本書の冒頭にあるように、社会保障の本来の意味は「社会的な悩みを取り除く」という
ことであり、個人ではなく社会が原因となって起きた問題を社会が手当てすることが求
められるものです。しかし、最近の行き過ぎた自己責任論によって、個人では対応不
可能な問題に対しても個人の努力不足が原因とされ、生活に困窮する人たちが急増して
いるのは、もはや周知の事実です。
本書は、このような状況へと至った日本の社会保障制度に対し、政府が未だに場当たり
的な政策しか打ち出せない状況を批判する視点から、現在の日本の社会保障の状況を明
らかにし、社会保障の原理を説き明かしながら、今後のあるべき社会保障の姿を考えて
いく、日本の社会保障を正面から問い直す本です。書かれたのは1998年頃ですが、
著者の一連の著作の骨格といえるような内容だと思われ、著者の一貫した主張は、その
後の社会環境の変遷により風化することなく、少子高齢化の進展と経済格差の拡大、現
代的貧困の増加する現在において、益々重要性を増していると思われます。
著者は、日本の社会保障は、戦後の経済政策の一部として、日本株式会社の厚生部門と
して産業に携わる人員の育成確保のために導入された経緯から、医療、年金、福祉のバ
ランスが非常に悪い状況を説明し、その是正の必要性を主張します。
また、社会全体において環境親和的な福祉社会を目指すことを提唱し、これまでの右肩
上がりの経済拡大路線から、高齢化に伴う成熟社会を構想していくことが必要だとし、
そこに「定常型社会」というキー概念を示します。これについては、著者の別書『定
常型社会』に論を移す事になりますが、基本概念は本書にある通りです。
様々な議論を踏まえた著者の提言は、具体的かつ説得的であり、是非実際の政策に反映
していって欲しいと思う次第です。そのためにも今必要なのは、著者も主張するように
『医療、年金、福祉にわたる社会保障の全体を視野に収めた上で、各々の分野の公私の
役割分担のあり方を明らかにしながら、社会保障全体の最終的な将来像についての「基
本的な選択肢」を示し、議論を深めていく作業を行う』ことなのだと思います。
本書は、時代に対応できなくなった現在の日本の社会保障制度を根本から考え直すため
に、基本となる社会保障の原理と日本の社会保障の現状を知る上でたいへん有効であり、
今後のあるべき方向性が十分に感じられる重みのある本だと思います。

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日本の社会保障 (岩波新書 新赤版 598) 新書 – 1999/1/20
広井 良典
(著)
少子・高齢化の進行や経済の低成長に伴って,社会保障の今後が問われている.医療,年金,福祉など個別分野ごとの課題を明確にしながら,全体像をとらえる必要がある.原理に遡って考えるために歴史的な展開を検証しながら,21世紀の福祉の姿を考えるグローバルな視点を提出し,「公私の役割分担」を中心に,改革の方向性を提示する.
- ISBN-104004305985
- ISBN-13978-4004305989
- 出版社岩波書店
- 発売日1999/1/20
- 言語日本語
- 本の長さ218ページ
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2009年10月11日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2021年1月31日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
本書は全四章から構成されている。発行が1999年の前世紀であり、介護保険制度開始前の作品であるが、参考となる部分はおおい。
第一章は、ドイツや英国の歴史を通じて社会保障制度の類型を示し、日本の社会保障制度と比較して、国による制度の差異を説明している。頭を整理する意味で有意義な導入部分であった。
第二章は、評者が本書の中で最も参考になった章である。日本の社会保障制度を歴史的に概観している。社会保障の中でも、まず医療に需要があり、次いで年金が来て、最後に介護に至った経緯が簡潔に示されている。また、病院形態が日欧で異なるという指摘は考えたこともなかった視点であった。つまり、日本では「私」が多くの部分を担当する一方、欧州では「公」が担うという。欧州の病院は、地域有志や教会等が主体となってきた歴史があるからだという(p.68)。
