敬太郎という男が、自分の人生において己の行動による結果、つまり、経験によって得たものがないのを悩み、数人の人物のエピソードを聞いて、己の人生経験の足しにする話。
また、裏主人公の須永という男が、母と幼馴染の千代子との関係に悩みながら、自己の確立を目指す話。
この本には、漱石自身も苦しんだ神経症に対する対策が随所に入っている。外の世界に関心を向ける叔父の松本と、自己の世界に籠って想像が止まらない須永。旅先で何も考えずに窓からの景色を眺めることで神経の回復を得た須永。そのほかにも随所にそれが散見される。
個人的には須永が千代子に言われた「あなたは卑怯だ」というセリフと、須永が叔父の松本に対して言った「あなたは不親切だ」というセリフのつながりが好き。平生の須永なら叔父に対してこんな思い切ったことは言わなかったと思うが、千代子に言われた言葉が図らずとも須永を変えたのだろうか。
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彼岸過迄 (新潮文庫) 文庫 – 1952/1/22
夏目 漱石
(著)
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現代の「愛の不毛」はこの作品からはじまった――。
漱石の男女観を見事に結実させた恋愛小説。
自らを投影して人間の「内面」を捉えた、後期三部作の幕開け。
誠実だが行動力のない内向的性格の須永と、純粋な感情を持ち恐れるところなく行動する彼の従妹の千代子。愛しながらも彼女を恐れている須永と、彼の煮えきらなさにいらだち、時には嘲笑しながらも心の底では惹かれている千代子との恋愛問題を主軸に、自意識をもてあます内向的な近代知識人の苦悩を描く。須永に自分自身を重ねた漱石の自己との血みどろの闘いはこれから始まる。
用語、時代背景などについての詳細な注解、解説を付す。
著者の言葉(本作の連載にあたって)
歳の改まる元旦から愈(いよいよ)書始める緒口(いとぐち)を開くように事が極(きま)った時は、長い間抑えられたものが伸びる時の楽(たのしみ)よりは、脊中に脊負(しょわ)された義務を片附(かたづけ)る時機が来たという意味で先(まず)何よりも嬉しかった。けれども長い間抛(ほう)り出して置いたこの義務を、どうしたら例(いつも)よりも手際よく遣(やっ)て退けられるだろうかと考えると、又新らしい苦痛を感ぜずにはいられない。
久し振だから成るべく面白いものを書かなければ済まないという気がいくらかある。……(本書「彼岸過迄に就て」)
※「彼岸過迄」というタイトルは、「新聞連載を元旦から始めて、彼岸過ぎまで書く予定」だからとのこと。「門」に続く作品だが、その間に大病(明治43年)を経ている。
夏目漱石(1867-1916)
1867(慶応3)年、江戸牛込馬場下(現在の新宿区喜久井町)に生れる。帝国大学英文科卒。松山中学、五高等で英語を教え、英国に留学した。留学中は極度の神経症に悩まされたという。帰国後、一高、東大で教鞭をとる。1905(明治38)年、『吾輩は猫である』を発表し大評判となる。翌年には『坊っちゃん』『草枕』など次々と話題作を発表。1907年、東大を辞し、新聞社に入社して創作に専念。『三四郎』『それから』『行人』『こころ』等、日本文学史に輝く数々の傑作を著した。最後の大作『明暗』執筆中に胃潰瘍が悪化し永眠。享年50。
漱石の男女観を見事に結実させた恋愛小説。
自らを投影して人間の「内面」を捉えた、後期三部作の幕開け。
誠実だが行動力のない内向的性格の須永と、純粋な感情を持ち恐れるところなく行動する彼の従妹の千代子。愛しながらも彼女を恐れている須永と、彼の煮えきらなさにいらだち、時には嘲笑しながらも心の底では惹かれている千代子との恋愛問題を主軸に、自意識をもてあます内向的な近代知識人の苦悩を描く。須永に自分自身を重ねた漱石の自己との血みどろの闘いはこれから始まる。
用語、時代背景などについての詳細な注解、解説を付す。
著者の言葉(本作の連載にあたって)
歳の改まる元旦から愈(いよいよ)書始める緒口(いとぐち)を開くように事が極(きま)った時は、長い間抑えられたものが伸びる時の楽(たのしみ)よりは、脊中に脊負(しょわ)された義務を片附(かたづけ)る時機が来たという意味で先(まず)何よりも嬉しかった。けれども長い間抛(ほう)り出して置いたこの義務を、どうしたら例(いつも)よりも手際よく遣(やっ)て退けられるだろうかと考えると、又新らしい苦痛を感ぜずにはいられない。
久し振だから成るべく面白いものを書かなければ済まないという気がいくらかある。……(本書「彼岸過迄に就て」)
※「彼岸過迄」というタイトルは、「新聞連載を元旦から始めて、彼岸過ぎまで書く予定」だからとのこと。「門」に続く作品だが、その間に大病(明治43年)を経ている。
夏目漱石(1867-1916)
