大好きな夏目友人帳の第3シリーズ、とうとう最終巻となってしまった。収められるのは若干少なめの2話だが、双方とも本シ
リーズのクライマックスと言って良い必見エピソードだ。
第12話「帰る場所」。本シリーズでは夏目の妖や周りの人間に対しての接し方の変化が随所に描かれていたが、本話は彼を
変える最も大きな転機となった現在の養父母・藤原夫妻との出会いが描かれる。
私が堪らなく好きなのは、居づらくなった親戚の家を思わず飛び出した夏目が寒い夕暮れの道端で途方に暮れていた時、突
如声をかけてきた現在の養母・塔子の登場シーンだ。このシーンでの彼女の声の温かさ、言葉の優しさには涙を禁じ得ない。
私は幸い家族が居ないことの喪失感を味わった経験が無いが、藤原夫妻に「うちに来て欲しい」と自らを必要とされた夏目が
この言葉をどう受け止め、夫妻に迷惑をかけるか否かの心配を飛び越え「行きたい」との衝動を口にしたかが不思議な程理
解できた。本シリーズでも最も心が高まる瞬間ではないだろうか。
第13話「夏目遊戯帳」では、夏目と妖達が酒盛りと影踏み鬼をする特に変わったことの無い或る一日が描かれシリーズの幕
を下ろす。しかし本話には、夏目のクラスメイトがいずれ来る卒業とその先へ向け目を向ける様子や、仲間外れにされた過去
の回想に笑みを浮かべる夏目の姿等、彼が物語の当初この街へ転校して来た時と比べ確実に訪れた変化が見て取れる。そ
してそれは夏目とニャンコ先生を始めとした妖達との交わりの形も同様だ。
最終シーン、酒盛りをする妖達とそれに混ざる夏目、彼を遠くから呼び止める彼の友人達が紅葉一色の境内一箇所に交わる
場面は、本シリーズのテーマが集約されている。人間の友人達には夏目と交わる妖が一切見えないが、友人達の元へ走るべ
きか迷う彼に、それとなく行く様促す妖の友人達。彼自身の台詞にあるように今の彼には人も妖も等しく掛け替えのない存在な
のだ。孤独な幼少期と妖が見えることへの疎ましさへの葛藤を経て、彼は確実に成長した。
子供への虐待や衝動的な殺傷等人同士のあり方がおかしくなりつつある昨今、再び他者との出会い・結び合いを見直したい。
妖ものではあれど、本作にはそれらを考える大切なヒントが数多含まれると思う。年明けからの第4シリーズも実に楽しみだ。