第三章は、本書の中で最も長い章である。著者が本書で最も力説したい章であるが、哲学的な内容となっており、幾分読みづらい。書名からは想定の範囲外の内容と感じられた。書名から想像する本書の内容は、日本の社会保障の制度説明であるが、この第三章は、社会保障制度とは何か?を考えさせる内容となっており、社会保障制度を考える上でのいくつかの視点を解説している。
第四章では、筆者の考える、将来の社会保障制度のあるべき姿を示している。経済的に低成長で、かつ、高齢化社会が前提の日本という「成熟社会」における社会保障制度を取り扱っている。将来の社会保障制度を考える軸を、「市場」と「個人」に置いて、将来の社会保障制度を構想するべき、と。
本書は、冒頭の「はじめに」で、社会保障の目的を社会的に悩みのない状態を実現すること、と定義している。そして、日本社会を歴史的に概観して、社会保障に対するニーズが日本社会の変化に応じて、医療、年金、介護に拡大移行していく背景を簡潔明瞭に解説している。著者は、社会保障の理念を示した第三章に力点を置いているものの、読者としての評者の視点では、書名に最も合致して、明瞭簡潔に日本の歴史的変化を描写しつつ、その歴史的経緯がどのように社会保障の制度構築へ影響を及ぼしてきたかを論じた第二章が、本書で最も優れた章であり、本作品の肝であると感じた。(2021/1/29)
第一章は、ドイツや英国の歴史を通じて社会保障制度の類型を示し、日本の社会保障制度と比較して、国による制度の差異を説明している。頭を整理する意味で有意義な導入部分であった。
第二章は、評者が本書の中で最も参考になった章である。日本の社会保障制度を歴史的に概観している。社会保障の中でも、まず医療に需要があり、次いで年金が来て、最後に介護に至った経緯が簡潔に示されている。また、病院形態が日欧で異なるという指摘は考えたこともなかった視点であった。つまり、日本では「私」が多くの部分を担当する一方、欧州では「公」が担うという。欧州の病院は、地域有志や教会等が主体となってきた歴史があるからだという(p.68)。
第三章は、本書の中で最も長い章である。著者が本書で最も力説したい章であるが、哲学的な内容となっており、幾分読みづらい。書名からは想定の範囲外の内容と感じられた。書名から想像する本書の内容は、日本の社会保障の制度説明であるが、この第三章は、社会保障制度とは何か?を考えさせる内容となっており、社会保障制度を考える上でのいくつかの視点を解説している。
第四章では、筆者の考える、将来の社会保障制度のあるべき姿を示している。経済的に低成長で、かつ、高齢化社会が前提の日本という「成熟社会」における社会保障制度を取り扱っている。将来の社会保障制度を考える軸を、「市場」と「個人」に置いて、将来の社会保障制度を構想するべき、と。
本書は、冒頭の「はじめに」で、社会保障の目的を社会的に悩みのない状態を実現すること、と定義している。そして、日本社会を歴史的に概観して、社会保障に対するニーズが日本社会の変化に応じて、医療、年金、介護に拡大移行していく背景を簡潔明瞭に解説している。著者は、社会保障の理念を示した第三章に力点を置いているものの、読者としての評者の視点では、書名に最も合致して、明瞭簡潔に日本の歴史的変化を描写しつつ、その歴史的経緯がどのように社会保障の制度構築へ影響を及ぼしてきたかを論じた第二章が、本書で最も優れた章であり、本作品の肝であると感じた。(2021/1/29)
2015年7月19日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
駿台か五木かの模試 中3 で知った。 そこでは自由と平等 潜在的自由についての説明 が抜粋されていた。
最初は理解できない部分が多いと思う。 難しすぎた。 具体的な政策について書かれてあるとこと、古典派と新古典派のマクロ的な経済に対する視点がとても興味深い。 僕ても理解できる。 そこだけは繰り返し読んで理解してほしい。
更に詳しく知りたい方はワイツゼッカーさんの 地球環境政策 がおすすめ 環境的に持続可能な経済”政策”と経済的に持続可能な環境”政策”について 雇用時にかかる福祉・社会保障費ことnon laborコスト について 読んでほしい。
最初は理解できない部分が多いと思う。 難しすぎた。 具体的な政策について書かれてあるとこと、古典派と新古典派のマクロ的な経済に対する視点がとても興味深い。 僕ても理解できる。 そこだけは繰り返し読んで理解してほしい。
更に詳しく知りたい方はワイツゼッカーさんの 地球環境政策 がおすすめ 環境的に持続可能な経済”政策”と経済的に持続可能な環境”政策”について 雇用時にかかる福祉・社会保障費ことnon laborコスト について 読んでほしい。