1867(慶応3)年、江戸牛込馬場下(現在の新宿区喜久井町)に生れる。帝国大学英文科卒。松山中学、五高等で英語を教え、英国に留学した。留学中は極度の神経症に悩まされたという。帰国後、一高、東大で教鞭をとる。1905(明治38)年、『吾輩は猫である』を発表し大評判となる。翌年には『坊っちゃん』『草枕』など次々と話題作を発表。1907年、東大を辞し、新聞社に入社して創作に専念。『三四郎』『それから』『行人』『こころ』等、日本文学史に輝く数々の傑作を著した。最後の大作『明暗』執筆中に胃潰瘍が悪化し永眠。享年50。
- ISBN-104101010110
- ISBN-13978-4101010113
- 版改
- 出版社新潮社
- 発売日1952/1/22
- 言語日本語
- 寸法14.8 x 10.5 x 2 cm
- 本の長さ400ページ
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出版社より
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吾輩は猫である | 倫敦塔・幻影の盾 | 坊っちゃん | 三四郎 | それから | 門 | |
カスタマーレビュー |
5つ星のうち4.0
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価格 | ¥693¥693 | ¥605¥605 | ¥341¥341 | ¥374¥374 | ¥506¥506 | ¥440¥440 |
【新潮文庫】夏目漱石 作品 | 明治の俗物紳士たちの語る珍談・奇譚、小事件の数かずを、迷いこんで飼われている猫の眼から風刺的に描いた漱石最初の長編小説。 | 謎に満ちた塔の歴史に取材し、妖しい幻想を繰りひろげる「倫敦塔」、英国留学中の紀行文「カーライル博物館」など、初期の7編を収録。 | 四国の中学に数学教師として赴任した直情径行の青年が巻きおこす珍騒動。ユーモアと人情の機微にあふれ、広範な愛読者をもつ傑作。 | 熊本から東京の大学に入学した三四郎は、心を寄せる都会育ちの女性美禰子の態度に翻弄されてしまう。青春の不安や戸惑いを描く。 | 定職も持たず思索の毎日を送る代助と友人の妻との不倫の愛。激変する運命の中で自己を凝視し、愛の真実を貫く知識人の苦悩を描く。 | 親友を裏切り、彼の妻であった御米と結ばれた宗助は、その罪意識に苦しみ宗教の門を叩くが……。「三四郎」「それから」に続く三部作。 |
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草枕 | 虞美人草 | 彼岸過迄 | 行人 | こころ | 道草 | |
カスタマーレビュー |
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価格 | ¥473¥473 | ¥605¥605 | ¥605¥605 | ¥649¥649 | ¥407¥407 | ¥506¥506 |
智に働けば角が立つ──思索にかられつつ山路を登りつめた青年画家の前に現われる謎の美女。絢爛たる文章で綴る漱石初期の名作。 | 我執と虚栄に心おごる美女が、ついに一切を失って破局に向う悽愴な姿を描き、偽りの生き方が生む人間の堕落と悲劇を追う問題作。 | 自意識が強く内向的な須永と、感情のままに行動して悪びれない従妹との恋愛を中心に、エゴイズムに苦悩する近代知識人の姿を描く。 | 余りに理知的であるが故に周囲と齟齬をきたす主人公の一郎。孤独に苦しみながらも、我を棄てることができない男に救いはあるか? | 親友を裏切って恋人を得たが、親友が自殺したために罪悪感に苦しみ、みずからも死を選ぶ、孤独な明治の知識人の内面を抉る秀作。 | 健三は、愛に飢えていながら率直に表現できず、妻のお住は、そんな夫を理解できない。近代知識人の矛盾にみちた生活と苦悩を描く。 |
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硝子戸の中 | 二百十日・野分 | 坑夫 | 文鳥・夢十夜 | 明暗 | |
カスタマーレビュー |
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価格 | ¥374¥374 | ¥506¥506 | ¥473¥473 | ¥473¥473 | ¥825¥825 |
漱石山房から眺めた外界の様子は?終日書斎の硝子戸の中に坐し、頭の動くまま気分の変るままに、静かに人生と社会を語る随想集。 | 俗な世相を痛烈に批判し、非人情の世界から人情の世界への転機を示す「二百十日」、その思想をさらに深く発展させた「野分」を収録。 | 恋愛事件のために出奔し、自棄になって坑夫になる決心をした青年が実際に銅山で見たものは……漱石文学のルポルタージュ的異色作。 | 文鳥の死に、著者の孤独な心象をにじませた名作「文鳥」、夢に現われた無意識の世界を綴り、暗く無気味な雰囲気の漂う、「夢十夜」等。 | 妻と平凡な生活を送る津田は、かつて将来を誓い合った人妻清子を追って、温泉場を訪れた──。近代小説を代表する漱石未完の絶筆。 |
