「リンゴ畑」のほうが大上段から「恋愛」をテーマとし、かなり難解で大人向きと思われるのに比べ、こちらのマーティン・ピピンは対象の年齢層が広がり、ウィットや笑いも多く、リラックスして楽しめます。
小学生四・五年くらいから楽しめそうですが、中年男が読んでも面白いです。大人は大人で子供のそれと違った味わいを感じられるかも知れませぬ。
メインの６つのお話は作者の愛するサセックスを舞台とし、現実の土地、地形や地名を引き合いに、作者のでっち上げたらしき怪しげな(笑)由来譚なども入っています。
冒頭のサセックスを讃える詩もいい。
わが国でいうと、イーハトーブに根ざしその自然を讃えた宮沢賢治さんの童話とちょっと通ずるものを感じます。
私も最初のレビュアーさん同様、どのお話もはずれなしに好きですが、イングランドの風物詩らしい「春の大そうじ」を巧みに狂言回しに活かし、明るい春の訪れの喜びを感じさせる「セルシー・ビルのお話」が笑えます。
「エルシー・ピドック夢で縄とびをする」のテーマはすぐれて現代的であり、この作品が出版されたのが昭和十二年（！）ということに改めて驚かされます。
毎度ながら、石井桃子さんの日本語訳も硬軟織り交ぜ生き生きと美しく、可笑しく、良質の訳書になっていると思います。
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