さぬ存在になっていくのが後半。
本書は片田舎の名もなき盲人が、比類なき芸術家として大成していく過程を余すことなく描いてみせた、最良の自叙伝です。しかもそれだけではなく、明治から昭和初期までの地方の医療体制、社会保障、そして身障者へのバックアップがきわめて未発達であった時代に、竹山のような人がどうやって生き延びなければならなかったかを、詳らかにする近代日本の裏面史の一面も持っていることが分かります。そして全編を貫く竹山の朴訥かつリアルな津軽弁の語りは、大変な説得力に満ちています。しかもかなり悲惨な状況にあっても、独特のユーモア精神で話が暗くならないどころか「おかしみ」が滲み出るみのもすごい。これは公私にわたって竹山の芸能活動の援助をして、折に触れて竹山の語りをノートしてきた、同じく生粋の津軽人である佐藤貞樹氏による口述筆記の功績が大であると思われます。三味線ファンだけではなく、借り物または偽りではない、本物の人生に出会いたければ本書は必読の書。
余談1:私は生涯たった一度だけ、最晩年の竹山のライヴを目の当たりにしています。その思い出は一生の宝物です。
余談2:作詞家星野哲郎は、70年代後半にニュー・ミュージックやロックが台頭してきて音楽シーンの中心になった頃、もはや自分のような者の作る歌の出番はなくなったと観念して、引退も考えたらしい。ところがそのころに本書を読んで大いなる感銘を受けて「風雪ながれ旅」を作ったのです。その歌は船村徹により曲が付けられて、歌手北島三郎の代表作のひとつとなりました。

無料のKindleアプリをダウンロードして、スマートフォン、タブレット、またはコンピューターで今すぐKindle本を読むことができます。Kindleデバイスは必要ありません。
ウェブ版Kindleなら、お使いのブラウザですぐにお読みいただけます。
携帯電話のカメラを使用する - 以下のコードをスキャンし、Kindleアプリをダウンロードしてください。
津軽三味線ひとり旅: 自伝 単行本 – 1997/2/1
高橋 竹山
(著)
- 本の長さ189ページ
- 言語日本語
- 出版社新書館
- 発売日1997/2/1
- ISBN-10440322038X
- ISBN-13978-4403220388
この商品をチェックした人はこんな商品もチェックしています
ページ 1 以下のうち 1 最初から観るページ 1 以下のうち 1
商品の説明
内容(「MARC」データベースより)
門づけから始まった放浪の生涯。貧しく目の不自由な一人の人間が生きることの土台として三味線をもち、いつも違う聴き手をもとめて全国をさまよう。竹山自らが津軽のことばでつづる。
登録情報
- 出版社 : 新書館 (1997/2/1)
- 発売日 : 1997/2/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 189ページ
- ISBN-10 : 440322038X
- ISBN-13 : 978-4403220388
- Amazon 売れ筋ランキング: - 899,035位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 282位その他の音楽の本
- - 589位邦楽・民謡
- - 38,719位楽譜・スコア・音楽書 (本)
- カスタマーレビュー:
著者について
著者をフォローして、新作のアップデートや改善されたおすすめを入手してください。

著者の本をもっと発見したり、よく似た著者を見つけたり、著者のブログを読んだりしましょう