登録情報
- 出版社 : 新潮社; 改版 (1952/1/22)
- 発売日 : 1952/1/22
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 400ページ
- ISBN-10 : 4101010110
- ISBN-13 : 978-4101010113
- 寸法 : 14.8 x 10.5 x 2 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 54,565位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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著者について
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(1867-1916)1867(慶応3)年、江戸牛込馬場下(現在の新宿区喜久井町)に生れる。
帝国大学英文科卒。松山中学、五高等で英語を教え、英国に留学した。留学中は極度の神経症に悩まされたという。帰国後、一高、東大で教鞭をとる。1905(明治38)年、『吾輩は猫である』を発表し大評判となる。
翌年には『坊っちゃん』『草枕』など次々と話題作を発表。1907年、東大を辞し、新聞社に入社して創作に専念。『三四郎』『それから』『行人』『こころ』等、日本文学史に輝く数々の傑作を著した。最後の大作『明暗』執筆中に胃潰瘍が悪化し永眠。享年50。
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2023年5月25日に日本でレビュー済み
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2020年2月3日に日本でレビュー済み
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It has a sentence, "Ending", that concludes the story so that people like me do not get lost.
At this point, I was able to recognize the intent of the story well and read it clearly.
As a whole, the degree of suffering of the characters seems to have deepened compared to the initial trilogy.
Is this a change in style that comes from overcoming a critical situation? The next work of the latter part of the trilogy, “Gyojin,” will be read at the right moment.
At this point, I was able to recognize the intent of the story well and read it clearly.
As a whole, the degree of suffering of the characters seems to have deepened compared to the initial trilogy.
Is this a change in style that comes from overcoming a critical situation? The next work of the latter part of the trilogy, “Gyojin,” will be read at the right moment.
2019年6月19日に日本でレビュー済み
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What a wonderfully new subject for a book. This book was very well written!
A MUST READ! If it is the only book you read this year, or this decade, read this one! READ THIS BOOK!
I suck at writing reviews. I want you to know I love everything about this author's books and if you have not read her yet, you need too! This book has it all!