2012年3月31日に日本でレビュー済み
日本の社会保障制度について,医療,年金,福祉をバラバラにではなく,制度の全体像のなかで評価し,位置付けようという書。「成熟化社会」の社会制度は,「医療・福祉重点型」が望ましいとの結論。
医療については高齢者医療は税,若年者医療は保険(社会保険)と振り分けた制度化をはかるべきこと,年金については所得再分配機能としての性格が強い基礎年金部分を税としての仕組みに純化し,リスク分散機能としての性格が強い所得比例部分を民間保険にゆだべるべきこと,介護・福祉については健康転換第三相(老人退行性疾患)に対応した高齢者介護問題への対応と「対人社会サービス」の展開を展望した公私の役割分担の見直しを具体化すべきことを提言している。
社会保障制度の現状を正確に整理し,原理原則をふまえたうえで,この制度のあるべき姿をトータルに考察しようという著者の姿勢は,説得的である。
経済学的切り口を前面に押し出しつつ,「高齢化と地球環境問題」といった意表をつく問題設定など斬新な問題いかけがあり,読者の知的好奇心に十分に応えてくれる頼もしい本である。
医療については高齢者医療は税,若年者医療は保険(社会保険)と振り分けた制度化をはかるべきこと,年金については所得再分配機能としての性格が強い基礎年金部分を税としての仕組みに純化し,リスク分散機能としての性格が強い所得比例部分を民間保険にゆだべるべきこと,介護・福祉については健康転換第三相(老人退行性疾患)に対応した高齢者介護問題への対応と「対人社会サービス」の展開を展望した公私の役割分担の見直しを具体化すべきことを提言している。
社会保障制度の現状を正確に整理し,原理原則をふまえたうえで,この制度のあるべき姿をトータルに考察しようという著者の姿勢は,説得的である。
経済学的切り口を前面に押し出しつつ,「高齢化と地球環境問題」といった意表をつく問題設定など斬新な問題いかけがあり,読者の知的好奇心に十分に応えてくれる頼もしい本である。
2015年11月27日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
日本の社会保障の問題点がざっくりわかります。ただし、制度についての記述がちょっと古いところもあるので、現在の制度についはどうなのかという点をアップデートする必要があります。「年金」、「医療」に関心のある方はぜひどうぞ。
2015年2月1日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
高校の感想文用に購入。感想文が苦手ですが、読みやすく書きやすかったそうです。
2014年8月22日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
課題のレポートを書くために買ったのですが高校生には難しすぎますね。内容が頭に入ってきません。。
2014年8月28日に日本でレビュー済み
本書を『労働法入門』とか『知的財産法入門』のような入門書として期待して読み始めると期待はずれに終ります。
筆者は、日本の社会保障をめぐる議論は最終的なビジョンがなく、発展性のない大づかみの議論や対症療法的な議論に終始しているとし現状分析した上で、筆者の最終的なビジョンを提示しています。
社会保障の本はとかく制度の話に目が行きがちですが、この本は利己的な遺伝子の話やゲーム理論からロールズの無知のヴェールの話や環境問題等とても広い視野をもって社会保障を論じており、なんとなく大学の「社会思想」の講義を聴いているような気分になり、とても新鮮です。
定常状態の社会を想定した上での制度設計というアプローチに賛成するにせよ反対するにせよ読みながらいろいろと自分で考えさせてくれるのでとても充実した読書時間が過ごせます。
筆者は、日本の社会保障をめぐる議論は最終的なビジョンがなく、発展性のない大づかみの議論や対症療法的な議論に終始しているとし現状分析した上で、筆者の最終的なビジョンを提示しています。
社会保障の本はとかく制度の話に目が行きがちですが、この本は利己的な遺伝子の話やゲーム理論からロールズの無知のヴェールの話や環境問題等とても広い視野をもって社会保障を論じており、なんとなく大学の「社会思想」の講義を聴いているような気分になり、とても新鮮です。
定常状態の社会を想定した上での制度設計というアプローチに賛成するにせよ反対するにせよ読みながらいろいろと自分で考えさせてくれるのでとても充実した読書時間が過ごせます。