私がこの数年アイヌ文化を聴き、見てきて思うのは、そもそもアイヌ芸能は鑑賞するように距離を置くものではなく参加するものだろうということだ。
多くの日本人は自己表現が苦手なので、アルコールの力でも借りないと文化的に盛り上がれないという国民性を持っている。
しかし、アイヌ文化はみんなで歌う、そしてみんなで踊る・・・上手いか下手かは全く関係ない。みんなで自由に自己表現を楽しむ、これがアイヌ文化の本質で、皆のその喜びが集結し爆発する瞬間が訪れるとき、最高の歓喜に達するのだ。
そしてこの歓喜はアイヌ民族の本質にある自然に対する感謝の気持ちを最大限に表現するものである。今、私はそのように感じている。
実際に輪踊りに参加しリムセやウポポをやっていると、自分の中に新しい何かが芽生える、初めて輪踊りに参加した人たちを見ていると、普段には見られない喜びにあふれた表情を見ることができるのだ。
さて、安東ウメ子さんは、おそらくアイヌのフチ(お婆さん)としては、どこにもいる自然体の方だと思う。アイヌの人には”私は第一人者だ”のように力む人はほとんどいない。
安東フチのように自然に歌う・・・歌いたいから歌う、楽しいから歌う、こういう世界だ。
このCDでも他のお婆さん(声はそう聞こえるので)から”ウメ子いくよー”と促され自然に歌がはじまる。
だからこのCDに参加している演奏者と一緒にアルバムに参加できるような意識になる、だから聴いていてとても心地よい。
CDでは安東フチのムックリ演奏を聴くことができるが、この楽器はアイヌ民族にとってとても重要な楽器だ。
ムックリは口琴と言われ、これは竹で作られ口にあてて振動によってベンをふるわせ奏でる楽器で音程は調整できないが口や喉の形、
そして息の使い方によって質素な楽器ではあるが多彩な音色を奏でられるもので、少し材質や形態を変化させ中国、ロシア、モンゴルと広い地域に見られる楽器なのである。
安東フチのムックリは穏やかに一音一音を奏でる演奏なのである。
さて、トンコリとプロデュースはOKIによるが、トンコリは5弦の琴というべき楽器で一見ギターに似ているようだが、ギターの様にフレットを押さえて音を変えるものでなく張られた5弦の開放弦のみで演奏されるので楽器としてはサウンドホールをもつハープのような楽器である。この楽器はアイヌ民族の楽器だが北海道アイヌではなく樺太アイヌの人々の楽器だった。現在は北海道アイヌの人々にも浸透している。
OKIはこの楽器を広く再認識させ、更なる多弦楽器を生み出したり、新調弦を行なったり、アイヌ音楽とロックミュージックの融合をさせたりとこの楽器の新しいスタイルを追求しているアーティストだ。
よって、伝統的なトンコリ演奏とは少し離れたところにあると思うのだが(伝統的なトンコリ演奏なるものを正しく理解していないのでこの表現を少々許していただきたいが)、アイヌの伝統音楽をベースに現代感覚あふれる音楽を展開し、今の私たちには身近に感じられる音楽を提供していると言えるだろう。
バックコーラスには女性アイヌ音楽グループ、マレウレウのメンバーも参加をしてる。
アイヌ文化は何かいいなー。
このCDを気に入った方とは、もしかしていつかどこかで一緒に輪踊りをしているかもしれませんね。