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2021年12月7日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
心の中を知るのは難しいと感じる小説だった。人は心を様々な言葉で表現する。愛、喜び、平安などに関するポジティブの言葉や、怒り、嫉妬、不安、憎しみなどのネガティブな言葉まで、様々な言葉を駆使して心を表現する。そして、自分の気持ちをうまく伝えることができない経験は誰もがしていると思う。自分の気持ちもうまく伝えられない私たちが、人の心をどうしたら理解できるのだろう。完全に理解できなくても一歩でも近づくにはどうすればよいのだろう。
この小説は、有名な「こころ」の2年前に書かれた。「タイトルは元日から始めて、彼岸過まで書く予定だから単にそう名づけたまでに過ぎない空しい標題であり、個々の短篇が相合して一長篇を構成するように仕組んだ小説」と前書きにある。これらの短編は、共通の登場人物で成り立っているが、最初の主な登場人物が後半になるにしたがってさほど重要でなくなっていく人もあることから、筆を進めながら一人の男、市蔵の心を描くことに行きついた印象を受けた。そしてその市蔵のこころを想像し、知ろうとする努力をしなければ全く面白くない小説だとも思った。
市蔵とその友人、敬太郎は、高等教育を受け、卒業試験、就職難、格差社会という100年前の小説とは思えない近さに生きている。そして市蔵を取り巻く環境が、好奇心旺盛な青年、敬太郎の目を通して謎解きされていく構成となっている。
市蔵は父を亡くしたが、慈母という言葉で形容される仲の良い母、2人の叔父の存在、職や地位もその気があれば得られる恵まれた環境にある。そして市蔵の相手が従妹(際には血がつながっていないことが最後で明かされる)千代子であり、相思相愛の婚約者と呼べそうな男女であるが、煮え切らない市蔵は結婚を恐れ、千代子は結婚を求め、そこに1名のイケメン高木が参戦し、鎌倉の別荘と海が舞台にと現代にも良くある恋愛小説である。
しかしこの市蔵のこころを読み解くのは難しい。市蔵は割り込んでくる高木に対してあまりにも無力で、ついに千代子が爆発するシーンでは、千代子に卑怯、馬鹿、嫉妬と罵られ防戦一方である。多分、以下の引用部分を何気なく読んでしまうとなんと引っ込み思案なつまらない男だと一蹴してしまいそうである。
「両親に対する僕の記憶を、生長の後に至って、遠くの方で曇らすものは、二人のこの時の言葉であるという感じがその後しだいしだいに強く明らかになって来た。何の意味もつける必要のない彼らの言葉に、僕はなぜ厚い疑惑の裏打をしなければならないのか、それは僕自身に聞いて見てもまるで説明がつかなかった」
それは子供の時の父の死の間際の二人の言葉であった。その意味を市蔵と一緒に考え始め、その上で千代子との会話を読むとき、はじめて見えてくる見えない糸、がんじがらめに心を縛り付けてくる糸の存在を感じることができる。
そして、一緒にハラハラドキドキしながら最後に明かされた真実を知るシーンはこの小説のクライマックスであり、想像以上のインパクトがある。
市蔵が真実を求める心は、叔父に対するこの激しい言葉に集約されている。「ただ僕だけが知らないのです。ただ僕だけに知らせないのです。僕は世の中の人間の中であなたを一番信用しているから聞いたのです。あなたはそれを残酷に拒絶した。僕はこれから生涯の敵としてあなたを呪います」
うそは常備薬 真実は劇薬という河合隼雄のエッセイがあるが、本当に危機の時に必要な薬は真実なのである。それが得られず、母親の目を通して感じる自分と、自分自身の像が一つに重ならず分裂し、ふらふら(神経衰弱)になっていたのではないだろうか? 皮肉にも最も残酷な仕打ちを母はしてきたのではないだろうか。という思いもしてくる。
その分裂が引き起こした神経衰弱は漱石も悩まし、漱石自身は個人として自立する青年の悩みを当時の日本の姿と重ねていることは下記の引用でわかる。
「学者の文明開化論の講演で、現代の日本の開化を解剖して、かかる開化の影響を受けるわれらは、上滑りにならなければ必ず神経衰弱に陥いる日本人と彼のようにたった一人の秘密を、攫もうとしては恐れ、恐れてはまた攫もうとする青年は一層見惨に違あるまいと考えながら、腹の中で暗に同情の涙を彼のために濺いだ」
市蔵は真実を得て、大きく変わったのかどうか、叔父の話で終わるこの小説では明らかでない、千代子とのその後の関係も書かれていない。あとがきで、この小説のモチーフになっている印象的な蛇の頭のステッキの描写がでてくる。
鶏卵とも蛙とも何とも名状しがたい或物が、半ば蛇の口に隠れ、半ば蛇の口から現われて、呑み尽されもせず、逃れ切りもせず、出るとも這入るとも片のつかない状態。
日本が消化不良に陥っていた卵や蛙は西洋の文化であり、近代個人主義であり、市蔵も真実を飲み込めずまた出すこともできずに今後も生きていくのではないだろうか。
ただこのような息苦しさだけではなく、当時の世相はどことなくのんびりしていて、今より激しい格差社会でありながら社会に溶け込み問題視されることもない、何より若者に対する時代の寛容さを感じることができた。
市蔵の心を描くことに焦点を当てていったこの小説で、何気ない会話を使ってその奥に潜む心を逆に生々しく伝えようとする漱石の筆致に感銘をうけることになった。また、謎解き小説のように色々な情報を与えられて市蔵の心に近づく作業を考えると、他の人の心を理解するにも大変な努力が必要なことがわかる。人と全く同じ人生を送れないのだから、情報から想像力で推定しかないのである。ただ、いろいろな小説にかかれている心を読むことで、他の人の心に近づける豊かな人間になるのではないか?それが読書の価値だと考えた。
この小説は、有名な「こころ」の2年前に書かれた。「タイトルは元日から始めて、彼岸過まで書く予定だから単にそう名づけたまでに過ぎない空しい標題であり、個々の短篇が相合して一長篇を構成するように仕組んだ小説」と前書きにある。これらの短編は、共通の登場人物で成り立っているが、最初の主な登場人物が後半になるにしたがってさほど重要でなくなっていく人もあることから、筆を進めながら一人の男、市蔵の心を描くことに行きついた印象を受けた。そしてその市蔵のこころを想像し、知ろうとする努力をしなければ全く面白くない小説だとも思った。
市蔵とその友人、敬太郎は、高等教育を受け、卒業試験、就職難、格差社会という100年前の小説とは思えない近さに生きている。そして市蔵を取り巻く環境が、好奇心旺盛な青年、敬太郎の目を通して謎解きされていく構成となっている。
市蔵は父を亡くしたが、慈母という言葉で形容される仲の良い母、2人の叔父の存在、職や地位もその気があれば得られる恵まれた環境にある。そして市蔵の相手が従妹(際には血がつながっていないことが最後で明かされる)千代子であり、相思相愛の婚約者と呼べそうな男女であるが、煮え切らない市蔵は結婚を恐れ、千代子は結婚を求め、そこに1名のイケメン高木が参戦し、鎌倉の別荘と海が舞台にと現代にも良くある恋愛小説である。
しかしこの市蔵のこころを読み解くのは難しい。市蔵は割り込んでくる高木に対してあまりにも無力で、ついに千代子が爆発するシーンでは、千代子に卑怯、馬鹿、嫉妬と罵られ防戦一方である。多分、以下の引用部分を何気なく読んでしまうとなんと引っ込み思案なつまらない男だと一蹴してしまいそうである。
「両親に対する僕の記憶を、生長の後に至って、遠くの方で曇らすものは、二人のこの時の言葉であるという感じがその後しだいしだいに強く明らかになって来た。何の意味もつける必要のない彼らの言葉に、僕はなぜ厚い疑惑の裏打をしなければならないのか、それは僕自身に聞いて見てもまるで説明がつかなかった」
それは子供の時の父の死の間際の二人の言葉であった。その意味を市蔵と一緒に考え始め、その上で千代子との会話を読むとき、はじめて見えてくる見えない糸、がんじがらめに心を縛り付けてくる糸の存在を感じることができる。
そして、一緒にハラハラドキドキしながら最後に明かされた真実を知るシーンはこの小説のクライマックスであり、想像以上のインパクトがある。
市蔵が真実を求める心は、叔父に対するこの激しい言葉に集約されている。「ただ僕だけが知らないのです。ただ僕だけに知らせないのです。僕は世の中の人間の中であなたを一番信用しているから聞いたのです。あなたはそれを残酷に拒絶した。僕はこれから生涯の敵としてあなたを呪います」
うそは常備薬 真実は劇薬という河合隼雄のエッセイがあるが、本当に危機の時に必要な薬は真実なのである。それが得られず、母親の目を通して感じる自分と、自分自身の像が一つに重ならず分裂し、ふらふら(神経衰弱)になっていたのではないだろうか? 皮肉にも最も残酷な仕打ちを母はしてきたのではないだろうか。という思いもしてくる。
その分裂が引き起こした神経衰弱は漱石も悩まし、漱石自身は個人として自立する青年の悩みを当時の日本の姿と重ねていることは下記の引用でわかる。
「学者の文明開化論の講演で、現代の日本の開化を解剖して、かかる開化の影響を受けるわれらは、上滑りにならなければ必ず神経衰弱に陥いる日本人と彼のようにたった一人の秘密を、攫もうとしては恐れ、恐れてはまた攫もうとする青年は一層見惨に違あるまいと考えながら、腹の中で暗に同情の涙を彼のために濺いだ」
市蔵は真実を得て、大きく変わったのかどうか、叔父の話で終わるこの小説では明らかでない、千代子とのその後の関係も書かれていない。あとがきで、この小説のモチーフになっている印象的な蛇の頭のステッキの描写がでてくる。
鶏卵とも蛙とも何とも名状しがたい或物が、半ば蛇の口に隠れ、半ば蛇の口から現われて、呑み尽されもせず、逃れ切りもせず、出るとも這入るとも片のつかない状態。
日本が消化不良に陥っていた卵や蛙は西洋の文化であり、近代個人主義であり、市蔵も真実を飲み込めずまた出すこともできずに今後も生きていくのではないだろうか。
ただこのような息苦しさだけではなく、当時の世相はどことなくのんびりしていて、今より激しい格差社会でありながら社会に溶け込み問題視されることもない、何より若者に対する時代の寛容さを感じることができた。
市蔵の心を描くことに焦点を当てていったこの小説で、何気ない会話を使ってその奥に潜む心を逆に生々しく伝えようとする漱石の筆致に感銘をうけることになった。また、謎解き小説のように色々な情報を与えられて市蔵の心に近づく作業を考えると、他の人の心を理解するにも大変な努力が必要なことがわかる。人と全く同じ人生を送れないのだから、情報から想像力で推定しかないのである。ただ、いろいろな小説にかかれている心を読むことで、他の人の心に近づける豊かな人間になるのではないか?それが読書の価値だと考えた。
2014年12月21日に日本でレビュー済み
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本作品は1912年(明治45年)という明治最後の年に発表された作品。
著者が、危篤状態となった「修善寺の大患」後、初の連載小説であり、冒頭に、「彼岸過迄に就いて」という序文の掲げられているのが特徴。
また、著者の後期三部作の第一作と位置付けられる作品でもあります。
著者の長編小説を、発表順に読んできたが、初めて戸惑いが生じた作品でした。
それは、著者の初の試みである、いくつかの短編から、一本の長編を組み立てるという趣向は、序文でも明らかなのだが、各編のテーマも視点人物も異なり、本作品で著者が訴えようとしていることが判然としないように思えたからです。
ちなみに、それらの短編とは──(1.視点人物、2.主な登場人物、3.テーマ)
【風呂の後】
1.敬太郎 2.森本 3.敬太郎の人物像
【停車所】
1.敬太郎 2.須永、田口 3.田口から敬太郎への謎の依頼
【報告】
1.敬太郎 2.田口、松本 3.停車所の謎の依頼のタネあかし
【雨の降る日】
1.松本 2.千代子、宵子 3.幼子の急死
【須永の話】
1.須永 2.千代子、須永の母、高木 3.須永と千代子の恋愛模様
【松本の話】
1.松本 2.須永 3.須永の気持ちの整理
しかし、そこはさすが文豪、最後に「結末」という一文が設けられており、私のような人間が道に迷わないよう、物語を締めくくっているのです。
この部分で、物語の意図が良く理解でき、スッキリと読み終えることができました。
総体として、初期三部作と比べ、登場人物の苦悩の度合いは深まっているような気がします。
これも、危篤状態を乗り越えたことからくる作風の変化なのでしょうか?
後期三部作の次作「行人」も、時機を見て読む予定です。
果たして、どんな作品世界が展開するのか、今から楽しみです。
著者が、危篤状態となった「修善寺の大患」後、初の連載小説であり、冒頭に、「彼岸過迄に就いて」という序文の掲げられているのが特徴。
また、著者の後期三部作の第一作と位置付けられる作品でもあります。
著者の長編小説を、発表順に読んできたが、初めて戸惑いが生じた作品でした。
それは、著者の初の試みである、いくつかの短編から、一本の長編を組み立てるという趣向は、序文でも明らかなのだが、各編のテーマも視点人物も異なり、本作品で著者が訴えようとしていることが判然としないように思えたからです。
ちなみに、それらの短編とは──(1.視点人物、2.主な登場人物、3.テーマ)
【風呂の後】
1.敬太郎 2.森本 3.敬太郎の人物像
【停車所】
1.敬太郎 2.須永、田口 3.田口から敬太郎への謎の依頼
【報告】
1.敬太郎 2.田口、松本 3.停車所の謎の依頼のタネあかし
【雨の降る日】
1.松本 2.千代子、宵子 3.幼子の急死
【須永の話】
1.須永 2.千代子、須永の母、高木 3.須永と千代子の恋愛模様
【松本の話】
1.松本 2.須永 3.須永の気持ちの整理
しかし、そこはさすが文豪、最後に「結末」という一文が設けられており、私のような人間が道に迷わないよう、物語を締めくくっているのです。
この部分で、物語の意図が良く理解でき、スッキリと読み終えることができました。
総体として、初期三部作と比べ、登場人物の苦悩の度合いは深まっているような気がします。
これも、危篤状態を乗り越えたことからくる作風の変化なのでしょうか?
後期三部作の次作「行人」も、時機を見て読む予定です。
果たして、どんな作品世界が展開するのか、今から楽しみです。
2020年8月27日に日本でレビュー済み
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よく意味がわかりませんでした、良作なのでしょうか?
2022年5月27日に日本でレビュー済み
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漱石の代表作は全て読みました。その中では「三四郎」に次いで学生さんにお薦めしたい作品。
「行人」や「門」と違って本作の主人公らは「就活生」です。
(現代では許嫁との結婚というのは無いかもしれませんが)
ここで描かれる、生まれつきの性格や取り巻く環境を変えられないジレンマ
「嫌われているのではないか」「ばかにされているのでは」という劣等感や僻みは現代でも
充分共感し、考えさせるところがあると思います。
時代は、今人気の「ゴールデンカムイ」とほぼ同じ時代です。
当時の東京、そして鎌倉。そのネガティブさを悪とも悲劇とも書かない、
これこそが漱石の文学における品性だと思います。
「行人」や「門」と違って本作の主人公らは「就活生」です。
(現代では許嫁との結婚というのは無いかもしれませんが)
ここで描かれる、生まれつきの性格や取り巻く環境を変えられないジレンマ
「嫌われているのではないか」「ばかにされているのでは」という劣等感や僻みは現代でも
充分共感し、考えさせるところがあると思います。
時代は、今人気の「ゴールデンカムイ」とほぼ同じ時代です。
当時の東京、そして鎌倉。そのネガティブさを悪とも悲劇とも書かない、
これこそが漱石の文学における品性だと思います。